T-72AG戦車は、ウクライナのV.O.マールィシェウ工場に置かれたハルキウ機械製造設計局(KhKBM)がプライヴェート・ヴェンチャーで開発したT-72戦車の改良型で、1995年にアラブ首長国連邦で開催された兵器展示会「IDEX'95」において初めて一般公開された。 本車の原型となった旧ソ連製のT-72戦車は世界各国に約2万両が普及しており、T-72AG戦車はそれら旧式化したT-72戦車の後継および近代化改修プランとしての採用を狙って開発された。 一方本家のロシアでも、ウラル貨車工場(UVZ)の第520設計局がT-72戦車の改良型としてT-90戦車を開発し各国へ売り込みを図っており、ウクライナのT-72AG戦車とはライバル関係にある。 T-72AG戦車の開発の発端となったのは1991年のソ連崩壊によって、それまでマールィシェウ工場で生産を行っていたT-80UD戦車の生産が続行不可能になったことであった。 ウクライナの経済にとって兵器の輸出は貴重な外貨獲得の手段であったため、KhKBMはウクライナ軍での使用と輸出向けにT-80UD戦車の国産改良型であるT-84戦車を開発した。 KhKBMではこのT-84戦車のノウハウを応用して輸出向けにT-72戦車の国産改良型の開発も手掛け、その結果誕生したのがT-72AG戦車というわけである。 T-72AG戦車では旧式化したT-72戦車の攻撃力、防御力、機動力の全分野に及ぶ改良が図られている。 T-72戦車の基本構造そのものには手を付けずに各種装備の交換、付加によって性能向上を行っており、アップグレード・キットとしての提供も可能である。 主砲はT-72戦車の51口径125mm滑腔砲2A46に代えて、改良型の51口径125mm滑腔砲KBA-3が搭載されており、徹甲弾の有効射程が2A46の1,800mから2,500mに増大している。 また砲腔内発射式の9M119および9M119M対戦車誘導ミサイルの運用能力も付与されており、その場合の最大有効射程は5,000mとなっている。 主砲そのものより、攻撃能力に関連する最大の改良点はFCS(射撃統制装置)にある。 砲手用昼間サイトはTPD-K1から1G46に変更され、目標探知能力は5,000m(原型は4,000m)になり、水平・垂直の2軸安定装置が装備されている(原型は1軸のみ)。 倍率は8倍の固定倍率から2.7〜12倍のズーム倍率となり、使い易くなっている。 夜間サイトはTPN-3パッシブ/アクティブ・サイトからTPN-4パッシブ・サイトに変更され、目標探知距離が原型の400m(サーチライト使用せず)から1,200mに増大している。 またフランスのSAGEM社製のSANOET赤外線映像装置も搭載可能で、その場合夜間探知距離は3,000mに達する。 車長用サイトは原型のTKN-3から、TKN-4S昼/夜間サイトに変更された。 倍率は昼間7.5倍、夜間5倍で、目標探知能力は昼間で5,000m(原型は2,000m)、夜間で700m(同400m)に増大している。 サイトには垂直方向の安定装置が追加され、車長が砲手にオーバーライドして射撃を行うことも可能となっている。 また赤外線映像装置を搭載する場合、車長用のモニター・スクリーンで同じ映像を見ることができる。 また原型の手動入力式弾道コンピューターは、新型の1V528自動入力式弾道コンピューターに変更されている。 コンピューターには俯仰角や見越し角、横風、気温や気圧、装薬温度、戦車の走行方向、速度などが自動的に入力され、最適な射撃データが得られる。 これらの装備によって射距離2,000mの目標に対する初弾命中率は85%にもなり、目標交戦所要時間は10〜15秒に減少している。 防御面では、T-84戦車と同様の増加装甲が採用されている。 車体前面、砲塔前面に増加装甲板が装着され、T-90戦車やT-80戦車の最新型にも用いられている「コンタクト5」爆発反応装甲のボックスが車体前面と砲塔前面・前上面にボルト止めされている。 車体側面に加えて砲塔前面と車体前下面にも、HEAT(対戦車榴弾)や対戦車ミサイル等の成形炸薬弾対策のラバー薄板が取り付けられている。 エンジンは原型で使用されているV-46系列の4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力780hp)に代えて、T-80UD戦車と同じ6TD-1 2ストローク水平対向6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,000hp)が搭載されている。 コンパクトで高出力なこの新エンジンのおかげで、T-72AG戦車は戦闘重量が45.5tに増えたにも関わらず機動力は原型より向上しており、路上最大速度は65km/hを発揮でき、時速0〜40kmまでの加速時間はわずか15秒に過ぎない。 T-72AG戦車はT-84戦車と共に世界各地の兵器展示会に出品されて売り込みが図られているが、現在までに採用した国は出ていない。 |
<T-72AG戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.59m 全高: 2.226m 全備重量: 45.5t 乗員: 3名 エンジン: 6TD-1 2ストローク水平対向6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 1,000hp/2,800rpm 最大速度: 65km/h 航続距離: 700km 武装: 51口径125mm滑腔砲KBA-3×1 (44発) 12.7mm重機関銃KT-12.7×1 (300発) 7.62mm機関銃KT-7.62×1 (2,000発) 9K119対戦車誘導ミサイル・システム 装甲: 複合装甲 |
<参考文献> ・「パンツァー2002年10月号 東欧諸国でリメイクされたT-72戦車シリーズ」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年5月号 T-72戦車 開発・構造とそのバリエーション(2)」 白井和弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年10月号 東ヨーロッパのT-72改造型輸出用戦車」 アルゴノート社 ・「世界AFV年鑑 2005〜2006」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2003年8月号 ソ連戦車 T-72 (2)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2019年8月号 ソ連軍主力戦車(3)」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「ソビエト・ロシア 戦車王国の系譜」 古是三春 著 酣燈社 ・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」 三修社 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 ・「世界の主力戦車カタログ」 三修社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |