特四式内火艇 カツ
|
|
+開発
特四式内火艇(カツ車)は、日本海軍が開発した他の内火艇とは大きく性格の異なる車両で、いわゆる水陸両用戦車ではなく島嶼部での人員、物資の輸送を主目的として開発された水陸両用輸送車である。
本車は潜水艦から発進し、直接補給物資を内陸部まで輸送することが期待された。
これは1942〜43年のガダルカナル戦などで、海岸の物資輸送に成功しながら内陸部への搬送が間に合わず、空襲や艦砲射撃によって揚陸物資の多くを喪失した戦訓を受けたものである。
「カツ車」の秘匿呼称で三菱重工業によって開発が進められた本車は、他の内火艇と同様に潜水艦による輸送が前提であるために、機関や電装系は特二式内火艇(カミ車)と同様に浮上後に車体に搭載するように工夫されていた。
基本設計は海軍の堀元美 造船官によって立案されたとされるが、彼の回想によれば呉海軍工廠の金庫に設計図をしまった数カ月後には試作車が完成していたということで、詳細設計は三菱側に委ねられたのであろう。
カツ車の基本設計が完了してから実際に試作車が完成するまでの期間が意外に短かった理由は、開発当初の水陸両用輸送車というコンセプトに反して、魚雷を搭載して泊地停泊中のアメリカ軍空母を襲撃する「竜巻作戦」用の水陸両用魚雷艇としての可能性が注目されたため、実用化を急ぐよう要求されたものと推測される。
「特四式内火艇」として制式化されたカツ車は、他の内火艇と同様に三菱重工業の東京機器製作所で量産が進められた。
しかし結局、1944年5月27日の海軍記念日に実施が予定された竜巻作戦は、主にカツ車の性能的な問題で実現性が疑われ、直前の5月12日に中止されることが決定した。
カツ車は潜水艦からの発進に20分以上の時間を必要とし、カミ車から流用された履帯は強度不足で岩礁に踏み込むと破損し易かった。
また搭載する空冷ディーゼル・エンジンは騒音が激しく、行動の秘匿性が低かったのである。
その後カツ車は1944年後期にフィリピン方面への進出が計画されるも、搭載輸送船の事故による積み替えや途中海没によって現地に到達すること無く失われ、結局実戦への参加は果たせなかった。
一方で、1944年末の時点で内地に残された車両に新造車両を加え、カツ車8隻から成る「特四式襲撃隊」10隊を1945年5月までに編制することが予定されていた。
これは魚雷を装備したカツ車をもって局地防備兵力として活用しようという計画で、実質的には水陸両用魚雷艇としての運用が期待されていた。
配備先は、小笠原諸島や石垣島などが予定されていたようである。
だがこの計画はカツ車の生産の遅れによって実現せず、実際に編制された特四式襲撃隊は4〜5隊に留まっており、終戦時には横須賀鎮守府隷下の2隊が千葉に、第33突撃隊隷下の2隊が串良と志布志に展開していた。
また当初の敵上陸部隊の泊地を襲撃する構想にも見直しがあり、沿岸行動中の敵艦を襲撃し艦砲による支援射撃の阻害や、アメリカ軍の上陸直前に人間機雷「伏龍」の要員を待機地点に運搬するといった運用も検討されていた。
カツ車は生産途中から潜水艦への搭載能力を省略し、積載量の増加や液体燃料の輸送にも対応する「二型」に生産移行することが計画されており、それに伴って従来のタイプは「一型」と呼ばれるようになった。
1945年1月時点では同月以降に調達されるカツ車は基本的に二型とすることが予定されていたが、実際には生産が遅れたため二型の部隊配備があったかは疑わしい。
関係者による回想ではカツ車の生産数は一型の49両に対して二型は1両に留まったとされ、おそらくこれが実態に近いと思われる。
|
+攻撃力
カツ車はデッキ上の左右に1発ずつ魚雷を搭載することができ、この2本の魚雷が本車の主武装となっていた。
搭載する魚雷については資料によってまちまちで、45cm魚雷とする資料や八年式魚雷(口径61cm)とする資料がある。
いずれにしろ、発射試験においてカツ車は問題なく魚雷を発射できたという。
副武装としては、デッキ上に九三式十三粍機銃を2門装備していた。
九三式十三粍機銃は、日本海軍がフランスから導入した13.2mmオチキスM1929重機関銃を国産化したもので、横須賀海軍工廠で製造が行われた。
九二式徹甲弾を使用した場合砲口初速800m/秒、射距離500mで20mm、射距離1,200mで12mmの均質圧延装甲板を貫徹することが可能であった。
最大射程は6,000mで、給弾方式は30発入りのクリップ方式であった。
|
+防御力
カツ車は元々人員や物資の輸送用に開発された車両であるため、戦闘用に開発された他の内火艇に比べて装甲防御力が貧弱であった。
一番厚い車体前面でも装甲厚は10mmしかなく、しかも防弾鋼ではなく軟鋼で車体が構成されていたため、撃たれれば小銃弾でも容易に貫徹された。
しかし、他の内火艇が車体の前後に浮航用のフロートを装着して浮力を得ていたのに対し、カツ車はアメリカ軍のLVTのように車体そのものが充分な浮力を有していたのでフロートを必要としなかった。
他の内火艇は上陸後にフロートを切り捨ててしまうため再び水上航行することが不可能だったのに対し、カツ車は海と陸の間を何度でも往復することが可能であった。
ちなみにカツ車の積載能力は人員40名、もしくは貨物4tとなっていた。
|
+機動力
カツ車に搭載されたエンジンは、カミ車と同じ三菱重工業製のA6120VDe 直列6気筒空冷ディーゼル・エンジン(出力120hp)で、変速・操向機もカミ車と同じものが用いられた。
またカミ車と同じくパワートレインを車体前方の起動輪または、車体後面に設けられたスクリューに切り替える分配機を備えていた。
水上航行時には履帯への動力を絶ち、この分配機からエンジンの両側を通る2軸により2個のスクリューを回転させた。
また分配機は、車内への漏水を排出するビルジポンプの役割も果たした。
カツ車のサスペンション方式はカミ車と同じシーソー式を用いており、水密性と防弾効果を考えて水平コイル・スプリングとリンクアームから成るサスペンション機構は車体の内部に収容されていた。
ただしカツ車はカミ車に比べて車体が大幅に延長されていたため、カミ車のサスペンションを片側2組装着しており、転輪数は片側8個、上部支持輪も片側4個と倍に増えていた。
カツ車はカミ車に比べて大幅に車体が延長されたため重量もカミ車に比べて大きく増加していたが、エンジンは同じものが搭載されたため著しくアンダーパワーになってしまった。
カツ車の路上最大速度は20km/hに留まり、陸上ではカミ車の半分程度の速度しか出せなかった。
|
<特四式内火艇>
全長: 11.00m
全幅: 3.30m
全高: 4.05m
全備重量: 17.7t
乗員: 5名
エンジン: 三菱A6120VDe 4ストローク直列6気筒空冷ディーゼル
最大出力: 120hp/1,800rpm
最大速度: 20km/h(浮航 8km/h)
航続距離: 300km(浮航 160km)
武装: 45cm魚雷×2
75.8口径九三式13mm機銃×2
装甲厚: 10mm
|
<参考文献>
・「グランドパワー2017年9月号 日本軍 水陸両用戦車」 小高正稔/鮎川置太郎 共著 ガリレオ出版
・「帝国陸海軍の戦闘用車両」 デルタ出版
・「パンツァー2004年6月号 日本海軍の竜巻作戦と特四式内火艇」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「日本軍戦闘車両大全 装軌および装甲車両のすべて」 大日本絵画
|
|
|
|
|
|
|