スウェーデン陸軍は第2次世界大戦当初、ランツヴェルク社が開発したL-60軽戦車の発展型であるStrv.m/40軽戦車や、チェコスロヴァキア製のTNH軽戦車の改良ライセンス生産型であるStrv.m/41軽戦車を戦車部隊の主力装備としていたが、第2次世界大戦の激化に伴って列強の戦車が飛躍的な進歩を遂げたため、これらの戦車は完全に時代遅れとなってしまった。 そこで1941年にランツヴェルク社はL-60軽戦車の拡大発展型として、75mm砲を装備する20t級の新型戦車の開発を開始した。 これがStrv.m/42中戦車でL-60軽戦車に比べて車体と砲塔が大型化され、主砲がL-60軽戦車の37mm戦車砲から75mm戦車砲に換装されて火力が大幅に強化された。 Strv.m/42中戦車は車体の大型化に伴って転輪数がL-60軽戦車の片側4個から6個に増やされ、装甲厚も大幅に強化されたため戦闘重量がStrv.m/40軽戦車の2倍以上の22.5tに大きく増加した。 しかしL-60軽戦車と同じく近代的なトーションバー(捩り棒)式サスペンションを採用していたため、重量の大幅な増加にも関わらず本車は良好な機動性能を備えていた。 Strv.m/42中戦車は1942年にスウェーデン陸軍に制式採用され1943年4月〜1945年1月にかけて282両が生産されたが、主砲の75mm戦車砲は中砲身砲で装甲貫徹力が低く装甲厚も最大55mmと貧弱で、この頃にはすでに時代遅れとなっていた。 Strv.m/42中戦車はスウェーデン陸軍戦車旅団の重戦車中隊に配備され、第2次世界大戦後もしばらくは運用が続けられたがすでに大戦中から旧式であり、早晩退役の運命にあった。 その後1950年代にイギリスからセンチュリオン戦車の導入が始められると、Strv.m/42中戦車はこれと代替して第一線部隊から退き、Strv.m/40軽戦車やStrv.m/41軽戦車に代わる形で各種部隊に配備された。 しかし、Strv.m/42中戦車の歴史はこれで終わったわけではなかった。 スウェーデン軍は旧式化した装甲車両を様々な改修を施して長く使い続けており、Strv.m/42中戦車も簡単に捨てる気は無かった。 スウェーデン軍は1957年に、Strv.m/42中戦車の近代化改修に着手した。 改修の中心となったのは、旧式化した武装の強化である。 参考になったのは、フランス軍のAMX-13軽戦車であった。 AMX-13軽戦車は重量15t級の軽戦車であったがそれ自体が俯仰するユニークな揺動式砲塔を採用し、旧ドイツ軍のパンター戦車の主砲を原型とする長砲身の75mm戦車砲を装備していた。 Strv.m/42中戦車では揺動式砲塔そのものは採用されなかったが、小型車体に大型砲を搭載可能な新型砲塔が製作された。 この砲塔は前後に長い卵型をしており、車体の砲塔リング幅に合わせて窄まるような形状になっていた。 これはもちろんできるだけ砲塔を小型化しつつ、大きくなった砲の後座を受け止めるためである。 搭載された主砲は長砲身の75mm砲で、型式名称を75mm戦車砲Strv.74といった。 砲塔以外の車体には変化は無いが、エンジンがスカニア・ヴァビス社製のL607 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(出力170hp)2基に換装された。 その他最終減速機も改良され履帯も幅広の新型になり、主エンジンとは別に発電用の補助エンジンも搭載されるようになった。 この改造によってStrv.m/42中戦車は、AMX-13軽戦車とほとんど同レベルの近代的戦車「Strv.74」(Stridsvagn 74:74式戦車)に生まれ変わることになった。 しかも改造コストは、新型戦車を導入することに比べれば驚くほど安くて済んだのである。 Strv.74戦車の砲塔を製造したのはヘグルンド&ゾナー社で、その他はランツヴェルク社である。 Strv.74戦車への改造作業そのものは、スウェーデン陸軍の施設で行われた。 改造されたのは、Strv.m/42中戦車のTH型とTM型の225両であった。 Strv.74戦車の部隊配備は1958年に始まり、スウェーデン陸軍の戦車旅団に配備された。 なおこの年からこうした旅団は全て同じ戦車を装備することになり、重戦車中隊や軽戦車中隊というふうに1つの部隊に複数の車両が装備されることは無くなっていた。 Strv.74戦車は、1960年代半ばまでは戦車旅団の主力装備として使用された。 しかしセンチュリオン戦車の後継としてStrv.103戦車が採用されると、玉突き式に第一線部隊から押し出されることになった。 そのためStrv.74戦車はまず独立戦車中隊に配属され、その後突撃砲中隊に配属された。 最後のStrv.74戦車がスウェーデン陸軍の編制表から消えたのは、1981年のことであった。 しかしその時もただスクラップになるのではなく、砲塔は要塞陣地の防御砲塔として転用されたという。 |
<Strv.74戦車> 全長: 7.93m 全幅: 2.43m 全高: 3.00m 全備重量: 26.0t 乗員: 4名 エンジン: スカニア・ヴァビスL607 直列6気筒液冷ガソリン×2 最大出力: 340hp 最大速度: 45km/h 航続距離: 武装: 75mm戦車砲Strv.74×1 8mm機関銃Ksp.m/39×2 装甲厚: |
<参考文献> ・「パンツァー2002年3月号 スウェーデンのStrv m/42、Strv74中戦車」 斎木伸生 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年4月号 ランツベルグ社の戦車シリーズ」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「戦闘車輌大百科」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2019年9月号 スウェーデン戦車発達史」 斎木伸生 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「世界の無名戦車」 斎木伸生 著 三修社 ・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研 ・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー |