戦車の操縦/運転はブルドーザー、パワーショベルなどの履帯付きの土木機械とほとんど同じであり、動かすだけなら数時間の練習でできるようになります。 ただし前記の土木機械の路上速度が10km/h程度なのと比べて、現代の戦車の路上速度は戦後第2世代MBTで50〜60km/h、戦後第3世代MBTでは70km/hにも達します。 戦車の具体的な操縦法については、 ●手動のトランスミッションと旧式のクラッチの戦車 ●最新の自動トランスミッションと流体クラッチを装着した戦車 によって大きく異なります。 まさに、自動車におけるMT(マニュアル・トランスミッション)車とAT(オートマチック・トランスミッション)車の相違ですが、戦車の場合は自動車よりももっと大きく操作方法も異なってきます。 1.手動のトランスミッションと旧式のクラッチの戦車の場合 まず操縦手席の両側に1本ずつ、中央に1本、計3本の長いレバーが床から突き出しています。 左右のレバーをそれぞれの腕で動かすのですが、これはそのまま左と右の履帯の動きを司ります。 車種によって向きが反対の場合もありますが前方に倒すと接合、手前へ引くと中立(ニュートラル)となります。 中央のレバーが変速用で、 ●前進は5〜7段ギア ●後進は1〜2段ギア が一般的です。 操縦手席の床には自動車と同じ配列で3つのペダルが並んでおり、これらは右からアクセル、ブレーキ、クラ ッチとなっています。 戦車は自動車と違い、履帯の走行抵抗が大きいため動力伝達を切ればすぐに停止できるので、通常の運転 の際にはブレーキを使用することはあまりありません。 実際に動かす場合にはまずエンジンを始動させ、 ●クラッチを踏み、ギアを1速に入れる ●左右のレバーを前方に倒し、アクセルを踏みながらクラッチを緩める ことによって発進します。 旋回、あるいは左右へ曲がる時には、履帯をコントロールする2本のレバーを使えばよいのです。 左へ曲がる場合、左側のレバーを手前に引くと履帯への動力の伝達が遮断されます。 右の履帯だけが働くことになるので車体は左を向くのです。 片方の履帯の動きを完全に止め、もう一方の履帯によってその場で旋回することを「信地旋回」あるいは「信 地回転」といいます。 左右の履帯を互いに逆に動かして、もっと激しく車体の向きを変える場合が「超信地旋回」です。 ただし、このような急激な旋回を試みると、 ●地面が柔らかい時には車体が埋まる ●連続して行うと履帯が外れてしまう といった恐れが生じます。 2.最新の自動トランスミッションと流体クラッチを装着した戦車の場合 最新式の戦車の操縦システムは、旧来のものと比べて大幅な進歩を遂げています。 クラッチ、変速ギアとも自動化されただけでなく、2本のレバーから成るステアリング(操向装置)も丸型、あるい はTバー型のハンドルに変更されています。 アメリカ陸軍のM1エイブラムズ戦車の場合を見ると、 ●自動化された変速ギア 前進5段/後進2段 ●Tバータイプの操向ステアリング ●オートバイと同じグリップアクセル でほとんど油圧によって無段階に作動します。 足で操作するのはブレーキだけです。 またイギリス陸軍のチャレンジャー戦車も、ギアが前進4段/後進3段である以外はM1戦車と大差ありません。 クラッチ、トランスミッションともフル・オートマチックとなっています。 イギリス陸軍によると、チャレンジャー戦車は一世代前のMBTであるチーフテン戦車と比べて操縦練習に必要 とされる時間は半分に減ったとのことです。 戦車にも、自動車と同様にAT(オートマチック・トランスミッション)が導入される時代になったのです。 しかし、これに伴って動力補助装置(サーボ)に供給するパワーが必要となります。 油圧機器への圧力、各種モーターへの電力供給のため、幾つかのMBTは補助エンジンを持っています。 このエンジンの出力は30〜40hpで、主エンジンと同様にディーゼル燃料によって駆動されます。 最近の中・大型トラックが、運転台・荷台に冷気を送るための補助エンジン(空冷のガソリン・エンジンが多い) を搭載しているのと同じことです。 なお、戦車は車体自体の他に砲塔と主砲を動かさなくてはなりませんが、これには電気モーターあるいは油圧 が使われます。 砲手は車長の指示により、素早くかつ正確に砲塔と主砲を敵に向けなくてはなりません。 これは、Uの字をしたコントロール・ハンドルを動かすことによって行われます。 右のグリップを動かすことで砲が俯仰し、ハンドル全体を動かすと砲塔が旋回するタイプが一般的です。 その速度は、 ●砲塔の旋回速度(最大) 40度/秒、360度旋回、約10秒 ●主砲の俯仰速度(最大) 20度/秒(−9度から+30度まで) となっています。 しかし、あまり速く旋回・俯仰を行うと乗員・機器に支障が生ずる可能性もあるので、実際にはこの半分程度と 思われます。 我が国の陸上自衛隊には存在しませんが、イギリス、ドイツ陸軍は操縦練習用の戦車を揃えています。 これは砲塔を撤去し、代わりにガラス張りの操縦練習室を設けた車両で、ここに2名の訓練生と1名の教官が 乗り込み、徹底的な訓練を行うのです。 ヨーロッパ各地をドライブすると、黄色あるいは赤色の衝突防止灯を点灯させたこの種の操縦練習用戦車と出 会うことがあります。 |