サン・シャモン突撃戦車
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+概要
シュナイダー突撃戦車に続き、フランスにおける2番目の戦車として開発されたのがこのサン・シャモン突撃戦車である。
ル・クルーゾのシュナイダー社にわずかに遅れてSTA(Service Technique Automobile:自動車技術局)は、サン・シャモンのFAMH社(Forges
et Aciéries de la Marine et d'Homécourt:ホームコート造船・製鉄所)に、アメリカのホルト製作所製の装軌式牽引車ホルト・トラクターのシャシーを用いた装甲車両の開発を開始させた。
本車の設計は、フランス陸軍のエミール・リメロ大佐が担当した。
より強力な主砲を搭載することを考慮して、シャシーにはホルト・トラクター3両分の部品を用いて延長され、この上に大きな箱形構造を持つ装甲車体を架設したのが大きな特徴であった。
1916年2月には、完成した試作車を用いてシュナイダー突撃戦車との性能比較試験が実施された。
この試験において本車が満足すべき成績を収めたか否かは不明だが、1916年4月8日にシュナイダー突撃戦車の追加発注分であった400両を本車に振り替えることになり生産がスタートした。
本車は、FAMH社の所在地に因んで「サン・シャモン突撃戦車」(Char d' Assaut St. Chammond)と呼ばれるようになった。
サン・シャモン突撃戦車の主砲は長砲身の75mmサン・シャモンL12速射砲で、車体先端に左右各5度ずつの限定旋回式に搭載していた。
この当時としては特異ともいえる主砲配置に加えて、本車は「発電機-モーター駆動方式」いわゆるハイブリッド駆動方式を導入していたのが大きな特徴であった。
これはまずガソリン・エンジンより動力を抽出し、この動力により発電機を駆動させ発電機より発生した電力で左右それぞれ独立して装備されている電気モーターを駆動し、起動輪を介して履帯を駆動させるというものでもちろん世界初の実用化であった。
これは、当時の工業技術では大重量の車両に用いる機械式変速・操向機を製作するのが困難であったという事情が背景にあり、特に奇抜なコンセプトというわけではなく常識的な選択であった。
後にマルセイユのFCM社(Forges et Chantiers de la Méditerranée:地中海造船・製鉄所)が開発した70t級の2C重戦車などでも、やはり同様のハイブリッド駆動方式が採用されている。
ハイブリッド駆動方式は原理的には非常に優れたものと考えられ、機械式変速・操向機と異なり無段階の速度変更を行えるというのが売り文句であった。
しかし実際には左右の電気モーターの回転速度を同調させるのが難しく、また操向も思うようにはできないのが実態であり、さらには重量的にも機械式変速・操向機と比べて重いという欠点も有していた。
またサン・シャモン突撃戦車は長大な車体の割に履帯長が短いため、塹壕の幅が履帯長より大きいと履帯からオーバーハングした車体部分がつっかえて行動不能になるという欠点も抱えていた。
これらの問題がクローズアップされたのは、1917年5月5日にサン・シャモン突撃戦車が初めて実戦投入された時であった。
この戦闘に参加した16両のサン・シャモン突撃戦車の内、実に15両までがドイツ軍が構築した最初の塹壕でつっかえて身動きが取れなくなったのである。
また電気式変速・操向機の故障が続発し、行動不能になったところをドイツ軍の火砲で狙い撃ちされて撃破される車両が続出してしまった。
さらに外部視察能力も低く、脱出口の配置も不満足であるなどの問題も判明した。
このためサン・シャモン突撃戦車は生産中に改良が施されることとなり、車体の上面が従来のフラットなものから傾斜の付いたものになり、車体上面前部に2基設けられていた円筒形のキューポラは廃止され、上面前部左側に操縦手用の角形キューポラが新設された。
車体前端は高さを増して、車内の容積を拡大した。
さらに履帯もより軽量で幅の広い新型に換装され、併せて足周りを保護する装甲スカートが新設された。
ドイツ軍のSmK徹甲弾に対抗するため、一部の車両では増加装甲板が装着されている。
しかし、これらの改良は全車に対して施されるには至っていない。
また生産第176号車からは、主砲が当時のフランス陸軍の主力野砲であったAPX社(Atelier de Construction de Puteaux:ピュトー工廠)製の36口径75mm加農砲M1897に換装されている。
このM1897は重量7.2kgの榴弾を使用して砲口初速539m/秒、最大射程は6,850mに達し当時としては優秀な火砲であった。
また超壕幅を増すために、車体前面下に補助履帯が装着された車両も存在する。
サン・シャモン突撃戦車の生産は、1918年3月に第1次発注分の400両が完成した時点で終了した。
これは、より機動力に優れたルノーFT軽戦車の増産に資材を回すためであった。
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<サン・シャモン突撃戦車 前期型>
全長: 8.83m
車体長: 7.91m
全幅: 2.67m
全高: 2.36m
全備重量: 22.0t
乗員: 8名
エンジン: パナール 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン
最大出力: 85hp/1,350rpm
最大速度: 8.5km/h
航続距離: 20~30km
武装: 75mmサン・シャモンL12速射砲×1 (106発)
8mm重機関銃M1914×4 (7,488発)
装甲厚: 5~17mm
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<サン・シャモン突撃戦車 後期型>
全長: 8.83m
車体長: 7.91m
全幅: 2.67m
全高: 2.36m
全備重量: 24.0t
乗員: 8名
エンジン: パナール 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン
最大出力: 85hp/1,350rpm
最大速度: 8.5km/h
航続距離: 20~30km
武装: 36口径75mm加農砲M1897×1 (106発)
8mm重機関銃M1914×4 (7,488発)
装甲厚: 5 ~17mm
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兵器諸元
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<参考文献>
・「パンツァー2010年10月号 第一次大戦のフランス戦車(後) サン・シャモン突撃戦車」 坂本雅之 著 アルゴ
ノート社
・「パンツァー2014年10月号 第一次大戦の戦車総覧 初登場した地上戦の主役達」 荒木雅也 著 アルゴノー
ト社 ・「パンツァー2020年1月号 盾と矛(2) 第一次世界大戦の戦車と対戦車兵器」 小林源文 著 アルゴノート社
・「パンツァー2016年4月号 シュナイダー&サン・シャモン戦車」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2005年10月号 電気駆動車輌の研究と開発(1)」 林磐男 著 アルゴノート社
・「パンツァー2000年4月号 初期のフランス塹壕戦用戦車」 古是三春 著 アルゴノート社
・「世界の戦車 1915~1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「世界の戦車(1) 第1次~第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
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