+概要
アメリカ陸軍が第2次世界大戦末期に実戦化させたM26パーシング戦車は、当初「重戦車」として扱われていたが、戦後すぐに「中戦車」へと分類変更された。
そして、このM26中戦車をベースに順次改良を加えることで、M46、M47、M48の一連のパットン中戦車シリーズが誕生し、アメリカ陸軍の戦後第1世代のMBT(主力戦車)となった。
このような手法は、信頼性が高いMBTを手堅く開発するという意味では大正解であったが、反面、開発過程で革新的な先端技術や新技術を盛り込み難く、当時始まったばかりの冷戦下における、ソ連陸軍の圧倒的戦車兵力に対抗するためには、最新技術を随所に反映した新型MBTが必要であった。
こうして1954年に、パットン中戦車シリーズの後継戦車の開発計画がスタートし、「T95」の試作呼称が与えられた。
T95戦車の外観は、ソ連陸軍の戦後第1世代MBTであるT-54中戦車のアメリカ版といった感じで、ソ連戦車にデザイン面で大きな影響を受けたことが窺える。
T95戦車の足周りは、T-54中戦車と同じく上部支持輪を持たない大直径転輪で構成されており、サスペンションはフラット・トラック方式であった。
エンジンには、アラバマ州モービルのコンティネンタル自動車製の、AOI-1195-5 水平対向8気筒空冷ガソリン・エンジンが用いられ、これにインディアナ州インディアナポリスの、GM(ジェネラル・モータース)社アリソン変速機部門製の、XTG-410自動変速・操向機(前進4段/後進2段)が組み合わされていた。
砲塔は防弾鋼の鋳造製で、足周りと同様にT-54中戦車と良く似た、避弾経始を重視した曲面平滑型であった。
砲塔の上面左側には装填手用ハッチが、また上面右側には、ユタ州オグデンのブラウニング火器製作所製の12.7mm重機関銃M2が架装された、大型のT6車長用キューポラが装着されていた。
これは、1950年代後半から1960年代にかけてのアメリカ戦車で流行った、機関銃内蔵式車長用キューポラの先駆けともいえるもので、第2次世界大戦前に開発されたM3中戦車の、回転銃座型車長用キューポラの近代化型のようなものであった。
主砲には、長砲身の90mm滑腔砲T208が装備されていた。
このT208は、滑腔砲弾を高速で撃ち出すことで装甲貫徹力を向上させるという、典型的な中口径超高初速砲として当時開発が進められていたものであった。
一方、これに組み合わされたFCS(射撃統制装置)は、T53オプター測遠機とT183オフセット・テレスコープ、T37弾道計算機、T50砲手用ペリスコープから構成されたシステムである。
T53測遠機は、砲塔の右側面に半球形に突出した形で装着されており、未使用時には装甲カバーが被さるようになっていたが、その装備位置からも分かるように、避弾経始の観点からはやや邪魔な存在といえた。
なおT95戦車は、様々な主砲とFCSの組み合わせがテストされることになり、これによってE1〜E6の試作車ファミリーが誕生した。
●T95E1戦車
T95戦車のオリジナル砲塔に、90mm滑腔砲T208の改良型である90mm滑腔砲T208E9を、コンセントリック・リコイルのT192砲架に架装し、簡易型FCSを搭載したもの。
●T95E2戦車
T95戦車の車体に、90mmライフル砲M41を装備したM48A2戦車の砲塔を搭載したもの。
●T95E3戦車
T95戦車の車体に、105mmライフル砲T140を装備したT54E2戦車の砲塔を搭載したもの。
●T95E4戦車
T95戦車の車体に、105mm滑腔砲T210を装備したT96戦車の砲塔を搭載したもの。
●T95E5戦車
T95戦車の車体に、105mmライフル砲T254を装備したM48A2戦車の砲塔を搭載したもの。
●T95E6戦車
T95戦車の車体に、120mmライフル砲T123E6を装備したT96戦車の砲塔を搭載したもの。
これらの試作車を用いて試験が行われる中で、T95戦車の航続距離の不足が問題点として指摘された。
そこで、車体後部に投棄可能な50ガロン(189リットル)入り燃料タンクを搭載して、航続距離の増加を図ったが、こういった改良により、T95戦車の側面シルエットはますますソ連戦車風になった。
燃料増加の改良とは別に、T95戦車のエンジン自体を燃費の良い効率的なものに換装するという計画に基づいて、新型のディーゼル・エンジンであるXシリーズの開発が進められたが、これは失敗に終わってしまった。
そこでミシガン州デトロイトの、GM社デトロイト・ディーゼル・エンジン部門製の12V-71T V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンと、コンティネンタル社製のAVDS-1100 V型12気筒空冷ディーゼル・エンジン、イリノイ州ピオリアのキャタピラー社製のLVDS-1100 V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンの、3モデルが換装の候補となった。
こうして、T95戦車シリーズの試験と検証に主砲だけでなく、エンジンの換装も含まれるようになった1958年末、シリーズにE7〜E12の試作車ファミリーが新たに追加された。
●T95E7戦車
T95戦車の車体に、105mmライフル砲T254を装備したT95E1戦車の砲塔を搭載したもの。
●T95E8戦車
12V-71T V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンに換装されたT95戦車の車体に、90mmライフル砲M41を装備したM48A2戦車の砲塔を搭載したもの。
●T95E9戦車
120mmライフル砲T123E6を装備したT95E6戦車のエンジンを、12V-71T V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンに換装したもの。
●T95E10戦車
T95戦車のエンジンを、AVDS-1100 V型12気筒空冷ディーゼル・エンジンまたは、LVDS-1100 V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンの内、採用された方の機種に換装したもの。
●T95E11戦車
120mmライフル砲T123E6を装備したT95E6戦車のエンジンを、AVDS-1100 V型12気筒空冷ディーゼル・エンジンまたは、LVDS-1100
V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンの内、採用された方の機種に換装したもの。
●T95E12戦車
120mmライフル砲T123E6を装備したT95E6戦車の砲塔に、基線長2mの測遠機を搭載し、エンジンをAVDS-1100 V型12気筒空冷ディーゼル・エンジンまたは、LVDS-1100
V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンの内、採用された方の機種に換装したもの。
こうして、T95戦車シリーズは実に13もの試作車ファミリーが誕生したが、さすがのアメリカ陸軍といえども、この13の計画を同時に一斉に動かしていたわけではなく、それぞれに時間差が生じている計画もあった。
アメリカ陸軍のOTAC(Ordnance Tank Automotive Command:戦車・機械化装備司令部)が、1958年初めにまとめた戦車整備計画では、1961年までの間M48A2戦車を年に900両生産し、以後はT95戦車の量産開始により、MBTの代替を始めることになっていた。
ところが、この計画はアメリカ国防省予算局からクレームが付き、検討の末、アメリカ陸軍は計画を前倒しして1959会計年度から、M48戦車シリーズの後継MBTの生産に入ることを決めた。
しかし、様々な新機軸を盛り込んだT95戦車を早急に量産化することは不可能で、また機甲部隊の現役中堅将校たちは、T95戦車の性能に対する疑念の声を上げ、むしろM48戦車シリーズをベースに、火力と装甲防御力を強化したMBTを開発した方が現実的であると提言した。
このためOTACは1958年6月4日に、M48A2戦車をベースに火力と装甲防御力を強化した新型MBT、「XM60」の開発計画を策定した。
これに伴って1959年1月に90mm滑腔砲T208と、120mmライフル砲T123E6を搭載する戦車の開発中止が指示され、続いて1960年7月にT95戦車プロジェクトは、新型エンジンの開発に関わるパートだけを残して全て中止するという決定が下された。
しかし開発中止が決まった後も、T95戦車シリーズの試作車を利用した各種の試作や試験は続けられた。
例えば、後にM551シェリダン空挺軽戦車やM60A2戦車の主砲となる、152mmガン・ランチャーXM81を試験するため、T95戦車の砲塔を改造してXM81を装備し、それをM48戦車の車体に搭載したり、同じ砲塔をT95E8戦車の車体に搭載したりしている。
また、「デルタ砲」と呼ばれる120mm滑腔砲の試験のため、T95E8戦車にそれを装着の上、改修を加えた試験車も作られた。
主砲以外の研究や試験では、油気圧式サスペンションの実験車や、ガスタービン・エンジンの実験車にも改造されている。
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