中戦車Mk.I/Mk.II
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+概要
第1次世界大戦で初めて戦車を実用化したイギリス陸軍であったが、その世界初の戦車である菱形戦車に決して満足していたわけではなかった。
戦後間もなく、J.F.C.フラー大佐が来るべき世代を指向した論文「作戦計画1919」を発表するが、この論文において新世代戦車に対する要求が明確に語られており、これに従ってイギリスは新型戦車の開発を再開することとなった。
そしてウェストミンスターのヴィッカーズ・アームストロング社が第1次世界大戦後初めて開発した戦車が、ヴィッカーズNo.1戦車およびNo.2戦車である。
1921年に開発が始められたこの戦車の形状は第1次世界大戦中に開発された中戦車Mk.Bホイペットに類似しており、車体中央部に車長用キューポラを備えたドーム型砲塔を搭載していたが、これはイギリスの戦車として初めて全周旋回可能な砲塔であった。
No.1戦車とNo.2戦車の違いは、No.1戦車が7.7mmオチキスM1914重機関銃3挺をドーム型砲塔のボールマウント式銃架に装備したのに対し、No.2戦車は砲塔に40口径3ポンド(47mm)戦車砲と7.7mmオチキスM1914重機関銃4挺を装備していた点であった。
これらは1921〜22年にかけて試験が行われたものの機械的信頼性に欠けたため、制式化には至らずに終わった。
そしてその反省を込めて1922年からヴィッカーズ社が開発に着手し、翌23年に完成させたのが軽戦車Mk.Iである。
この戦車は矩形の車体を採用しており、車体中央部に全周旋回式の砲塔を搭載し、ギアで制御された砲俯仰装置を装備していた。
また菱形戦車では車体の中に機関と乗員が共存していたが、軽戦車Mk.Iでは戦闘室と機関室を分離しその間に装甲隔壁を設けた。
もっとも、その後の戦車のように車体後部に機関室を配するのではなく車体前部右側に操縦室を設け、その反対側にあたる前部左側にエンジンを置き、砲塔直下に変速機、車体後部に操向機を配置するという変則的なレイアウトを採っており、第1次世界大戦中に開発された中戦車Mk.B/Mk.Cにおいて実用化された、車体後部に機関室を配するという合理的なレイアウトは忘れ去られたような状態となってしまっていた。
砲塔には3ポンド戦車砲が主砲として装備されていたが、これに加えて4カ所にボールマウント式7.7mmオチキスM1914重機関銃が砲塔前面と左右側面、そして対空用として上面にそれぞれ搭載されており、さらに車体左右側面にもボールマウントを設けて7.7mmヴィッカーズ重機関銃を装備するという重武装が施されていた。
一見すると強力そうには感じるものの実際には射撃の視界や操作性などの問題も多く、この面では難があったことは否めない。
履帯は、車体側面にサスペンションを取り付けて車体の外側に張り出すというその後の戦車と同様のレイアウトを採っており、各転輪はコイル・スプリング(螺旋ばね)を介して支えられ走行時の衝撃吸収が図られていた。
もっとも実際には故障が多く、車軸の折損などの事故は絶えなかった。
軽戦車Mk.Iは30両が生産され、1924年からイギリス陸軍に配備が開始された。
1924年には改良型の軽戦車Mk.IAが製作され、50両が生産されている。
軽戦車Mk.Iとの違いは装甲厚が増大したことと、操縦手用ハッチが軽戦車Mk.Iのように後ろへ開くのではなく左右に開くよう設計を変更し、砲塔後部に傾斜を付けて、装備した7.7mmオチキスM1914重機関銃を対空射撃用にも使用可能とした点であった。
なお、1924年中に軽戦車Mk.Iと軽戦車Mk.IAは中戦車に分類変更され、それぞれ中戦車Mk.Iと中戦車Mk.IAに呼称が変更されているが、その理由については不明である。
さらに1925年には中戦車Mk.Iに各種の改良を加えた発展型の中戦車Mk.IIが登場し、100両が生産されている。
中戦車Mk.IIでは装甲厚の増大とそれに伴う重量の増加、視界を向上させるために操縦手席を前方へ移動し、サスペンションを装甲スカートで保護するなどの改良が加えられている。
武装については中戦車Mk.Iと同じであった。
さらに最終生産型として20両が生産された中戦車Mk.IIAは、サスペンションなどの改良が図られたシリーズの集大成といえるもので、第2次世界大戦直前の1939年まで使用が続けられたことが本車の優秀性を物語っている。
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<中戦車Mk.I>
全長: 5.334m
全幅: 2.781m
全高: 2.705m
全備重量: 11.7t
乗員: 5名
エンジン: アームストロング・シドレイ 4ストロークV型8気筒空冷ガソリン
最大出力: 90hp
最大速度: 24.1km/h
航続距離: 193km
武装: 40口径3ポンド戦車砲×1
7.7mmオチキスM1914重機関銃×4
7.7mmヴィッカーズ重機関銃×2
装甲厚: 6.5mm
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<中戦車Mk.IA>
全長: 5.334m
全幅: 2.781m
全高: 2.705m
全備重量: 11.9t
乗員: 5名
エンジン: アームストロング・シドレイ 4ストロークV型8気筒空冷ガソリン
最大出力: 90hp
最大速度: 24.1km/h
航続距離: 193km
武装: 40口径3ポンド戦車砲×1
7.7mmオチキスM1914重機関銃×4
7.7mmヴィッカーズ重機関銃×2
装甲厚: 6.5mm
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<中戦車Mk.II>
全長: 5.334m
全幅: 2.781m
全高: 2.692m
全備重量: 13.2t
乗員: 5名
エンジン: アームストロング・シドレイ 4ストロークV型8気筒空冷ガソリン
最大出力: 90hp
最大速度: 24.1km/h
航続距離:
武装: 40口径3ポンド戦車砲×1
7.7mmオチキスM1914重機関銃×4
7.7mmヴィッカーズ重機関銃×2
装甲厚: 8.25mm
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<参考文献>
・「グランドパワー2000年6月号 近代的イギリス戦車の祖
ヴィッカースMk.I/II中戦車」 遠藤慧 著 デルタ出
版
・「グランドパワー2011年3月号 原乙未生中将とその時代(8)」 多賀谷祥生 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2020年5月号 戦間期のイギリス戦闘車輌」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1)
第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版 ・「パンツァー2020年4月号 盾と矛(3) 戦車と対戦車兵器運用技術の発達」 小林源文 著 アルゴノート社
・「パンツァー2010年3月号 近代戦車の先駆け ビカーズMk.I&II中戦車(1)」 吉開源太 著 アルゴノート社
・「パンツァー2010年5月号 近代戦車の先駆け ビカーズMk.I&II中戦車(2)」 吉開源太 著 アルゴノート社
・「パンツァー2010年6月号 近代戦車の先駆け ビカーズMk.I&II中戦車(3)」 吉開源太 著 アルゴノート社
・「パンツァー2016年1月号 戦車100年史におけるマイルストーン」 久米幸雄 著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年7月号 イギリスのビッカース中戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「世界の戦車
1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
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