戦車砲の360度の旋回と上下の俯仰を行う役目を受け持つのが砲塔(ターレット)です。 この構造は、上部の砲塔とその下に吊り下げられた籠状のバスケットから成っています。 砲塔の旋回はこのバスケットと一体で行われ、従って砲手、装填手、車長はこの床に立っている限り、そのままの姿勢で砲塔と共に移動します。 砲塔の旋回速度は動力となるエンジンやモーターの出力によって左右されますが、最新の戦車では360度旋回に要する時間が20秒前後と極端に短くなっています。 ただし一部の軽戦車では人力で動かすため、1分以上かかることも珍しくありません。 砲塔の形状と構造は時代と共に大きく変わってきていますが、戦車の他の部分、機器などと同様に砲塔の設計も妥協の産物でした。 ●砲塔を小さくした場合 重量が軽く、敵に発見される可能性が減り、かつ敵弾が命中し難くなります。 反面、砲塔内スペースが狭いため乗員の数を増やすことができず、作業効率が低下します。 ●砲塔を大きくした場合 敵弾が命中し易くなるのが欠点ですがその反面、砲塔内スペースに余裕が生まれるため乗員を増やすことが でき、作業効率が向上します。 また、口径の大きな戦車砲を搭載することが可能です。 この砲塔のサイズをめぐる問題は、いつも設計者を悩ませてきました。 初期の戦車は搭載する戦車砲が小口径のものだったこともあり、周囲の視察、砲弾の装填、射撃まで全て1人で行う1名用の小さな砲塔を搭載する戦車が多く見られましたが、主砲が大口径化するにつれて複数の乗員が搭乗するより大きな砲塔が採用されるようになり、現在では車長、砲手、装填手の3名が搭乗する大型の砲塔を搭載するのが一般的になっています。 砲塔に関して次に重要な点は、敵の砲弾に対する防御力をいかにして向上させるかということです。 砲塔は最も高い位置にあるため当然ながら最も被弾確率が高く、高い防御力を備えている必要があります。 第2次世界大戦時のアメリカ陸軍、第3次、第4次中東戦争の際のイスラエル陸軍の報告によると、戦車戦において命中した砲弾の約80%が砲塔に当たっているのです。 敵弾に対する防御力を向上させるには、 1.砲塔をできるだけ小さくして被弾確率を低減させる。 2.厚い装甲により被害を少なくする。 3.砲塔に傾斜を付け、命中した敵の砲弾を逸らしてしまう構造とする 4.画期的な新型装甲を採用し、敵弾の威力を減少させる といった方法があります。 ●厚い装甲 一般的に、戦車の装甲厚は被弾確率の高さに応じて各部の厚さが配分されており、最も被弾確率の高い砲塔 と車体の前面が最も装甲が厚く、被弾確率の低い上面と下面は装甲が薄くなっています。 初期の戦車は主に歩兵の進撃を支援する任務に用いられ、敵戦車との戦闘に用いることはあまり考慮されて いなかったため、敵歩兵が装備する小火器弾に耐えられる程度の薄い装甲しか備えておらず、敵戦車の戦車 砲に耐えられる装甲を備えている戦車はほとんど存在しませんでした。 しかし第2次世界大戦から戦車は対戦車戦闘に多く用いられるようになり、敵戦車の戦車砲に耐えられるよう 装甲が次第に強化されていきました。 しかし装甲を厚くするとそれだけ重量が増加するため、当然ながら戦車の機動力は低下してしまいます。 良好な機動力を維持しながらできるだけ高い装甲防御力を持たせることは、現在でも戦車の設計において最 も重要な課題の一つとなっています。 ●傾斜を付けた装甲 車体、砲塔に傾斜あるいは丸み(アール)を付けて、命中した敵弾を滑らせてしまう方法はかなり効果的でし た。 この方法あるいは形状を、専門用語では「避弾経始」(ひだんけいし)と呼びます。 旧ソ連の戦車は早くから避弾経始を設計に採り入れており、敵弾の効力を削ぐことに成功しています。 特に、戦後のT-54中戦車以降のMBTの砲塔はこれを最大限利用しています。 もっとも近年に至ると戦車砲と砲弾の能力が著しく向上し、この傾斜、丸みの効果も低下しています。 ●新型装甲 戦車砲弾には大きく分けて2種類あります。 A.運動エネルギー弾 硬くて質量の大きい金属を加工して作った砲弾を、できるだけ大きい速度で発射するものです。 その破壊力は、 ★砲弾の運動エネルギー(E)=砲弾の質量(m)×速度(v)2/2 で表されます。 つまり、力任せに相手を打ちのめす攻撃方法です。 数式から見ても分かるとおり、砲弾の質量を大きくするより飛翔速度を向上させる方が効果的といえます。 B.成形炸薬弾(モンロー/ノイマン効果弾) この砲弾が敵戦車の装甲板に命中すると超高速の金属ジェットを発生させ、このジェット噴流の高い運動 エネルギーに晒された部分の装甲板を超高圧状態にします。 超高圧状態になった部分の装甲板は機械的強度を無視する形で擬似流体化され、ジェット噴流のエネル ギーで内側に吹き飛ばされて装甲板に穴を開けられてしまいます。 そしてこの開口部からは数千度の超高温の爆風および砲弾の破片が車内に噴き込み、乗員を殺傷し搭載 されている弾薬を誘爆させます。 このジェット噴流の発生を促す働きを、「モンロー/ノイマン効果」と呼んでいます。 またモンロー/ノイマン効果は速度と無関係であるため、砲弾の発射速度を大きくする必要はありません。 従って比較的簡単な装置から発射することができ、歩兵携行型の対戦車兵器、例えば、 ★旧ソ連製のRPG(ロケット推進擲弾) ★アメリカ軍のバズーカ ★ドイツ軍のパンツァー・ファウスト などに使われています。 このように見ていくと戦車の装甲は、少なくとも前述の2種の砲弾に耐えられなくてはなりません。 ともかく全く性質の異なる攻撃に対処するのですから、防御する側は種々のアイデアを考え出しました。 それらを列挙すると、 1.装甲板と装甲板の間に空間を設ける これは成形炸薬弾のジェット噴流を拡散させるためで、「空間装甲」(スペースド・アーマー)と呼ばれます。 イスラエル軍戦車が砲塔後部バスルの下に、短い鎖の先端に鉄球を吊り下げたものを多数並べているの も一種の空間装甲です。 2.同じく装甲板をサンドイッチ構造とし、中央にセラミック、ウラニウム処理鋼板といった極めて硬い材質のも のを挟み込む これは「複合装甲」(コンポジット・アーマー)と呼ばれ成形炸薬弾、運動エネルギー弾のどちらに対しても効 果的とされています。 最初の複合装甲は1960年代前半に旧ソ連の技術陣によって実用化され、T-64中戦車に導入されました。 西側で最初に実用化された複合装甲は、1970年代後半にイギリスの技術陣が開発した「チョーバム・アー マー」と呼ばれるもので、チャレンジャー戦車に導入されています。 3.少量の爆薬を詰めた金属製の小箱を車体各部に取り付け、成形炸薬弾が命中した場合そのジェット噴流 を爆薬により分断する これは爆薬によって飛散した金属製小箱の破片が、成形炸薬弾が発生させる超高速の金属ジェットに干 渉することによってジェット噴流を分断し、装甲穿孔力を低減させるもので「爆発反応装甲」(リアクティブ・ア ーマー)と呼ばれます。 ただし、運動エネルギー弾に対してはほとんど効果がありません。 この他にも幾つかの方法が採り入れられているようですが、戦車の装甲防御に関しては現在の軍事技術の中 で最も厚いベールに包まれている分野であるため、はっきりしたことは分かりません。 |