●開発 VCC-80ダルド歩兵戦闘車は、VCC-1カミリーノ歩兵戦闘車の後継として開発されたイタリア陸軍初の本格的IFVである。 イタリア陸軍は1973年に、新世代IFVに関する研究に着手した。 その背景には、当時開発を開始した新型戦車C1アリエテとの共同運用が可能な随伴車両が必要になったという事情があった。 この研究のデータを基として1982年2月にイタリア陸軍とオート・メラーラ、イヴェコの2社との間で、「VCC-80」の呼称で新型IFVの開発契約が締結された。 VCC-80歩兵戦闘車の開発は車体をオート・メラーラ社、砲塔と機関系をイヴェコ社がそれぞれ担当して進められることになった。 ちなみに「VCC-80」(Veicolo Corazzato da Combattimento 80)とは「80年代型歩兵戦闘車」の意味で、本来ならば1980年代には実戦化がなされていなければならなかったが、イタリアが慢性的な財政難に苦しんでいたこともありその就役は1990年代の初めから半ば頃と修正され、1985〜87年にかけて第1次試作車3両が製作されて評価試験に供された。 そして試験後指摘された問題等に対する改修を図った第2次試作フェイズに移行し、1990〜91年にかけて第2次試作車が完成している。 しかしこの時点では量産は行われず、1982年より導入を進めていたVCC-1およびその改良型のVCC-2歩兵戦闘車の配備を行うことで時間を稼いでいたが、1998年末にようやくVCC-80「ダルド」(Dardo:矢)歩兵戦闘車として制式化され、第1ロット196両の生産契約が結ばれた。 VCC-80歩兵戦闘車は当初の計画では2000年半ばにガリバルディー機甲旅団の第8、第18連隊への配備を皮切りに、以下アリエテ機甲旅団の第11、第82連隊、チェンタウロ機甲旅団の第2、第3連隊、ピネロロ機甲旅団の第7連隊に対する配備を行う予定で、最終的には2015年までに800両を調達することになっていた。 しかしイタリアの財政難のため、VCC-80歩兵戦闘車は調達コストを低減するためにFCS(射撃統制システム)を急遽より安価なものに変更することになった。 このFCSの変更に手間取ったため実際にVCC-80歩兵戦闘車の部隊配備が開始されたのは2002年になってからで、調達数も500両に下方修正された。 現在は、第2生産ロットの予算承認を待っている状況である。 |
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●構造 VCC-80歩兵戦闘車の基本的なレイアウトは列強のIFVに共通するスタンダードなもので、車体前部左側に操縦室を配しその反対の前部右側が機関室、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載する戦闘室、そして車体後部が兵員室で、アメリカのM2ブラッドリーやイギリスのFV510ウォーリア等の西側のIFVと同様の配置を採っている。 砲塔最上部までの高さが2.64mとシルエットはかなり低くまとめられており、レーダーや目視による捕捉の可能性を低くして生存性を高めている。 車体・砲塔は共に5030および7020防弾アルミ板の溶接構造となっているが、要所には圧延防弾鋼板の増加装甲が施されている。 水上浮航性は無いが、水深1.2m以内ならそのままの状態で渡河することが可能である。 エンジンは、B1チェンタウロ戦闘偵察車と同じイヴェコ社製のモデル8260 4ストロークV型6気筒液冷ディーゼル・エンジンが採用されている。 このエンジンはターボチャージャーが装着されて520hpの出力を発生し、増加装甲が未装着の場合のVCC-80歩兵戦闘車の戦闘重量は23.4tなので、その出力/重量比は22.2hp/tと意外なほど大きい値になっている。 このエンジンにLSG1500自動変速機(前進4段/後進2段)を組み合わせることで路上最大速度70km/h、0〜40km/hまでの加速時間15秒という機動性能を得ているが、これは列強のIFVと比べても何ら遜色は無い。 また路上航続距離は600kmとなっており、M2歩兵戦闘車が300マイル(483km)なのに比べるとかなり長い。 LSG1500自動変速機はドイツの名門ZF社が開発したものをイヴェコ社がライセンス生産しているもので、マイクロ・プロセッサーを組み込んだトルク・コンヴァーターを備える油圧駆動式を採用している。 また最初に任意の速度設定を行うと、自動的にその速度に達した以後は定められた速度で巡航することも可能である。 サスペンションには45mm径のトーションバーを採用しており、片側6個の590mm径複列式転輪を支えている。 上部支持輪は片側3個で起動輪は前部、誘導輪は後部という一般的なレイアウトを採っており、第1、第2、第5、第6転輪にはショック・アブソーバーが取り付けられている。 VCC-80歩兵戦闘車の試作第3号車では油気圧式サスペンションに替えて試験が行われたが、コストの増加を理由として生産型への導入は見送られている。 もっとも海外への輸出車両には、オプションとして油気圧式サスペンションの装備も可能である。 履帯は、定評あるドイツのディール社製のものをイヴェコ社がライセンス生産したものを使用している。 これは取り外しが可能なゴムパッド付きのダブルピン型履帯で、その接地長は3,965mm、接地圧は0.78kg/cm2と常識的な値にまとめられている。 車体前部左側の操縦室には上面に右開き式の円形ハッチが設けられており、ハッチの前方には3基のペリスコープが装備されているが、中央のものは必要に応じてパッシブ式夜間用ペリスコープに取り替えることが可能である。 車体後部に配された兵員室内には左右側面に独立した折り畳み式の座席が各3基ずつ設けられており、兵員室の周囲には左右側面に各2カ所ずつと後面1カ所にガンポートと専用のヴィジョン・ブロックが備えられている。 兵員室の後面には油圧駆動式の大型ランプが装備されているが、このランプには左寄りに右開き式のドアが設けられており兵員の乗降は専らこのドアを用いることが多いようである。 さらに兵員室の上面にも後ろ開き式のハッチが2枚設けられているが、これは車内から砲塔の左右側面に装備されているTOW対戦車ミサイル発射機にミサイルの再装填を行うためのものである。 VCC-80歩兵戦闘車の砲塔はオート・メラーラ社が開発した2名用のTC-25ヒットフィスト砲塔で、スイスのエリコン社製の80口径25mm機関砲KBA-B02と、ドイツのラインメタル社製の7.62mm機関銃MG42/59を同軸に備え、砲塔内には左側に車長、右側に砲手がそれぞれ配されている。 また砲塔の左右側面にはアメリカのヒューズ社製のTOW対戦車ミサイル発射機が各1基ずつ装備され、ある程度以上の対装甲戦闘能力を備えている。 当初の計画では、砲塔側面の対戦車ミサイルはドイツとフランスが共同開発したミランを採用する予定であったが、結局アメリカ製のTOWが装備されることになった。 砲塔左右の発射機には1発ずつのTOW2対戦車ミサイルが収められ、発射機は電動モーターにより−7.5〜+30度の俯仰が可能である。 主砲の25mm機関砲KBA-B02の発射速度は600発/分で−10〜+60度の俯仰角を持ち、ある程度の対空戦闘能力も備えている。 弾薬はAPDS(装弾筒付徹甲弾)もしくはAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)75発と、HEI(焼夷榴弾)125発を砲塔バスケットに置かれた弾倉に収容して2本のベルトにより給弾が行われる。 さらに戦闘室内には予備弾薬として、200発の25mm機関砲弾を収める弾薬ベルトが用意されている。 FCSは当初、C1アリエテ戦車やB1チェンタウロ戦闘偵察車への装備を目的として開発されたガリレオ社製のTURMSシステムを搭載する予定であったが、検討の結果M2歩兵戦闘車が装備しているアメリカのコールスマン社製のDNRSシステムのライセンス生産権を取得して、ガリレオ社が独自に改良を加えたものを採用する運びとなった。 詳細は公表されていないが砲手用として熱線映像カメラと光学式昼/夜間照準機を備え、光学式照準機にはTOW対戦車ミサイルの誘導を行う受像機が装備されている。 その性能を示すものとしてNATOが標準サイズとして定めている目標サイズ(2.3m×2.3m)のものを12kmで視認でき、熱線映像照準機を用いた場合では同サイズの目標を2,500m(外気温14℃で目標の背景との温度差が±5℃以内)で発見でき、1,500mで識別できる能力を備えるとされている。 またオプションとして、レーザー測遠機の装備も可能である。 車長用キューポラには6基のレーザー・フィルター付き昼/夜間ペリスコープが備えられ、専用の赤外線モニターと操作パネルが用意されている。 また砲塔にはジャイロ式安定装置が備えられ、さらにイギリスのマルコーニ社製のRALM-02レーザー警戒装置を装備して、レーザー波の照射を感知した場合自動的に警報を発し発煙弾を撃ち出す機構が備えられている。 なおイタリア陸軍ではそれまでの戦訓から車長が歩兵分隊の分隊長を兼ねており、戦闘に際しては車外に降りて指揮を行うためその後は砲手が車長を兼任することになる。 |
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●派生型 オート・メラーラ社はVCC-80歩兵戦闘車の派生型として、世界の多くの艦艇に採用されている同社製の76.2mm速射砲をベースに、イスラエルのIMI社と共同開発した60mm速射砲HVM(Hyper Velocity Multipurpose gun:多目的超高速砲)を装備するT60/70A砲塔を、VCC-80歩兵戦闘車の車体に搭載した火力支援車両をプライヴェート・ヴェンチャーで製作してイタリア陸軍に提案している。 この車両は21世紀にイタリア陸軍が装備を検討しているLAV(軽装甲車両)計画向けとして提案されているもので、砲塔の重量は全備状態で5,000kgと少々重いが14.5mm重機関銃弾の直撃に耐えることができ、砲塔前部にERA(爆発反応装甲)を装着すれば35mm機関砲弾に耐えることが可能とされている。 主砲の60mm速射砲HVMはHE(榴弾)とAPFSDSを選択して30発/分の速度で連射することができ、砲塔バスケットの前部にドラム弾倉が配されている。 APFSDSを用いた場合の砲口初速は1,680m/秒で、射距離2,000mで傾斜角30度の120mm厚均質圧延装甲板を貫徹することが可能で、FCSはVCC-80歩兵戦闘車への搭載が予定されていたガリレオ社製のTURMSシステムが採用されている。 しかしこの車両はB1チェンタウロ戦闘偵察車と用途が重なる上、装軌式車両であるためチェンタウロ戦闘偵察車よりも調達コストが高いことから採用には至っていない。 またVCC-80歩兵戦闘車の砲塔を取り外して、代わりに12.7mm重機関銃M2を装備するヒットロール遠隔操作式銃塔を搭載し、車体後部の兵員室の天井を嵩上げした装甲指揮車型も開発されている。 車内にはNo.2UHF/ECCM-SINCGAR3SRT635/VとNo.1HF/RH4-178/V無線機が搭載されており、車体後部左側には長さ約10mの5段伸縮式マストとレーダーが装備されている。 乗員は車長、操縦手、無線手の他に5名が搭乗する。 |
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<VCC-80歩兵戦闘車> 全長: 6.71m 全幅: 3.10m 全高: 2.61m 全備重量: 23.5t 乗員: 3名 兵員: 6名 エンジン: イヴェコ 8260 4ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 520hp/2,300rpm 最大速度: 70km/h 航続距離: 500km 武装: 80口径25mm機関砲KBA-B02×1 (216発) 7.62mm機関銃MG42/59×1 (700発) TOW対戦車ミサイル発射機×2 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2011年1月号 構想20年−手堅い設計の戦闘兵車ダルド」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2011年4月号 AFVの主力火器 エリコンの車載機関砲」 加藤聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2006年4月号 イタリア初の本格的戦闘兵車 ダルド」 深川孝行 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年5月号 砲塔ビジネス 最新情報(2)」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年5月号 イタリアのダルド戦闘兵車」 後藤仁 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年10月号 イタリア軍AFVの40年」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2006年10月号 ユーロサトリ2006 (2)」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「10式戦車と次世代大型戦闘車」 ジャパン・ミリタリー・レビュー ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研 |
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