T-38水陸両用軽戦車
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+概要
ソ連軍初の本格的な水陸両用戦車であるT-37水陸両用軽戦車を開発した、レニングラード(現サンクトペテルブルク)の第174K.E.ヴォロシーロフ工場試作機械設計部(OKMO)のN.A.アストロフ技師は、T-37水陸両用軽戦車の生産拠点がモスクワの第37(自動車)工場に移されたことに伴って1935年に同工場に転任し、T-37A水陸両用軽戦車の開発を手掛けたN.N.コズィレフ技師と共に、T-37水陸両用軽戦車をベースとした新たな水陸両用戦車の開発に取り組んだ。
その結果、1936年にT-38水陸両用軽戦車を完成させ量産に入らせた。
T-38水陸両用軽戦車では浮航時の安定性をより向上させるため、T-37水陸両用軽戦車よりも車体幅を約30cmも増加させ車体もやや延長し、被発見性を低め重心位置を下げるために車高を19cm低めた(具体的には砲塔の搭載位置を低くし、機関室部分だけが一段高くされた)。
また車内操作性を改善するために、操縦手席と全周旋回式砲塔の位置をT-37水陸両用軽戦車とは逆にして、操縦手が車体右側、機関銃手兼車長が車体左側に配置されるようになった。
これによって、操縦手はちょうどエンジンの前に座るようになったわけである(エンジンはT-37水陸両用軽戦車から車体後部右側にオフセット配置されていた)。
T-38水陸両用軽戦車の砲塔は基本的にT-37A水陸両用軽戦車のものの流用で、武装も同じく7.62mm空冷機関銃DT 1挺であるが、砲塔上面のハッチはT-37A水陸両用軽戦車では後ろ開き式だったのに対し、T-38水陸両用軽戦車では前開き式に改められている。
また、T-37水陸両用軽戦車ではGAZ-AA 4×2トラックの変速・操向機をそのまま流用していたが、T-38水陸両用軽戦車ではより装軌式車両向けに改善されており、操縦性能が向上している。
その他のスペックはT-37水陸両用軽戦車と目立って変わった所は無いが、サスペンションもより柔軟なシステムに改良され、不整地踏破性能もやや改善された。
T-38水陸両用軽戦車は1936年2月29日にソ連軍に制式採用されて、T-37A水陸両用軽戦車と並行して量産が開始され、翌37年からは完全にT-38水陸両用軽戦車に量産全体が切り替えられた。
1938年には一旦生産が停止されたが、1939年にエンジンをGAZ-M1 直列4気筒液冷ガソリン・エンジン(出力50hp)に強化した、T-38M2水陸両用軽戦車が112両生産されている。
また独ソ戦開始後の1941年秋、航空機用の20mm機関砲ShVakを戦車搭載用に改修した20mm機関砲TNShをT-38M2水陸両用軽戦車に装備することが試みられたが、T-37A水陸両用軽戦車から受け継いだ小さな砲塔では操作性が余りに悪く、量産はされなかった(試作車は現在もモスクワ中央軍事博物館に展示されている)。
その他T-38水陸両用軽戦車の足周りを、T-20コムソモーレツ装軌式牽引車と同じリーフ・スプリング式サスペンションに変更したT-38M1水陸両用軽戦車も試作されたが、量産には移されなかった。
1936〜39年にかけて合計で1,340両が生産されたT-38水陸両用軽戦車シリーズは、T-37水陸両用軽戦車シリーズと共に狙撃・騎兵・機械化部隊の偵察戦車として配備された。
T-38水陸両用軽戦車シリーズは1939〜40年にかけての東部ポーランド侵攻やバルト3国進駐、対フィンランド戦争(冬戦争)に投入された後、1941年からの独ソ戦にも実戦投入されたがほとんどが緒戦で失われた。
また敵側のフィンランド軍にある程度まとまった数が鹵獲され、1944年6月の時点で19両が同軍に在籍して使用されていた。
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<T-38水陸両用軽戦車>
全長: 3.78m
全幅: 2.234m
全高: 1.63m
全備重量: 3.3t
乗員: 2名
エンジン: GAZ-AA 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン
最大出力: 40hp/2,200rpm
最大速度: 40km/h(浮航 6〜7km/h)
航続距離: 220〜230km
武装: 7.62mm機関銃DT×1 (1,512発)
装甲厚: 4〜9mm
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<T-38M2水陸両用軽戦車>
全長: 3.78m
全幅: 2.234m
全高: 1.63m
全備重量: 3.8t
乗員: 2名
エンジン: GAZ-M1 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン
最大出力: 50hp/2,800rpm
最大速度: 40km/h(浮航 6〜7km/h)
航続距離: 220〜230km
武装: 7.62mm機関銃DT×1 (1,512発)
装甲厚: 4〜9mm
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<参考文献>
・「グランドパワー2015年8月号 ソ連軍軽戦車の系譜(10) 水陸両用戦車(5)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2015年9月号 ソ連軍軽戦車の系譜(11) 水陸両用戦車(6)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2015年10月号 ソ連軍軽戦車の系譜(12) 水陸両用戦車(7)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2015年11月号 ソ連軍軽戦車の系譜(13) 水陸両用戦車(8)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2016年4月号 ソ連軍軽戦車の系譜(17) 水陸両用戦車追補編」 齋木伸生 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2020年1月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(1)」 山本敬一 著 ガリレオ出版
・「ソビエト・ロシア戦闘車輌大系(上)」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「グランドパワー2001年9月号 ソ連軍軽戦車(1)」 古是三春 著 デルタ出版
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著 光人社 ・「写真集 フィンランド軍戦車発達史 前編」 齋木伸生 著 芬蘭堂
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
・「図解・ソ連戦車軍団」 齋木伸生 著 並木書房
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