+概要
1974年、カッセルのティッセン・ヘンシェル社(現ラインメタル・ラントジステーム社)とアルゼンチン政府との間で、アルゼンチン陸軍向けのMBT(主力戦車)とIFV(歩兵戦闘車)の開発について契約が取り交わされた。
「TAM」(Tanque Argentino Mediano:アルゼンチンの中戦車)と呼ばれたこのMBTは、開発コストを抑えるために西ドイツ陸軍のマルダー歩兵戦闘車から多くのコンポーネントを流用しており、3両の試作車が組み立てられて試験が実施された後、アルゼンチン陸軍に採用された。
一方、ティッセン・ヘンシェル社は1974年の終わり頃に、自社の資金でもう1両の試作車を独自に製作している。
アルゼンチンとの契約には無い、このTAM戦車の試作第4号車は当初「TAM-4」と呼ばれたが、後に「TH-301」(ティッセン・ヘンシェル301型)と呼称変更された。
ティッセン・ヘンシェル社としては、価格や政治的な理由で最新型MBTを購入できない途上国向けの安価なMBTとして開発した車両のようだが、現在までにTH-301戦車を採用した国は無い。
1988年には次期MBTの選定を意図するマレーシア陸軍による評価試験が行われたが、同国でも採用は見送られている。
TH-301戦車はTAM戦車をベースに開発された車両であるため、外観はほとんどTAM戦車と同じで見分けが付かず、構造的にも同一といって良い。
相違点を強いて挙げれば、FCS(射撃統制装置)とパワートレインが改良されている点である。
TAM戦車では、車長用サイトとして倍率4倍と20倍のTRP-2A展望式サイトが採用されていた。
これは、西ドイツ陸軍のレオパルト1戦車の初期型に搭載されていたものと同じだが安定化されておらず、激しい機動を行うMBTのサイトとしては満足の行くものではなかった。
このためTH-301戦車では、倍率2倍と8倍のPERI-R12安定化サイトに換装されている。
これは、レオパルト1戦車の最終生産型であるレオパルト1A4戦車に採用されたのと同じもので、−10〜+60度の視界を有している。
400〜5,000mの交戦距離において、目標との距離情報はレーザー測遠機からの情報を、手動あるいは自動によって弾道計算機に入力する。
射撃時に必要な傾斜角とリード角は、自動的に入力される。
さらに現代MBTに必要不可欠な夜間戦闘能力も、LLLTV(低光量テレビ)カメラが主砲防盾に装備されたことで向上している。
LLLTVカメラによって得られた映像は車内のモニターに投影され、画面に表示された照準十字線を重ねることで目標を照準する仕組みである。
TH-301戦車の主武装はデュッセルドルフのラインメタル社が、イギリスの王立造兵廠製の105mmライフル砲L7をベースに開発した51口径105mm滑腔砲Rh105-30で、水平・垂直の2軸が安定化されている。
砲の俯仰角は−7〜+18度で、砲塔は360度の旋回を15秒で行うことが可能である。
なお余談だが、アルゼンチン陸軍のTAM戦車は当初、王立造兵廠製の51口径105mmライフル砲L7A1を主砲に採用していたが、後にTH-301戦車と同様にRh105-30に換装している。
TH-301戦車のエンジンは、TAM戦車と同じフリードリヒスハーフェンのMTU社(Motoren und Turbinen Union:発動機およびタービン連合企業)製の、MB833Ka-500
V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンだが、出力がTAM戦車の720hpから750hpに引き上げられているのが特徴である。
また変速・操向機も、TAM戦車で採用されたアウクスブルクのレンク社製のHSWL194自動変速・操向機の改良型である、HSWL204自動変速・操向機(前進4段/後進4段)が採用されている。
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