90式装甲兵員輸送車 |
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●開発 90式装甲兵員輸送車(YW-535)は、NORINCO(中国北方工業公司)が85式装甲兵員輸送車(YW-531H)に引き続いて開発した輸出用の装軌式APCで、1989年に初めて公開された。 本車は基本的には85式装甲兵員輸送車の改良発展型といえるもので、車体サイズを大型化して搭乗兵員の居住性を改善すると共に、搭載武装の自由度を増やして各種任務に応じたファミリー化を可能にした点が特徴である。 90式装甲兵員輸送車には転輪が片側5個の基本型と、転輪を片側6個に増やした車体延長型が用意されており、基本型をベースとした派生型には装甲指揮車、82〜120mm自走迫撃砲、装甲救急車、130mm30連装自走ロケット・システム、紅箭8対戦車ミサイルの4連装発射機を搭載した戦車駆逐車などが提案されている。 一方車体延長型の派生型としては、23〜30mm機関砲を装備する2名用砲塔を搭載した歩兵戦闘車、38口径122mm榴弾砲D-30を装備する自走榴弾砲、装甲回収車、貨物輸送車などが提案されている。 90式装甲兵員輸送車は各国の兵器展示会に出品されて売り込みが図られたが、現在までに採用国は現れておらず中国軍での運用も確認されていない。 これは冷戦終結後の国際兵器市場の縮小や、90式装甲兵員輸送車が従来の中国製APCに比べて非常に高価である点、かといって性能的には特に優れてもいない点等が影響していると思われる。 |
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●構造 90式装甲兵員輸送車の車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、7.62mm弾の直撃や至近距離で炸裂した榴弾の破片から乗員を保護する程度の装甲防御力を有している。 車内レイアウトは車体前部右側に機関室、前部左側に操縦手席、その後方に車長席が配されており、車体後部は13名の歩兵を収容する兵員室となっている。 操縦手用ハッチの前方には3基のペリスコープが備えられており、中央のペリスコープを低光量のパッシブ式ペリスコープに変更することもできる。 車長用のハッチには、ペリスコープ1基が装備されている。 兵員室の左右側面には各3基ずつガンポートが設けられており、それぞれのガンポートの上部には斜め前方を視察できるペリスコープが備えられている。 兵員室の上面には前方の左右に楕円形の小ハッチ、後方に長方形の大型ハッチが設けられており、兵員の乗降は兵員室後面に設けられた右開き式のドアから行われる。 固有武装は兵員室上面中央部に位置する銃手用ハッチの前方に設けられた85式12.7mm重機関銃(旧ソ連製の12.7mm重機関銃NSVTの国産型)で、−5〜+85度の俯仰角を持つ。 12.7mm重機関銃の周囲はぐるりと砲塔式の防盾で覆われており、銃手を保護するようになっている。 また車体前部の左右側面には、それぞれ4基ずつ発煙弾発射機が装備されている。 90式装甲兵員輸送車のエンジンは、転輪5個の基本型では85式装甲兵員輸送車と同じドイツのドゥーツ社製のBF8L413F V型8気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力320hp)か、もしくは同社製のBF8L513C V型8気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力360hp)から選択することができる。 一方転輪6個の車体延長型では、BF8L513Cディーゼル・エンジンが標準となっている。 変速・操向機は流体トルク変換機付きの自動変速機(前進4段/後進1段)が採用されており、非常にスムーズな操縦が可能になっている。 本車は従来の中国製APCに比べて車体が大型化しているため重量も増加しているが、この新しいパワーパックのおかげで路上最大速度65km/h、路上航続距離500kmの高い機動性能を発揮できる。 90式装甲兵員輸送車の足周りは、基本型では片側5個の転輪と片側3個の上部支持輪で構成されている。 サスペンションは従来の中国製APCと同じく、トーションバー(捩り棒)方式が採用されている。 本車は浮航性を有しており、水上では履帯を回転させることで7km/hの速度で航行可能である。 また本車は、NBC防護システムも標準装備となっている。 |
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<90式装甲兵員輸送車> 全長: 6.744m 全幅: 3.148m 全高: 2.376m 全備重量: 14.4t 乗員: 2名 兵員: 13名 エンジン: ドゥーツBF8L513C 4ストロークV型8気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 360hp/2,500rpm 最大速度: 65km/h(浮航 7km/h) 航続距離: 500km 武装: 85式12.7mm重機関銃×1 (1,050発) 装甲厚: |
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<参考文献> ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 |
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