SU-76対戦車自走砲
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+概要
SU-76対戦車自走砲は、ソ連軍が独ソ戦中に開発し完成させた最初の自走砲で、1945年までに合計12,671両と、T-34中戦車シリーズに次いで大量生産された戦闘車両である。
本車の開発の発端となったのは独ソ戦開始後各地に現れて、ソ連軍防御陣地に対して有効な攻撃を歩兵と共に仕掛けてきたドイツ軍のIII号突撃砲に直面したことだった。
ソ連軍も砲塔無しに戦車の車体に火砲を搭載する場合、通常の戦車よりも大口径で威力あるものが装備できる上、製造コストも安く済むことに着目したのである。
1942年4月に中央砲兵理事会は自走砲開発に関する予定の提出を要求したが、戦車の生産に追われていて自走砲を開発する予定は全く無かったので、急遽要求に応えるべくウラル重機械工場(UZTM)に機甲砲兵局を設立し、主砲兵設計チームのペトロフ将軍とグラービン技師とトロヤーノフ技師が共同で開発にあたることになった。
これに先立ち1942年の初頭に第38工場の設計チームによって、当時大量生産されていたT-60軽戦車のシャシーに、76.2mm師団砲ZIS-3の車載型である39.3口径76.2mm対戦車砲ZIS-3Shを組み合わせたOSU-76対戦車自走砲が製作されていたが、試験の結果、車体が小さ過ぎて76.2mm砲の操作性や射撃時の安定に問題があることが分かり、生産には至らずに終わっていた。
この結果を踏まえて同年春には、第92工場のグラービン技師のチームが第38工場チームと共同して、次に量産準備されていたT-70軽戦車のシャシーをベースに、車体長を延長して76.2mm対戦車砲ZIS-3Shを装備するSU-12対戦車自走砲を開発した。
この車両はOSU-76対戦車自走砲より大型化され、戦闘室も車体左右に張り出す大柄なものに変更されるなど全くの別物であった。
1942年夏にはSU-12対戦車自走砲の試験が行われ、その結果に満足した中央砲兵理事会は同年12月から「軽自走砲SU-76」の呼称で生産することを決め、年末までに26両が完成している。
SU-76対戦車自走砲は車体後部に戦闘室を設ける関係で、T-70軽戦車では車体後部にあった機関室は車体中央部に移され、車体が延長されたのに呼応して転輪と上部支持輪は片側1個ずつ増やされ、車体の幅も増加しており、足周りと車体前部の形状を除けばT-70軽戦車の面影はほとんど無かった。
SU-76対戦車自走砲の初期生産型は、2基のエンジンを左右それぞれの起動輪に繋げるため並列配置するというT-70軽戦車の初期生産型と同じ型式を採っていたが、推進力の調節がうまくいかずトラブル続きで充分な戦力にはならなかった。
このため1943年春になって、エンジンの装備方法を変更したSU-76M対戦車自走砲が設計された。
問題のエンジンは2基を別々に動かすのではなく直列に連結し、合成した出力で左右の起動輪を回すようにしていた。
こうした変更の結果、機関室関係の配置が一部変更されていた。
武装はSU-76対戦車自走砲と同じ76.2mm対戦車砲ZIS-3Shであり攻撃力に変わりは無いが、戦闘室のデザインが一部変更され戦闘動作が改善されていた。
後期生産分ではさらに、戦闘室の装甲配置が改善されている。
なおSU-76M対戦車自走砲の車体を用いて、73.8口径37mm対空機関砲61K(M1939)をオープントップの全周旋回式砲塔に装備したZSU-37対空自走砲が開発され、第37工場で1944年後半〜1946年にかけて数百両生産されている。
1943年夏のクールスク戦の頃には相当まとまった数のSU-76対戦車自走砲が戦線に登場し、歩兵師団の攻撃支援任務等に投入された。
ソ連軍の自走砲としては数少ないオープントップ式の戦闘室を持っていたが、東部戦線の厳しい冬の天候下で行動する際乗員に大変な苦痛を強い、また操縦室横に隔壁無しにエンジンを配置したため夏は操縦手にとって灼熱地獄であった。
このため大変有効な兵器であるとは認められていたものの、乗員たちからは「スーカ」(畜生)というまことに惨めな仇名が付けられていた。
SU-76対戦車自走砲は戦後ポーランドなど東欧諸国軍や朝鮮人民軍に供与され、1950年6月に勃発した朝鮮戦争にも投入された。
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<SU-76対戦車自走砲>
全長: 4.97m
全幅: 2.72m
全高: 2.10m
全備重量: 10.8t
乗員: 4名
エンジン: GAZ-202 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン×2
最大出力: 140hp/2,800rpm
最大速度: 45km/h
航続距離: 320km
武装: 39.3口径76.2mm対戦車砲ZIS-3Sh×1 (60発)
装甲厚: 7〜30mm
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<SU-76M対戦車自走砲>
全長: 4.97m
全幅: 2.72m
全高: 2.10m
全備重量: 11.2t
乗員: 4名
エンジン: GAZ-203 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン×2
最大出力: 170hp/3,600rpm
最大速度: 45km/h
航続距離: 250km
武装: 39.3口径76.2mm対戦車砲ZIS-3Sh×1 (60発)
装甲厚: 7〜30mm
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兵器諸元(SU-76対戦車自走砲)
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<参考文献>
・「パンツァー2011年3月号 大戦後半のソ連軍支援火力増強に大きく貢献したSU-76自走砲」 古是三春 著
アルゴノート社
・「パンツァー2000年12月号 ソ連・ロシア自走砲史(3) SU-76の登場」 古是三春 著 アルゴノート社
・「パンツァー2000年12月号 ソ連軍 SU-76/122自走砲」 古是三春 著 アルゴノート社
・「パンツァー2010年5月号 ラッチュ・ブムと17ポンド砲」 坂本雅之 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2006年4月号 旧ソ連の対戦車砲「ラッチ・ブム」と100mm砲を撃つ」 古是三春 著 ガリレオ
出版
・「グランドパワー2020年2月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(2)」 山本敬一 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2020年3月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(3)」 山本敬一 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2007年10月号 ソ連軍自走砲 SU-76」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2021年7月号 ソ連軍軽自走砲(2)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2001年10月号 ソ連軍軽戦車(2)」 古是三春 著 デルタ出版
・「グランドパワー2002年2月号 ソ連軍自走砲(3)」 古是三春 著 デルタ出版
・「世界の軍用車輌(1) 装軌式自走砲:1917〜1945」 デルタ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著 光人社
・「図解・ソ連戦車軍団」 齋木伸生 著 並木書房
・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー
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