戦車砲こそ戦車という兵器の存在価値そのものであり、他の部分は全て戦車砲に思う存分威力を発揮させるための道具に過ぎません。 第2次世界大戦中の戦車砲の口径は、大戦初期は37mm〜50mm(一部に短砲身の75mm)でしたが、激戦を経験するにつれ短期間に拡大されていき、大戦後期には75mm砲が中心になりました(85、88mmも出現し、最大のものは122mm)。 当時の各国の戦車砲で最強と思われるのは、
といったところでしょう。 戦後に至って米ソの冷戦が本格化するとアメリカ、イギリス、ソ連の戦車はますます強力な火砲を装備するようになります。 主なものを取り上げると、
となっていきました。 アメリカ戦車は長い間、ソ連戦車より威力の劣る90mm戦車砲に甘んじてきましたが、これは常に味方空軍の制空権下で戦うことができる、といった自信に裏打ちされたものと思われます。 アメリカがソ連のIS-3重戦車に対抗して開発したM103戦車は、強力な120mm戦車砲を装備していましたが重量過大で、大して使われること無く消えてしまいました。 イギリスもまた、120mm戦車砲を装備するFV214コンカラー重戦車を開発しましたが、これもM103戦車と同じ運命を辿りました。 一方ソ連は、 T-54、T-55中戦車 100mm戦車砲 T-62中戦車 115mm戦車砲 と確実に戦車砲の威力を向上させてきましたが、戦車自体の防御力では必ずしも西側の戦車を凌駕できるわけではありませんでした。 1950年代の終わりから、西側諸国はイギリスの王立造兵廠製の「L7」と呼ばれる105mm戦車砲を標準化することに成功しました。 アメリカのM60スーパー・パットン戦車 イギリスのセンチュリオンMk.5戦車以降 西ドイツのレオパルト1戦車 日本の74式戦車 イスラエルのメルカヴァMk.1/Mk.2戦車 といった各国のMBTは、全てL7またはその改修型の105mm戦車砲を装備するに至りました。 この105mm戦車砲L7は当時としては極めて威力が大きく、また信頼性も高いものでした。 世界で最も豊富な戦車戦闘の経験を持つイスラエル陸軍は、「これ以上威力の大きい戦車砲は不要である」と言い続けたほどです。 しかし東側が115mm、125mm戦車砲を実用化すると、西側諸国もこれを傍観しているわけにもいかず、120mm戦車砲の開発に取り掛かりました。 特にイギリスは早くからこれに着手し、国産の120mm L55をチーフテン戦車に装備しました。 一方西ドイツ、アメリカ、日本はより砲身の短い120mm L44(西ドイツのラインメタル社製)を採用しました。 フランスは独自に120mm L52を開発し、ルクレール戦車に搭載しています。 せっかくL7において標準化したのに、再び西側陣営は口径こそ一致しているものの、少しずつ規格の異なる120mm戦車砲に走ってしまったのです。 また120mm戦車砲は、それまでのライフル(腔線:砲弾に回転を与えるため、砲腔内に刻まれた螺旋状の溝)砲に替えて、滑腔砲(かっこうほう)が主流になりました。 滑腔砲の特徴は、 ・砲弾は砲腔内を滑って発射され、回転はしない ・弾道の安定は、スピンではなく後部に付いた小さな安定翼によって得られる といったものです。 ライフル砲、滑腔砲のどちらが相対的に優れているか、といった課題に対しての答えは今に至るもはっきりしていません。 イギリスは相変わらずライフル砲を選び、他の国々は滑腔砲を採用しています。 両者とも当然のことながら長所、短所を持っており、一概に結論を下せないのです。 また戦車砲の威力は単に砲の性能ばかりではなく、砲弾の構造、材質によっても左右されます。 従って種々の要素が複雑に絡み合うため、威力の算定は簡単にはいかないのです。 単純に口径だけで比べると、世界最強の戦車砲はロシアのT-72、T-80戦車シリーズに装備されている125mm戦車砲ということになりますが、この砲は砲弾が分離薬莢式で弾芯を長くできない欠点があるため、実際には西側戦車が装備する120mm戦車砲の方が威力が大きいようです。
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