FV101スコーピオン軽戦車
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スコーピオン軽戦車 試作第1号車
FV101スコーピオン軽戦車
スコーピオン90軽戦車
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+開発と生産
イギリス戦争省は1960年に、1956年からコヴェントリーのアルヴィス社で量産が開始された6×6型の、FV601「サラディン」(Saladin:サラセンの王で十字軍をさんざん悩ませたことで知られる)戦闘偵察車の後継となる車両についての要求仕様をまとめたが、その内容は偵察を主任務とするが単に偵察に留まらず、ある程度の歩兵支援能力を備え、対戦車戦闘能力も持たせるという一種の多目的戦闘車両とされた。
これに対して、ロンドン西方のサリー州チョバムに置かれた「FVRDE」(Fighting Vehicles Research and Development
Establishment:戦闘車両研究開発局)は、「AVR」(Armored Vehicle Reconnaissance:偵察用装甲車両)というプランを提示した。
これは、半埋没式の砲塔に75mm戦車砲を装備する重量13.5tの装軌式の車両であり、砲塔の旋回範囲は左右各90度ずつで、操縦手を含む3名の乗員全員が砲塔内に位置することになっていた。
エンジンについては、当時開発が進められていたFV433「アボット」(Abbot:大司教)105mm自走榴弾砲への採用が検討されていた2種類のエンジンのいずれか、(ダービーのロールズ・ロイス社製のK60
直列6気筒液冷ディーゼル・エンジン(240hp/3,750hp)か、同社製のB81 直列8気筒液冷ガソリン・エンジン(185hp/3,750rpm))を採用する予定であった。
また当時の流行に従って車体後部左右に、ヒートンチャペルのフェアリー航空機産業と、ウェストミンスターの英国航空機(現BAEシステムズ社)が共同開発した「スウィングファイア」(Swingfire:曲がる炎)対戦車ミサイルの起倒式5連装発射機を、前方へ向けて装備することになっていた。
さらに、本車に105mm榴弾砲を装備して砲兵部隊に配備することも検討されたらしい。
1961年、戦争省はAVRと同様の任務に用いる装輪式車両の開発も計画するが、FVRDEはこれに対してやはりAVRと同様、75mm戦車砲とスウィングファイア対戦車ミサイルを装備する重量13.6tの車両のプランを提示した。
戦争省はこれらの両プランを比較検討したが、装軌式、装輪式、それぞれに特有の長所と短所があることから、単純な比較はできないとしてサラディン戦闘偵察車の後継車両の開発計画そのものを、一旦白紙とすることを決定した。
1964年春、戦争省は改めて軽量装甲車両の開発計画「CVR」(Combat Vehicle Reconnaissance:戦闘偵察車両)を立案するが、大変興味深いことにCVR計画では、装軌式と装輪式の2つの仕様の車両を並行して開発することとされていた。
そして開発・生産・運用に掛かるコストの低減のため、CVRシリーズの車両は全て共通のエンジンを搭載することになっていた。
さらに重量を始めとする車両規模についても、当時のイギリス軍の最新鋭輸送機であるAW.660「アーゴシー」(Argosy:大型船)中型輸送機や、開発中であったHS.780「アンドーヴァー」(Andover:イングランド南部の町名)中型輸送機の積載規格に適合させることとなった。
これら2つのプランは装軌式が「CVR(T)」、装輪式が「CVR(W)」(”T”はTracked:装軌式、”W”はWheeled:装輪式の頭文字)と呼称され、全幅を可能な限り抑制し、重量は基本的に6.5~7.7t程度とすること。
高い機動力と全周からの軽火器の攻撃に対する抗堪性、および24時間の連続戦闘に乗員が耐えられるだけの居住性の確保。
そして空中からのパラシュートによる投下を考慮し、さらに車体の延長などにより、対戦車戦闘から兵員輸送までの任務に対応できる発展型を製作できることとされた。
このうち装輪式のCVR(W)は、後にFV721「フォックス」(Fox:キツネ)装甲偵察車として制式化されることになるが、この時「可能な限りの全幅の抑制」に関しては、「2.1m程度」という数値が挙げられていた。
これは、東南アジア地域のゴム農園内での本車の運用を想定した結果であり、イギリスは当時、相次ぐ植民地の喪失に悩んでいたのだが、それでもそうした地域への武力介入の意志を放棄せず、このような車両の製作を計画していたのである。
1964年8月、FVRDEは新型装軌式車両CVR(T)の構想を具体化するために、「TV15000」(Test Vehicle 15000)と呼ばれる実験車体を製作し、主に走行性能についての試験を開始した。
15000とは本車の重量15,000ポンド(6.804t)を表し、砲塔を搭載してはいなかったが、防弾アルミ製の装甲板やその構成などは、後のFV101「スコーピオン」(Scorpion:サソリ)軽戦車とほぼ同じものとなっていた。
なお前述のようにCVR(T)/CVR(W)は当初、アボット自走榴弾砲と同じロールズ・ロイス社製のエンジンを搭載する予定であったが、後にコヴェントリーのジャギュア自動車製の、J60
No.1 Mk.100B 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(190hp/4,750rpm)に変更された。
TV15000は、サスペンション機構を油気圧方式とすることで走行性能の向上を期待したが、複雑で重量を食うこの機構は本車との相性があまり良好とはいえなかった。
しかし、履帯を従来の鋼製より一割ほど軽量なアルミ合金製のものに換えたところ、最大速度が鋼製履帯装着時の30マイル(48.28km)/hから48マイル(77.25km)/hにまで、劇的ともいえる向上を示した。
1965年8月、FVRDEはさらに2つの実験用車框を製作した。
1つは車体の前半部分のみの固定式で、エンジンと冷却機構の作動状況の確認に使用された。
もう1つは、エンジンから履帯までを装着した「MTR」(Mobile Test Rig)と呼称される走行実験用で、サスペンション機構はトーションバー(捩り棒)方式となり、変速・操向機も、それまで別体であった変速機と操向機が一体化されていた。
MTRには当初は砲塔が搭載されていなかったが、後にはそれも搭載され、これが実質的にスコーピオン軽戦車の原型となった。
これを受けイギリス国防省(1964年に戦争省から改組)は、1967年9月にCVR(T)の生産担当企業を決定するための入札を行った。
落札したのはFV601サラディン戦闘偵察車、FV603サラセン装甲兵員輸送車などの開発と生産を担当したアルヴィス社で、まず17両の試作車を製作する契約が締結された。
CVR(T)の試作第1号車は1969年1月23日に完成したが、多くの場合、新型AFVの開発は予定の日程を多少なりとも超過してしまうものだが、試作第1号車の竣工は予定の期日通りだったので、本車の開発がスムーズに進行したことを伺わせる。
1969年9月、国防省は本車に「FV101」(Fighting Vehicle 101:戦闘車両101型)の戦闘車両番号と、「スコーピオンMk.1」の型式呼称を与えると共に、その存在を正式に公表した。
残りの16両の試作車も1970年の中頃までには完成し、同年5月に国防省はスコーピオン軽戦車をイギリス陸軍に制式採用すると共に、アルヴィス社と量産に関する契約を交わした。
また同年10月にはベルギー国防省が、自国陸軍向けとしてスコーピオン軽戦車を含むCVR(T)シリーズ701両を発注し、同時にベルギー国内でのライセンス生産についての協議が始められた。
スコーピオン軽戦車のイギリス陸軍向けの量産は1971年に開始され、生産型第1号車は1972年初めに完成して直ちにイギリス陸軍に納入された。
またベルギー陸軍向けの生産車は、1973年2月から納入が開始された。
1977年7月、アルヴィス社はスコーピオン軽戦車の生産数が1980年までに2,000両以上になること、そして海外への輸出分が400両以上になるという見積もりを発表した。
スコーピオン軽戦車はその簡便さが評価され、ヨーロッパではイギリス本国以外にベルギー、アイルランド、スペイン、アジアではフィリピン、タイ、インドネシア、中東ではイラン、ヨルダンなど世界14カ国の陸軍で採用された。
またCVR(T)シリーズは、基本型であるFV101スコーピオン偵察軽戦車に加えて、同じ車体を流用したファミリー車両が多数開発されており、FV721フォックス装甲偵察車以外に派生車両がほとんど存在しないCVR(W)とは、対照的な結果となった。
スコーピオン軽戦車のファミリー車両は、FV102「ストライカー」(Striker)自走対戦車ミサイル、FV103「スパータン」(Spartan:スパルタ人)装甲兵員輸送車、FV104「サマリタン」(Samaritan:サマリア人)装甲救急車、FV105「スルタン」(Sultan:イスラム教国の君主号の1つ)装甲指揮車、FV106「サムソン」(Samson:旧約聖書に登場する大力の勇士)装甲回収車、FV107「シミター」(Scimitar:三日月刀)装甲偵察車など多岐に渡っており、イギリス軍におけるCVR(T)シリーズの採用数は3,000両を超えている。
スコーピオン軽戦車は1982年のフォークランド紛争で初めて実戦投入され、その後、1991年の湾岸戦争にも投入されている。
本車は軽量小型であるため、NATO軍の主力輸送機であるアメリカ製のC-130中型輸送機に2両搭載することができ、大型ヘリコプターでも吊り下げて空輸可能であった。
フォークランド紛争では、ぬかるんだ戦場で高い機動力を発揮し活躍した。
スコーピオン軽戦車はイギリス陸軍、空軍連隊、輸出向けに合計3,000両以上が生産されるベストセラーとなったが、イギリス空軍による試験において、主砲の排煙システムが不完全なため、主砲射撃時に有毒な発射ガスが戦闘室内に入り込み、乗員の健康を危険に晒すことが判明した。
このため、イギリス国防省はスコーピオン軽戦車を退役させることを決定したが、本車は後述するLEP改修を受けたばかりで耐用年数に余裕があった。
そこで国防省は、すでに退役することが決まっていたフォックス装甲偵察車の砲塔を、スコーピオン軽戦車に搭載して再利用することを考案し、こうして一部のスコーピオン軽戦車が、フォックスの砲塔を搭載した折衷型「セイバー」(Sabre:サーベル)として生まれ変わることになった。
セイバー装甲偵察車に改修されたスコーピオンは138両のみで、他の大部分の車両は1994年までにイギリス軍を退役した。
FV101スコーピオン軽戦車の採用国(他国からの供与を含む) |
現在運用中の国 |
過去に運用していた国 |
国 名 |
採用数 |
国 名 |
採用数 |
ボツワナ |
36 |
ベルギー |
435 |
ブルネイ |
16 |
イラク |
不明 |
チリ |
27 |
アイルランド |
14 |
ホンジュラス |
19 |
クウェート |
不明 |
イラン |
110 |
ニュージーランド |
26 |
インドネシア |
90 |
スペイン |
17 |
ヨルダン |
26 |
イギリス |
1,500 |
ナイジェリア |
150 |
ブランク |
ブランク |
オマーン |
120 |
ブランク |
ブランク |
フィリピン |
41 |
ブランク |
ブランク |
タイ |
100 |
ブランク |
ブランク |
タンザニア |
40 |
ブランク |
ブランク |
トーゴ |
9 |
ブランク |
ブランク |
アラブ首長国連邦 |
76 |
ブランク |
ブランク |
スコーピオン90軽戦車の採用国 |
現在運用中の国 |
過去に運用していた国 |
ナイジェリア |
33 |
マレーシア |
26 |
ベネズエラ |
78 |
アメリカ |
1 |
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+攻撃力
スコーピオン軽戦車は主武装として砲塔前面に、王立造兵廠が開発した28.3口径76.2mm低圧ライフル砲L23A1を装備していた。
これは、サラディン戦闘偵察車に装備された同社製の28.3口径76.2mm低圧ライフル砲L5A1の改良型であり、素材を高張力鋼とすることで原型よりも25%ほど軽量化すると共に、命中精度も向上していた。
砲の諸元は俯仰角が-10~+30度、閉鎖機構は半自動垂直鎖栓式で、後座長は28cmであった。
使用弾種はHESH(粘着榴弾)、HE(榴弾)の他、SH-P(キャニスター弾)、SMK-BE(発煙弾)、IC(照明弾)、HE-PRAC(演習用榴弾)が用意されていた。
L23A1砲はHESHを使用した場合最大射程3,500mで、充分な対装甲威力を持っており、コンクリート等でできた堅固な目標にも有効であった。
SH-Pは対人用の弾種で、砲弾の内部に800個の鋼製の子弾が収納されており、空中で炸裂してそれを広範囲に猛烈な速度で散布するものであった。
SMK-BEは3種類あり、L5は白煙で発煙時間が90秒、L7は緑煙で発煙時間は90秒、L8は白燐が充填されていて焼夷弾としても使用でき、燃焼時間は60秒であった。
この他、対装甲目標用のAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を発射することも可能であった。
L23A1砲の俯仰は、砲手が俯仰ハンドルを用いて手動で行うようになっており、76.2mm砲弾の携行数は40発となっていた。
スコーピオン軽戦車の副武装は、L23A1砲の左側に7.62mm機関銃L43A1を1挺同軸装備していた。
L43A1は、ベルギーのFN社製の7.62mm機関銃FN-MAGを、エンフィールドロックのRSAF(Royal Small Arms Factory:王立小火器工廠)でライセンス生産した7.62mm機関銃L7シリーズの派生型である。
L43A1は空冷、ガス圧作動式の機関銃で、銃口初速850m/秒、発射速度750発/分、有効射程は2,000mであり、敵歩兵や陣地の制圧に用いられる他、L23A1砲の照準を行うための標定銃としても使用される。
標定銃を用いて主砲の照準を行う方式は、精度にやや難があるものの構造がシンプルで低コストなため、センチュリオン戦車やチーフテン戦車など、1960年代のイギリス陸軍MBTにおいて広く導入された。
そのため、スコーピオン軽戦車も標定銃を用いた照準方式を採用したのである。
なお、7.62mm機関銃L43A1用の弾薬は3,000発が搭載された。
また砲塔前面の左右両側には、多連装の66mm発煙弾発射機を各1基ずつ装備しており、不意に敵の戦闘車両と遭遇した場合などに発煙弾を発射して、自車の周囲に煙幕を展張することが可能であった。
この発煙弾発射機は、スコーピオン軽戦車の初期生産車では3連装であったが、それ以降は4連装に改められている。
スコーピオン軽戦車の外部視察装置は、まず車長用として、チェルムズフォードのマルコーニ社製の等倍と10倍の切り替え機能付きで、上下に-14~+41度の視察範囲を持ち、85度の限定旋回式の双眼式昼間用照準機が1組と、7基のペリスコープが装備されていた。
砲手用にも、やはり等倍と10倍の倍率を持つ昼間用照準機が装備されていたが、砲手にはこの他に夜間用として1.6倍で28度の視野角、5.8倍で8度の視野角を持つコヴェントリーのGEC社(General
Electric Company:総合電機会社)製の、パッシブ式暗視機構付き照準機が装備されていた。
この夜間照準機は広い視野角で視察している場合、シャッターで視野を区切ることで目標を発見し易くする機能を持っていた。
また、このシャッターはL23A1砲の発射機構と連動して、発砲炎で暗視装置やモニター画面が焼き付くのを防ぐ役目を果たした。
また5.8倍の倍率を選択した時には、昼間用の照準機と連動する機能を備えていた。
暗視装置を使用しない時は、装甲カバーによって保護されるようになっていた。
これらの照準機の対物鏡部には、泥汚れなどを落とすウォッシャーとワイパーが装着されていた。
後にはL23A1砲の右側に、グラスゴーのバー&ストラウド工業やGEC社などが開発したレーザー測遠機が装備された。
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+防御力
スコーピオン軽戦車は、同じくアルヴィス社が開発した前作のサラディン戦闘偵察車と同様、車体・砲塔共に圧延装甲板の溶接構造となっていたが、軽量化を図るために装甲材質がサラディンの防弾鋼板から、防弾アルミ板に変更されていた。
スコーピオン軽戦車に用いられた防弾アルミ板は、アメリカのM113装甲兵員輸送車シリーズなどに用いられている7039防弾アルミ板に、特殊な熱処理を施して剛性を強化したE74S防弾アルミ板である。
その組成の詳細は不明な点があるが、アルミニウムを主体とする亜鉛とマグネシウムの合金であり、現在「超々ジュラルミン」と呼ばれるものとほぼ同じと考えて良い。
防弾能力を同一とする場合、一般的にアルミ板は鋼板の2.8倍の厚さを必要とする。
これは、スコーピオン軽戦車のような小型車両では内部容積にあまり良い影響を及ぼさないが、断面積が大きい分、接合部の強度の確保が容易になるという利点がある。
本車の防弾能力は前面が旧ソ連製の14.5mm重機関銃弾の、他の面は7.62mm機関銃弾の直射に耐える。
試験では1.5mの至近距離に着弾した105mm榴弾の炸裂に耐え、また地雷の爆発では、走行装置は激しく損傷したものの、車内には全く被害が及ばなかった。
スコーピオン軽戦車の砲塔形状は、正面および真横から見ると6角形、真上から見ると8角形となっていたが、これは装甲板を積極的に傾斜させることで耐弾性を高めようとした結果である。
砲塔上面には右側に砲手用照準機、その後方に砲手用ハッチ、左側に車長用照準機、その後方に車長用キューポラがあったが、このキューポラの周囲には全周に向けて7基のペリスコープが装備されていた。
また前述のように、砲塔前面の左右両側には3~4連装の66mm発煙弾発射機が各1基ずつ装着されていた。
砲塔後面には、防弾アルミ製の雑具箱が装着されていた。
砲塔の内部レイアウトは、前部中央に76.2mm低圧ライフル砲L23A1の機関部、それを挟んで砲塔バスケット内右に砲手用視察装置および砲手席、同左に車長用視察装置および車長席、そして後部バスル内にクランスマン無線機が置かれていた。
また乗員相互の連絡のため、車内通話装置が内壁に取り付けられていた。
なお車長は車両の指揮と外部視察を行うだけでなく、L23A1砲の装填手も兼任しなければならない。
またCVR(T)/CVR(W)シリーズの車両は全て、調達価格を抑えるために砲塔の動力機構を搭載しておらず、砲手が旋回ハンドルを操作して手動で砲塔を旋回しなければならなかった。
しかし、これはあまりにも不便で肝心の攻撃能力に悪影響が出たため、1980年代初めにマルコーニ社製の動力機構が導入された。
スコーピオン軽戦車の車体は、砲塔と同様に防弾アルミ板の溶接構造となっていたが、車体前端部のみは防弾アルミの鋳造製となっていた。
またCVR(T)シリーズは、車体後部に兵員室を備える兵員輸送型や、野戦救急型などをファミリー化することが計画されていたため、スコーピオン軽戦車は通常の戦車のようにエンジンを車体後部に搭載せず、車体前部右側に搭載していた。
本車の車内レイアウトは最前部に変速・操向機を配し、その後方右側が機関室、左側が操縦室となっており、車体後部が2名用の砲塔を搭載した戦闘室、最後部が主砲弾薬庫となっていた。
スコーピオン軽戦車のNBC防御機構は主砲弾薬庫内に設置するようになっており、設置した場合は主砲弾薬の携行数が5発減少した。
なお本車は、外気温が-30℃~+50℃の範囲であれば支障なく活動できた。
車体上面前部には、エンジンと変速・操向機用のアクセスパネルや吸排気グリルが設けられており、エンジンの反対側の車体前部左側に、操縦手席と操縦手用ハッチが設けられていた。
操縦手用ハッチの前方には、操縦手用の広角ペリスコープが1基装備されていたが、夜間操縦の際にはこれを、レイソムのピルキントン光電子工学製のパッシブ式暗視ペリスコープに交換した。
車体上面の後半部分のほとんどは砲塔リングが占めており、車体右側面には上部中央からエンジン排気管が後方へ向けて導設されていた。
反対の車体左側面には大型の雑具箱が取り付けられており、車体左右側面にはそれ以外にも空きスペースに斧やスコップなどの工具類が備えられていた。
車体後面には両端の上部に小さな丸い赤色の反射板が、下端中央には牽引具取付金具が装備され、その下にイギリス軍伝統の車間距離確認用の白い縦線が描かれていた。
またフェンダーの高さの車体外周部には、水上渡渉時に用いる起倒式の浮航スクリーンが装着されていた。
このスクリーンは上下に蛇腹状に展張(所要時間約5分)して使用するが、演習時でも使用することはほとんど無かったため、その後の改修でイギリス軍では取り外されている。
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+機動力
スコーピオン軽戦車のエンジンは前述のように、ジャギュア自動車製のJ60 No.1 Mk.100B 直列6気筒液冷ガソリン・エンジンを搭載していた。
このエンジンの原型となったXK 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(総排気量4.2リットル、圧縮比9:1、最大出力265hp/5,400rpm)は、同社が第2次世界大戦前から開発に着手していた高級乗用車用エンジンの発展型である。
XKシリーズは、イギリス製の自動車用ガソリン・エンジンとしては卓越した高性能エンジンであり、ジャギュア・ブランドの高級乗用車はもちろんのこと、レーシングモデルにも搭載されて成功を収め、同社の主力エンジンとして長期に渡って量産された。
このため、CVR(T)/CVR(W)に搭載するエンジンの候補として注目されることとなり、厳しい条件下での稼動と低オクタン価燃料に適応させるため、圧縮比を下げて出力を減格したものがJ60
No.1 Mk.100Bエンジンである。
本エンジンの諸元は総排気量4,235cc、圧縮比7.75:1、最大出力190hp/4,750rpmで、最大トルクは32.3kg·m/3,500rpmとなっていた。
一方、スコーピオン軽戦車の変速・操向機は、コヴェントリーのSCG社(Self-Changing Gears:自動変速ギア会社)が開発したTN15半自動変速・操向機(前進7段/後進7段)を採用していた。
このTN15変速・操向機は、同社がチーフテン戦車用に開発したTN12半自動変速・操向機(前進6段/後進2段)を小型化したものであり、変速は動力補助が付く足踏み式で、操向機構は三重差動式であった。
主クラッチは遠心式で、これは50ccのスクーターなどに採用されているのと同様のものであった。
ばねの力によって中心に向かって引き付けられている摩擦板が、エンジンからの回転力を受けて外側に振り出されることによって、外周にある受け側の摩擦板に押し付けられて回転を伝達する。
なおSCG社は1965年に事業を終了したため、その後はハダースフィールドのDBE社(David Brown Engineering:デイヴィッド・ブラウン工業)がTN15変速・操向機の生産とサポートを引き継いでいる。
スコーピオン軽戦車の足周りは前方の起動輪、後方の誘導輪と片側5個の中直径転輪を組み合わせており、上部支持輪は装備していなかった。
転輪は防弾アルミの鋳造製で、外周にゴム縁が付いた複列式のものであった。
第1転輪と第5転輪には油圧式のショック・アブソーバーが取り付けられており、サスペンションの上下動幅は上に約100mm、下に約200mmとなっていた。
起動輪の外周部は、歯の部分を除いてポリウレタン製のカバーに覆われており、誘導輪の外周にもゴム縁が付いていた。
履帯は、マンガン鋼製のシングルピン/シングルブロック型のもので、走行寿命は約5,000kmとなっていた。
これは、結合ピンに樹脂製のブッシュが取り付けられているライブピン式で、踏面にゴムパッドが付いていた。
これらの特徴は、履帯と転輪類との摩擦の減少と騒音の低減に効果的であり、エンジンがガソリン・エンジンであることも相まって、スコーピオン軽戦車の機動時の騒音は、ディーゼル・エンジンを搭載したトラックと同等程度であった。
なお前述のように本車は、開発当初は油気圧式サスペンションを採用する予定だったのが、調達コストの低減を図るために、生産型ではより安価なトーションバー式サスペンションに変更された。
しかし足周りを工夫することで摩擦を減少させ、高性能ガソリン・エンジン、軽量な車体を組み合わせたことで、スコーピオン軽戦車は路上最大速度50マイル(80.47km)/h、路上航続距離400マイル(644km)という、装軌式車両としては異例の高い機動性能を発揮した。
さらに本車は浮航能力も備えており、浮航スクリーンを展張するなど簡単な事前準備を行えば、河川を水上渡渉することが可能であった。
ただし水上航行用のスクリューなどは備えていないため、水上での推進力は履帯の回転で得るようになっており、航行速度は3.6マイル(5.79km)/hと遅い。
なお、イギリス国防省はCVR(T)シリーズの就役寿命を延長するため、1988年にCVR(T)シリーズのエンジンを、従来のJ60 No.1 Mk.100B
直列6気筒液冷ガソリン・エンジンから、より燃費に優れ火災の危険性が低い、アメリカのカミンズ社製の6BTA5.9 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(190hp/2,500rpm)へ換装する、近代化改修計画「LEP」(Life
Extension Program:耐用年数延長プログラム)に着手した。
エンジンの換装作業はアルヴィス社の手で行われることになり、それにあたってカミンズ社がCVR(T)シリーズ向けのエンジン改修キットを開発している。
スコーピオン軽戦車を含む、イギリス陸軍の大部分のCVR(T)シリーズがこのLEP改修を受けており、新型ディーゼル・エンジンに換装された。
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+派生型
●FV107シミター装甲偵察車
シミター装甲偵察車はスコーピオン軽戦車の派生型の1つで、イギリス陸軍の偵察部隊に配備される近接偵察用車両として開発されたものである。
本車の開発は、アルヴィス社によってスコーピオン軽戦車と並行して進められ、1971年7月に試作車が完成し、1973年6月にイギリス陸軍に制式採用されている。
1974年から部隊配備が開始されており、イギリス陸軍向けとして486両が生産された。
シミター装甲偵察車とスコーピオン軽戦車は基本的には同規格車だが、スコーピオン軽戦車が対戦車戦闘能力を考慮して、主砲に28.3口径76.2mm低圧ライフル砲L23A1を装備しているのに対し、シミター装甲偵察車は対戦車戦闘能力を求められていないため、軽装甲車両などに対してより効果的な攻撃を行うことができる、81.3口径30mmラーデン砲L21A1を装備していることが大きな相違点となっている。
因みに「ラーデン」(RARDEN)の名前は、開発に関わったハルステッドの「RARDE」(Royal Armament Research and
Development Establishment:王立兵器研究開発局)の頭字語と、生産を担当したRSAFの所在地である「エンフィールド」(Enfield)のそれを組み合わせたものだという。
30mmラーデン砲L21A1の諸元は全長3.15m、砲身長2.438m、全体重量110kg、砲身重量24.5kg、最大射程4,000m、有効射程1,000mとされている。
この砲は最大発射速度90発/分、連続射撃、単発射撃の他6発までのバースト射撃も可能である。
薬莢は、車外に自動排出される。
シミター装甲偵察車は、武装の変更や細部の装備を除くと車体、砲塔共にスコーピオン軽戦車と同一で、車体周囲に装備されていた浮航スクリーンも改修により廃止されている。
●セイバー装甲偵察車
前述のように、イギリス軍のスコーピオン軽戦車は主砲の排煙システムの欠陥のため、早期に退役させることが決定したが、本車はエンジンを換装するLEP改修を受けたばかりで耐用年数に余裕があった。
そこでイギリス国防省は、すでに退役することが決まっていたフォックス装甲偵察車の砲塔を、スコーピオン軽戦車に搭載して再利用することを考案し、こうして一部のスコーピオン軽戦車が、フォックスの砲塔を搭載した折衷型「セイバー」として生まれ変わることになった。
セイバー装甲偵察車は、シミター装甲偵察車とほぼ同一の車両であるが、砲塔高はより低くなっており、シミター装甲偵察車が主砲の同軸機関銃としてRSAF製の7.62mm機関銃L37A2を装備しているのに対し、本車ではアメリカのボーイング社製の7.62mmチェインガンL94A1に換装されている。
さらに加えて、新型の発煙弾発射機の導入や操縦手の視察装置の改良、各種雑具箱の新型化等が盛り込まれている。
セイバー装甲偵察車は、まず2両の試作車がスコーピオン軽戦車から改造されて、ボーヴィントンの戦車試験場において試験を行った後、1993年にイギリス陸軍に引き渡されている。
生産型の改造にあたっては、アルヴィス社において砲塔を中心とした改修キットが製作され、このキットをドニントンの基地整備工場に送り、ここでセイバー装甲偵察車への改造作業が実施された。
セイバー装甲偵察車の生産型第1号車は1994年に完成し、合計138両のスコーピオン軽戦車が本車に改造された。
しかし東西冷戦の終結や、イギリス政府の財政難によりイギリス軍全体の予算が縮小されたことに伴い、国防省はイギリス陸軍の装軌式偵察車両をシミター装甲偵察車に一本化することを決定し、セイバー装甲偵察車は2004年をもって早々に退役した。
●スコーピオン90(スコーピオン2)軽戦車
スコーピオン90(スコーピオン2とも呼ばれる)軽戦車は、アルヴィス社が1980年の春に輸出向けに自己資金で開発したスコーピオン軽戦車の改良型である。
改良の主眼は攻撃力の強化で、主砲を従来の28.3口径76.2mm低圧ライフル砲L23A1から、ベルギーのコッカリル社製の36口径90mm低圧ライフル砲Mk.3に換装していた。
主砲の換装に伴い、砲塔も90mm砲用の「AC90」と呼称される新設計のものに交換されたが、AC90砲塔は基本的な構造はスコーピオン軽戦車の砲塔とほぼ同様であった。
90mm低圧ライフル砲Mk.3の諸元は総重量462kg、俯仰角-8~+27度、使用弾種はHEAT(対戦車榴弾)、HEAT-HVY(対重装甲弾)、HESH、HE、SMOKE(発煙弾)、砲口初速はHEATが900m/秒、HEAT-HVYが730m/秒、SMOKEが695m/秒。
有効射程/最大射程はHEATが1,500m/2,400m、HEAT-HVYが1,500m/2,000m、HEが2,200m/2,200m、装甲穿孔力は射距離に関係なく垂直着弾でHEATが約300mm、同じくHEAT-HVYが約400mm、加害範囲はHEの致死半径が8m、HE-APERS-FRAG(対人用破片焼夷榴弾)を使用すると25mとなる。
副武装はスコーピオン軽戦車と同様に、標定銃を兼ねる7.62mm機関銃L43A1を1挺主砲左側に同軸装備しており、携行弾薬数は90mm砲弾が35発、7.62mm機関銃弾が3,000発となっていた。
FCS(射撃統制装置)はマルコーニ社製の新型が装備されており、砲塔の旋回と主砲の俯仰機構にはアメリカのキャディラック・ゲージ社製の動力機構が導入されていた。
スコーピオン90軽戦車は、車体についてはスコーピオン軽戦車からほとんど変化していないが、主砲の換装に伴って戦闘重量が8.573tとスコーピオンから500kg増加したことに伴い、路上最大速度がスコーピオンの50マイル/hから45マイル(72.42km)/hに低下している。
スコーピオン90軽戦車は、1981年の暮れにマレーシア陸軍に26両が採用されたが、その際、エンジンをピーターバラのパーキンス発動機製のT6.3544
直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(165hp/2,400rpm)に換装することとされ、このエンジンを搭載した車両の生産が1982年に開始された。
また、これとほぼ同時期にアメリカ海兵隊が、緊急展開部隊向けの新型戦闘車両調達計画「LAV」(Light Armoured Vehicle:軽装甲車両)の評価試験用として、スコーピオン90軽戦車を1両購入している。
1983年にはナイジェリア陸軍が、保有する150両のスコーピオン軽戦車の内の33両の近代化改修用として、ベルギー製のOIP-5 FCSと、前述の90mm低圧ライフル砲Mk.3を調達している。
また1988年6月にはベネズエラ陸軍が、78両のスコーピオン90軽戦車とその装備品および訓練用機材をアルヴィス社に発注し、翌89年から納入を受けている。
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<FV101スコーピオン軽戦車>
全長: 4.794m
全幅: 2.235m
全高: 2.102m
全備重量: 8.073t
乗員: 3名
エンジン: ジャギュアJ60 No.1 Mk.100B 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 190hp/4,750rpm
最大速度: 80.47km/h(浮航 5.79km/h)
航続距離: 644km
武装: 28.3口径76.2mm低圧ライフル砲L23A1×1 (40発)
7.62mm機関銃L43A1×1 (3,000発)
装甲厚:
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<スコーピオン90軽戦車>
全長: 5.288m
車体長: 4.794m
全幅: 2.235m
全高: 2.102m
全備重量: 8.573t
乗員: 3名
エンジン: ジャギュアJ60 No.1 Mk.100B 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 190hp/4,750rpm
最大速度: 72.42km/h
航続距離: 644km
武装: 36口径90mm低圧ライフル砲Mk.3×1 (35発)
7.62mm機関銃L43A1×1 (3,000発)
装甲厚:
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<FV107シミター装甲偵察車>
全長: 5.148m
車体長: 4.794m
全幅: 2.235m
全高: 2.102m
全備重量: 7.756t
乗員: 3名
エンジン: ジャギュアJ60 No.1 Mk.100B 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 190hp/4,750rpm
最大速度: 80.47km/h(浮航 5.79km/h)
航続距離: 644km
武装: 81.3口径30mmラーデン砲L21A1×1 (165発)
7.62mm機関銃L37A2×1 (3,600発)
装甲厚:
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<セイバー装甲偵察車>
全長: 5.148m
車体長: 4.794m
全幅: 2.235m
全高: 2.167m
全備重量: 8.13t
乗員: 3名
エンジン: カミンズ6BTA5.9 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 190hp/2,500rpm
最大速度: 80.47km/h
航続距離: 644km
武装: 81.3口径30mmラーデン砲L21A1×1 (160発)
7.62mm機関銃L94A1×1 (3,000発)
装甲厚:
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<参考文献>
・「パンツァー2015年8月号 ユニオンジャックの尖兵 シミター装甲偵察車」 柘植優介 著 アルゴノート社
・「パンツァー2008年7月号 スコーピオン偵察車輌シリーズ」 佐藤慎ノ亮 著 アルゴノート社
・「パンツァー2004年4月号 イギリスのスコーピオン/シミター装甲偵察車」 アルゴノート社
・「パンツァー2014年3月号 ベルギー軍AFV 1970~2010」 城島健二 著 アルゴノート社
・「パンツァー2014年1月号 スペイン軍戦闘車輌の40年」 大竹勝美 著 アルゴノート社
・「パンツァー2013年12月号 イギリス機甲部隊発達史」 城島健二 著 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021~2022」 アルゴノート社
・「世界の戦車メカニカル大図鑑」 上田信 著 大日本絵画
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後~現代編」 デルタ出版
・「世界の戦闘車輌 2006~2007」 ガリレオ出版
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」 洋泉社
・「戦車名鑑 1946~2002 現用編」 コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版
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