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85式装甲兵員輸送車/89式装甲兵員輸送車





●開発

中国は1980年代に入って、外貨獲得のために兵器を大規模に海外輸出することを計画した。
中国軍の主力APCである63式装甲兵員輸送車シリーズもその対象となり、NORINCO(中国北方工業公司)の手でエンジンを信頼性の高い西ドイツ製のものに換装し、エンジン余熱を利用した暖房装置を装備する等の改良を施した輸出専用モデルの「YW-531C」が1980年代初頭に開発された。

YW-531Cは中国では「80式装甲兵員輸送車」と呼ばれ、海外に対して売り込みが図られたが、NORINCOはYW-531Cのさらなる発展型の開発を計画し、「YW-531H」の名称で1984年から開発に着手した。
一方中国軍も、旧式化が目立ってきた63式装甲兵員輸送車シリーズの後継となる新型装軌式APCを必要としていた。

中国軍向けの新型APCは1982年から「WZ-534」の名称で開発が進められていたが、WZ-534の開発にはそれなりの期間を必要とすることが予想されたため、WZ-534が完成するまでの繋ぎとしてYW-531Hを中国軍にも導入することが決定された。
こうしてYW-531Hは輸出用のみならず、中国軍の暫定的な新型APCとしての役割も担うことになった。

開発期間を短縮するためNORINCOはYW-531Cの設計をベースに、中国軍が要求する改良点を盛り込んでYW-531Hの開発を行うことにした。
YW-531Hの開発にあたっては車内容積の拡大や防御力の強化が改良の主眼とされ、63-I式装甲兵員輸送車(WZB-531)やYW-531Cをベースに試作車が製作されて、各種試験を行った後1988年3月に「85式装甲兵員輸送車」として制式化された。

一方、中国軍向けの新型APCの本命であるWZ-534の方は、1987年1月に3両の試作車が完成して各種試験に供され、試験で判明した問題点を改修した後1987年12月〜89年11月にかけて実証試験が重ねられ、1990年7月に「89式装甲兵員輸送車」として制式化された。
85式装甲兵員輸送車は約2,000両が生産され、中国軍だけでなく武装警察でも運用されている他、ミャンマーに150両、タイに410両輸出されている。

なおタイに輸出された車両は、武装をアメリカのブラウニング社製の12.7mm重機関銃M2に換装している。
一方89式装甲兵員輸送車の生産数については不明であるが、すでに生産は終了しており輸出が行われたという情報も無い。
元々中国軍向けに開発された車両であるため、輸出は行われなかったと見るのが妥当であろう。

85式装甲兵員輸送車の派生型には、旧ソ連製のBMP-1歩兵戦闘車のコピー生産型である86式歩兵戦闘車の砲塔を搭載した85式歩兵戦闘車、85式122mm自走榴弾砲、85式120mm自走迫撃砲、85式82mm自走迫撃砲、85式装甲指揮車、85式装甲回収車等がある。
一方89式装甲兵員輸送車の派生型には、25mm機関砲と7.62mm機関銃を外装装備した1名用砲塔を持つYW-307歩兵戦闘車、紅箭8対戦車ミサイルの発射機を搭載した戦車駆逐車型等がある。


●構造

85式装甲兵員輸送車の車体は、基本的には63式装甲兵員輸送車を拡大したもので、車内レイアウト等はほとんど変わっていない。
車体前部左側に操縦手席、車体中央部右側に機関室、車体後部に銃手席と兵員室を持つ構成は同じで、唯一違う点が車長席が車体前部右側から機関室の直後、兵員室前部に移された点である。

ただし防御力向上のため、車体の装甲厚は最大24mmと63式装甲兵員輸送車に比べて倍増しており、12.7mm重機関銃に対する抗堪性を持つようになった。
また63式装甲兵員輸送車と同じく車体は水密構造になっており、中国軍APCの標準能力となっている水上航行能力を備えている。

水上航行時には車体前面に装備されている波切り板を展開し、履帯を駆動させて推進力を得る。
また本車は、NBC防護システムが標準装備となっている。
足周りは63-I式装甲兵員輸送車と同じく片側5個の転輪と片側3個の上部支持輪で構成されており、車体が延長された分、車体の左右側面にガンポートとペリスコープが増設されている。

エンジンは旧西ドイツのドゥーツ社製のBF8L413F V型8気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力320hp)を搭載しており、前進4段/後進1段の手動変速機と組み合わされている。
63式装甲兵員輸送車シリーズに採用されていた国産の6150L V型6気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力260hp)は信頼性に問題があり、機関系のトラブルが多発したが、85式装甲兵員輸送車はこの新しいドイツ製エンジンに換装したおかげで機関系のトラブルが大きく減少した。

固定武装は車体上部に搭載された12.7mm重機関銃で、63式装甲兵員輸送車シリーズで装備されていた54式12.7mm重機関銃(旧ソ連製の12.7mm重機関銃DShKMの国産型)に代えて、85式12.7mm重機関銃(旧ソ連製の12.7mm重機関銃NSVの国産型)が搭載されている。
また機関銃の周囲には全周に渡って8mm厚の装甲板で防盾が構成されており、そこが63式装甲兵員輸送車シリーズとの相違点となっている。

続いて登場した89式装甲兵員輸送車は、85式装甲兵員輸送車と比べて全長が6.125mから6.15mへ約25cm延長され、全幅も3.06mから3.134mへと拡大されている。
これにより、原型の63式装甲兵員輸送車と比べると約65cmも車体が長くなっており、段階的に車内容積が拡大されてきたことがよく分かる。

それ以外の点は基本的に85式装甲兵員輸送車と同様であり、エンジンも同じものを搭載しているが、目立つ外観上の識別点としては、兵員室側面に設けられているガンポートとペリスコープの数の違いが挙げられる。
85式装甲兵員輸送車では左側に2基、右側に3〜4基ずつガンポートとペリスコープが設けられているが、89式装甲兵員輸送車の場合は左側に3基、右側に4基設けられており、さらに車体前部の左右側面に4基ずつ発煙弾発射機が装備されている。


<85式装甲兵員輸送車>

全長:    6.125m
全幅:    3.06m
全高:    2.586m
全備重量: 13.6t
乗員:    2名
兵員:    13名
エンジン:  ドゥーツBF8L413F 4ストロークV型8気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 320hp/2,500rpm
最大速度: 65km/h(浮航 6km/h)
航続距離: 500km
武装:    85式12.7mm重機関銃×1
装甲厚:   最大24mm


<89式装甲兵員輸送車>

全長:    6.15m
全幅:    3.134m
全高:    2.556m
全備重量: 14.3t
乗員:    2名
兵員:    13名
エンジン:  ドゥーツBF8L413F 4ストロークV型8気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 320hp/2,500rpm
最大速度: 65km/h(浮航 6km/h)
航続距離: 500km
武装:    85式12.7mm重機関銃×1
装甲厚:   最大24mm


<参考文献>

・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」  デルタ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「世界の戦車パーフェクトBOOK」  コスミック出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社

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