VCR装甲車は主に輸出を意図して、1975年にパナール社のプライヴェート・ヴェンチャーで開発が始められた6×6型の装輪式装甲車である。 試作車は1977年のサトリ兵器展示会でデビューし、翌78年に量産が開始された。 ちなみに「VCR」とは”Véhicule de Combat à Roues”(装輪式戦闘車両)の頭文字を採ったものであるが、本車は実際には戦闘や偵察から輸送、修理、指揮、通信など広い用途に使用されている。 エンジンを始めとして、機構的にはパナール社が同時期に開発したERC戦闘偵察車と共通点が多く、広い意味ではファミリーともいえる。 VCR装甲車シリーズはイラク(100両)、アラブ首長国連邦(82両)、アルゼンチン、メキシコなど1998年までに合計で262両が輸出された。 VCR装甲車の車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、小火器レベルの攻撃に対して抗堪性がある他、地雷対策として車体底部がV字型となっている。 車内レイアウトはずんぐりした車体の最前部に操縦手席を配置し、その背後の左側に車長席を、右側に機関室を配置している。 車体後部は兵員室となっており、基本型であるVCR/TT(Transport de Troupes)装甲兵員輸送車では9名の兵員を収容することができる。 兵員室の後面には右開き式の乗降用ドアが設けられており、左右側面の上部には各2個ずつの小ハッチが設けられている。 このハッチは外部の視察に用いられる他、兵員が上半身を乗り出して射撃を行うことも可能である。 武装はVCR/TT装甲兵員輸送車の場合、兵員室の前部に12.7mm重機関銃を装備する銃塔を搭載し、後部のリング・マウントにも7.62mm機関銃を装備する。 第1輪と第3輪のサスペンションはコイル・スプリングだが第2輪のみ油気圧式となっており、路上走行時には引き上げられて4輪走行の形態を採る。 また本車は浮航性を持っており、タイアの回転によって水上を4km/hの速度で航行することができる。 1983年以降の生産型では兵員室の天井が若干高くなり、車体もわずかに延長されて前2軸の間隔が1.425mから1.66mへと広がった。 VCR装甲車のファミリーには、イラクが100両を発注した4連装のHOT対戦車ミサイルを装備するユーロミサイル社製のUTM800砲塔を搭載したVCR/TH自走対戦車ミサイル、スウェーデンのボフォース社製のRBS70対空ミサイルを搭載したVCR/AA対空ミサイル・システム、兵員室の天井を嵩上げして担架に載った4名の重傷者を収容できるようにしたVCR/IS装甲救急車、VCR/AT装甲修理車、VCR/PC装甲指揮車などがある。 また後装式60mm迫撃砲と7.62mm機関銃を装備するSAMM社製のBTM263砲塔や、20mm連装対空機関砲を装備するS530砲塔なども装備可能となっている。 1979年には4輪化したVCR(4×4)が発表されており、アルゼンチンに24両が採用されている。 動力系などは95%までが6輪型と共通で戦闘重量も7.8tとほとんど変わらないが、6輪型と異なり車体中央部の左右にウォーター・ジェットが標準装備されている。 |
<VCR/TT装甲兵員輸送車> 全長: 4.875m 全幅: 2.50m 全高: 2.56m 全備重量: 7.9t 乗員: 3名 兵員: 9名 エンジン: プジョーPRV V型6気筒液冷ガソリン 最大出力: 145hp/5,500rpm 最大速度: 90km/h(浮航 4km/h) 航続距離: 700km 武装: 12.7mm重機関銃M2×1 7.62mm機関銃F1×1 装甲厚: 8~12mm |
<参考文献> ・「パンツァー2010年6月号 ハイチに派遣されている各国軍の軍用車輌」 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年8月号 新装備トピックス」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021~2022」 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904~2000」 デルタ出版 ・「戦車名鑑 1946~2002 現用編」 コーエー ・「新・世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 ・「世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 |