戦車の足周りは転輪、転輪を支えるサスペンション、転輪の周囲を取り囲んで戦車を駆動させる履帯(りたい)から構成されています。 ●転輪について 転輪の種類については、次のように区分けされます。 1.起動輪(スプロケット・ホイール) 起動輪はエンジンで生み出された動力を変速・操向機、最終減速機を介して伝達され、履帯を駆動させる役 目を担うもので、通常は履帯の穴に噛み合わせて履帯を駆動させるための歯が外周に付けられています。 旧ソ連のT-34中戦車のように起動輪に歯が付いておらず、逆に履帯のセンターガイドを起動輪の溝と噛み合 わせて履帯を駆動させるタイプも一部に存在します。 2.誘導輪(アイドラー・ホイール) 誘導輪は起動輪の反対側に設けられ(起動輪が前部にある場合は誘導輪は後部、起動輪が後部にある場合 は前部に配置される)、履帯をスムーズに回転させる働きをします。 誘導輪のサイズは起動輪と同程度にするのが一般的ですが、アメリカのM3/M5軽戦車のように履帯の接地 長を稼ぐため、大型の接地式誘導輪を用いる場合もあります。 3.走行転輪(ロード・ホイール) 走行転輪(単に転輪と呼ばれる場合も多い)は地面に接している履帯を支える役割を持ち、サスペンションに よって前後、上下に動きます。 接地圧の低減と整備性を考慮して、2枚一組の複列式になっている場合が多いです。 走行転輪の材質は安価で強度の高い鋼鉄が主流ですが、重量を軽減するためにアルミ合金や樹脂製のもの が用いられる場合もあります。 なお、走行転輪には緩衝材として外周部にゴムタイアを装着するのが一般的ですが、大戦後期のドイツ戦車 のようにゴムを節約するため、ゴムタイアを装着する代わりにゴムを内蔵した鋼製転輪(鋼リム式転輪、ゴム 内蔵式転輪ともいう)を用いる場合もあります。 また鋼製転輪は通常のゴム縁付き転輪より強度が高いため、ゴム節約の目的以外に特に重量負荷が大きい 場所の走行転輪に用いられる場合もあります(ドイツのIV号駆逐戦車の車体前部など)。 4.上部支持輪(リターン・ローラー) 上部を高速で動く履帯を支える役目を担うのが、上部支持輪(上部転輪、補助転輪とも呼ばれる)です。 上部支持輪は走行転輪よりずっと小さく、数も片側3〜4個と少ないのが一般的です。 戦前の戦車では上部支持輪の代わりに、単純なガイドレールで履帯を支えていたものも存在しました。 またT-34中戦車以降の旧ソ連製中戦車や日本の74式戦車のように、走行転輪の直径を大きくして上部支持 輪を省いた構造の足周りを持つ戦車も多く存在します。 ●サスペンションについて 戦車のサスペンションは、現在の世界の主流はトーションバー(捩り棒)式となっていますが、他には少数ながらコイル・スプリング(螺旋ばね)式、リーフ・スプリング(板ばね)式、ヴォリュート・スプリング(渦巻ばね)式サスペンションも用いられています。 日本の74式戦車、90式戦車、イギリスのチャレンジャー戦車などはハイドロ・ニューマティック(油圧)を使っており、これは戦闘時の姿勢制御を必要と考えているためと思われます。 74式戦車は前後および左右、90式戦車は前後の姿勢を変化させることができます。 これは確かに効果的ですがその分システムの複雑化、価格の上昇に直結するという問題点もあります。 サスペンションと転輪については、戦車の登場と共に次々と新しいアイデアが考案されてきました。 特にその傾向が著しかったのは、第2次世界大戦の前後でした。 ☆コイル・スプリングと小さな転輪の組み合わせ 八九式中戦車(日本)、チャーチル歩兵戦車(イギリス)など ☆油圧シリンダーと横置き渦巻スプリングの組み合わせ M4A3E8中戦車(アメリカ) ☆トーションバーとオーバーラップ式転輪配置の組み合わせ ティーガー、パンターなどのドイツ戦車 ☆転輪を大直径のものにして、上部支持輪を省略したタイプ T-34中戦車(旧ソ連)、74式戦車(日本) など、幾つものタイプを挙げることができます。 加えて、イギリスのヴァレンタイン歩兵戦車のように大小2種類の転輪を併用しているものさえ存在します。 ●履帯について 履帯は戦車を始めとする装軌式車両の最大の特徴といえるもので、日本ではよく「キャタピラ」、「キャタピラー」などと呼ばれますが、この名称は世界最大の建設機械メーカーであるアメリカのCaterpillar社に因んでおり、同社が1904年に世界で最初に装軌式走行装置を持つ牽引車を商品化したことから、装軌式車両が装備する履帯の代名詞として「Caterpillar」が世界的に定着したようです。 ただし「Caterpillar」および「キャタピラー」はCaterpillar社の登録商標であるため、履帯全般を指す名称としてはあまり適切ではありません。 日本語における正式名称は軍事用語では「履帯」(りたい)、一般用途では「無限軌道」が一般的なようです。 履帯は多数の金属製の板(履板:りばん)を連結して構成されており、大きな段差や泥濘地など装輪式の車両では走破困難な地形を突破する能力を戦車に与えています。 |