T25中戦車
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T25中戦車
T25E1中戦車
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+T25中戦車
北アフリカ戦線に出現したドイツ陸軍の新型重戦車ティーガーに対抗するため、アメリカ陸軍は1943年5月にミシガン州オーバーンヒルズのクライスラー社に対して、当時完成したばかりの新型中戦車T23を250両生産するよう要求したが、T23中戦車の主砲である52口径76.2mm戦車砲M1はティーガー重戦車が装備する56口径8.8cm戦車砲KwK36に比べて非力であり、最大装甲厚もティーガー重戦車の100mmに対してT23中戦車は3.5インチ(88.9mm)と劣っていた。
このためT23中戦車の生産決定からわずかに遅れて、T23中戦車の内50両の主砲を76.2mm戦車砲から90mm戦車砲に換装して火力の強化を図ってはとの提案が出され、さらに90mm砲換装車の内10両は併せて装甲の強化を盛り込むこととなった。
そして主砲換装車には「T25」、主砲換装および装甲強化車には「T26」の試作呼称が用意された。
ただし問題となるのは主砲の換装と装甲強化に伴う重量増大であり、当初の試算では主砲換装後は自重が30.9tから32.7tに、さらに装甲強化型では36.3tへと増加するとされたが、開発を進めるとさらに455kgほど増大することが判明した。
このため、ただでさえ問題が露呈しているT23中戦車のハイブリッド式機関系では重量増加に対してお手上げとなることは避けることができず、ハイブリッド機関方式をあきらめて通常のエンジンとトルクマティック式変速機に変更することへと計画は改められた。
そしてこの変更に伴い、試作呼称は「T25E1」および「T26E1」に変更されることになった。
この決定により、T23中戦車の生産型を改修の母体として用いることは不可能となったため、T23中戦車は当初の計画どおり250両生産することとなり、あらためてT25E1中戦車40両およびT26E1中戦車10両が新規に生産されることになった。
またT25E1およびT26E1中戦車を開発するのに先立って、T23中戦車のハイブリッド機関方式をそのまま流用したT25およびT26中戦車の試作車が製作されることとなった。
T25中戦車の試作車の製作作業はクライスラー社傘下のミシガン州ウォーレンのデトロイト工廠で進められ、1944年に入って間もなく完成した試作第1号車(車両登録番号30103053)は同年1月21日にメリーランド州のアバディーン車両試験場に送られた。
続いて1944年4月20日には、試作第2号車(車両登録番号30103054)がケンタッキー州のフォートノックスに送られて試験に供されている。
なお、T23中戦車の生産型第1号車の車両登録番号が30103052であったことから、T25中戦車の2両の試作車は、本来T23中戦車として生産される予定だったものがT25中戦車に振り向けられたことが分かる。
従って、T23中戦車の実際の生産数は248両ということになる。
T25中戦車の2両の試作車は、両車共にサスペンションはM4中戦車シリーズの後期型に採用されたHVSS(水平渦巻スプリング・サスペンション)が用いられ、幅584mmのT80履帯が装着されていた。
ただし試作第1号車の自重が37.36tであったのに対し、試作第2号車ではこれが38.2tへと増大しており、一部に装甲強化が実施されたことを示唆しているがその詳細に関しては不明である。
T25中戦車は主砲が76.2mm戦車砲から90mm戦車砲に換装されたことに伴って、砲塔も新規に開発されたより大型のものに変更された。
主砲は90mm高射砲M1を戦車砲に改修した50口径90mm戦車砲T7がT99砲架を介して搭載され、右側には7.62mm機関銃M1919A4が同軸装備された。
T99砲架はT23中戦車に用いられたT80砲架よりも幅が広かったため、当初T25中戦車は砲塔を前方に向けた場合には、正/副操縦手席の頭上にそれぞれ設けられたハッチが砲架に干渉して開くことができなかった。
このため正/副操縦手用ハッチ後方の内側部分が斜めにカットされ、これに併せて車体上面の開口部形状も改められた。
なお試作第2号車の砲塔では、砲塔後部のバスル左側面に試作第1号車には無かった円形のガンポートとその開閉式装甲蓋が新設され、同様にバスル右側面にもラックが追加されるなどの変更が確認できる。
T25中戦車の砲塔は、T23中戦車の砲塔から車長用キューポラや装填手用ハッチがそのまま流用されていたが、砲塔が大型化したことに伴い配置が若干変更されており、車長用キューポラの方がやや後方に移されていた。
またT25中戦車は砲弾サイズの拡大に伴い、戦闘区画内のレイアウトがT23中戦車と若干変化したが、車体のそれ以外の部分は機関系を含めてT23中戦車とほとんど変わらなかった。
ただし太い砲身と砲塔の大型化により、そのスタイルはT23中戦車と比べてさらに強そうな印象を与えることになった。
そして1944年9月28日から、T25中戦車の2両の試作車はアメリカ陸軍機甲局の手による本格的な運用試験に供された。
しかし、同年6月のノルマンディー上陸以後に遭遇したドイツ陸軍の新型戦車パンターとティーガーIIの存在により、アメリカ陸軍は更なる装甲強化の必要性を認識するようになったためT25中戦車に対する関心が薄れ、次期主力戦車の本命はT26中戦車シリーズにシフトしたため、T25中戦車は試作車2両が製作されたのみで計画を終了した。
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+T25E1中戦車
前述のように、T23中戦車のハイブリッド機関方式を通常のエンジンとトルクマティック式変速機に変更し、さらに主砲を90mm戦車砲に換装したタイプが「T25E1」、主砲の換装に加えて装甲の強化も図ったタイプが「T26E1」として開発されることになり、1943年夏に両車の開発がスタートした。
なお、すでに計画が最終段階に入っていた「ノルマンディー上陸作戦」(Operation Neptune:ネプチューン作戦)後に遭遇するであろうティーガー重戦車の存在から、試作車の完成を待たずにT25E1中戦車を40両、T26E1中戦車を10両、T23中戦車の発注分から切り替える形で生産することも決まっていた。
T25E1中戦車の車体前面は上部44度、下部37度という良好な傾斜角を備えて避弾経始が図られ、T23中戦車とは異なり上下一体の鋳造製となっており、その後方に配された圧延防弾鋼板部分と溶接された。
車体の装甲厚は前面上部76.2mm、前面下部63.5mm、側面前部50.8mm、側面後部38.1mm、後面上部38.1mm、後面下部19.4mm、上面22.3mm、下面前部25.4mm、下面後部12.7mmとなっていた。
砲塔はT23中戦車と同じく防弾鋼の鋳造製で、装甲厚は前面76.2mm、側/後面63.5mm、上面25.4mm、防盾88.9mmとなっていた。
T25E1中戦車のサスペンションはT25中戦車で用いられたHVSSではなく、T23E3中戦車やT26中戦車と同じトーションバー方式が採用されていた。
足周りは片側6本のトーションバー(捩り棒)と直径66cm、幅11cmの複列式転輪6個、上部支持輪5個、直径65cm、幅22.9cmの誘導輪、13枚歯で直径67.4cmの起動輪で構成されており、履帯はT26中戦車と同じ幅610mmのT81履帯が使用された。
T25E1中戦車の機関系は、ミシガン州ディアボーンのフォード自動車製のGAF V型8気筒液冷ガソリン・エンジン(排気量18,025cc、出力500hp/2,600rpm)に、遊星歯車を用いたジェネラル・モータース社傘下のインディアナ州インディアナポリスのアリソン変速機製の900F2トルクマティック式変速機(前進3段/後進1段)と差動式操向機がパワーパックとして一体化されて、車体後部の機関室に収められた。
この機関系の変更に伴い、機関室上面のレイアウトは前方はT25中戦車と変わらないが、後方の排気グリルはそれまでの横形から台形に変わり、左右それぞれ外側にヒンジを備えた前後分割式に改められた。
1944年2〜5月にかけて要求どおりT25E1中戦車は40両が完成し、同年5〜8月にかけてT26E1中戦車も10両が生産されたものの、これらはいずれも実際に戦場に送られることは無くアメリカ国内での運用試験に供され、一部は訓練に用いられた。
この後、T26E1中戦車はさらなる改良が施されたT26E3重戦車に発展し、「M26パーシング重戦車」としてアメリカ陸軍に制式採用されることになるが、T25E1中戦車は40両が生産されたのみで計画を終了することとなった。
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<T25中戦車>
全長: 7.92m
車体長: 5.648m
全幅: 3.48m
全高: 2.74m
全備重量: 38.6t
乗員: 5名
エンジン: フォードGAN 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン
最大出力: 500hp/2,600rpm
最大速度: 55km/h
航続距離: 161km
武装: 50口径90mm戦車砲M3×1
12.7mm重機関銃M2×1 (550発)
7.62mm機関銃M1919A4×2 (5,000発)
装甲厚: 12.7〜88.9mm
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<T25E1中戦車>
全長: 8.21m
車体長: 5.905m
全幅: 3.27m
全高: 2.779m
全備重量: 35.2t
乗員: 5名
エンジン: フォードGAF 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン
最大出力: 500hp/2,600rpm
最大速度: 56.33km/h
航続距離: 161km
武装: 50口径90mm戦車砲M3×1
12.7mm重機関銃M2×1 (550発)
7.62mm機関銃M1919A4×2 (5,000発)
装甲厚: 12.7〜88.9mm
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<参考文献>
・「パンツァー2013年2月号 アメリカのTシリーズ試作戦車(12) T23中戦車/T24軽戦車/T25中戦車シリーズ」
大佐貴美彦 著 アルゴノート社
・「パンツァー2013年3月号 アメリカのTシリーズ試作戦車(13) T25/T26中戦車シリーズ」 大佐貴美彦 著 ア
ルゴノート社
・「パンツァー2006年10月号 アメリカ陸軍 T25/T26試作中戦車」 中川未央 著 アルゴノート社
・「パンツァー2004年1月号 アメリカ陸軍のT20〜T25試作中戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2016年7月号 アメリカのT25/26試作中戦車」 大佐貴美彦 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2015年3月号 M26重戦車シリーズ(1) M26/M46の開発と構造&派生型」 後藤仁 著 ガリレ
オ出版
・「グランドパワー2002年11月号 M26重戦車パーシング(1)」 後藤仁 著 デルタ出版
・「世界の戦車
1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
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