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ルーマニアは社会主義国時代、ワルシャワ条約機構に籍を置きながらも常にソ連とは一線を画し、独自路線を採ることが多かった。 1989年12月25日に処刑されたチャウシェスク大統領は、1968年のワルシャワ条約機構軍によるチェコ侵攻に参加せず中立を守った他、当時ソ連と険悪な関係だった中国とも独自に外交関係を結ぶ等、ソ連の神経を逆撫ですることが多かった。 そうした独自の外交路線を採ることから、ルーマニア軍が使用する兵器は東側標準のソ連製を基本としながらも独自の供給を確保するため国産化に努め、独自の特色を盛り込んだものが多い。 1970年代に入ると戦車も、ソ連供与のT-55中戦車をベースに独自の国産戦車を登場させた。 これがTR-580戦車で、西側軍事筋が1977年の軍事パレード時に初めて確認したことから「M1977」とか「TR-77」と呼ばれてきた時期もあった。 1993年にはルーマニア陸軍は398両のTR-580戦車を保有していたがその後軍縮が進み、その数は1999年には88両に減少している。 なお、海軍歩兵部隊でも120両が使用されているといわれる。 本車は基本的にT-55中戦車の改修型であるが、主な変更点は 1.転輪が一回り小さくなって片側6個になり、片側3個の上部支持輪が追加された 2.足周りと車体側面を防御するため、大面積のゴム製サイドスカートが装備された 3.若干車体が延長されており、車内容積に余裕を持たせて将来のパワーアップに備えている 4.フェンダー前面が、カーブしたものから直線の2段になった 5.車体前面に箱型の増加装甲板が取り付けられた 等である。 以上の特徴を踏まえれば、TR-580戦車は本質的にT-55中戦車とあまり変わらないものといえるが、ソ連製より工作精度が高く信頼性が向上しているようである。 そのためソ連との外交関係が微妙になった以降のエジプトが、本車200両の調達とライセンス生産権の獲得を図ったり(エジプトのT-55中戦車改修型であるラムセス戦車は、おそらくTR-580戦車が真のベースである)、イラクも本車を購入して1980年に勃発したイラン・イラク戦争に投入している。 しかしTR-580戦車の姿が世界の人々の目に最も触れる機会となったのは、1989年12月のルーマニア革命の際にブカレストのテレビ局周辺で、チャウシェスク大統領の親衛隊である秘密警察とルーマニア軍が市街戦を展開した時であろう。 ルーマニア国民にとって本車は、独裁政治体制の打破に一役買った記念すべき戦車である。 |
<TR-580戦車> 全長: 9.00m 全幅: 3.30m 全高: 2.35m 全備重量: 38.2t 乗員: 4名 エンジン: V-55 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル 最大出力: 580hp/2,000rpm 最大速度: 48km/h 航続距離: 500km 武装: 56口径100mmライフル砲A308×1 (43発) 12.7mm重機関銃DShKM×1 (500発) 7.62mm機関銃PKT×1 (3,500発) 装甲厚: 20〜200mm |
<参考文献> ・「パンツァー2003年7月号 現用のT-54/55戦車近代化型」 鈴木浩志 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年9月号 ルーマニアのT-55改良型」 齋木伸生 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2011年10月号 現代のルーマニア軍」 鹿内誠 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2011年12月号 ルーマニア陸軍のMBT」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2011〜2012」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2003年4月号 ソ連戦車 T-54/55 (2)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2022年6月号 ソ連軍 T-55中戦車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2019年4月号 ソ連軍主力戦車(1)」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版 ・「ソビエト・ロシア 戦車王国の系譜」 古是三春 著 酣燈社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |