Sd.Kfz.231(6-Rad)装甲偵察車
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+概要
第1次世界大戦に敗れ、1919年に連合国との間で締結されたヴェルサイユ条約により軍備を制限され、新型装甲車両の開発を一切禁じられたドイツであったが、1920年代も後半に入ると連合軍の監視の目を逃れてシュトゥットガルトのダイムラー・ベンツ社、ウルムのマギルス社、ブラウンシュヴァイクのビューシンク社の3社に対して装輪式装甲車の開発を依頼した。
この要求に応じてビューシンク社は10輪で浮航性のある装甲車を、ダイムラー・ベンツ社とマギルス社ではそれぞれ8輪の装甲車を開発して、1922年に独ソ間で締結されたラパッロ条約に基づいてソ連のカザンに設立された試験施設において、走行試験などのデータ収集が行われた。
1928年までにはこれらの試作車を用いて行ったデータ収集も一段落し、いよいよ本格的な開発を行うまでに至ったが、そこで勃発したのが世界的な大恐慌であり、当然ながら多額の賠償金の支払いで疲弊しているドイツもその波から逃れることはできず、実用化に多大な費用を要すると思われるこれらの装甲車は、生産型が発注されること無く終わってしまった。
とはいっても装甲車の必要性は、秘密裏に再建を進めているドイツ軍にとって放置できない問題であったため、1928年に先の3社に対して、民需用として生産されていた1.5tの6輪トラックのシャシーを用いた6輪装甲車の開発を発注し、装甲ボディの製作はデュイスブルクのドイツ製鋼所が担当することとなった。
これを受けたダイムラー・ベンツ社では、サイズ的に手頃なG3トラックのシャシーを流用して開発に取り組み、1929年には試作車の完成を見た。
G3シャシーは装甲車用ということで「G3p」(”p”はpanzer:装甲の頭文字)と呼ばれたが、その内容は民需型と同一仕様で、シャシー前部に出力60hpのM09
直列6気筒液冷ガソリン・エンジンを配して後部の2軸4輪を駆動し、操向も前部の2輪で行われた。
また開発当初からシャシー後部にも操縦装置が設けられており、これは6輪装甲車シリーズに共通する装備となっている。
試作車は後の生産型のスタイルをほぼ完成させていたが、垂直の前面装甲板やデュッセルドルフのラインメタル・ボルジヒ社製の7.92mm機関銃MG13を装備する角型の砲塔、その前後に設けられた筒型のペリスコープ・カバーを備えるハッチ等、相違点も各部に散見できる。
また、車体後面に円形のハッチが設けられていたのも試作車の特徴である。
この試作車をテストした結果各部の不具合が判明したため、ラジエイターの大型化や砲塔形状のリファイン、前車軸の強化、前面装甲板に傾斜を与える等の改良を盛り込んだ増加試作車が3両製作された。
このデータを基に1931年にはホイールベース長を3.2mから3mに減らし、エンジンの強化を図った「G3a」と呼ばれる新型シャシーを完成させた。
これに併せて車体各部もリファインが図られた結果、「Sd.Kfz.231」の特殊車両番号が与えられてドイツ陸軍に制式採用され、ようやく生産が行われることになった。
この生産型では砲塔防盾にラインメタル社製の55口径2cm機関砲KwK30が、7.92mm機関銃MG13と同軸に装備されており、第1次世界大戦後初めて開発した装甲車としてはまとまりも良く37両が生産された。
一方ビューシンク社も、自社製のG31pシャシーを用いた車両を1933年に完成させた。
このシャシーはホイールベースが2.71mと短いのが特徴で、試作車および増加試作車では操縦室の右側に7.92mm機関銃MG13を装備し、車体後面の傾斜もダイムラー・ベンツ社の車両よりやや強くなっていたが、生産型では同一の形状に改められている。
このビューシンク社製のSd.Kfz.231は1935年までに50両が生産されたが、この中に増加試作車が含まれているか否かは明らかではない。
最後に残るマギルス社は1934年から生産に入っており、シャシーはM206pが用いられたがホイールベースはビューシンク社製よりさらに短く、2.5mとなっていた。
また車体前面の形状が先の2車とはわずかに異なっているため、この部分で辛うじて識別することができる。
マギルス社製のSd.Kfz.231の生産数は明らかではなく、40両程度といわれている。
Sd.Kfz.231装甲偵察車の合計生産数が123両とされているのでその生産数は40両を下回ることになるが、いずれにせよはっきりした数字は残されていない。
またこの生産数には、無線装備型のSd.Kfz.232装甲無線車も含まれている。
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<Sd.Kfz.231(6-Rad)装甲偵察車(ダイムラー・ベンツ社製)>
全長: 5.57m
全幅: 1.82m
全高: 2.25m
全備重量: 5.7t
乗員: 4名
エンジン: ダイムラー・ベンツM09 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 65hp
最大速度: 65km/h
航続距離: 350km
武装: 55口径2cm機関砲KwK30×1 (200発)
7.92mm機関銃MG13×1 (1,500発)
装甲厚: 5〜14.5mm
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<Sd.Kfz.231(6-Rad)装甲偵察車(ビューシンクNAG社製)>
全長: 5.57m
全幅: 1.82m
全高: 2.25m
全備重量: 5.35t
乗員: 4名
エンジン: ビューシンクNAG タイプG 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン
最大出力: 60hp
最大速度: 65km/h
航続距離: 350km
武装: 55口径2cm機関砲KwK30×1 (200発)
7.92mm機関銃MG13×1 (1,500発)
装甲厚: 5〜14.5mm
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<Sd.Kfz.231(6-Rad)装甲偵察車(マギルス社製)>
全長: 5.57m
全幅: 1.82m
全高: 2.25m
全備重量: 6.0t
乗員: 4名
エンジン: マギルスS88 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 70hp
最大速度: 62km/h
航続距離: 300km
武装: 55口径2cm機関砲KwK30×1 (200発)
7.92mm機関銃MG13×1 (1,500発)
装甲厚: 5〜14.5mm
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<参考文献>
・「ジャーマン・タンクス」 ピーター・チェンバレン/ヒラリー・ドイル 共著 大日本絵画
・「パンツァー2014年5月号 ドイツAFVアルバム(384)」 城島健二 著 アルゴノート社
・「パンツァー2010年6月号 ドイツ6輪重装甲偵察車」 久米幸雄 著 アルゴノート社
・「ピクトリアル ドイツ装輪装甲車」 アルゴノート社
・「グランドパワー1999年12月号 ドイツ6輪装甲車」 佐藤光一 著 デルタ出版
・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版
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