S-300シリーズは、「ロシア版ペイトリオット・ミサイル」といわれる汎用対空ミサイル・システムで、通常の超高々度域までの対空迎撃と、弾道ミサイル防御システムの一環を担っての弾道ミサイル迎撃を任務としており、現在アメリカを始め西側軍事筋が最も注目している兵器の1つである。 本システムは1969年5月27日のソヴィエト連邦閣僚会議で開発が決定され、1970年代半ばには実用化されてその後も新技術をつぎ込みながら、弾道ミサイル防衛まで展望した対空ミサイル・システムとして発達を遂げてきた。 最高軍事機密のヴェールに包まれてきた訳だが、今日はこのS-300シリーズすら輸出商品として惜しげもなく売り出され、明らかに本システムの技術を導入した同様の対空ミサイル・システムを中国軍が装備するなど、アメリカにとって心中穏やかでない経過を辿りつつある。 ロシア軍の対空ミサイル・システムの中で、「S-300」の記号を持つものは「S-300P」と「S-300V」の2つのタイプがある。 S-300Pは基本的に航空機迎撃用で、NATOコードネームでSA-10「グランブル」(Grumble:雷鳴)と呼ばれる。 初期ヴァージョンのS-300P(最大有効射程47km、最大有効射高25,000m)の他に、S-300PT/PMU(最大有効射程90km、最大有効射高25,000m)、弾道ミサイルの迎撃も可能なS-300PMU-1/2(最大有効射程150km/200km、最大有効射高27,000m)の各ヴァージョンが存在する。 対空ミサイルはシールされて10年間保守不要のキャニスターに収められて運搬され、発射時は垂直に立てられる。 自走発射機は装輪式8×8タイプで、2種類ある。 1つはウラル375トラックで牽引される5P85Tトレイラーで、もう1つは5P85Sトラック(スカッドB短距離弾道ミサイル運搬用のMAZ-543トラックの改造版)である。 対空ミサイルは30N6E1目標捕捉・追尾レーダー、64N6Eミサイル追尾・誘導レーダーなどと組み合わせて運用される。 誘導方式は、TVM方式を採用している。 対空ミサイルは発射前に目標捜索・追尾レーダーからの情報を入力され、発射後は慣性誘導により飛翔する。 ズレが大きい場合は、誘導指令により修正する。 対空ミサイルは目標に接近すると、レーダーの反射波を受信して目標へ向かうホーミング誘導(レーダー・ホーミング)により命中する。 ミサイルは全長7.11m、直径0.45m、固体燃料式で、130kgの高性能炸薬弾頭または核弾頭を搭載する。 本システムは、アメリカのペイトリオット対空ミサイル・システムに相当する能力を持つという。 一方もう1つのタイプであるS-300Vは、ミサイルを大型化して弾道ミサイル迎撃能力を向上させたもので、1980年代前半にアメリカが開発・配備したパーシングII中距離弾道ミサイルを迎撃するために開発されたという。 S-300Vには2種類のヴァージョンがあり、9M83対空ミサイルを使用するものはNATOコードネームでSA-12A「グラディエーター」(Gladiator:剣闘士)と呼ばれ、航空機や空対地ミサイルの迎撃用である。 一方、9M82対空ミサイルを使用するものはNATOコードネームでSA-12B「ジャイアント」(Giant:巨人)と呼ばれ、短・中距離弾道ミサイルおよび巡航ミサイル迎撃用といわれる。 両ミサイル共に大型のシールされたキャニスターを垂直に立て、そこからコールドローンチ方式で垂直発射される。 自走発射機は装軌式タイプでSA-12A用は「9A83」、SA-12B用は「9A82」と呼ばれ、いずれもT-80戦車のコンポーネントが使用されている。 9A83自走発射機は9M83対空ミサイルを4連装で搭載し、9A82自走発射機は9M82対空ミサイルを2連装で搭載する。 両ミサイルはミサイル本体は同じで、発射加速用のブースターの長さが異なるといわれている。 9M83対空ミサイルは全長7.0m、最大有効射程75km、最大有効射高25,000m。 9M82対空ミサイルは全長8.5m、最大有効射程100km、最大有効射高30,000m。 両ミサイルとも、150kgの高性能炸薬弾頭または核弾頭を搭載する。 |
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<9A83自走発射機> 全長: 12.30m 全幅: 4.56m 全高: 10.25m 全備重量: 乗員: 4名 エンジン: 最大出力: 最大速度: 50km/h 航続距離: 300km 武装: 9M83対空ミサイル4連装発射機×1 (4発) 装甲厚: |
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<9A82自走発射機> 全長: 14.10m 全幅: 3.70m 全高: 11.37m 全備重量: 乗員: 4名 エンジン: 最大出力: 最大速度: 50km/h 航続距離: 300km 武装: 9M82対空ミサイル連装発射機×1 (2発) 装甲厚: |
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<S-300PMU対空ミサイル> 全長: 7.11m 直径: 0.45m 発射重量: 1,500kg 弾頭重量: 130kg 最大飛翔速度: 2,100m/秒 最大有効射程: 90km 最大有効射高: 25,000m |
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<S-300PMU-1対空ミサイル> 全長: 7.11m 直径: 0.45m 発射重量: 1,500kg 弾頭重量: 130kg 最大飛翔速度: 2,100m/秒 最大有効射程: 150km 最大有効射高: 27,000m |
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<9M83対空ミサイル> 全長: 7.00m 直径: 0.72m 発射重量: 2,500kg 弾頭重量: 150kg 最大飛翔速度: 1,700m/秒 最大有効射程: 75km 最大有効射高: 25,000m |
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<9M82対空ミサイル> 全長: 8.50m 直径: 0.90m 発射重量: 4,600kg 弾頭重量: 150kg 最大飛翔速度: 2,400m/秒 最大有効射程: 100km 最大有効射高: 30,000m |
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<9M82M対空ミサイル> 全長: 10.50m 直径: 1.00m 発射重量: 4,600kg 弾頭重量: 150kg 最大飛翔速度: マッハ5.7 最大有効射程: 100km 最大有効射高: 25,000m |
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<参考文献> ・「パンツァー2002年7月号 ソ連・ロシア ロケット/ミサイル車輌史(6)」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年10月号 ロシア軍AFV インアクション」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年1月号 ロシア軍車輌 インアクション」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年3月号 ロシア軍装備 インアクション」 小林直樹 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2004年4月号 最近のロシアAFV」 白井和弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2020年9月号 モスクワ戦勝記念パレード2020」 アルゴノート社 ・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著 アルゴノート社 ・「グランドパワー2020年5月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(5)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2019年10月号 ソ連軍主力戦車(4)」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2003年9月号 ロシア対空ミサイル S-300PS」 ガリレオ出版 ・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著 グリーンアロー出版社 ・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」 三修社 ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 ・「ミサイル事典」 小都元 著 新紀元社 |
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