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T-72CZ戦車





ワルシャワ条約機構の加盟国であったチェコスロヴァキアは、今日に至るまで旧ソ連製の戦車を使用し続けているが、さらに外貨獲得のために旧ソ連製戦車のライセンス生産も積極的に行ってきた。
チェコスロヴァキアでは1957~66年にかけて2,700両のT-54中戦車シリーズ、1964~83年にかけて8,300両のT-55中戦車シリーズ、1975~78年にかけて1,500両以上のT-62中戦車シリーズのライセンス生産が行われた。

1970年代には旧ソ連製の戦後第3世代MBTであるT-72戦車がチェコスロヴァキア軍に導入され、さらにT-72戦車の輸出で外貨を獲得するため1979~80年に旧ソ連との間でライセンス生産契約が結ばれた。
チェコスロヴァキアがライセンス生産を行ったのはT-72M1戦車で、これはT-72A戦車の輸出型であるT-72M戦車の改良型であった。

T-72M1戦車は原型のT-72A戦車より車体、砲塔の装甲レベルが落とされており、複合装甲の代わりに通常の防弾鋼板が用いられていた。
チェコスロヴァキアにおけるT-72M1戦車のライセンス生産を受け持ったのはZTS社で、マルティン工場で車体の生産、デュブニカ・ナド・ヴァホム工場で砲塔の生産が行われ組み立てられた。

その後1993年1月1日にチェコスロヴァキアは平和裏に分割され、チェコ、スロヴァキアの2つの共和国が成立した。
チェコスロヴァキア軍も話し合いによって決められた双方の持ち分に合わせて分割され、保有する戦車もそれぞれの軍隊に割り当てられた。

ここで問題となったのはT-72M1戦車の製造メーカーであるZTS社がスロヴァキア領土にあったことで、スロヴァキアと分離したことでチェコは戦車メーカーを喪失することになったのである。
チェコは戦前からシュコダ社、ČKD社など有力な兵器メーカーを抱え、兵器の海外への輸出が経済の大きな柱の1つとなっていた。

戦車も重要な輸出品の1つであるため戦車メーカーを失うのは経済的に大きなマイナスであり、チェコ軍にとっても戦車が国内で調達できなくなるのは大きな問題であった。
特に1991年2月の湾岸戦争地上戦においてT-72戦車が西側の戦後第3世代MBTに全く歯が立たないことが明らかになったため、T-72戦車を戦車戦力の柱にしているチェコ軍は保有するT-72戦車の近代化を早急に進める必要があった。

ZTS社に代わってチェコ軍の戦車開発を手掛けるメーカーを選定するため、1995年にチェコ軍のT-72M1戦車の近代化改修プログラムの競争試作が行われた。
チェコ軍による審査の結果VOP025(軍修理工場025)が近代化改修プログラムの主契約社に選ばれ、新たな戦車メーカーとして動き出すことになった。

VOP025が中心となってT-72M1戦車を近代化改修した2種類の試作車が製作され、「T-72CZ M3」と「T-72CZ M4」と名付けられた。
なお、”CZ”はチェコ(Czech)の頭文字を取ったものである。
両車共に、戦車の性能のキーポイントとなる部分に多くの改良が施されている。

昼/夜間での目標交戦時間を短縮し主砲の初弾命中率を向上させるために、FCS(射撃統制装置)がイタリア陸軍のC1アリエテ戦車に搭載されているオフィシネ・ガリレオ社(現セレックス・ガリレオ社)製のTURMS(Tank Universal Reconfigurable Modular System:戦車汎用再設定可能モジュラー・システム)と同系列のTURMS/Tに変更されている。

車長と砲手は安定化昼/夜間サイトを装備し、砲手用には新型のレーザー測遠機が装備されている。
車長用サイトはルーフマウンテッド・ペリスコープ式で、砲手が目標を攻撃する間に車長が次の目標を捜索・捕捉して砲手に目標情報を渡すハンター・キラー的な運用を行うことができる。
夜間でも目標は4,200mで発見することができ、2,100mで確認することができる。

TURMS/Tの中心となるのはTMC(Turret Management ballistic Computer:砲塔管理弾道コンピューター)で、弾道コンピューターの機能と主砲制御システムの機能を1つのユニットに一体化したのが特徴である。
このユニットは1つで元々装備されていたK1ボックスおよびアナログ・インターフェイス、分析インターフェイス、ディジタルおよび中継ロジック・インターフェイス、通信インターフェイス、油圧制御装置、電源ユニットを統合した機能を持つ優れものである。

主砲はT-72M1戦車と同じ51口径125mm滑腔砲2A46(D-81TM)のままだが、熱による砲身の歪みを測定する砲口照合システムが追加されている。
T-72M1戦車に装備されていた油圧式主砲制御システムはそのまま手を付けられていないが、ディジタル制御とフィルタリングが追加されメカニカルながたつきの制御と補正機能が付加されている。

車長と砲手用のコントローラーはジョイスティック式となり砲塔位置センサー、砲塔加速度計、環境センサー、装薬温度センサー、垂直センサー、砲塔ジャイロ、火器ジャイロなど各種センサー、機器が追加されており主砲の微妙な制御が可能となっている。
砲塔上面右側に設けられている車長用キューポラは新型となり、前方には大きな筒状の安定化パノラマ・サイトが装備されている。

T-72CZ戦車の有効交戦距離は2,000~2,500mとなっており初弾命中率は停止目標に対して80~90%、移動目標に対しては65~75%となっている。
メーカーでは、西側の戦後第3世代MBTにほぼ匹敵するものと宣伝している。
T-72CZ戦車では防御力の強化も図られており、車体と砲塔の主要部に増加装甲が装着されている。

これはポーランドで開発された「ダイナ72」(DYNA-72)と呼ばれるT-72戦車用のERA(爆発反応装甲)ボックスで、HEAT(対戦車榴弾)や対戦車ミサイルなどの成形炸薬弾だけでなく運動エネルギー弾にも効果を発揮するといわれる。
ダイナ72は車体の前面と側面上部、砲塔の前面と上面前部にびっしり取り付けられているが、サイドスカートには取り付けられていない。

砲塔には、ポーランド製のPOC SSC-1レーザー警報装置が装備されている。
この装置の詳細は不明だが恐らくポーランド製の同種装置と同じく、対戦車ミサイルや誘導砲弾の誘導用レーザーをレーザー検知機で感知すると、砲塔左右に装備された発煙弾発射機から自動的に発煙弾を発射して車体を隠蔽するようになっているものと思われる。

またドイツのキッデ・ドイグラ社製の火災検知・消火システムが装備されており、戦場での生存性が高められている。
VOP025以外にも、多くのチェコ企業がT-72CZ戦車の開発に関わっている。
シンセシア社は125mm砲用の新型APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を開発しており、これによって主砲そのものは変わらないもののかなりの攻撃力アップが図られている。

レテカ・プリストロヤ・プラハSRO社は、NBA-97 GPS慣性航法システムとDITA-97自己診断システムを開発している。
車内通信システムはメシット・ウヘルスケ・フラディステSRO社が開発したもので、操縦手用のTKN-3Pパッシブ式夜間映像ペリスコープはメオプタ・プレロフ社が開発、車外通信システムはDICOM社が開発している。

またT-72CZ戦車の特筆すべき点といえるのが、メトラ・ブランスコ社が開発したメトラ・ブランスコSPシステムの採用である。
これは磁気信管付き対戦車地雷のアクティブ防御システムで、他に類を見ないユニークなものである。
従来の対戦車地雷は圧力信管を内蔵しており、戦車の履帯で踏むとその大圧力に反応して爆発する。
このため履帯や走行装置に被害を及ぼすものの、戦車本体にはそれほど被害を及ぼさない。

しかし磁気信管付きの対戦車地雷は、戦車の持つ磁気に反応して底部で爆発して成形炸薬弾頭のジェットを撃ち込む。
このため内部の乗員や機材に被害を及ぼし、戦車を完全に戦闘不能にしてしまう。
T-72戦車の場合車体床直上に主砲の自動装填装置と弾薬庫があるので、もしそこに成形炸薬弾を撃ち込まれれば被害は甚大である。

メトラ・ブランスコSPシステムはT-72CZ戦車の車体前部に取り付けられており、この装置によって磁気信管付き対戦車地雷を無力化できるという。
装置の詳細は不明だが車体に発生する磁気を打ち消すような磁力線を発生させるか、あるいは磁力線を発生してあらかじめ対戦車地雷を爆発させるかのどちらかの原理だと思われる。

T-72CZ戦車の改良で力が入れられているのは、機動力の強化である。
T-72CZ戦車はM3とM4の2種があるが、両車の大きな違いはエンジンと変速機にある。
T-72CZ M3戦車には、T-72M1戦車に搭載されていたV-46 V型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジン(出力780hp)に、2基のターボチャージャーを追加して出力を858hpに強化したV-46-TCエンジンが搭載されている。

これに合わせて変速機も、チェコ・オリジナルの改良型変速機が採用されている。
これに対してT-72CZ M4戦車には、イスラエルのニムダ社製のニムダ・パワーパックが採用されている。
このパワーパックはニムダ社がT-72戦車の近代化改修用に開発したもので、イギリス製のエンジンとアメリカ製の変速機を組み合わせている。

エンジンはパーキンズ社製の「コンドー」(Condor:コンドル)CV12-1000TCA V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンで、出力1,000hpを発揮する。
ちなみにこのエンジンの1,200hpヴァージョンであるCV12-1200TCAが、イギリス陸軍のチャレンジャー1/2戦車に使用されている実績あるエンジンである。
一方変速機には、アリソン社製のXTG-411-6自動変速機(前進4段/後進2段)が採用されている。

パワーパックにはさらに、自動調節式冷却システムと650A交流発電機が装備されている。
またニムダ・パワーパックはわずか60秒で交換が可能とされており、整備性が優れている点も売りの1つになっている。
パワーパックの内エンジンはČKD社が組み立てを担当、変速機はプラガ社が組み立てを担当し、パワーパック全体の調整はVOP025が当たる。

このようにT-72CZ戦車は機関系が大幅に強化されており、原型のT-72M1戦車より良好な機動力が保証されている。
路上最大速度こそT-72CZ M3戦車で60km/h、T-72CZ M4戦車で61km/hと大した値ではないが、出力/重量比はT-72M1戦車を大きく上回っているため全般的な機動力は確実に向上しているはずである。

特にT-72CZ M4戦車では技術水準の高い西側製のディーゼル・エンジン、変速機を採用している点は、他のT-72戦車改良型と一線を画しているといえる。
その他にT-72CZ戦車の特筆すべき点といえるのが、「エナメルU2500」と呼ばれる塗装コーティング材料の使用である。

この材料は塗装として劣化し難いだけでなく、赤外線映像でもカムフラージュ効果を発揮するという。
T-72CZ M3/M4戦車はすでに試作車が完成し、チェコ軍に提示された。
チェコ軍では当初355両のT-72M1戦車のCZ規格への改修を要求していたが、現在ではその数は250両に減らされている。

最近の情報では西側製パワーパックを搭載したT-72CZ M4戦車がチェコ軍に採用され、30両のT-72M1戦車がT-72CZ M4戦車に改修されたという。
またT-72CZ戦車は外貨獲得の手段として海外への売り込みも行われており、各地の兵器展示会に出品されているがT-72戦車の近代化改修市場はロシアのT-90戦車、ウクライナのT-72AG戦車、ポーランドのPT-91戦車などライバルが多いこともあり現在までに海外からの発注は無い。


<T-72CZ M3戦車>

全長:    9.88m
車体長:   7.10m
全幅:    3.755m
全高:    2.18m
全備重量: 48.0t
乗員:    3名
エンジン:  V-46-TC 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 858hp/2,300rpm
最大速度: 60km/h
航続距離: 700km
武装:    51口径125mm滑腔砲2A46×1 (37発)
        12.7mm重機関銃NSVT×1 (720発)
        7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発)
装甲厚:


<T-72CZ M4戦車>

全長:    9.88m
車体長:   7.10m
全幅:    3.755m
全高:    2.18m
全備重量: 48.0t
乗員:    3名
エンジン:  パーキンス・コンドーCV12-1000TCA 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 1,000hp/2,300rpm
最大速度: 61km/h
航続距離: 700km
武装:    51口径125mm滑腔砲2A46×1 (37発)
        12.7mm重機関銃NSVT×1 (720発)
        7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発)
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2002年10月号 東欧諸国でリメイクされたT-72戦車シリーズ」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2008年5月号 T-72戦車 開発・構造とそのバリエーション(2)」 白井和弘 著  アルゴノート社
・「パンツァー2021年9月号 拡散し独自の発展を遂げるT-72」 藤村純佳 著  アルゴノート社
・「パンツァー2000年1月号 垣間見えてきた旧ソ連の戦車技術」 二木巌 著  アルゴノート社
・「パンツァー2009年3月号 兵器展示会におけるチェコ軍AFV」  アルゴノート社
・「パンツァー2006年5月号 チェコ陸軍のT-72CZM4」  アルゴノート社
・「パンツァー2014年5月号 チェコ陸軍の現用AFV」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021~2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2003年7月号 ソ連戦車 T-72 (1)」 古是三春 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2019年8月号 ソ連軍主力戦車(3)」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006~2007」  ガリレオ出版
・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」  学研
・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」  三修社
・「新・世界の主力戦車カタログ」  三修社
・「戦車名鑑 1946~2002 現用編」  コーエー

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