+構造
Sd.Kfz.6/2対空自走砲のベース車体となった5tハーフトラックは元々、36口径7.5cm野戦加農砲FK16nAと28口径10.5cm軽榴弾砲leFH18の牽引を目的として、ミュンヘンのクラウス・マッファイ社が1934年に開発、ビューシンクNAG他数社が1934~43年にかけて合計3,683両生産した牽引力5tの軽ハーフトラックで、実際にSd.Kfz.6/2対空自走砲に改造されたのは1939年半ば頃から生産に入った5tハーフトラックBN
l 9、および1941年2月から生産を開始したBN l 9bである。
BN l 9/9bは走行能力の強化を目的にエンジンが、マイバッハ社製のHL54TUKRM 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(排気量5,420cc、出力115hp/2,600rpm)に換装されていた。
エンジンの換装に加えてボンネット最前部に配された吸気グリルがさらに絞り込まれ、上端部の湾曲もわずかではあるが増えていた。
また、前作BN l 8で採用された転輪のトーションバーが横1列から上下配置に改められ、誘導輪のトーションバーが廃止された。
またシャシー後方の牽引ウィンチが、牽引力が2.5tに増えた強化型に換装された。
さらに車体長が、BN l 8の6.16mから6.33mに増大している。
以上がBN l 8とBN l 9/9bの変更点で、BN l 9と9bは基本的には同仕様だったが、一部にわずかな変更点も存在する。
まずBN l 9bでは前輪の操向機構ギアと油圧装置が変更され、さらにフェンダー形状が少々簡易化され、シャシー後端に備える牽引用のピントルも強化型に換装されている。
Sd.Kfz.6/2対空自走砲は、機関系と足周りはこの5tハーフトラックBN l 9/9bのものをそのまま用い、車体も操縦室の直後まではオリジナルを踏襲したが、操縦室後方は平板を用いた荷台とされた。
そして、荷台の中央部に牽引型の台座をそのまま流用して57口径3.7cm対空機関砲FlaK36が載せられたが、これはSd.Kfz.10/4対空自走砲と同じく、必要に応じて車外に降ろして使用することを考慮していたからだろう。
また、荷台の左右端と後端には金網を用いた起倒式側板がヒンジを介して装着され、戦闘時にはこれを倒して水平位置で固定することで、射撃に際して足元を拡げるプラットフォームとされ、開いた場合の最大幅は3.10mと通常時の2.26mから84cm拡大した。
なおこの起倒式側板には左側に大小の手斧とショベルが、右側にツルハシとショベルが車外装備品として装着され、後方板の左右端には起倒式の乗降用梯子が設けられた。
また、操縦室の座席の後方にあたる荷台の左右にはそれぞれ弾薬庫が設けられて、3.7cm機関砲弾20発を収容する給弾マガジンが各6個ずつ収められ、加えて後部の起倒式側板にもマガジン4個が装着されていた。
つまり、3.7cm機関砲弾の搭載数は合計320発というわけである。
もちろん、高い発射速度を備えるFlaK36にこの弾薬数は充分ではなく、このため専用の特殊弾薬トレイラーSd.Ah.57が開発され、3.7cm機関砲弾432発を収容しSd.Kfz.6/2対空自走砲に牽引されて行動を共にした。
なお1940年に入ってからの完成車は、FlaK36にそれまで未装備だった防盾が標準装備とされ、1941年2月からの生産車ではBN l 9bシャシーが用いられている。
総重量1,544kgの3.7cm対空機関砲FlaK36の搭載と車体各部の変更により、Sd.Kfz.6/2対空自走砲の戦闘重量はオリジナル車体のBN
l 9から1.04t増加して10.4tとなり、これに伴って最大速度と機動性、そして航続距離が少々低下したと見るのが当然だろうが、意外にも公表されている諸元表での変化は見られない。
もちろん数字に現れない機動性は低下したはずだが、通常型とほぼ同等の性能を備えていたと考えて差し支えないであろう。
Sd.Kfz.6/2対空自走砲と通常型5tハーフトラックの相違点はこれだけではなく、もう1つある。
それは乗員向けの自衛火器として、オベルンドルフ・アム・ネッカーのマウザー製作所製の7.92mm小銃Kar98kを装備したことである。
しかし荷台部分に小銃を搭載するとFlaK36の射撃の邪魔になるため、前部フェンダーの中央部と後部フェンダーの前面にラックを設けてそれぞれ3挺ずつが収められた。
カバーの有無などの違いはあるものの、この自衛火器の収納レイアウトはSd.Kfz.10/4対空自走砲と同じ発想である。
3.7cm対空機関砲FlaK36は最大射程4,800m、有効射程2,000mで、発射速度は最大160発/分、実用80発/分となっており、発射速度は2cm対空機関砲に劣るが最大射程や破壊力は大きく上回っていた。
Sd.Kfz.6/2対空自走砲は対空射撃のみならず、その高い攻撃力を活かして地上目標に対する水平射撃にも多用されており、徹甲弾を使用した場合傾斜角30度の均質圧延装甲板に対して、射距離100mで36mm、800mで24mmの装甲貫徹力を発揮した。
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