VCTP歩兵戦闘車は、1974年にアルゼンチン政府から出された要望に沿って西ドイツのティッセン・ヘンシェル社(現ラインメタル・ラントジステーム社)が、TAM戦車と共にアルゼンチン陸軍向けに開発した歩兵戦闘車である。 ちなみに「VCTP」とは「Vehiculo de Combate Transporte de Personal」の略で、スペイン語で「兵員輸送用戦闘車両」という意味である。 開発コストを低く抑える目的から、ティッセン・ヘンシェル社は当時実用化していたマルダー歩兵戦闘車の車体・コンポーネントを流用して開発を行った。 1976年に西ドイツで完成した試作車はアルゼンチンに送られ実用試験の後、同国内のメーカーであるTAMSE社で改修が行われ生産型に移行した。 VCTP歩兵戦闘車はTAM戦車と合わせて512両がアルゼンチン陸軍より発注されたが、現在までの生産数は約200両と推定されている。 なお近年、新たに約50両のVCTP歩兵戦闘車が発注され、アルゼンチン陸軍に引き渡されたともいわれている。 VCTP歩兵戦闘車の車体は並行して開発されたTAM戦車と共通化されており、エンジンの排気口が右側面に移動したことを除くと原型となったマルダー歩兵戦闘車とほぼ同様で、車体前部左側に操縦室、前部右側に機関室があり、車体中央部に全周旋回式砲塔、車体後部に兵員室が設けられている。 原型のマルダー歩兵戦闘車では兵員室に収容できる兵員は6名であるが、VCTP歩兵戦闘車では10名の兵員を収容することができる。 兵員室の左右側面に各3基ずつ配置されているガンポートは、マルダー歩兵戦闘車が装備しているボールマウント式のものと異なり、半円形の上開き式のものとなっており、上部ハッチも横長の2枚の大型ハッチに変更されている。 兵員の乗降は、車体後面にあるランプ式のハッチが使用される。 砲塔は2名用で砲塔内左側に車長、右側に砲手が位置する。 砲手には照準装置と3基のペリスコープが備えられたキューポラが設けられており、車長にも7個のペリスコープが備えられたキューポラが設けられているが、車長用キューポラは砲手用のものよりもやや高くなっている。 主武装はスイスのエリコン社製の86口径20mm機関砲KAD-B19で、砲の俯仰角は−11.5〜+60度である。 砲塔内にはHE(榴弾)325発、APDS(装弾筒付徹甲弾)75発の計400発の即用弾が搭載され、車体内にもさらに1,000発が収納されている。 副武装は兵員室後方に装備されたリモコン式の7.62mm機関銃TPA-1と、車長用キューポラに取り付けることができる7.62mm機関銃FN-MAGの他、車体前部左右側面に各4基ずつの発煙弾発射機が装備されている。 パワーパックは、ドイツのMTU社製のMB833Ka-500 V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力720hp)と、レンク社製のHSWL194遊星歯車式自動変速機(前進4段/後進4段)の組み合わせとなっており、車体前部右側の機関室に収められている。 路上最大速度は80km/hで路上航続距離は590kmとなっているが、兵員室の左右側面に増加燃料タンクを装着すると路上航続距離は940kmに伸びる。 VCTP歩兵戦闘車の派生型としてはVCTM 120mm自走迫撃砲、VCPC装甲指揮車、VCRT装甲回収車などがある。 |
<VCTP歩兵戦闘車> 全長: 6.83m 全幅: 3.32m 全高: 2.68m 全備重量: 28.0t 乗員: 2名 兵員: 10名 エンジン: MTU MB833Ka-500 4ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 720hp/2,400rpm 最大速度: 80km/h 航続距離: 590km 武装: 86口径20mm機関砲KAD-B19×1 (1,400発) 7.62mm機関銃TPA-1×1 (6,000発) 7.62mm機関銃FN-MAG×1 装甲厚: |
<参考文献> ・「パンツァー2011年10月号 アルゼンチンのオリジナル戦車 TAM」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年5月号 ドイツ企業が開発した輸出用戦闘兵車」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 |