マクマト160mm自走迫撃砲はイスラエルが1960年代後半に開発したアメリカ製のM4中戦車ベースの自走迫撃砲で、近距離での火力支援や夜間の機甲戦における戦場照明を主な任務としている。 ちなみに名称の「マクマト」(Makmat)とは、ヘブライ語で”Margema Kveda Mitnayaat:自走重迫撃砲”の略語である。 本車の製作は1969年からソルタム社の手で開始されたが、車台として流用されたのはオリジナルのM4中戦車ではなく、イスラエルによるM4中戦車の近代化改修型であるM50スーパー・シャーマン戦車および、アメリカが第2次世界大戦中にM4A3中戦車をベースに開発し、戦後にフランス経由でイスラエルが入手したM7B1 105mm自走榴弾砲の車台であった。 これらの車台にアメリカのカミンズ社製のVT8-460-B1 V型8気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力460hp)への換装、HVSS(Horizontal Volute Spring Suspension:水平渦巻スプリング・サスペンション)と幅広型履帯への交換を実施した上で、車体前部に設けられたディファレンシャル・カバーから車体後端までを覆うオープントップ式の大型戦闘室を構成し、戦闘室内の最前部にソルタム社製の後装式160mm迫撃砲M66を3脚式のマウントを介して搭載した。 この160mm迫撃砲M66は、フィンランドのタンペラ社製の後装式160mm迫撃砲を基にソルタム社が開発したもので、弾薬も同社のものが使用される。 機関室点検用ハッチの前方にあたる部分の戦闘室内には隔壁が立てられており、ここから後方の装甲板は折り畳み式に開放できるようになっている。 戦闘室の前面装甲板は油圧シリンダーによって前方に水平に倒すことができ、前方に対する射撃の際に装填手のプラットフォームとして利用できるようになっている。 ディファレンシャル・カバーから機関室の隔壁までの車体内部には、袖板よりわずかに下がった位置に床板が設けられており、操縦室にあたる部分の床板は左右それぞれ3枚ずつに分かれて開けることができる。 これは、操縦室の後方に弾薬庫を設けているためである。 操縦手席は車体前部左寄りにあり、戦闘室前面装甲板の左側には操縦手用に防弾ガラスを収めた視察プレートが設けられている。 この視察プレートは必要に応じて上方に開くことができ、前面装甲板を装填手のプラットフォームに使用する際には内側を鉄板のカバーで塞ぐようになっている。 主武装の160mm迫撃砲M66は旋回式台座を備えていないため限定旋回式で、+43〜+70度の俯仰角を備え、5kgの炸薬を充填した重量40kgの160mm砲弾を最大9,600mまで飛ばすことができる。 1分間に5〜8発の持続射撃が可能で、照明弾や発煙弾も発射することができる。 戦闘室内の左右側面には砲弾ラックが設けられており、床下に設けられた弾薬庫と合わせて56発の160mm砲弾を収容することができる。 また戦闘室の床とフェンダーとの間にできた車体側面の空間は収納スペースとして利用されており、車体側面下側には収納スペースの小ハッチがずらりと並んでいる。 戦闘室内には乗員6〜8名が収まり、前面装甲板の右側には12.7mm重機関銃M2、左右の側面装甲板には7.62mm機関銃FN-MAGのマウントがそれぞれ用意されている。 これらの改修によりマクマト自走迫撃砲の戦闘重量は36.6tとオリジナルのM4中戦車より大幅に増加しているが、新型ディーゼル・エンジンへの換装によって路上最大速度は43km/hと高速性を維持しており、路上航続距離は300kmと逆にオリジナルより向上している。 マクマト自走迫撃砲は1970年代初めに部隊配備が開始されたと思われるが、その後アメリカからM113装甲兵員輸送車ベースの自走迫撃砲が導入されたためすでに多くが退役したものと推測される。 |
<マクマト160mm自走迫撃砲> 全長: 全幅: 全高: 全備重量: 36.6t 乗員: 6〜8名 エンジン: カミンズVT8-460-B1 4ストロークV型8気筒液冷ディーゼル 最大出力: 460hp/2,600rpm 最大速度: 43km/h 航続距離: 300km 武装: 160mm迫撃砲M66×1 (56発) 12.7mm重機関銃M2×1 (1,000発) 7.62mm機関銃FN-MAG×2 (2,000発) 装甲厚: |
<参考文献> ・「グランドパワー2006年2月号 イスラエル軍のシャーマン(2)」 箙浩一 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「パンツァー2013年10月号 イスラエル国防軍の現状」 永井忠弘 著 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート18 メルカバとイスラエルMBT」 アルゴノート社 |