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ヴィーゼル空挺戦闘車


●ヴィーゼル1空挺戦闘車




ドイツ軍は第2次世界大戦中、ベルギー、オランダやクレタ島降下作戦で空挺作戦の効果を示したが、戦後復活した西ドイツ軍が1980年代末期に空挺部隊用の軽装軌式車両として実用化したのが、この「ヴィーゼル」(Wiesel:いたち)空挺戦闘車である。

ヴィーゼル空挺戦闘車は、それまで空挺部隊が装備していたクラカ汎用装輪式車両の後継として製作された車両で、「ヴァッフェン・トレーガー(武器運搬車)V-LL」とも呼ばれ、本格的な戦闘車両というよりは空挺部隊用の武器運搬車として作られたものである。
本車の開発は自動車メーカーとして有名なシュトゥットガルトのポルシェ社の手で、1970年代に入って間もなく開始された。

1975年に20mm機関砲を搭載する偵察型と、TOW対戦車ミサイルを搭載する戦車駆逐車型の合計6両の試作車が製作されて西ドイツ陸軍の試験に供され、1982年にはアメリカ陸軍も試験を実施したが、予算などの問題からなかなか生産には入れず、1984年にようやく西ドイツ陸軍が312両の導入を決め、その時にクルップMaK社が生産権を取得した。
1985年末には、発注数は343両に増やされている。

1986年には試作車の内4両が、エンジンをアウディ社製のガソリン・エンジンからフォルクス・ヴァーゲン社製のディーゼル・エンジンに換装した改良型に改造され、第2次試作車として試験に供された。
試験で判明した問題点を改めた後1989年から量産に着手され、1992年までに20mm機関砲搭載型が135両、TOW対戦車ミサイル搭載型が210両の合計345両が生産された。
ドイツ陸軍では空挺部隊の他に、軽装備の山岳部隊や軽歩兵部隊にヴィーゼル空挺戦闘車を配備している。

ヴィーゼル空挺戦闘車はCH-47チヌークやCH-53スタリオン・ヘリコプターでの吊り下げ輸送や、C-130ハーキュリーズ(3両搭載)、C-141スターリフター(6両搭載)、C-160トランザール(4両搭載)輸送機による空輸を最大のセールスポイントにしている。
一方、国際マーケットヘの販売を考慮してのことかアメリカ、イギリス、ギリシャ、ノルウェイ、インドネシア、タイ等でデモンストレイションが行なわれている。

1994年には、MaK社の自社資金により「ヴィーゼル2」と呼ばれる車体延長型の試作車が製作され、1998年から生産が開始された。
これに伴い、以前のタイプは「ヴィーゼル1」と呼ばれるようになった。
ヴィーゼル1空挺戦闘車は、空輸性を考慮して極限までの軽量化が図られている。

車体は圧延防弾鋼板の溶接構造だが装甲厚は10mm以下に抑えられており、戦闘重量はわずか2.75tしかない。
車体の防御力は、全周に渡って7.62mm徹甲弾の直撃と榴弾の破片に耐えられる程度である。
車内レイアウトは車体前部右側が操縦手席、前部左側が機関室、車体後部が兵器搭載区画/戦闘室となっている。

エンジンは、フォルクス・ヴァーゲン社製の直列5気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力87hp)が搭載されており、出力/重量比は31hp/tでレオパルト2やM1エイブラムズなどの西側第3世代MBTと同等である。
このため、路上最大速度は75km/hと機動性は高い。
またこのエンジンの最大回転数は4,500rpmと高く、これで伝達トルクを小さくすることによってパワー・トレインの軽量化を図っている。

変速機は、ZF社(Zahnradfabrik Friedrichshafen:フリードリヒスハーフェン歯車製作所)製の3HP22自動変速機(前進3段/後進2段)が採用されている。
操向機にはクレトラック・システムが採用されているが、これも軽量化に貢献している。
クレトラック・システムは、第2次世界大戦時のアメリカ軍のM24軽戦車やM4中戦車に幅広く用いられていた操向システムで、その単純な構造と高速にも適する機能は軽量化に大きく寄与している。

サスペンションはトーションバー(捩り棒)方式が採用されており、転輪は片側3個で上部には支持輪が1個設けられている。
起動輪は前部、誘導輪は後部となっており、接地長を稼ぐため誘導輪は大直径の接地型となっている。
履帯は金属線で補強したゴム製で、軽くて騒音が少ない。

ヴィーゼル1空挺戦闘車には当初、ラインメタル社製の20mm機関砲MK20 Rh202を装備するKUKA社製のE6II-A 1名用砲塔を搭載した偵察型と、アメリカ製のTOW2対戦車ミサイルの発射機を搭載する戦車駆逐車型の2種類のヴァリエーションがあった。
偵察型が搭載するKUKA社製のE6II-A砲塔は手動旋回式で旋回範囲は左右各110度ずつ、20mm機関砲の俯仰角は-10~+60度となっている。

砲塔両側の弾倉には左に100発、右に60発の弾薬が収容されている。
主砲の100口径20mm機関砲MK20 Rh202は、マルダー歩兵戦闘車やルクス装甲偵察車の主砲にも採用されている。
戦車駆逐車型では車体後部中央にTOW2対戦車ミサイルの発射機が搭載され、すぐ後ろに乗員2名が搭乗する。

ミサイル発射機は左右各45度ずつの限定旋回式で、TOW2対戦車ミサイルは7発が搭載される。
その後、12.7mmおよび7.62mm機関銃を装備するフランスのSAMM社製のBTM208銃塔を搭載した偵察型や、フランスとドイツが共同開発したHOT対戦車ミサイルの発射機を搭載する戦車駆逐車型がヴァリエーションに加わった。

HOT対戦車ミサイル搭載型は偵察車としての高い能力を持つため、伸縮ポストの上の安定化機能を持つ架台に暗視カメラ、TVカメラ、通常カメラを搭載した総合視察・照準装置を備えている。
しかし以後、これら4種類以外の新しいヴァリエーションの話は聞こえてこない。
その理由は、何といっても各種機器を搭載するのにそのペイロードと搭載スペースが少ないことにあったらしい。


●ヴィーゼル2空挺戦闘車




一方車体延長型は、遅くとも1985年頃より各種ヴァリエーションを可能とするために検討されていた。
これが後に、「ヴィーゼル2」として採用されることになる。
このヴィーゼル2空挺戦闘車は、ヴィーゼル1空挺戦闘車の車体長を後方に転輪1ピッチ分、つまり約600mm伸ばし、車高を約200mm高くしたものである。
その結果、車内の利用可能空間は2m3から4m3へと倍増している。

しかし、CH-53ヘリコプターならば2両を搭載できる大きさになっている。
新しいヴィーゼル2空挺戦闘車のファミリー車両としては装甲兵員輸送車、車体後部にラインメタル社製の120mm迫撃砲を搭載する自走迫撃砲、アメリカ製のスティンガー対空ミサイルの4連装発射機を搭載する自走対空車両「オツェロット」(オセロット)、射撃指揮車、貨物輸送車、野戦救急車、指揮車、偵察車「アルグス」(アルゴス、ギリシャ神話に登場する全身に無数の目を持つ巨人)等が発表されている。

車体を拡大したことによって搭載スペースが増加したため用途は画期的に拡大し、本車の運用価値を大いに高めている。
また、車体の拡大と共にその後部には右開き式の大型ドアが備えられて、乗員の乗降や資材の出し入れが便利になっている。

車体の大型化に伴って、エンジンがアウディ社製のTDI 直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力110hp)に換装されてパワーアップされているが、このエンジンは乗用車であるアウディ100のディーゼル車にも搭載されており、低コストで信頼性の高いエンジンといえる。

変速機もZF社製のLSG300/4自動変速機(前進4段/後進2段)に換装されており、操向機もハイドロスタティックのクロスドライブ型に性能アップが図られている。
ただし足周りはヴィーゼル1空挺戦闘車と同じコンポーネントを使い、転輪と上部支持輪を片側1個ずつ増やしただけで共通性を維持している。

ヴィーゼル2空挺戦闘車の基本となる装甲兵員輸送車型では、操縦手と車長に加えて後部兵員室に4名の完全武装歩兵を収容することができる。
兵員室上面前部には、遠隔操作式の7.62mm機関銃MG3を装備するヴェクマン社製のキューポラが装備されており、兵員の乗降は兵員室後面に設けられた大型ドアから行う。
暗視装置やNBC防護装置は、オプションとなっている。

ヴィーゼル2空挺戦闘車のファミリー車両の内、特にMaK社がPRに力を入れているのはスティンガー対空ミサイル搭載車と射撃指揮車および、司令車を組み合わせたASRAD(Atlas Short Range Air Defence System:アトラス短射程防空システム)である。
このシステムの長所は3車両のみでユニットとしての機能を完結していることと、さらに火力を増大するには8両までの範囲でスティンガー搭載車だけを増加させれば良い点にある。

従って、空挺部隊の橋頭堡の防空システムとしては極めて好都合な機材である。
システムの主な性能は索敵範囲20km、最大有効射程6kmとなっている。
ヴィーゼル1空挺戦闘車の軽量性を継承しつつ多用途化を図ったヴィーゼル2空挺戦闘車は、21世紀の国際情勢にふさわしい戦闘車両であると考えられる。


<ヴィーゼル1 MK20空挺戦闘車>

全長:    3.45m
車体長:   3.31m
全幅:    1.82m
全高:    1.825m
全備重量: 2.75t
乗員:    2名
エンジン:  フォルクス・ヴァーゲン 直列5気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 87hp/4,500rpm
最大速度: 75km/h
航続距離: 300km
武装:    100口径20mm機関砲MK20 Rh202×1 (400発)
装甲厚:


<ヴィーゼル1 TOW空挺戦闘車>

全長:    3.31m
全幅:    1.82m
全高:    1.897m
全備重量: 2.75t
乗員:    3名
エンジン:  フォルクス・ヴァーゲン 直列5気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 87hp/4,500rpm
最大速度: 75km/h
航続距離: 300km
武装:    TOW2対戦車ミサイル発射機×1 (7発)
装甲厚:


<ヴィーゼル2空挺戦闘車>

全長:    4.057m
全幅:    1.82m
全高:    2.167m
全備重量: 4.1t
乗員:    2名
兵員:    4名
エンジン:  アウディTDI 直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 110hp/4,150rpm
最大速度: 75km/h
航続距離: 550km
武装:    7.62mm機関銃MG3×1
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2013年7月号 世界で唯一の空挺部隊用戦闘支援車 ヴィーゼル」 吉村誠 著  アルゴノート社
・「パンツァー2007年7/8月号 現代のタンケッテ ヴィーゼル空挺戦闘車」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「パンツァー2024年3月号 Waffenträger WIESEL 1 MELLES」 カール・シュルツ 著  アルゴノート社
・「パンツァー2000年2月号 ユニークなドイツの空挺車輌 ヴィーゼル」 二木巌 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年9月号 迫撃砲最新事情」 瀬戸明 著  アルゴノート社
・「パンツァー2001年2月号 ドイツ空挺部隊のヴィーゼル」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021~2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2006年10月号 ユーロサトリ2006 (2)」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006~2007」  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918~2000」  デルタ出版
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社
・「世界の最強陸上兵器 BEST100」  成美堂出版
・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」  学研
・「戦車名鑑 1946~2002 現用編」  コーエー

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