「ラーテル」(Ratel:ミツアナグマ)装甲車は、それまで南アフリカ陸軍が使用してきたイギリス製のサラセン装甲車の代替車両として、サンダック・アストラル社(現アルヴィス・サウスアフリカ社)が1968年に開発に着手した6×6型の装輪式装甲車である。 1974年に最初の試作車が完成し、1976年には先行生産型が生産された。 開発期間とコストの削減のため本車には多数の民生用部品が採用された他、砲塔についてはイーランド戦闘偵察車のものが流用された。 このため、生産コストは25万ラント(約6,000万円)に抑えることができた。 この先行生産型はラーテルMk.1と呼ばれ、1979年からナミビアなどでの戦訓を採り入れた改良型のラーテルMk.2の生産が開始された。 さらに1987年からは冷房システム、ブッシュでの防御力、20mm機関砲のコッキングの自動化などの改良を加えたラーテルMk.3の生産が開始された。 南アフリカ陸軍では、古いタイプの全てのラーテル装甲車をMk.3仕様に改修して使用している。 ラーテル装甲車の基本型はラーテル20と呼ばれるIFV(歩兵戦闘車)で、100口径20mm機関砲F2と7.62mm機関銃FN-MAGを同軸装備するLIW社製の全周旋回式砲塔を搭載した世界で最初の装輪式IFVである。 この砲塔は、イーランド20装甲偵察車と共通のものである。 ラーテル20歩兵戦闘車は全長7.212m、全幅2.516m、戦闘重量18.5tという大型の6輪装甲車である。 装輪式装甲車としては重たいが、これは車体前面で20mm、側面で最大10mmという装輪式装甲車としては極めて厚い装甲を持っているためである。 このため、車体前面は12.7mm重機関銃弾の直撃に耐えられる。 操縦手席は車体前部中央にあり、3方を防弾ガラスの窓に囲まれ視界が良好である。 戦闘時には、普段は展開してある防弾シャッターで操縦手席の窓を覆う。 車体中央部は兵員室となっており、操縦手席の後方には20mm機関砲と7.62mm機関銃を同軸装備する全周旋回式砲塔が搭載されている。 この砲塔は2名用で、砲塔の旋回と機関砲の俯仰は手動で行う。 主武装であるLIW社製の20mm機関砲F2はAP(徹甲弾)で1,000m、HE(榴弾)で2,000mの有効射程を持つ。 砲塔上面左側の車長用キューポラには、対空射撃が可能な7.62mm機関銃架が設けられている。 20mm機関砲弾は1,200発、7.62mm機関銃弾は6,000発を搭載している。 兵員室の左右側面には第1輪と第2輪の間に前開き式のドアが設けられており、ガンポートと視察用ブロックが各1基ずつ備えられている。 ドアの後方の兵員室左右側面にも、ガンポートと視察用ブロックが各3基ずつ設けられている。 車内側の各ガンポートの下には、5.56mm自動小銃の予備弾倉を10個収容できるマガジンラックが備えられている。 また兵員室の上面には外開き式の4個のハッチが設けられており、搭乗歩兵がここから身を乗り出して射撃を行うことも可能である。 車体後面右側にも左開き式のドアが設けられており、搭乗歩兵は極めて迅速な乗降が可能となっている。 後面ドアに繋がる通路の上面には、キューポラと対空射撃が可能な7.62mm機関銃架が設けられている。 パワーパックは、ブッシング社製のD3256BTXF 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力282hp)と、ランク社製のHSU106自動変速機(前進6段/後進2段)の組み合わせとなっている。 パワーパックは車体後部左側の機関室に収められており、上部の点検用ハッチを外すことにより容易に交換が可能である。 サスペンションは、コイル・スプリングと油圧ショック・アブソーバーの組み合わせとなっている。 ラーテル装甲車には、このラーテル20歩兵戦闘車以外にも多くのヴァリエーションが存在する。 ☆ラーテル60歩兵戦闘車 ラーテル60歩兵戦闘車はイーランド60戦闘偵察車の砲塔を流用したタイプで、フランスのイスパノ・スイザ社製のHE60-7砲塔にトムソン・ブラン社製の後装式60mm迫撃砲HB60と7.62mm連装機関銃を装備している。 主武装である60mm迫撃砲HB60の有効射程は1,500mである。 ☆ラーテル12.7mm装甲指揮車 ラーテル12.7mm装甲指揮車はラーテル20歩兵戦闘車をベースとし、3台の無線機、テープレコーダー、宣撫用のスピーカー、マップボードなどを搭載した指揮・通信タイプで、砲塔の主武装は20mm機関砲F2から12.7mm重機関銃L4に変更されている。 ☆ラーテル81自走迫撃砲 ラーテル81自走迫撃砲は兵員室内にトムソン・ブラン社製の81mm迫撃砲を搭載したタイプで、砲塔は撤去されており、代わりに観音開き式の大型円形ハッチが設けられている。 81mm迫撃砲の操作は3名の砲要員が行う。 ☆ラーテル120自走迫撃砲 ラーテル120自走迫撃砲は兵員室内にトムソン・ブラン社製の120mm迫撃砲を搭載したタイプで、砲塔は撤去されており、代わりに観音開き式の大型円形ハッチが設けられている。 本車は南アフリカ陸軍には採用されず、試作のみに終わった。 ☆ラーテル90戦闘偵察車 ラーテル90戦闘偵察車はイーランド90戦闘偵察車の砲塔を流用した火力支援タイプで、イスパノ・スイザ社製のH90砲塔にLIW社製の33口径90mm低圧滑腔砲GT2と7.62mm機関銃を同軸装備している。 主武装の90mm低圧滑腔砲GT2はHEAT(対戦車榴弾)で1,200m、HEで2,200mの有効射程を有しており、旧ソ連製のT-55中戦車やT-62中戦車を撃破することもあったという。 ☆ラーテル装甲修理車 ラーテル装甲修理車はラーテル20歩兵戦闘車をベースとし、スペアパーツ、工作機械、エアコンプレッサーなどを搭載した修理車両である。 ☆ラーテルATGM ラーテルATGMは、2名用砲塔にケントロン社製のZT3対戦車ミサイルの3連装発射機を搭載した戦車駆逐車タイプで、1988年のアンゴラ侵攻作戦で初めて使用された。 車内には12発の予備ミサイルを収納することができる。 ☆ラーテル装甲補給車 ラーテル装甲補給車はラーテル装甲車の車体を延長して8輪にした兵站車両で、6個のコンテナに飲料水、食料、弾薬など10tの物資を搭載し、機甲部隊に随伴し補給を行うものである。 本車は南アフリカ陸軍には採用されず、試作のみに終わった。 このようにラーテル装甲車は徹底的なファミリー化が図られており、ラーテル・ファミリーのみで打撃部隊を編制することができる。 このため兵站を大幅に軽減することができ、アンゴラやナミビアなどインフラの整っていない敵勢地域への電撃的な侵攻作戦において極めて有効であった。 南アフリカ陸軍は現在1,243両のラーテル・ファミリーを使用しており、モロッコ陸軍でも60〜80両が使用されている。 南アフリカ陸軍は2000年以降もラーテル・ファミリーを使用するため、能力向上のプログラムを進行中である。 これにより、15〜20年の延命を見込んでいる。 |
<ラーテル20歩兵戦闘車> 全長: 7.212m 全幅: 2.516m 全高: 2.915m 全備重量: 18.5t 乗員: 4名 兵員: 7名 エンジン: ブッシングD3256BTXF 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 282hp/2,200rpm 最大速度: 105km/h 航続距離: 1,000km 武装: 100口径20mm機関砲F2×1 (1,200発) 7.62mm機関銃FN-MAG×3 (6,000発) 装甲厚: 6〜20mm |
<ラーテル90戦闘偵察車> 全長: 7.212m 全幅: 2.516m 全高: 2.915m 全備重量: 19.0t 乗員: 4名 兵員: 6名 エンジン: ブッシングD3256BTXF 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 282hp/2,200rpm 最大速度: 105km/h 航続距離: 1,000km 武装: 33口径90mm低圧滑腔砲GT2×1 (69発) 7.62mm機関銃FN-MAG×3 (6,000発) 装甲厚: 6〜20mm |
<参考文献> ・「パンツァー2017年1月号 オールマイティなAPC ラーテル」 前河原雄太 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2006年1月号 南アフリカのラテル装輪装甲車」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年6月号 ハイチに派遣されている各国軍の軍用車輌」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「新・世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 ・「世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 |