VT-4戦車
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+開発
VT-4戦車は、内蒙古第一機械集団(国営第617工場から改組)が中心となって開発した海外輸出向けのMBT(主力戦車)である。
中国はパキスタンと共同で1990年代末期に、「90-II式戦車」と呼ばれる輸出用MBTを開発しているが、これは「アル・ハリド」の制式呼称でパキスタン軍に採用された。
パキスタンではタクシラ重工業の手でアル・ハリド戦車のライセンス生産が行われており、現在400両以上がパキスタン軍で運用されている。
しかし中国側は90-II式戦車をパキスタン軍のみならず、外貨獲得のため広く海外に輸出することを最初から計画しており、「MBT-2000/VT-1」の呼称で各地の兵器展示会に出品して積極的に売り込みを図った。
そして2009年にMBT-2000の改良型として発表したVT-1A戦車が、モロッコで150両、ミャンマーで148両、バングラデシュで44両、スリランカで22両採用されるという好セールスを記録した。
これに意を強くした中国は、VT-1A戦車の発展型としてさらに高性能な輸出用MBT「MBT-3000」を開発することを決定し、2009年から内蒙古第一機械集団を中心とする企業グループの手で開発計画がスタートした。
2012年にフランスで開催された兵器展示会「ユーロサトリ2012」においてMBT-3000の基本コンセプトが発表され、2014年の中国兵器装甲日および中国国際航空宇宙博覧会で「VT-4」と名付けられた試作車が展示された。
VT-4戦車の量産がいつ頃開始されたのかは不明であるが、2017年にはタイが38両のVT-4戦車を購入しており、さらに153両の追加発注を検討中とのことである。
さらに、パキスタンが240両(176両という説も)のVT-4戦車を「ハイダー」(Haider:ライオン)の制式呼称でライセンス生産することを決定し、2020年4月に最初の4両が納入されている。
またナイジェリアも数量不明ながらVT-4戦車の購入を決定しており、2020年4月から引き渡しが開始されて、2021年1月8日にイスラム原理主義組織「ボコ・ハラム」に対する軍事作戦で実戦投入されたという。
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+攻撃力
VT-4戦車の戦闘室内には底部の主砲弾薬弾倉と一体化した自動装填装置が装備されており、装填手が不要となったために乗員は3名となっている。
主砲弾薬搭載数は不明であるが(40発前後と推測される)、この内22発分の砲弾と装薬が主砲弾薬弾倉に装填されており、主砲の発射速度は10〜12発/分とされている。
VT-4戦車の主砲は、中国軍の最新鋭MBTである99式戦車と同じく国産の51口径125mm滑腔砲ZPT-98を装備している。
このZPT-98は、旧ソ連製のT-72戦車の主砲である125mm滑腔砲2A46をベースに国内開発されたもので、砲身には排煙機とサーマル・スリーブが装着されている。
主砲弾薬には劣化ウラン弾芯を持つAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾、砲口初速1,760m/秒)、HEAT(対戦車榴弾、砲口初速850m/秒)、HE-FRAG(破片効果榴弾、砲口初速950m/秒)が開発されている。
ZPT-98はAPFSDSを使用した場合、射距離2,000mで460mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することができるという。
VT-4戦車のFCS(射撃統制システム)は、90-II式戦車に搭載されているイスラエル製の「ISFCS-212」(Image-Stabilized
Fire Control System 212:映像安定化射撃統制システム212型)の改良型を採用しており、車長と砲手用の2軸安定式サイトには第2世代型イメージ増幅暗視装置が組み込まれ、夜間戦闘能力が向上している。
弾道コンピューターも新型のディジタル式のものに更新されており、走行間射撃能力が向上している。
VT-4戦車の副武装は、主砲と同軸に86式7.62mm機関銃(旧ソ連製のPKTのライセンス生産型)を1挺、砲塔上面に88式12.7mm重機関銃(旧ソ連製のNSVTのライセンス生産型)を1挺装備しているが、従来の中国製MBTと異なり、12.7mm重機関銃は車内から遠隔操作できるRWS(遠隔操作式武装ステイション)に搭載されており、乗員が身を乗り出すこと無く車内から安全に射撃を行うことが可能である。
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+防御力
VT-4戦車の車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室というオーソドックスな配置になっている。
VT-4戦車の車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、基本構造は90-II式戦車のものを踏襲しており、サイズも形状もよく似ている。
車体前面にはセラミックを封入した複合装甲が導入されており、KE(運動エネルギー)弾、CE(化学エネルギー)弾のいずれに対しても高い防御力を発揮する。
また車体前面には、CE弾への対策としてびっしりとERA(爆発反応装甲)のボックスが装着されている。 このERAは山西省の中北大学が開発したFY-4もしくはFY-5と呼ばれるもので、CE弾に対してRHA換算で400mm厚以上に相当する防御力を発揮するだけでなく、KE弾に対してもそこそこの防御力を発揮するという。
VT-4戦車の砲塔は車体と同じく圧延防弾鋼板の全溶接構造となっており、前半部にはセラミックを封入した複合装甲が導入されている。
この砲塔は99式戦車の設計が採り入れられており、砲塔前半部には楔形の追加装甲が装着されている。
この追加装甲は複合装甲とERAを組み合わせたもので、KE弾とCE弾の両方に対して高い防御力を発揮するといわれる。
なお99式戦車の砲塔前面の装甲防御力は、西側の戦車砲で最高の威力を誇るドイツのラインメタル社製の55口径120mm滑腔砲(ドイツのA6型以降のレオパルト2戦車や、韓国のK2戦車が装備)から発射されるAPFSDSの直撃に耐えられるレベルといわれており、99式戦車の砲塔設計を流用しているVT-4戦車もかなり高い装甲防御力を備えていると推測される。
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+機動力
VT-4戦車の走行装置は車体最前部左右の誘導輪と、トーションバー(捩り棒)式サスペンションに支えられた片側6個の複列式転輪、後部左右の起動輪、片側3個の上部支持輪と、取り外しが可能なゴムパッド付きのダブルピン/ダブルブロック型履帯から成るが、これらの上部はサイドスカートによって覆われている。
VT-4戦車のエンジンは、国産の150HB V型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,200hp)が採用されている。
90-II式戦車やVT-1A戦車では、ウクライナのV.O.マールィシェウ工場製の6TD-2 水平対向6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,200hp)を採用していたが、VT-1A戦車をペルーに輸出しようとした際に、マールィシェウ工場側が6TD-2エンジンの供給を拒否したため商談が成立しなかった経緯があり、そうしたリスクを避けるために国産エンジンに切り替えたものと思われる。
一方VT-4戦車の変速・操向機には、フランスのSESM社製のESM500自動変速・操向機(前進5段/後進2段)が採用されている。
ESM500変速・操向機はフランス軍の最新鋭MBTであるルクレール戦車にも採用されており、高い性能と信頼性が保証されている。
99式戦車に採用されている国産のシンクロメッシュ式手動変速・操向機(前進7段/後進1段)は、T-72戦車の変速・操向機を参考に開発されたもので超信地旋回が不可能であり、操向操作がレバー操作式のため操縦が難しい。
それに比べると、VT-4戦車の変速・操向機は超信地旋回が可能で加速性能が優れており、操向操作も乗用車と同様にハンドルで行うため操縦が容易である。
この足周りによりVT-4戦車は路上最大速度70km/h、路上航続距離500kmの機動性能を発揮する。
またVT-4戦車は顧客の要望に応じて、エンジンをより強力な150HB-2 V型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,500hp)に換装することも可能とされており、その場合の路上最大速度は80km/hに達するという。
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<VT-4戦車>
全長: 10.65m
車体長:
全幅: 3.40m
全高: 2.30m
全備重量: 52.0t
乗員: 3名
エンジン: 150HB 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,200hp
最大速度: 70km/h
航続距離: 500km
武装: 51口径125mm滑腔砲ZPT-98×1
88式12.7mm重機関銃×1
86式7.62mm機関銃×1
装甲: 複合装甲
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<参考文献>
・「パンツァー2017年3月号 珠海航空展2016 出品された中国製AFVを見る」 アルゴノート社
・「パンツァー2019年2月号 中国国際航空航天博覧會(1)」 布留川司 著 アルゴノート社
・「パンツァー2016年1月号 99A式戦車の異母弟 MBT-3000」 アルゴノート社
・「パンツァー2024年5月号 軍事ニュース」 荒木雅也 著 アルゴノート社
・「パンツァー2017年4・5月号 IDEX2017」 竹内修 著 アルゴノート社
・「パンツァー2015年2月号 今月のトピックス」 アルゴノート社
・「パンツァー2017年4・5月号 軍事ニュース」 アルゴノート社
・「パンツァー2017年6月号 軍事ニュース」 アルゴノート社
・「パンツァー2019年2月号 軍事ニュース」 アルゴノート社 ・「パンツァー2024年1月号 軍事ニュース」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社
・「戦闘車輌大百科」 アルゴノート社
・「世界の戦車パーフェクトBOOK 最新版」 コスミック出版
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