ZMBŁ T-72M1戦車 |
●概要 旧ソ連が開発したT-72戦車シリーズは東ヨーロッパや中東の反米国家などに広く輸出されたが、一般的に供与されたのは、輸出向けに性能が落とされたT-72戦車および輸出専用モデルのT-72M戦車であった。 ワルシャワ条約機構の一員であったポーランドは、自軍が装備するT-55中戦車の後継として旧ソ連からT-72戦車シリーズを購入し、後にグリヴィツェのZMBŁ社(Zakłady Mechaniczne Bumar-Łabędy:ブマル・ワベンディ機械製作所)でライセンス生産も行った。 ZMBŁ社がライセンス生産を行ったのはT-72M戦車およびその改良型であるT-72M1戦車で、砲塔前面の装甲厚を530mmに強化し、車体前面に超硬度焼入れした16mm厚鋼板を追加しているのがT-72M1戦車の特徴である。 ポーランド製のT-72M1戦車は、ほとんど旧ソ連製と同一だが若干の相違がある。 オリジナルとの相違点は主として車体関係の改良とされるが、詳細は不明である。 主砲は51口径125mm滑腔砲2A46(D-81TM)を装備しており、車体中央部の戦闘室内には底部の主砲弾薬弾倉と一体化した「カセートカ」(Kassetka:カセット)自動装填装置が搭載されている。 測距装置はTPD-K1で、垂直方向が安定化されたレーザー測遠機が組み込まれている。 測距装置の有効範囲は、500~3,000mである。 1992年には、ジェロンカのWITU(Wojskowy Instytut Techniczny Uzbrojenia:軍事技術研究所)において「エラヴァ」(ERAWA)という新型のERA(爆発反応装甲)が開発され、ポーランド陸軍のT-72M1戦車に装着されるようになった。 エラヴァERAは対戦車ミサイルやHEAT弾等の成形炸薬弾対策として、金属製のボックスに爆薬層を封入したもので、それが1層なのがエラヴァ1、2層になっているのがエラヴァ2である。 ポーランド陸軍のT-72M1戦車には砲塔に108個、車体に118個、サイドスカートに84個のエラヴァERAが取り付けられている。 WITUによれば、エラヴァERAによって成形炸薬弾の威力は50~70%削減できるとしている。 エンジンはオリジナルのT-72M1戦車と同じく、V-46 V型12気筒多燃料液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジン(出力780hp)を搭載している。 T-72M1戦車はERAを装着していない状態では60km/hの路上最大速度を発揮するが、ERAを装着した状態では重量が増加するためやや機動性が低下するのは免れない。 ポーランドのT-72M1戦車は自軍向けに生産されただけでなく、外貨獲得のため輸出にも力が入れられている。 すでにイランとの間に輸出商談が成立しており、1994年に最初のロットとして20両のT-72M1戦車が引き渡された。 イランの本来の発注数は100両といわれるが、その後イランを敵視するアメリカの圧力で残りのT-72M1戦車の引き渡しは行われていない。 さらにZMBŁ社では、改良型としてT-72M1Z戦車を開発して輸出を図っている。 ちなみにT-72M1Zの”Z”は、ポーランド語で「近代化」を意味するZmodernizowanyの頭文字を採っている。 T-72M1Z戦車は、T-72M1戦車に南アフリカのデネル社製の「タイガー」(Tiger:虎)FCS(射撃統制システム)を搭載したもので、走行間射撃でも移動・停止目標への初弾命中率が向上している。 その他エラヴァERAの装着、レーザー警報システムやフォルト・ヴォラのZMPW社(Zakłady Mechaniczne PZL-Wola:PZLヴォラ機械製作所)製のS-12Uディーゼル・エンジン(出力850hp)の搭載等、ポーランド国産のPT-91「トヴァルディ」(Twardy:ポーランド語で「強固な」という意味)戦車に準じる改良が盛り込まれている。 T-72M1Z戦車は、PT-91戦車の改良型であるPT-91Z「ハーディ」(Hardy:英語で「強固な」という意味)戦車と共にマレーシア陸軍の次期MBT選定試験に参加したが、試験の結果マレーシア陸軍の次期MBTには、PT-91Z戦車にマレーシア陸軍が求める改良を施したPT-91M「ペンデカー」(Pendekar:マレー語で「シラットの達人」の意味)戦車が採用されることになり、T-72M1Z戦車は落選した。 |
●派生型 ポーランドで生産されたT-72M1戦車の派生型には、次のようなものがある。 ☆PMC-90戦車橋 本車はT-72M1戦車の車体上にシザーズ式の戦車橋を搭載したもので、橋の全長は20mあり、最大19mまでのギャップに架橋できる。 ☆WTZ-3戦車回収車 本車はT-72M1戦車の車体上にTD-50 15tクレーン、ドーザー・ブレイド、ウィンチ等、戦車回収のため必要な機材を搭載したものである。 本車はポーランド陸軍だけでなく、インド陸軍にも採用されている。 ☆MID装甲工兵車 本車はWTZ-3戦車回収車をベースにした車両で、大型クレーンにV型ドーザー・ブレイド、ウィンチ、溶接機材等を搭載している。 ただし試作車3両が製作されたのみで、量産には至らなかった。 |
<T-72M1戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.59m 全高: 2.19m 全備重量: 41.5t 乗員: 3名 エンジン: V-46 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 780hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 460~700km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46×1 (44発) 12.7mm重機関銃NSW×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲厚: 最大530mm |
<T-72M1Z戦車> 全長: 10.03m 車体長: 6.86m 全幅: 3.712m 全高: 2.502m 全備重量: 45.3t 乗員: 3名 エンジン: S-12U 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 850hp/2,300rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 550km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46×1 (42発) 12.7mm重機関銃M2×1 (250発) 7.62mm機関銃FN-MAG×1 (2,000発) 装甲厚: |
<参考文献> ・「パンツァー2010年12月号 第三世代戦車の流出で活況を呈する世界の戦車マーケット」 竹内修 著 アルゴ ノート社 ・「パンツァー2002年10月号 東欧諸国でリメイクされたT-72戦車シリーズ」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年5月号 T-72戦車 開発・構造とそのバリエーション(2)」 白井和弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2021年9月号 拡散し独自の発展を遂げるT-72」 藤村純佳 著 アルゴノート社 ・「グランドパワー2019年8月号 ソ連軍主力戦車(3)」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 ・「世界の主力戦車カタログ」 三修社 |