アメリカ陸軍は1950年4月13日にパシフィク・カー&ファウンドリー社に対して、新開発の軽量型45口径155mm加農砲T80を搭載する新型自走砲T97の試作車製作を発注したが、それから間もない同年12月29日にアメリカ陸軍は新型の175mm加農砲およびこれを搭載する新型自走砲を開発することを決定した。 そして「T181」の開発番号で新型175mm加農砲の開発に着手すると共に、パシフィク・カー&ファウンドリー社に対してこの砲を搭載する新型自走砲を「T162」の開発番号で開発することを要求した。 同社はT162自走加農砲の開発コストと開発期間の低減を図るため、すでに開発を進めていたT97自走加農砲(後のM53 155mm自走加農砲)の設計を流用する方針を採ることにした。 しかしT162自走加農砲の主砲である175mm加農砲T181は、T97自走加農砲が装備する155mm加農砲T80に比べてサイズも重量も大きく上回っており射撃時の反動も大きいため、T97自走加農砲の車台をそのまま流用することは不可能であった。 このためT162自走加農砲の車台はT97自走加農砲の車台をベースに車幅を約51cm拡大し、接地圧の低減と安定性の向上のために履帯も従来の23インチ(584mm)幅のものから28インチ(711mm)幅のT97E1履帯に換装することになった。 またサスペンションも強化型に換装され、転輪の間隔もやや拡げられて接地長をT97自走加農砲の4.67mから4.83mへ増加させることで安定性の向上を図った。 長大な175mm加農砲を搭載することで重量バランスが前寄りに偏ってしまうのを防ぐため、車体前面の装甲厚はT97自走加農砲の1インチ(25.4mm)から0.75インチ(19.05mm)に減らされた。 機関系についても強化が図られ、エンジンはT97自走加農砲に用いられたコンティネンタル社製のAV-1790-5B V型12気筒空冷ガソリン・エンジン(出力810hp)にスーパーチャージャーを追加して出力を向上させたAVSI-1790-6空冷ガソリン・エンジン(出力980hp)が搭載された。 これに併せて変速機も、T97自走加農砲に用いられたアリソン社製のCD-850-4クロスドライブ式自動変速機(前進2段/後進1段)に代えて、同社製のXT-1400-3クロスドライブ式自動変速機(前進3段/後進1段)が導入された。 この変速機の変更に伴い、T162自走加農砲の操縦装置はT97自走加農砲のレバー式からバイクと同じバーハンドル式に変更されている。 T162自走加農砲の車内レイアウトはT97自走加農砲と同様で車体前部がパワーパックや燃料タンクを収納した機関室、車体後部が限定旋回式の大型密閉砲塔を搭載した戦闘室となっていた。 T162自走加農砲の砲塔はT97自走加農砲のものがそのまま用いられたが、砲架は175mm加農砲T181用に新しく開発されたT158砲架に変更された。 T162自走加農砲の試作車は3両製作されたが試作第1、第2号車では砲塔の旋回と砲の俯仰は油圧で駆動されたのに対し、試作第3号車では電気駆動式に変更されていた。 T162自走加農砲の主砲である60口径175mm加農砲T181は全長10.8m、重量6,795kgと車載加農砲としては異例の巨大さで、使用弾薬はT203E3榴弾(重量66.6kg、砲口初速869m/秒)のみが用意され最大射程は27,432mに達した。 T162自走加農砲の砲塔内にはコンプレッサーが設置されており、射撃を行った後に主砲内部に残った残滓などを圧縮空気を送り込んで強制排出するようになっていた。 これは主砲内部に残った高温の残留物が次弾の暴発や誘爆を招くのを防ぐための機構で、後に開発されたM60A2戦車にも同様の機構が導入されている。 T162自走加農砲はアメリカ陸軍による試験において極めて強力な火力性能を持っていることが確認されたが、一方で戦闘重量48.5tという大重量と車体サイズの巨大さは問題視されることになった。 アメリカ陸軍はヨーロッパで共産主義陣営との火蓋が切られた際に部隊を迅速に派遣するため、車両や火砲を大型輸送機に搭載して空輸できるようにする方針を1950年代半ばに打ち出しており、自走砲にも大型輸送機に搭載できる能力を求めていた。 車体サイズが巨大で大重量のT162自走加農砲を搭載できる輸送機は当時の西側陣営には存在しなかったため、アメリカ陸軍はより小型・軽量なオープントップ式の車体に175mm加農砲を剥き出しで搭載する自走砲を新規開発する方針に変更し(後にM107 175mm自走加農砲として実用化される)、T162自走加農砲の開発は中止されることになった。 |
<T162 175mm自走加農砲> 全長: 13.17m 車体長: 8.102m 全幅: 3.632m 全高: 3.353m 全備重量: 48.535t 乗員: 6名 エンジン: コンティネンタルAVSI-1790-6 4ストロークV型12気筒空冷ガソリン 最大出力: 980hp/2,800rpm 最大速度: 56.33km/h 航続距離: 272km 武装: 60口径175mm加農砲T181×1 (15発) 12.7mm重機関銃M2×1 (900発) 装甲厚: 12.7〜19.05mm |
<参考文献> ・「パンツァー2003年5月号 1950年代のアメリカ軍重自走砲 M53/M55/T162」 中島有希男 著 アルゴノー ト社 ・「パンツァー2010年12月号 M53 155mm自走カノン砲」 吉村誠 著 アルゴノート社 ・「グランドパワー2007年1月号 155mm自走砲M40と戦後の自走重砲」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2022年2月号 アメリカ軍自走砲(戦後編)」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 |