SK105軽戦車

SK105/A1軽戦車

SK105/A2軽戦車

SK105/A3軽戦車

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+開発
SK105軽戦車は、オーストリア初の国産装軌式APC(装甲兵員輸送車)である、4K4FA装甲兵員輸送車シリーズの開発・生産を手掛けた、ウィーンのオーストリア・ザウラー製作所(1969年にシュタイアー・ダイムラー・プフ社に吸収合併された)が、1960年代後期に開発したオーストリア初の国産軽戦車で、「キュラシェーア」(Kürassier:胸甲騎兵)の愛称を持つ。
オーストリア政府は1955年に永世中立国となることを宣言したため、自国軍が装備する兵器の国産化を積極的に進める必要に迫られた。
そして陸戦兵器については、まず各種車両のプラットフォームとなり得る装軌式APCの開発が進められることになり、装軌式車両の開発経験は無かったものの、優れたディーゼル・エンジンの開発能力を持っていたザウラー製作所が開発メーカーとして選定された。
ザウラー製作所はオーストリア政府の求めに応じて、1957年に新型装軌式APCの開発に着手し、これが最終的に4K4FA装甲兵員輸送車シリーズの誕生に繋がることになる。
4K4FA装甲兵員輸送車シリーズの生産は1961年にザウラー製作所の手で開始されたが、オーストリア政府はかなり早い段階から4K4FA装甲兵員輸送車の車体をベースに、初の国産軽戦車を開発することを計画していたようで、ザウラー製作所は政府の求めに応じて1965年に新型軽戦車の開発に着手している。
この新型軽戦車は「SK105」と名付けられ、1967年に試作第1号車が完成した。
2年後の1969年には試作第2号車も完成して、オーストリア陸軍の手で運用試験が実施された。
運用試験の結果が良好だったため、オーストリア政府はSK105軽戦車の陸軍への採用を決定し、まず5両の先行生産型の製作をシュタイアー・ダイムラー・プフ社に発注した。
続いて1971年から、SK105軽戦車の本格的な生産が同社の手で開始され、オーストリア陸軍向けの生産は1989年まで続けられた。
SK105軽戦車は、オーストリア陸軍向けとして286両が生産されたのに加え、海外にも多数が輸出されている。
本車の海外における最大の顧客となったのはアルゼンチンで150両を導入しており、他にもモロッコに109両、イラクに100両、チュニジアに54両、ボツワナに52両、ボリヴィアに34両、ブラジルに17両が輸出されている。
オーストリア陸軍のSK105軽戦車の内133両はすでに退役しており、イラクに輸出されたSK105軽戦車もすでに退役した模様である。
なお、SK105軽戦車の生産メーカーであるシュタイアー・ダイムラー・プフ社は、1998年に軍用車両部門を「SSF」(シュタイアー・ダイムラー・プフ特殊車両)の名前で、オーストリアの投資会社に売却している。
SSF社は、2003年にアメリカのジェネラル・ダイナミクス社によって買収され、GDELS(ジェネラル・ダイナミクス・ヨーロピアン・ランド・システムズ)社の中核を担う企業の1つである、GDELSシュタイアー社に改組された。
2014年にはSK105軽戦車の生産とサポートに関する全ての権利が、GDELSシュタイアー社からベルギーのDUMA工業に移譲されている。
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+攻撃力
SK105軽戦車の砲塔は、フランス陸軍のAMX-13軽戦車モデル58に搭載されている、同国のGIAT社(Groupement Industriel
des Armements Terrestres:陸上兵器企業連合、2006年にネクスター社に改組)製のFL-12揺動砲塔をベースに、シュタイアー社が独自の改良を施したJT1揺動砲塔を搭載している。
このJT1揺動砲塔は、上部と下部に分かれた砲架が左右両端にある軸で結合され、この軸が砲耳の役割を担うことによって、上部砲架ごと主砲が俯仰するものである。
揺動砲塔の長所としては、
・車体規模と比べて大口径の主砲を装備することができる
・照準機を主砲と連動するようにするための複雑な機構が不要
・自動装填装置の導入が容易
・通常の砲塔に比べて砲塔サイズがコンパクトなため、被発見性や被弾確率が低い
一方短所としては、
・その構造上の特性から、砲塔が上下2分割となるため砲塔の構造は複雑となり、またその部分が防御上の弱点
となってしまう
・通常の砲塔と比べると密閉性で劣るため、NBC防護や渡河機能などで困難が生じる
なお前述のように、砲塔サイズがコンパクトな点を揺動砲塔の長所として挙げたが、これは砲塔内乗員の居住性の悪化にも繋がるため同時に短所でもある。
SK105軽戦車と同様に揺動砲塔を採用しているAMX-13軽戦車の場合、砲塔内が非常に狭いため、乗員の身長を173cm以下に制限していたそうである。
SK105軽戦車ではそのような話は聞かないが、砲塔内の居住性が悪いのはAMX-13軽戦車と同様であると思われる。
SK105軽戦車が搭載するJT1揺動砲塔には、主砲としてGIAT社製の44口径105mm低反動ライフル砲CN-105-57(D1504)が装備されている。
このCN-105-57は元々、イスラエル陸軍のM51スーパー・シャーマン戦車の主砲としてフランスとイスラエルが共同開発したもので、フランス陸軍の戦後第2世代MBT(主力戦車)であるAMX-30戦車の主砲に採用されている、GIAT社製の56口径105mmライフル砲CN-105-F1(D1511)を原型としている。
西ドイツ陸軍のレオパルト1戦車やアメリカ陸軍のM60戦車など、西側諸国の戦後第2世代MBTの主砲に広く採用された、イギリスの王立造兵廠(現BAEシステムズ・ランド&アーマメンツ社)製の51口径105mmライフル砲L7は、砲口初速1,470m/秒のAPDS(装弾筒付徹甲弾)を主用弾種としていたが、CN-105-F1は「G弾」(OCC-105-F1)と呼ばれる、特殊な構造のHEAT(対戦車榴弾)を主用弾種としていた点が大きく異なっている。
一般的にライフル砲で撃ち出されたHEATは、その装甲穿孔力の根源となる成形炸薬のジェット噴流が、砲弾の回転による遠心力によって拡散するため、滑腔砲で撃ち出された同じ炸薬量のHEATよりも、装甲穿孔力が2~3割減少するのが普通である。
これを解消するためにG弾は弾殻が内外二重構造になっていて、外殻だけが主砲内壁のライフリングと噛み合って回転するようになっており、内殻と成形炸薬は回転しないため高い装甲穿孔力を発揮することができる。
ちなみにG弾の装甲穿孔力は、射距離に関わらずRHA(均質圧延装甲板)換算で360mmとなっている。
ただし、CN-105-F1は砲口初速が1,000m/秒もあるため発砲時の反動が大きく、砲身も長くて重かったため、小柄なシャーマン戦車にそのまま搭載するのは困難であった。
そこでシャーマン戦車に搭載できるよう、CN-105-F1の砲身長を1.5m短縮して砲の軽量化を図ると共に、砲口初速を800m/秒まで落として発砲時の反動を減らすことになった。
砲口初速が200m/秒も低下したら、その影響は運動エネルギー弾であれば著しい装甲貫徹力の低下となって現れるが、化学エネルギー弾であるG弾には全く影響が生じなかった。
なお砲身長の短縮によって、砲の総重量はCN-105-F1の2,470kgから、約半分の1,210kgへと大幅に減少した。
砲身長の短縮に伴う砲口初速の低下だけでは反動の減少が充分ではなかったため、駐退・復座機構にも改良が施された他、砲身先端に板金溶接製の巨大な砲口制退機が装着された。
また、狭い砲塔内でも砲弾の装填操作をスムーズに行えるよう、閉鎖機がCN-105-F1の垂直鎖栓式から水平鎖栓式に改められた。
こうして完成した、105mm低反動ライフル砲CN-105-57を装備したM51スーパー・シャーマン戦車は、1962年から生産が開始され、1967年の第3次中東戦争(6日戦争)、1973年の第4次中東戦争(ヨム・キプール戦争)において大活躍している。
M51戦車のような小柄な車両にも搭載可能な105mm低反動ライフル砲CN-105-57は、SK105軽戦車の主砲として打って付けであり、またイスラエル陸軍による実戦運用においてその有用性が証明されていたため、オーストリア政府はこのCN-105-57を、SK105軽戦車の主砲に採用することを決定したのである。
なお、SK105軽戦車に装備されているCN-105-57は、M51戦車のものとは外観が異なっており、砲口制退機が小型化され、砲身に熱の影響による歪みを補正するためのサーマル・スリーブが装着されている。
またSK105軽戦車は副武装として、主砲の右側に7.62mm機関銃MG74を1挺同軸装備している。
このMG74は、シュタイアー・マンリヒャー社とイタリアのピエトロ・ベレッタ火器製作所が、オーストリア陸軍向けに共同開発した汎用機関銃で、寿命延長と照準精度の向上のため、最大発射速度が850発/分に抑えられている。
SK105軽戦車の車内には、合計2,000発の7.62mm機関銃弾が搭載されている。
JT1揺動砲塔は全周旋回が可能で、主砲の俯仰角は-8~+12度となっている。
砲塔の旋回と主砲の俯仰は油圧または手動で駆動され、砲手・車長双方の席に操作スイッチが設置してある。
油圧駆動時に砲塔の全周旋回に要する時間は、約13秒である。
なおSK105軽戦車は製造コストを削減するため、主砲の安定装置を装備していない。
砲塔の左右側面前部には、各3基ずつ80mm発煙弾発射機が装備されている他、砲塔後部のバスル上部には、XSW-30白色光/赤外線サーチライトが装備されている。
砲塔内には主砲を挟んで左側に車長、右側に砲手が位置し、車長の頭上には7基のペリスコープを備えるキューポラ、砲手の頭上には2基のペリスコープとスライド式のハッチが設けられている。
車長用の照準装置は倍率1.6/7.5倍切り替え式のペリスコープ照準機、砲手用の照準装置は倍率8倍のテレスコピック照準機に加えて、400~9,995mの到達距離を持つレーザー測遠機が用意されており、夜間照準用には倍率6倍のアクティブ式赤外線照準ペリスコープが用いられる。
砲塔後部のバスル内には、主砲弾薬6発を収める回転式弾倉が並列に2基搭載されており、半自動装填装置の採用により、主砲弾薬の装填から排莢までが自動的に行われ、12発/分の主砲発射速度を誇っている。
主砲弾薬の排莢は、砲塔後面の中央に設けられた左開き式の小ハッチより行われる。
砲塔内の主砲弾薬を撃ち尽くしたら、操縦室内の右側に設けられた主砲弾薬庫に収められている予備弾薬を用いて、砲塔後部バスルの上面左右に設けられている給弾用ハッチから人力で給弾を行う。
SK105軽戦車の主砲弾薬の搭載数は、合計44発となっている。
本車の主砲である105mm低反動ライフル砲CN-105-57で用いられる弾薬は、原型となった105mmライフル砲CN-105-F1用のものと同じ弾頭のものであるが、小振りな揺動砲塔に搭載できるように装薬量が減らされた減装弾となっており、弾種として対装甲目標用のHEATの他、非装甲目標用のHE(榴弾)、発煙弾の3種類が用意されている。
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+防御力
SK105軽戦車の車体は、国産の4K4FA装甲兵員輸送車のものをベースとし、これにフランス製のAMX-13軽戦車と同系列の揺動砲塔を組み合わせており、戦闘重量18tの軽戦車でありながら105mm戦車砲を装備している。
砲塔を既存の外国製軽戦車から流用した理由は開発コストの削減と、戦車開発の経験が無い国内メーカーのみで、戦車を一から新規開発するのが困難であったという事情による。
AMX-13軽戦車はフランスが戦後初めて開発した国産軽戦車で、1951年にフランス陸軍に制式採用されているが、同車の車体は輸送機による空中輸送ができるよう極力小型化・軽量化を図って設計されており、砲塔もそれに合わせて非常にコンパクトにまとめられていた。
そのためAMX-13軽戦車の砲塔は、良く似た用途のSK105軽戦車を開発するにあたり、オーストリア政府が要求した内容に合致し、かつ4K4FA装甲兵員輸送車の車体上に収まる大きさになっていたのである。
SK105軽戦車の車体は、一見するとAMX-13軽戦車のものと良く似ているが、AMX-13軽戦車がフロント・エンジンであるのに対し、SK105軽戦車はリア・エンジンとなっている。
通常、戦車は車体中央部に砲塔を搭載した戦闘室を設ける関係から、エンジンは車体後部に配置される場合が多いが、AMX-13軽戦車は開発・製造コストの低減を目的に、フランス陸軍のAMX-VCI歩兵戦闘車や、Mle.61
105mm自走榴弾砲と車体設計の共通化が図られため、例外的にエンジンを車体前部に搭載している。
SK105軽戦車の車体の設計ベースとなった4K4FA装甲兵員輸送車も、車体後部に兵員室を設ける必要性から、AMX-13軽戦車と同様フロント・エンジンとなっており、本来ならSK105軽戦車も、4K4FA装甲兵員輸送車の車体をそのまま流用して開発コストを抑えれば良いように思えるが、なぜかオーストリア政府はSK105軽戦車をリア・エンジンの車両として開発することを求めた。
その理由ははっきりしないが、リア・エンジンとしたことでSK105軽戦車の車体は、原型の4K4FA装甲兵員輸送車と大幅に構造が異なるものとなり、結果としてSK105軽戦車の開発コストの上昇と、ファミリー化の意義の低下を招いたことは間違いない。
SK105軽戦車の車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室という一般の戦車と同様のものである。
車体前端にはAMX-13軽戦車と同じく、主砲固定用のトラヴェリングロックが取り付けられている。
ただし本車は、敵の戦車砲弾に耐えられる装甲防御力は備えておらず、車体前面で20mm徹甲弾の直撃に耐えられる程度である。
SK105軽戦車の車体各部の装甲厚は、原型となった4K4FA装甲兵員輸送車と基本的に同様で、前面が20mm、側面が14mm、後面が12mm、上面が8mmとなっている。
一方砲塔の装甲厚は前面が40mm、側面が20mm、後面と上面が10mmとなっており、車体に比べると高い装甲防御力を備えているものの、やはり敵の戦車砲弾に耐えることは不可能である。
このあたりは製造コストの安い軽戦車の限界であり、元々本車は機甲戦力の主力たるMBTを補完する支援車両であるため、高い装甲防御力は求められていない。
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+機動力
前述のように、SK105軽戦車の車体前部は操縦室となっているが、操縦手は操縦室内の左側に位置しており、車体上面に専用のスライド式ハッチが設けられている。
操縦手用ハッチの前方には3基のペリスコープが装備されており、いずれも小さなワイパーが装着された透明なカバーが取り付けられている。
また中央のペリスコープは、任意にパッシブ式夜間ペリスコープに交換することが可能である。
操縦手席の右側には、バッテリーや予備の主砲弾薬等が収められている。
SK105軽戦車のエンジンは、シュタイアー社製の7FA 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力320hp)が搭載されており、西ドイツのZF社(Zahnradfabrik
Friedrichshafen:フリードリヒスハーフェン歯車製作所)製の、S6-80手動変速・操向機(前進6段/後進1段)と組み合わされている。
操向機には流体クラッチ式が採用されているため、操向操作はやり易いものとなっている。
エンジンと変速・操向機はパワーパックとして一体化されて、車体後部の機関室に収められている。
また機関室内には自動消火装置が取り付けられており、炎が空気取入口に侵入した場合には外部吸気口を閉じて、戦闘室側から空気をエンジンに取り込めるように切り替えることが可能になっている。
SK105軽戦車のサスペンションは、原型となった4K4FA装甲兵員輸送車と同様のトーションバー(捩り棒)方式で、原型と同じく片側5個の転輪を懸架している。
最前部と最後部の転輪に油圧式のショック・アブソーバーを装着している点も、原型と同様である。
ただし上部支持輪の数は、4K4FA装甲兵員輸送車の片側2個から3個に増やされている。
この足周りによってSK105軽戦車は、原型を上回る路上最大速度70km/hの機動性能を発揮する。
また本車は、燃料タンクの容量が4K4FA装甲兵員輸送車の184リットルから、倍以上の420リットルに増やされているため、路上航続距離も原型の370kmから520kmへと増大している。
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+改良型
前述のようにオーストリア陸軍は、1971年からSK105軽戦車の導入を開始したが、運用を続ける内に操縦性の悪さや、FCS(射撃統制装置)の性能不足、主砲の火力不足などの問題点が指摘されるようになった。
そこでシュタイアー社は、1970年代末に改良型のSK105/A1軽戦車を開発し、オーストリア政府に対して陸軍への採用を提案した。
SK105/A1軽戦車では、操作が容易で出力ロスの少ないZF社製の6HP600自動変速・操向機(前進6段/後進1段)に換装され、FCSも強化が図られている。
主砲も、GIAT社製の44口径105mm低反動ライフル砲CN-105-G1に換装され、砲口初速1,475m/秒のOFL-105-G1 APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を発射できるようになった。
また主砲弾薬の装填装置も、従来の半自動式から全自動式に改められている。
SK105軽戦車の従来の主用弾種である、OCC-105-F1 HEATの装甲穿孔力がRHA換算で360mmであるのに対し、OFL-105-G1 APFSDSはRHA換算で500mmの装甲貫徹力を備えており(射距離不明)、砲口初速もHEATに比べてはるかに大きいため、SK105軽戦車は主砲の換装によって対装甲威力、命中精度が大幅に向上することになった。
しかしオーストリア政府は、予算などの問題で結局SK105/A1軽戦車の採用を見送り、同車は試作車の製作のみに終わった。
それでもシュタイアー社はSK105軽戦車の改良研究を続行し、1981年には主砲を105mm低反動ライフル砲CN-105-G1に換装すると共に、2軸砲安定装置を導入し、FCSをディジタル化して命中精度の向上を図った、SK105/A2軽戦車の試作車を完成させた。
このSK105/A2軽戦車では、車長用にパッシブ式夜間照準機が装備された他、砲塔の旋回と主砲の俯仰が従来の油圧駆動式から、反応が早く火災の危険性が低い電動式に改められ、主砲の最大仰角も+12.5度まで引き上げられた。
さらに砲塔の装甲強化も図られており、それに伴って砲塔の形状が従来から変化している。
またエンジンが、シュタイアー社製の9FA 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力370hp)に強化され、さらにサスペンションのトラベル長を延長して機動性の改善も図られた。
このためSK105/A2軽戦車は、戦闘重量が原型の17.5tから18.6tに増加したにも関わらず、路上最大速度は70km/hを維持し、航続距離がカタログ値で20km低下したのみである。
検討の結果オーストリア政府は、このSK105/A2軽戦車を陸軍の装備として採用することを決定し、シュタイアー社が1982年以降にオーストリア陸軍向け、および輸出用に生産したSK105軽戦車は全て、このA2仕様として完成している。
さらにシュタイアー社は1985年に、既存のSK105軽戦車をA1仕様に改める近代化改修プランを、オーストリア政府に提案している。
このプランは、SK105軽戦車の車体と砲塔の前面に増加装甲板を装着し、105mm低反動ライフル砲CN-105-G1への主砲の換装、および6HP600自動変速・操向機の導入やFCSのディジタル化等が盛り込まれていた。
財政難に悩むオーストリア政府は、この近代化改修プランを導入してSK105軽戦車の運用寿命を延長する方針を決定し、1981年以前に生産されたオーストリア陸軍のSK105軽戦車に対する改修作業が、シュタイアー社の手で実施された。
なおこの際に、従来は砲塔後部バスルの上部に装備されていた赤外線/白色光サーチライトが、砲塔前面左側に移されたので、A1型と他のタイプとの識別は容易である。
さらにシュタイアー社は1986年に、SK105軽戦車の最新ヴァージョンであるSK105/A3軽戦車を発表した。
このA3型は火力の強化を主眼に開発された改良型であり、主砲がアメリカ陸軍のM60戦車シリーズに採用されているものと同じ、同国のウォーターヴリート工廠製の51口径105mmライフル砲M68(105mmライフル砲L7の派生型)に換装されている。
105mmライフル砲M68は、劣化ウラン弾芯を持つ最新のM900 APFSDSを使用した場合、砲口初速1,505m/秒、射距離1,000mにおいて600mm厚のRHAを貫徹することが可能である。
このM68砲は威力が大きい反面発砲時の反動が大きく、そのままSK105軽戦車に搭載するのは困難だったため、シュタイアー社は駐退・復座機構の改良を図ることで発砲時の反動を低減させている。 また主砲用の回転式弾倉が再設計された他、砲塔前面の装甲厚がさらに強化されている。
なお、主砲が換装されたことに伴って主砲弾薬の全長が従来より増大したため、主砲弾薬の搭載数は33発に減少している。
これらの改良に伴ってA3型は戦闘重量が20.7tに増加したため、路上最大速度が従来の70km/hから67km/hへと若干低下している。
SK105/A3軽戦車は、初期型のSK105軽戦車と比べると格段に総合性能が向上しているが、その反面軽戦車としては高価な車両となってしまったため、結局オーストリア政府はA3型の採用を見送り、今のところ海外への輸出にも成功していない模様である。
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+派生型
SK105軽戦車の派生型としては、戦車回収車と戦闘工兵車、そして操縦訓練車が開発されている。
戦車回収車は「グライフ」(Greif:古代ギリシャの書物に登場する想像上の生物「グリュプス」のドイツ語名、顔は鷲で体はライオン、そして大きな翼を持っている)という愛称を与えられており、SK105軽戦車の車体前部に箱型の上部構造物を設け、その右前部に油圧式クレーンを装備している。
上部構造物は車体と比べるとかなり大きなもので、左側面に2枚のドアを持つ他、前上部に2個のハッチを並列で備え、その後ろに車長用キューポラが設けられている。
キューポラ前方にはピントルマウントを介して、アメリカのブラウニング火器製作所製の12.7mm重機関銃M2が1挺装備されており、キューポラ後方には後ろ向きに4連装の発煙弾発射機が装備されている。
本車の乗員は、SK105軽戦車より1名多い4名となっている。
油圧式クレーンは旋回範囲234度、俯仰範囲0~+90度で、最大6tの吊り上げ能力を持つもので、クレーン・ブームは通常の3mから3.9mまで伸ばすことができ、SK105軽戦車の砲塔を吊り上げることができる能力を持っている。
車体下部には20tの牽引能力を持つウィンチが搭載されており、牽引ケーブルは車体前面下方に設けられた円形ハッチから引き出されるようになっている。
また、車体前面には障害物除去用のドーザー・ブレイドも装備されており、これを駐鋤代わりに用いることで、作業時に車体を安定させることもできる。
そして、このグライフ戦車回収車の車体を改良して製作されたのが、戦闘工兵車である。
本車には「ピオニール」(Pionier:工兵)という愛称が与えられており、クレーンの代わりにドリルやショベルなどの掘削装置を取り付けられるマルチアームを搭載し、車体前面のドーザー・ブレイドは、より排土能力の高い建機用のタイプに換装されている。
そして、車体内部に搭載されたウィンチは車両の回収に使用しないため、汎用性の高い牽引能力8tのものに換えられている。
操縦訓練車はSK105軽戦車から砲塔を撤去し、車体上部に大型の窓を備えたキャビンを設けた車両である。
この車両は、SK105軽戦車から砲塔を外すだけで特別な改造を必要としないため、2時間程度で製作することが可能である。
また有事の際は、同じく2時間ほどで元の戦車に戻すことが可能になっている点もユニークである。
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SK105軽戦車
全長: 7.763m
車体長: 5.582m
全幅: 2.50m
全高: 2.529m
全備重量: 17.5t
乗員: 3名
エンジン: シュタイアー 7FA 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 320hp/2,300rpm
最大速度: 70km/h
航続距離: 520km
武装: 44口径105mm低反動ライフル砲CN-105-57×1 (44発)
7.62mm機関銃MG74×1 (2,000発)
装甲厚: 8~40mm
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SK105/A1軽戦車
全長: 7.735m
車体長: 5.582m
全幅: 2.50m
全高: 2.529m
全備重量: 17.7t
乗員: 3名
エンジン: シュタイアー 7FA 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 320hp/2,300rpm
最大速度: 70km/h
航続距離: 520km
武装: 44口径105mm低反動ライフル砲CN-105-G1×1 (44発)
7.62mm機関銃MG74×1 (2,000発)
装甲厚:
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SK105/A2軽戦車
全長: 7.698m
車体長: 5.582m
全幅: 2.50m
全高: 2.529m
全備重量: 18.6t
乗員: 3名
エンジン: シュタイアー 9FA 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 370hp/2,300rpm
最大速度: 70km/h
航続距離: 500km
武装: 44口径105mm低反動ライフル砲CN-105-G1×1 (39発)
7.62mm機関銃MG74×1 (2,000発)
装甲厚:
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SK105/A3軽戦車
全長: 8.729m
車体長: 5.582m
全幅: 2.50m
全高: 2.529m
全備重量: 20.7t
乗員: 3名
エンジン: シュタイアー 9FA 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 370hp/2,300rpm
最大速度: 67km/h
航続距離: 500km
武装: 51口径105mmライフル砲M68×1 (33発)
7.62mm機関銃MG74×1 (1,600発)
装甲厚:
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グライフ戦車回収車
全長: 6.71m
全幅: 2.50m
全高: 3.02m
全備重量: 19.8t
乗員: 4名
エンジン: シュタイアー 7FA 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 320hp/2,300rpm
最大速度: 68km/h
航続距離: 625km
武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (1,500発)
装甲厚:
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ピオニール戦闘工兵車
全長: 7.49m
全幅: 2.50m
全高: 3.15m
全備重量: 21.0t
乗員: 4名
エンジン: シュタイアー 7FA 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 320hp/2,300rpm
最大速度: 65km/h
航続距離: 600km
武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (1,500発)
装甲厚:
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参考文献
・「パンツァー2013年6月号 オーストリアのザウラー装甲/戦闘兵車」 荒木雅也 著 アルゴノート社
・「パンツァー2009年5月号 オーストリア陸軍 SK105軽戦車」 前河原雄太 著 アルゴノート社
・「パンツァー2013年8月号 第二次大戦後の軽戦車の展望」 大竹勝美 著 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート55 世界の戦闘車輌 2017」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021~2022」 アルゴノート社
・「戦闘車輌大百科」 アルゴノート社
・「世界の戦車(2)
第2次世界大戦後~現代編」 デルタ出版
・「世界の戦闘車輌 2006~2007」 ガリレオ出版
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社
・「世界の戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」 洋泉社
・「戦車名鑑
1946~2002 現用編」 コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版
・「世界の戦車 完全網羅カタログ」 宝島社
・「決定版 世界の戦車FILE」 学研
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