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バルデラス/ゼルダ装甲兵員輸送車





イスラエル陸軍は創設以来長らく、世界各国から買い集めたアメリカ製の中古のM3ハーフトラックを主力APCとして運用してきたが、半装軌式のM3ハーフトラックは全装軌式車両に比べて不整地での機動性に劣るため、戦車に随伴して行動するのが難しい場合があるという問題を抱えていた。
1960年代にアメリカ陸軍が全装軌式のM113装甲兵員輸送車を開発すると、イスラエル陸軍は早い段階から同車に目を付け、自軍の装備として導入することを決定した。

イスラエル陸軍は第4次中東戦争(ヨム・キプール戦争)直前の1972年からM113APCの導入を開始したが、直後の1973年10月にヨム・キプール戦争が勃発したため、アメリカからの援助もあって短期間に大量のM113APCを実戦配備し、機械化部隊の近代化を一気に推し進めた。
イスラエル陸軍が導入したのはM113シリーズの2番目の型式でディーゼル・エンジンを搭載したM113A1で、ヘブライ語で「チーター」を意味する「バルデラス」(Bardelas)という公式名称が与えられた。

しかしイスラエル陸軍の将兵たちはM113APCに対して、ヘブライ語で「鎧兜」を意味する「ゼルダ」(Zelda)の愛称を用いるようになり、いつしかこちらの方が有名になってしまった。
M113APCは全装軌式ということで、それまでイスラエル陸軍が運用してきた半装軌式のM3ハーフトラックや、アラブ諸国から鹵獲したソ連製のBTR-40、BTR-152などの装輪式APCに比べて不整地での機動性が格段に優れており、戦車部隊との共同行動でその能力をいかんなく発揮した。

こうして1970年代後半以降、M113APCはイスラエル陸軍の主力APCとして最盛期には約6,000両が様々な部隊で運用されるようになったのだが、1980年代に入りイスラエルが隣国レバノンの内戦に本格的に介入するようになると、本車の欠点が次々と露呈するようになっていった。
M113APCは小火器弾程度の防御力は持っていたが、ヒズボラなどのゲリラが用いるソ連製の携帯式対戦車無反動砲RPGや地雷に対しては無力であり、また14.5mmクラスの大口径機関銃弾は防げなかった。

そして車長用のキューポラ・ハッチの周囲は無防御だったため、市街地戦闘では車長がキューポラから身体を出しているとすかさず狙撃の対象となってしまう他、キューポラ上に装備された12.7mm重機関銃の操作ができないなどの問題も起きた。
これらはヴェトナム戦争でアメリカ軍にも起きた問題であったが、イスラエル軍も10年遅れて同じような問題にぶち当たったのである。

しかもイスラエルの場合は常時臨戦体制にあり、早急な解決策が求められた。
イスラエル陸軍は検討の結果、MBT並みの高い防御力を備える装軌式重APCが必要との結論に辿り着き、すでに旧式化していたイギリス製のセンチュリオン戦車を用いてナグマショット、ナグマフォンなどの重APCを開発し、続いてアラブ諸国から鹵獲したソ連製のT-54/T-55中戦車を用いてアフザリートAPCを開発して、M113APCに代わる主力APCとして運用した。

さらに重APCの決定版として、主力MBTであるメルカヴァ戦車をベースとするナメルAPCを開発し、新たな主力APCとして現在量産が進められている。
またイスラエル陸軍はこれらの重APCの開発と並行して、既存のM113APCの防御力を向上させることにも取り組んだ。

ゲリラが用いるRPG対戦車無反動砲や14.5mm重機関銃、そして地雷などに耐えられることが前提であったが、他の重APCのようにブレイザーERA(爆発反応装甲)を装着することは、重量等の問題でM113APCには不可能であった。
そのため「トーガ」(toga:古代ローマで着用された一枚布の上着)と呼ばれる、軽量化のためにパンチ穴が開けられた空間装甲を車体の主要部に取り付けることで、M113APCの防御力を強化することになった。

イスラエル陸軍は、現在でも約5,500両ものM113APCを保有している。
ただしMBT改造の重APCの部隊配備が進むに従い、防御力で劣るM113APCは本部車両など現役に残っているのは、前述のアップグレードが施された防御力強化型の500両程度で、初期型のM113A1や未改修のM113A2合わせて約5,000両はデポで保管するストックに回され、作戦に参加することはほとんど無くなっている。


<バルデラス装甲兵員輸送車>

全長:    4.864m
全幅:    2.686m
全高:    2.496m
全備重量: 10.92t
乗員:    2名
兵員:    11名
エンジン:  デトロイト・ディーゼル6V-53 2ストロークV型6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 212hp/2,800rpm
最大速度: 64.4km/h(浮航 5.8km/h)
航続距離: 483km
武装:    12.7mm重機関銃M2×1 (2,000発)
装甲厚:   28.58〜44.5mm


<参考文献>

・「世界の戦車イラストレイテッド33 イスラエル軍現用戦車と兵員輸送車 1985〜2004」 マーシュ・ゲルバート 著
 大日本絵画
・「パンツァー2014年6月号 イスラエルの戦車改造重APC」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート35 イスラエル軍のAFV 1948〜2014」  アルゴノート社
・「10式戦車と次世代大型戦闘車」  ジャパン・ミリタリー・レビュー


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