ヴィッカーズMk.1/Mk.3戦車
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+概要
ヴィッカーズMBT(主力戦車)シリーズは、レイランド自動車と協力してイギリス陸軍向けに開発したチーフテン戦車での経験を活かして、ウェストミンスターのヴィッカーズ・アームストロング社が輸出向けに自社資金で開発したMBTで、価格を抑えるために主砲には105mm砲を採用し、機関系はチーフテン戦車から流用して、重量も37tに抑えたMBTとしてまとめられた。
この新型MBTプランは早速各国に対して売り込みが図られ、1961年8月にインドが発注したことで試作車の製作が開始された。
1963年には「ヴィッカーズMk.1」」の呼称で試作車2両が完成し、インドに1両が送られ、イギリスに置かれたもう1両の試作車と共に試験に供された。
試験において、ヴィッカーズMk.1戦車は満足すべき性能を発揮したため、1964年から生産型の製作が始まり、翌65年にはインドへ引き渡されている。
インドでは、ヴィッカーズMk.1戦車に「ヴィジャヤンタ」(Vijayanta:勝利)の呼称を与え、ライセンス生産権を得て国内で生産を行うことを決め、1965年1月からマドラス(現チェンナイ)のアバディ工場において生産が開始された。
ヴィジャヤンタ戦車の生産は1980年代の初めまで継続して行われ、合計で2,200両が完成している。
また1968年には、クウェートもヴィッカーズMk.1戦車の導入を決め、1970〜72年にかけて70両が引き渡された。
ヴィッカーズMk.1戦車のエンジンは、チーフテン戦車に用いられたものと同系列の、レイランド社製のL60 Mk.4B 垂直対向6気筒多燃料液冷ディーゼル・エンジン(出力650hp)が用いられており、これにコヴェントリーのSCG社(Self-Changing Gears:自動変速ギア会社)が開発した、TN12半自動変速・操向機(前進6段/後進2段)が組み合わされた。
なおSCG社は1965年に事業を終了したため、その後はハダースフィールドのDBE社(David Brown Engineering:デイヴィッド・ブラウン工業)が、TN12変速・操向機の生産とサポートを引き継いでいる。
またクウェート向けのヴィッカーズMk.1戦車は、「アル=ジャハラー」(Al-Jahra:クウェートのジャハラー県の県都)と呼ばれ、エンジン・フィルターの改造、転輪の配置変更など砂漠地帯向けの改良が施されていた。
ヴィッカーズMk.1戦車の主砲には、西側の戦後第2世代MBTの標準武装ともいえる、王立造兵廠製の51口径105mmライフル砲L7A1が採用されており、これに、チェルムズフォードのGECマルコーニ社(現BAEシステムズ社)製の砲安定装置が組み合わされて、砲の安定を解除、安定、緊急の3つのモードから選択することができた。
L7A1は、装甲目標用の主力弾であるAPDS(装弾筒付徹甲弾)を使用した場合、砲口初速1,470m/秒、射距離1,000mで330mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することが可能であった。
さらに、ヴィッカーズ社はヴィッカーズMk.1戦車の車体に、ヒートンチャペルのフェアリー航空機産業と、ウェストミンスターの英国航空機(現BAEシステムズ社)が共同開発した、「スウィングファイア」(Swingfire:曲がる炎)対戦車ミサイルの発射機を搭載したミサイル戦車「ヴィッカーズMk.2」の開発を計画したが、結局これは机上のプランに終わっている。
続いてヴィッカーズ社が開発したヴィッカーズMk.3戦車は、ヴィッカーズMk.1戦車の本格的な改良型として、エンジンの出力強化やFCS(射撃統制装置)のコンピューター化、車体と砲塔の前面を鋳造とするなどの改良を実施したもので、戦闘重量はヴィッカーズMk.1戦車より4tほど増加したが、エンジンの出力がヴィッカーズMk.1戦車の650hpから720hpに向上したために、走行性能は反対に向上した。
このヴィッカーズMk.3戦車はケニアに76両と戦車回収型7両が、ナイジェリアに36両と戦車回収型5両、架橋型6両がそれぞれ輸出された。
1985年にはヴィッカーズMk.3戦車に対し、機関系の換装やサスペンションの強化、履帯の換装などの改良を行った発展型のヴィッカーズMk.3(I)戦車が開発され(”I”はImprovement:改良の頭文字)、1986年に試作車が完成したもののまだ発注は無い。
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<ヴィッカーズMk.1戦車>
全長: 9.73m
車体長: 7.92m
全幅: 3.175m
全高: 2.64m
全備重量: 38.61t
乗員: 4名
エンジン: レイランドL60 Mk.4B 2ストローク垂直対向6気筒多燃料液冷ディーゼル
最大出力: 650hp/2,100rpm
最大速度: 56.3km/h
航続距離: 483km
武装: 51口径105mmライフル砲L7A1×1 (44発)
12.7mm標定銃L21A1×1 (600発)
7.62mm機関銃L8A1×1 (3,000発)
7.62mm機関銃L37A1×1
装甲厚: 17〜80mm
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<ヴィッカーズMk.3戦車>
全長: 9.788m
車体長: 7.561m
全幅: 3.631m
全高: 2.476m
全備重量: 40.0t
乗員: 4名
エンジン: デトロイト・ディーゼル12V-71T 2ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 720hp/2,500rpm
最大速度: 50km/h
航続距離: 530km
武装: 51口径105mmライフル砲L7A1×1 (50発)
12.7mm標定銃L21A1×1 (700発)
7.62mm機関銃L8A1×1 (2,600発)
7.62mm機関銃L37A1×1
装甲厚: 17〜80mm
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<参考文献>
・「パンツァー2011年6月号 インド陸軍のMBT その歴史と現状」 竹内修 著 アルゴノート社
・「パンツァー2003年6月号 ヴィッカースMBTシリーズ」 鈴木浩志 著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年11月号 各国の第二世代MBT」 柘植優介 著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年11月号 ベル・エポックのMBT」 城島健二 著 アルゴノート社
・「パンツァー2003年1月号 近代化された第2世代MBT」 アルゴノート社
・「パンツァー2016年3月号 輸出用戦車の系譜」 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート9 レオパルト1と第二世代MBT」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー
・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社
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