●オブイェークト167戦車 ソ連軍機甲局は、期待通りに開発作業の進まないT-64戦車の行く末に大きな不安を感じていた。 ソ連軍の次期MBT(後のT-64戦車シリーズ)の開発チームには、第2次世界大戦以来の伝統ある中戦車設計局=A.A.モロゾフ技師率いるハリコフのV.A.マールィシェフ工場の第60設計局を選定していたのに対し、一種の保険としてL.N.カルツェフ技師率いるニジニ・タギルのウラル貨車工場(UVZ)の第520設計局に1961年頃、T-62中戦車のさらなる改造による新型MBTの試作を発注した。 第520設計局は早くも1957年に、次期MBT開発を巡る第60設計局の対抗馬として滑腔砲搭載試作MBTオブイェークト140の開発を手掛け、その後もT-55中戦車を改修した暫定的な滑腔砲搭載MBTであるT-62中戦車の開発を担当してきた実績があったのである。 第520設計局はT-62中戦車の基本車体を用いながら足周りとエンジン、動力伝達機構等の改変を行った新型MBTの設計を開始し、1963年までに少なくとも3種類の車両が試作された。 1961年に製作された最初の試作車であるオブイェークト167は、砲塔や基本車体はT-62中戦車と同一であったが足周りに大幅な変更が加えられていた。 オブイェークト167の足周りは従来のソ連軍中戦車に用いられてきた片側5個の大直径転輪に代えて、後にT-72戦車シリーズに採用される片側6個のアルミニウム製中直径転輪と、片側3個の上部支持輪を組み合わせたものが採用されていた。 履帯はT-55中戦車やT-62中戦車と同じドライピン連結式のものが用いられており、エンジンは大戦中のT-34中戦車以降名を上げたV型ディーゼル・エンジンの出力向上型である、V-26 V型12気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力700hp)を搭載していた。 全体として、既存の技術に裏付けられた堅実な設計であるといえた。 続いて1961年に製作されたのが、オブイェークト167の砲塔後部に9M14「マリュートカ」(赤ん坊)対戦車ミサイルの発射機を3基装備したオブイェークト167sPTURである。 さらに1963年には、オブイェークト167にガスタービン・エンジンを搭載したオブイェークト167T(別名:オブイェークト167sGTD)が試作された。 搭載されたエンジンはGTD-3T(GTD-800とする資料もある)ガスタービン・エンジンで、出力800hpを発揮した。 その他の諸元は、オブイェークト167と変わるところは無い。 しかしオブイェークト167シリーズはソ連軍機甲局を満足させるものではなく、T-72戦車シリーズに至るまでの習作の域に留まった。 |
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●オブイェークト172/オブイェークト172M戦車 1964年にハリコフの第60設計局が開発したT-64戦車(制式化は1966年)は、T-62中戦車の主砲を分離薬莢式に改修した55口径115mm滑腔砲D-68Tに、新たに開発された6ETs10「コルジーナ」(籠)自動装填装置を組み合わせて搭載していたが、この「コルジーナ」自動装填装置は装填不良を起こし易く、砲弾の装填時に乗員を巻き込む事故も引き起こす不完全なものであった。 ニジニ・タギルの第520設計局でも、前述のオブイェークト167に115mm滑腔砲D-68Tと「コルジーナ」自動装填装置を組み合わせて搭載する試みを行っていたが、この装置は性能不足で装填手を減らすことはできないことが明らかになった。 このためカルツェフ主任技師はコヴァリョフとビストリツキーの設計局に対して、新型の自動装填装置の開発を依頼した。 そして1967年頃にペトロフ設計局において新型の51口径125mm滑腔砲2A26(D-81T)が開発され、T-64戦車への搭載が決定された際、第520設計局でもこの砲と前述の新型自動装填装置を組み合わせたシステムの開発作業が自主的に進められた。 1967年11月、輸送機械工業大臣S.ズヴェレフがUVZを訪問した際に、カルツェフは125mm滑腔砲と新型自動装填装置を組み合わせた試作システムを披露した。 これを見たズヴェレフはハリコフのT-64戦車へのあからさまな挑戦と受け取り、カルツェフを非難した。 だがカルツェフはT-64戦車の「コルジーナ」自動装填装置が性能不足であることを指摘し、西側の新型MBTに対抗するためには自分たちのシステムが必要なことを力説した。 結局カルツェフは、この試作システムをT-64戦車に搭載する試作車を6両製作する許可を取り付けた。 またカルツェフは、この車体にチェリャビンスクのトラシューチン設計局の新型エンジンを搭載することもズヴェレフの了承を取り付けた。 なお、この新型自動装填装置6ETs15「カセートカ」(カセット)は、「コルジーナ」に比べて装填動作がスムーズで完成度が高かったため、後にハリコフのT-64戦車にも採用されることになる(T-64A戦車以降)。 T-64戦車に125mm滑腔砲と「カセートカ」自動装填装置を組み合わせたシステムと、新型エンジンを搭載した車両には「オブイェークト172」の開発番号が与えられ、1967年にUVZで試作車の製作が開始された。 ここまでの進行はソ連軍機甲局の積極的な関与無しに、T-64戦車の改良に名を借りてこっそりと行われたようである。 しかしカルツェフは、オブイェークト172に独自の新型変速・操向機を取り付けることも考えていた。 この試みを察知したズヴェレフは1968年1月にカルツェフをモスクワに呼び出し、問いただした。 だがカルツェフはT-64戦車の走行系統の不具合を説明し、結局2種類の試作車を製作することを了承させた。 なおオブイェークト172の開発が行われている最中の1969年春、カルツェフはソ連軍機甲局科学技術委員会の議長に任命されたため、新たに第520設計局の主任技師としてV.N.ヴェネディクトフが就任した。 彼はその後、一貫してT-72戦車シリーズの発展に力を尽くすことになる。 オブイェークト172は2種類の試作車が製作されたが、その1つはT-64戦車に対する変更を最小限に留めたもので、1968〜70年にかけて試作作業が行われた。 この車両はT-64戦車の車体をそのまま採用し、125mm滑腔砲と「カセートカ」自動装填装置を組み合わせたシステムと、トラシューチン設計局が開発したV-45 V型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジン(出力780hp)を搭載したものであった。 エンジンの冷却装置については、ハリコフで設計されたT-64戦車用のものがそのまま用いられた。 もう1つの試作車はカルツェフの意見を反映させたもので、元々第520設計局で開発していたオブイェークト167の走行系統を採用した。 エンジンはやはりV-45ディーゼル・エンジンが搭載されたが、冷却装置は第520設計局で設計されたものに変更された。 この試作車には、ニジニ・タギルの所在する地方名を採って「ウラル」(Ural)という愛称が与えられた。 これは取りも直さず、ハリコフに対抗する意識が表れた名称でもあった。 オブイェークト172ウラル(「オブイェークト172-2」と呼ばれていたとする資料もある)の試作車は1968年にモスクワ南方のクビンカ試験場で試験が始められ、1969年には砂漠地帯での試験も行われた。 試験の結果は良好だったが重量増加に伴うパワー不足が明らかになったため、新型のV-46 V型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジン(出力780hp)への換装が行われた。 こうして1969年11月には、V-46エンジン搭載の先行生産型「オブイェークト172M」が製作された。 オブイェークト172Mは1970年2月にザバイカル地方で寒冷地試験に供されたが、試験の結果は満足すべきものであったという。 |
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●T-72戦車 オブイェークト172Mは用兵者側に大きな満足をもって迎えられ、1973年に「T-72主力戦車」(Osnovnoy Tank T-72)としてソ連軍に制式採用された。 T-64戦車までソ連軍はMBTを「中戦車」(Sredniy Tank)と称していたが、本車から「主力戦車」という呼称を使用し始めたのである。 これは、T-72戦車に対するソ連軍当局の期待も込められていたといえよう。 別名「ウラル」と呼ばれたT-72戦車の初期生産型は最小限の改良と装備の追加を施され、1974〜76年にかけて量産された。 特徴的な装備は車体側面に追加された片側4枚のエラ型補助装甲で、前進攻撃時に60度の角度で展開し、前側面方向からのHEAT(対戦車榴弾)や対戦車ミサイル等の成形炸薬弾から側面装甲を守る役割を持っていた。 これは同時期のT-64戦車シリーズにも装備されたが、後にメッシュ・ワイアー入りの合成ゴム製サイドスカートに取って代わられた。 車体前面と砲塔前半部には複合装甲が導入されており、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)など運動エネルギー弾に対する抗堪力はRHA(均質圧延装甲板)に換算すると410mmに匹敵した。 主砲は、T-64A戦車に採用された51口径125mm滑腔砲2A26の改良型である2A26M2を搭載しており、当時のMBTの中では最高レベルの火力を誇っていた。 FCS(射撃統制システム)は基線長式測遠機と弾道計算機、アクティブ式暗視装置を標準装備にしていた。 その他、4発/分の発射速度を持つ改良型の6ETs40「カセートカ」自動装填システムを持っていた。 これは砲塔底部に中心をぐるりと取り巻く形で装薬と砲弾を上下各11セット、総数で22発分をトレイ式に配置したもので、砲尾部にある取り出し装置が選択された弾種を装薬とセットして拾い上げ、砲尾に自動的に装填するようになっていた。 砲弾と装薬はその他に17発を搭載しており、人力装填も可能であった(この場合の発射速度は2発/分)。 なおソ連軍のみで使用され輸出が行われなかったT-64戦車シリーズと異なり、T-72戦車シリーズはワルシャワ条約機構加盟国や中東の友好国に供与されることになり、輸出向けに性能を落としたタイプの開発が行われた。 ウラル戦車の輸出型は複合装甲の代わりに、通常の防弾鋳鋼(砲塔前面で厚さ400mm)や圧延防弾鋼板(車体前面は3層式で合計厚205mm)が用いられ、これは1975年より量産が開始され1970年代後半には早くもインド、シリア、リビアなどのソ連友好国に供与されて西側を驚かせた。 この内シリア軍に供与されたものは、1983年のイスラエル軍によるレバノン侵攻の際に同軍の新型MBTメルカヴァ(105mmライフル砲搭載の初期型)と交戦し撃破されているが、これがT-72戦車と西側MBTとの初対決であった。 輸出型の量産が開始されると同時に、国内向けには装甲防御力をさらに強化した「ウラル1」(オブイェークト172M1)戦車の生産が1975〜79年にかけて行われた。 これは複合装甲の各層の厚さを増したものと思われ、RHAに換算した対APFSDSでの防御力は砲塔前面で500mm、車体前面で420mmに達した。 ウラル1戦車はやがてレーザー測遠機を搭載したT-72A戦車の量産が開始されると、基線長式測遠機を降ろしてレーザー測遠機を搭載する改造が実施されている。 改造されたウラル1戦車は、基線長式測遠機の右側レンズの開口部が鋼板で塞がれていることで識別できる。 |
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●T-72A戦車(オブイェークト176) レーザー測遠機と弾道計算機を組み合わせたFCSを備えた西側MBTが1970年代初頭より現れ、ソ連側もより優れたFCSの追求を迫られた。 このため1976年12月から、T-72戦車に新開発のレーザー測遠機を搭載した改良型「オブイェークト176」の開発作業が開始された。 試験の結果が良好だったため、オブイェークト176は「T-72A戦車」としてソ連軍に制式採用されることになり、1979年から量産が開始される運びとなった。 T-72A戦車はレーザー測遠機TPD-K1の搭載に伴い、砲塔上面の左右に跨っていた基線長式測遠機の搭載スペースの痕跡を完全に無くしていた。 またT-72A戦車は主砲の51口径125mm滑腔砲も、T-72戦車に用いられた2A26M2から改良型の2A46に変更され、主砲弾薬搭載数が輸出用と同様に44発に増やされた。 T-72A戦車ではTPN-3-49砲手用夜間サイト、TVNE-4B操縦手用夜間視察装置等の夜間戦闘装備も更新され、1982年には主砲の安定化装置が新型の2E42-2に更新された。 その他の砲塔と車体の基本的構造はT-72戦車の装甲強化型ウラル1を受け継いでいたが、外形上は成形炸薬弾対策に車体側面に取り付けられたエラ型補助装甲に代えて、鋼製メッシュ入り合成ゴム製サイドスカートを標準装備とした。 この改良は、初期型のT-72戦車にも後から導入されている。 さらにT-72A戦車の後期生産車では、新開発の81mm発煙弾発射機902A「トゥーチャ」(黒雲)を12基砲塔の前半分に取り付けるようになった。 それまでソ連軍MBTの煙幕展張システムは、排気と直接噴射される燃料を混合して煙幕を発生させる特殊排気マフラー「TDA」(ツェルモドゥイモヴァヤ・アパラトゥーラ:温熱式発煙装置)が一般的であったが、T-72A戦車以降は西側MBTと同様の発煙弾発射機も併用するようになった。 T-72A戦車は1979〜85年にかけて量産され、ワルシャワ条約機構加盟国に駐留するソ連軍戦車師団に優先的に配備が進められた。 そのため1979年末から開始されたアフガニスタン侵攻作戦では、参加したソ連軍部隊の中にT-72戦車、T-72A戦車共に姿が見られることは無かったのである。 |
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●T-72M/M1戦車(輸出型) 1979年から量産が開始されたT-72A戦車の輸出型は早くも1980年に登場し、「T-72M」と称された。 T-72M戦車はT-72A戦車と同仕様のレーザー測遠機TPD-K1を搭載していたが、以前のT-72戦車輸出型と同じく複合装甲ではない通常装甲(砲塔最大厚部450mm、車体前面は60mm厚、105mm厚、50mm厚の3層の圧延防弾鋼板の組み合わせ)を施しており、ソ連本国で使用するものより一段機能を下げたものとなっていた。 T-72M戦車はソ連本国以外で使用されるT-72戦車シリーズのいわば標準型となり、ソ連以外でもポーランドやチェコスロヴァキアで大量にライセンス生産が行われた。 後にはこれにユーゴスラヴィアやインド、イラク(ソ連から供給された部品を組み上げるノックダウン生産)が加わり、装備する国もかつてのT-62中戦車装備国以上に広がり約20カ国に上った。 やがてイスラエル軍のレバノン侵攻時の戦訓から、前面装甲を強化(砲塔前面の装甲厚を530mmに増厚し、車体前面には超硬度焼入れした16mm厚鋼板を追加)した改良型のT-72M1戦車が急遽1982年から量産され国際市場に登場した。 これはメルカヴァ戦車の105mmライフル砲が発射した新型のAPFSDSに、シリア軍のT-72戦車の前面装甲が貫徹されたことへの緊急の対処であった。 T-72M戦車およびT-72M1戦車は、輸出用の125mm滑腔砲搭載MBTとしてライセンス取得国と合わせて数千両単位で量産され大量配備された。 1991年2月の湾岸戦争地上戦時にはイラク軍が約500両を共和国防衛隊師団を中心に装備していたが、アメリカ軍のM1エイブラムズ戦車やイギリス軍のチャレンジャー戦車に一方的に惨敗してしまったため、T-72戦車シリーズの兵器輸出市場での評価はガタ落ちとなってしまった。 |
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●T-72AV戦車 1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻でシリア軍のT-72戦車が撃破された経験、並びにイスラエル軍が成形炸薬弾対策として開発した「ブレイザー」(ブレザーコート)と呼ばれるERA(爆発反応装甲)を装備したM60戦車を投入したこと(この時シリア軍が数両の撃破に成功したため、サンプルがソ連軍事顧問の手に渡った)はソ連戦車開発陣を大いに刺激した。 モスクワ郊外のクビンカにある装甲・戦車科学技術研究所(NIIBT)では1983年までに、薄い鋼板をプレスして作った箱の中に炸薬板を2層に仕込んだ「コンタークト」(接触)と呼ばれるERAを実用化し、同年9月から新規に量産されるMBTや既存のMBTへの取り付けが開始された。 これはすでにまとまった量が装備されていたT-72A戦車にも取り付けが開始され、この改修を受けた車両は「T-72AV」と称されるようになった。 ちなみに「T-72AV」の「V」は、ロシア語で「爆発」を意味する「Vzryv」の頭文字を採っている。 T-72AV戦車は車体、砲塔およびサイドスカートに合計227個の「コンタークト」ERAを装着しているが、砲塔部分の装着方法がV字状になっているのが特徴である。 またERAを装着した影響で、砲塔の前半部に取り付けられている81mm発煙弾発射機902Bが8基に減らされている。 さらにT-72AV戦車ではERAの装着と併せて、FCS関係を有機的に繋ぐシステム(1A40)が導入されている。 これはそれまで、レーザー測遠機で得たデータを砲手がマニュアル操作によりアナログ弾道計算機に入力し、諸元を得て主砲操作を行うという手順を経ていたために、せっかく砲塔と主砲の安定化装置が導入されていてもT-72戦車シリーズは事実上走行間射撃が不可能であったことを改善し、併せて操作時間の短縮を図ることを狙ったものである。 1A40システムの導入により測定データは自動的にディジタル弾道計算機に入力され、諸元表示が迅速に行われるようになったため、砲手はそれに合わせて主砲操作を行えば良くなった。 このシステムは以後改良が加えられ、今日のものは主砲の指向まで自動的に行えるようになった他、弾道に影響を与える各種要素(風向や気温その他)のデータも織り込めるように改善が図られてきている。 しかしこれらの改修の結果、T-72AV戦車の戦闘重量は43tと初期型より約2t増加したため路上最大速度も若干低下して55km/hとなり、路外走行時においてはパワー不足を生ずるようになった。 このように、ソ連本国で装備されるT-72戦車シリーズは1980年代半ばよりかなりの機能強化が図られつつあったが、湾岸戦争以降まで機能を向上させたタイプは輸出市場に登場させなかったため、イラク軍の敗北によるマイナスイメージを未だ引きずったままで推移している。 |
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●T-72B戦車(オブイェークト184) 1978年に125mm滑腔砲の砲腔内から発射するレーザー誘導式対戦車ミサイル・システムを持つT-80B戦車が出現した後、T-72戦車に同じミサイルの運用能力を与える計画が提起された。 最初の試作車は「オブイェークト182」と呼ばれたが、エンジンを出力向上型のV-84ディーゼル・エンジン(出力840hp)に換装した試作車は「オブイェークト184」と名称が変更された。 試験の結果が良好だったため、オブイェークト184は「T-72B」の名称でソ連軍に制式採用されることになり、1985年から部隊配備が開始された。 T-72B戦車は主砲が新型の51口径125mm滑腔砲2A46Mに換装され、主砲の砲腔内から対戦車ミサイルを発射できるようになった。 125mm滑腔砲より発射される対戦車ミサイルは9M119「レフレークス」(反射)または改良型の9M119M「レフレークスM」で、最大有効射程は9M119が4,000m、9M119Mが5,000m、成形炸薬による装甲穿孔力は700〜750mmに達し、今日でもロシア兵器輸出公団は「M1エイブラムズ戦車を撃破できる」と豪語している。 対戦車ミサイルはレーザー測遠機兼誘導装置1K13-49により、目標まで半自動で誘導される。 またこのミサイルは車両だけでなく、対ヘリコプター用にも有効であるとされている。 このように良いこと尽くめのような対戦車ミサイル・システムだが、9M119対戦車ミサイルの輸出価格は1発45,000ドルと高額で、30発分の金額でT-72戦車の輸出型1両が購入できる計算になる。 ロシア製兵器としては高価なものだが、一応本国軍のT-72B戦車等は1両当たり4発の9M119対戦車ミサイルを搭載することにはなっている。 T-72B戦車は装甲防御力についても強化が図られており、車体前面には20mm厚の増加装甲板が追加され、砲塔前半部の複合装甲は厚みが顕著に増加している。 この装甲防御力の強化に伴って重量が増加したため、T-72B戦車は出力向上型のV-84-1ディーゼル・エンジン(出力840hp)を搭載するようになり機動力の維持を図っている。 またT-72B戦車は、予算不足のために対戦車ミサイル・システム関連機器を搭載しない本国軍向け廉価版タイプも並行生産されており、こちらは「T-72B1」と称する。 |
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●T-72BV戦車 1988年にはT-72B戦車に「コンタークト」ERAを227個装着する近代化改修が行われ、この改修を受けた車両は「T-72BV」と呼ばれるようになった。 ERAの装着方法は試作車ではT-72AV戦車と同様だったが、初期の改修車では砲塔部分のERAを側面と上面に三重に重ねて装着している車両もあった。 しかしこの装着方法はERAの効果が相殺し合うため重量増に見合った効果が得られず、後の改修車ではT-72AV戦車と同じ一重装着に戻されている。 T-72BV戦車には対戦車ミサイルの運用能力を省いたT-72B1戦車をベースとしたものも存在し、これは「T-72B1V」と称する。 |
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●T-72BM戦車(オブイェークト187) モスクワのNII(科学開発研究所)スターリでは、化学エネルギー(CE)弾と運動エネルギー(KE)弾のどちらにも有効な第2世代のERAが開発され、これは「コンタークト5」と名付けられた。 「コンタークト5」ERAは1985年にまずT-80U戦車に装着されたが、この新型ERAをT-72B戦車にも導入することになり、「オブイェークト187」と呼ばれる試作車が製作されて試験に供された。 試験の結果が良好だったため、1985年から「コンタークト5」ERAを装着したタイプのT-72B戦車の部隊配備が開始され、「T-72BM」の呼称が与えられた。 ちなみに「コンタークト5」ERAの防御力はKE弾に対してRHA換算で250mm、CE弾に対して600mmに相当するという。 「コンタークト5」ERAは砲塔装着用と車体前面用、それにサイドスカート前半部装着用で形態が異なっている。 砲塔用は座布団型のブロックを上下で前に突き出すように組み合わせてあり、車体前面上部には縦長のブロックを数セット装着、サイドスカートには増加装甲板状のものを片側3〜4セット装着するようになっている。 |
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●T-72S戦車(輸出型) T-72S戦車はT-72B戦車を基本とした輸出型で、1987年に出現した。 開発中は、「T-72M1M」と呼称された。 例に漏れず本国用より性能を落として総合FCSは搭載されていないが、輸出型としては初めて主砲発射式の9M119対戦車ミサイルを運用できるようになっており、レーザー測遠機兼誘導装置1K13-49を装備している。 対戦車ミサイルの運用能力を省いた廉価型も用意されており、こちらは「T-72S1」と称する。 T-72S戦車はT-72B戦車と同等の複合装甲を備えており、また車体と砲塔に合計155個の「コンタークト」ERAを装着することが可能である(ただし値段によっては外側のプレス製コンテナのみで、中身が空っぽの「こけおどし」タイプの「コンタークト」ERAがあるらしい)。 T-72S戦車は、イランがライセンス生産を行っている。 |
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<オブイェークト167戦車> 全長: 車体長: 6.068m 全幅: 3.30m 全高: 2.395m 全備重量: 36.7t 乗員: 4名 エンジン: V-26 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル 最大出力: 700hp/2,000rpm 最大速度: 64km/h 航続距離: 550km 武装: 55口径115mm滑腔砲U-5TS×1 (40発) 7.62mm機関銃SGMT×1 (2,500発) 装甲厚: 最大190mm |
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<オブイェークト172戦車> 全長: 9.53m 車体長: 7.08m 全幅: 3.37m 全高: 2.19m 全備重量: 41.0t 乗員: 3名 エンジン: V-45 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 780hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 650km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A26M2×1 (39発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲: 複合装甲 |
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<オブイェークト172M戦車> 全長: 9.53m 車体長: 全幅: 3.37m 全高: 2.20m 全備重量: 42.0t 乗員: 3名 エンジン: V-46 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 780hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 650km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A26M2×1 (45発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲: 複合装甲 |
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<T-72ウラル戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.46m 全高: 2.19m 全備重量: 41.0t 乗員: 3名 エンジン: V-46 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 780hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 500km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A26M2×1 (39発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲: 複合装甲 |
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<T-72ウラル1戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.466m 全高: 2.19m 全備重量: 41.5t 乗員: 3名 エンジン: V-46-6 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 780hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 500km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A26M2×1 (39発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲: 複合装甲 |
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<T-72戦車 輸出型> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.57m 全高: 2.208m 全備重量: 41.5t 乗員: 3名 エンジン: V-46 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 780hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 500km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A26M2×1 (44発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲厚: 最大410mm |
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<T-72A戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.59m 全高: 2.19m 全備重量: 41.0〜41.5t 乗員: 3名 エンジン: V-46-6 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 780hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 460〜650km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46×1 (44発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲: 複合装甲 |
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<T-72M戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.59m 全高: 2.19m 全備重量: 41.0t 乗員: 3名 エンジン: V-46 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 780hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 500km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46×1 (44発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲厚: 最大450mm |
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<T-72M1戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.59m 全高: 2.19m 全備重量: 41.5t 乗員: 3名 エンジン: V-46 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 780hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 500km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46×1 (44発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲厚: 最大530mm |
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<T-72AV戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.59m 全高: 2.14m 全備重量: 43.0t 乗員: 3名 エンジン: V-46-6 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 780hp/2,000rpm 最大速度: 55km/h 航続距離: 500km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46×1 (44発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲: 複合装甲 |
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<T-72B戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.46m 全高: 2.226m 全備重量: 44.5t 乗員: 3名 エンジン: V-84-1 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 840hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 500km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46M×1 (45発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 9K119レフレークス対戦車誘導ミサイル・システム 装甲: 複合装甲 |
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<T-72BM戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.46m 全高: 2.226m 全備重量: 乗員: 3名 エンジン: V-84-1 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 840hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 500km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46M×1 (45発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 9K119レフレークス対戦車誘導ミサイル・システム 装甲: 複合装甲 |
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<T-72S戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.59m 全高: 2.222m 全備重量: 44.5t 乗員: 3名 エンジン: V-84 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 840hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 600km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46M2×1 (45発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 9K119レフレークス対戦車誘導ミサイル・システム 装甲: 複合装甲 |
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<参考文献> ・「パンツァー1999年4月号 ソ連戦車カタログ(21) ”廉価版”新型戦車T-72シリーズの開発史」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年5月号 ソ連戦車カタログ(22) 主力戦車の開発」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2007年6月号 T-72戦車の開発・構造とそのバリエーション(1)」 白井和弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年5月号 T-72戦車の開発・構造とそのバリエーション(2)」 白井和弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2023年6月号 特集 T-72はどうしてそうなった?」 藤村純佳/毒島刀也 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2019年6月号 T-72の再評価(1)」 藤村純佳/小泉悠 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2019年11月号 T-72の再評価(2)」 藤村純佳/小泉悠 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2021年10月号 世界のT-72カタログ」 藤村純佳 著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2003年7月号 ソ連戦車 T-72 (1)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2003年8月号 ソ連戦車 T-72 (2)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2019年8月号 ソ連軍主力戦車(3)」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版 ・「ソビエト・ロシア 戦車王国の系譜」 古是三春 著 酣燈社 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 |
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