63式装甲兵員輸送車/80式装甲兵員輸送車 |
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●開発 63式装甲兵員輸送車は、中国が初めて本格的に国産開発した装軌式APCである。 本車は1960年代初頭に開発され、西側から「K-63」、「M1967」、「M1970」の識別名称で呼ばれていたこともあった。 中国軍における本車の制式名称は「63式装甲兵員輸送車」であるが、「WZ-531」、「YW-531」という呼称も使用されている。 中国はソ連の技術援助を受けてT-54A中戦車のライセンス生産型である59式戦車を実用化し、1956年より量産を開始したが、この59式戦車に随伴して行動できる装軌式APCを国産開発しようという機運が高まった。 そこで1958年より最初に開発が始められたのが、58-72式装甲兵員輸送車である。 58-72式装甲兵員輸送車の試作車は1959年3月に完成したが、結局中国軍の要求性能を満たすことができず開発中止となった。 このため、58-72式装甲兵員輸送車の設計をベースに各種欠陥を改めた新型装軌式APCとして1959年7月から開発がスタートしたのが、WZ-531装甲兵員輸送車である。 開発過程においてWZ-531は機関系に関するトラブルに悩まされたが、1962年2月に製作された2両の試作車は3,000kmの走行試験において好成績を収め、1963年1月には最初の生産型がロールアウトし、同年3月18日にWZ-531は「63式装甲兵員輸送車」として制式化された。 しかし63式装甲兵員輸送車は運用において各種トラブルが発生したため、早くも1965年から改良型の開発が開始された。 翌66年には最初の試作車が完成し、「WZA-531」と命名された。 なおWZA-531は「63A式装甲兵員輸送車」と呼ばれることもあるが、制式名称は63式装甲兵員輸送車のままである。 WZA-531は初期型のWZ-531に代わって生産されるようになったが、運用側からはサスペンションの脆弱性や搭載量の少なさ、履帯の外れ易さ等の問題点が指摘されたため、搭載能力と機動性の向上を目的としたさらなる改良型の開発が行われた。 この車両は「WZB-531」と命名され、1981年9月に「63-I式装甲兵員輸送車」として制式化された。 また中国は1980年代に入って63式装甲兵員輸送車を自国軍での採用のみならず、外貨獲得のために大規模に輸出することを計画し、エンジンを信頼性の高い西ドイツ製のものに換装し、新型無線機を搭載するなどの改良を施した輸出専用モデルを開発した。 1981年10月に試作車が完成し、翌82年から輸出が開始されたこのタイプは「80式装甲兵員輸送車」(YW-531C)として制式化されている。 また中国は、急速に経済成長した成果を世界に誇示するための機会として1984年の第35回国慶節を重要な国家行事と位置付け、国慶節記念軍事パレードに合わせて新型軍用車両を大規模に公開することを計画した。 63式装甲兵員輸送車もこのパレードに参列する新型車両のベースとして選定され、パレードに間に合うよう急ピッチで改良型を開発することが要求された。 「WZ-531G」と命名されたこの改良型は1984年1月から開発作業が開始され、同年8月には早くも試作車が完成し、「63-II式装甲兵員輸送車」として制式化されて予定通り国慶節の軍事パレードで一般公開された。 なお、63-II式装甲兵員輸送車は部隊配備後に無線機を新型に換装しており、この車両は「WZ-531K」と命名されている。 63式装甲兵員輸送車はシリーズを通じて1980年代後半まで生産が続けられ、中国軍で約2,000両が採用されている他、イラク、ヴェトナム、アルバニア、コンゴ、スーダン、タンザニア、ジンバブエなどに輸出されており、ヴェトナム戦争や湾岸戦争などで実戦に使用された。 また北朝鮮では、63式装甲兵員輸送車をベースに車体を延長したVTT-323装甲兵員輸送車を国産開発しており、自国軍の主力APCとして運用している。 63式装甲兵員輸送車の派生型としては、車体後部の兵員室を嵩上げして通信機などの収納スペースとしたYW-701装甲指揮車(改良型のYW-531CをベースとしたものはYW-701Aと呼ばれる)、YW-750装甲救急車、YW-304 82mm自走迫撃砲、YW-381 120mm自走迫撃砲、54-1式122mm自走榴弾砲、19連装のロケット弾発射機を備える70式自走多連装ロケット・システムなどが実用化されている。 |
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●構造 WZ-531装甲兵員輸送車の車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造であるが装甲厚は薄く、全周に渡って7.62mm弾の直撃に耐えるのがやっとの防御力しか備えておらず、12.7mm以上の銃弾に耐えることは不可能である。 車体前部左側に操縦手席、その後方に1名分の乗員席(分隊長用と思われる)、前部右側に車長席、その後方に機関室が設けられており、車体後部にある兵員室には銃手を含め10名の兵員を収容することができる。 操縦手席には左側に開くドーム型のハッチが設けられ、前方に2基のペリスコープが装備されている。 操縦手席後方の乗員席にも同様なハッチが備えられ、全周を視察できる旋回式のペリスコープが装備されている。 兵員室の左右側面には各1基ずつガンポートが設けられており、兵員の乗降は車体後面にある右開き式のドアから行われる。 WZ-531の固定武装は旧ソ連製の7.62mm機関銃DPMを国産化した53式7.62mm機関銃で、兵員室上面にある後ろ開き式の銃手用ハッチ前方のピントルマウントに防盾付きで装備されている。 本車に搭載されているエンジンは、59式戦車に搭載されている12150L V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンを6気筒に減筒した6150L V型6気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力260hp)で、変速・操向機は機械式(前進5段/後進1段)のものが使用されている。 サスペンションはトーションバー(捩り棒)方式で転輪は大直径のものが片側4個用いられており、上部支持輪は無い。 なお、転輪や履帯などのコンポーネントは63式水陸両用軽戦車のものと共通化されている。 WZ-531は浮航能力を持っており、車体前部に設けられている波切り板を展開し、履帯を回転させることで水上を6km/hの速度で航行できる。 なお本車は、NBC防護システムは装備していない。 1966年に登場した改良型のWZA-531では、エンジンのラジエイターの冷却能力が改善され、固定武装も旧ソ連製の12.7mm重機関銃DShKMを国産化した54式12.7mm重機関銃に強化された。 車長用ハッチにはペリスコープが設置された他、車体にフロートを装着可能にして水上浮航能力が改善された。 1981年に登場した2番目の改良型であるWZB-531では車体が約20cm延長され、車内容積が拡大している。 またこれに伴い転輪数が1個増やされて片側5個となり、転輪の幅も従来の40mmから100mmに拡大されて接地圧の低減が図られている。 しかも第1、3、5転輪には油気圧式サスペンションが増設された他、履帯もゴムパッドの装着が可能な新型に変更されている。 また固定武装の54式12.7mm重機関銃の周囲を取り囲むように、8mm厚の装甲板でオープントップ砲塔式の防盾が設けられた点も目立つ変化である。 同じく1981年に登場した輸出専用モデルのYW-531Cでは、エンジンが西ドイツのドゥーツ社製のBF8L413F V型8気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力320hp)に強化された他、変速・操向機も油圧式のものに変更されている。 なお、エンジンの換装に伴って機関室の容積が大型化したため車体前部右側の車長席は廃止され、車長は操縦手席後方の座席に搭乗するようになったようである。 またYW-531Cでは、エンジン余熱を車内に送る暖房装置が標準装備となっている。 1984年に登場した3番目の改良型であるWZ-531Gは、WZB-531をベースとしながらYW-531Cの開発で得られた成果が盛り込まれており、西ドイツ製エンジンや車内暖房装置などが導入されている。 |
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<80式装甲兵員輸送車> 全長: 5.476m 全幅: 2.978m 全高: 2.85m 全備重量: 12.6t 乗員: 2名 兵員: 13名 エンジン: ドゥーツBF8L413F 4ストロークV型8気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 320hp/2,500rpm 最大速度: 66km/h(浮航 6km/h) 航続距離: 500km 武装: 54式12.7mm重機関銃×1 (1,120発) 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2024年8月号 北朝鮮兵器カタログ」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2011〜2012」 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「グランドパワー2003年10月号 イラク戦争 戦場写真集」 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 |
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