Pz.H.2000 155mm自走榴弾砲
|
競争試作に敗れた南部グループの試作車
Pz.H.2000自走榴弾砲の生産型
|
+開発
西ドイツはそれまで陸軍が運用していたアメリカ製のM109 155mm自走榴弾砲の後継として、「SP70」(Self-Propelled Howitzer
for the 1970s:70年代型自走榴弾砲)の計画呼称で新型155mm自走榴弾砲の開発をイギリス、イタリアと共同で1973年から開始した。
SP70自走榴弾砲は主砲に牽引式155mm榴弾砲FH70を車載化したもの、車体にレオパルト1戦車やマルダー歩兵戦闘車のコンポーネントを流用して開発・製造コストの低減を図ることを目指していた。
しかし各国の意見の対立や技術的問題により、結局1986年にSP70自走榴弾砲の開発は中止されてしまった。
このため、西ドイツは陸軍が保有するM109自走榴弾砲の主砲を換装するなどの改良を加え、M109A3G自走榴弾砲に発展させて寿命延長を図る一方で、1987年より単独で新型155mm自走榴弾砲の開発に着手した。
この新型自走砲は2000年の実戦化を念頭に置いて、「Pz.H.2000」(Panzerhaubitze 2000:2000年代型装甲榴弾砲)の計画呼称が与えられた。
西ドイツ陸軍がPz.H.2000自走榴弾砲に要求したのは、以下の諸点である。
・弾薬補給無しでも一定時間射撃が行えるよう、車内に60発の砲弾を収納できること
・10秒間のバースト射撃で3発、1分間に8発、標準で3分間に20発という主砲発射速度を実現するため、自動装填
装置を装備すること
・優位な砲戦ができるよう、補助推進機構を持たない通常榴弾で最大30kmの射程を有すること
・NBC防護システムを装備すること
・MBT(主力戦車)並みの高い機動力を持つこと
・各車が独立した戦闘行動ができる自律的システムを搭載すること
・トップアタック兵器や敵の反撃に対応できる防御能力を備え、生残性を高めること
これらの点を踏まえ、西ドイツ国防省は1987年12月に1億8,600万マルクの予算を掛けて、2つの企業グループの間でPz.H.2000自走榴弾砲の競争試作をスタートさせた。
この2つの企業グループとはミュンヘンのクラウス・マッファイ社、デュッセルドルフのラインメタル社、アウクスブルクのクーカ社の南部グループと、カッセルのヴェクマン社、キールのクルップMaK社の北部グループである。
それぞれのグループは1989年末にPz.H.2000自走榴弾砲の試作車を各1両ずつ完成させ、審査の結果1990年末に北部グループが本車の開発担当に選ばれた。
その要因の1つは、ヴェクマン社が開発した自動装填装置の優秀さが評価されたためだとされている。
その後、さらに1億9,500万マルクを掛けてPz.H.2000自走榴弾砲の増加試作車が4両製作された。
第1号車は1992年秋に完成し、残りの3両も1カ月毎に完成した。
ドイツ陸軍はこれらの試作車を使用して、その後2年間に渡る部隊での運用試験と機能試験を繰り返した。
試験の結果、ドイツ国防省はPz.H.2000自走榴弾砲を陸軍の次期自走砲として制式採用することを決定し、1996年3月に185両の生産を発注した。
この生産には主契約者となったヴェクマン社(現クラウス・マッファイ・ヴェクマン社)を始め、ラインメタル社やハンブルクのブローム&フォス社などドイツの企業12社が協力する形で参加している。
Pz.H.2000自走榴弾砲の生産は1997年の後半から開始され、1998年6月に生産型第1号車がドイツ陸軍に引き渡されている。
ドイツ陸軍向けの生産は年間40両のペースで進められ、2002年までに185両全てが引き渡されてKRK(Krisenreaktionskrafte:危機対応部隊)に配備されている。
最終的にはドイツ陸軍向けに594両のPz.H.2000自走榴弾砲の生産が計画され、現用のM109A3G自走榴弾砲と交替させる予定であったが、その後ドイツ政府の軍縮方針によって陸軍の保有するPz.H.2000自走榴弾砲は108両に減らされ、残りの77両は海外に売却された。
Pz.H.2000自走榴弾砲はドイツ以外にもNATO加盟国を中心に多くの国で採用されており、現在までにイタリアが70両、オランダが57両(内21両は売却)、ギリシャが25両、ハンガリーが24両、カタールが24両、リトアニアが21両、クロアチアが16両を導入している。
|
+構造
Pz.H.2000自走榴弾砲の車体と砲塔は、いずれも圧延防弾鋼板の全溶接構造となっている。
M109自走榴弾砲やSP70自走榴弾砲は、重量の削減を優先して車体・砲塔とも防弾アルミ板が用いられていたが、Pz.H.2000自走榴弾砲の場合は軽量化よりも耐弾性の向上を重視したためである。
本車と同時期に開発されたイギリスのAS-90 155mm自走榴弾砲なども装甲に防弾鋼板を採用しているので、防弾アルミ装甲は流行遅れになりつつあるようである。
Pz.H.2000自走榴弾砲の車体前部左側は機関室となっており、V型8気筒液冷ディーゼル・エンジンと自動変速・操向機、ラジエイター、各種補機類などから成るパワーパックが収められている。
車体前部右側は操縦室となっており、機関室と操縦室の後方には弾薬庫が配されている。
操縦手用ハッチの前方には3個のペリスコープが用意されており、この内の1個は夜間暗視用に交換できる。
操縦手席の計器類は簡略化が進められ、多目的ディスプレイが装備されている。
操向装置は乗用車と同じ円形ハンドルが用いられており、このハンドル上にも車両の状態を示すディスプレイが付いている。
車体後部は大型の全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室とされており、戦闘室の後面には観音開き式の大型ドアが設けられている。
このドアは弾薬補給に用いられる他、緊急時には乗員全員の脱出用にも使用できる。
砲塔内には右側前部に砲手、その後方に車長、反対の左側に2名の装填手が搭乗し、後部は装薬庫となっている。
砲塔上面には右側に車長用ハッチ、左側に装填手用ハッチがそれぞれ設けられており、装填手用ハッチの前方には自衛用にラインメタル社製の7.62mm機関銃MG3が1挺装備される。
Pz.H.2000自走榴弾砲の最大の売りは攻撃力にあり、主砲はラインメタル社が独自に開発した「ランゲスロール」と呼ばれる52口径155mm榴弾砲を採用している。
砲身長は8.06mにも達し、砲身先端には多孔式の砲口制退機が装着されている。
主砲の俯仰角は、−2.5〜+65度となっている。
同時に開発されたMTLS(Modulares Treib Ladungs System:モジュール式装薬システム)を用いることで、通常榴弾であるL15A2を用いた場合その最大射程は30kmに達し、ベースブリード榴弾を使用すると40kmという長大な射程を得ることができる。
高い発射速度を実現するために、砲塔内にはヴェクマン社が開発した電動式自動装填装置が搭載されている。
この自動装填装置は砲の俯仰角に自動的に合わせるようになっているので、従来のM109自走榴弾砲のように射撃の度に砲を水平に戻してから砲弾を押し込む必要が無い。
自動装填装置の弾倉は容量が大きく砲弾60発、モジュール式装薬288個を収容している。
またPz.H.2000自走榴弾砲には自動弾薬データ管理装置が装備されており、使用目的に応じて弾種を選択できる他、一体薬莢式弾薬と分離薬莢式弾薬のいずれも使用することができる。
選択された弾薬は、自動装填装置によって砲尾に送られる。
Pz.H.2000自走榴弾砲の射撃速度は非常に優秀で10秒間に3発、1分間に8発、3分間に20発の射撃を行うことが可能である。
砲撃の持続能力は24時間の間に、37の異なる目標に対して300発(弾薬約18t)の砲弾を撃ち込むことができる。
さらに正確な速射には、敵味方の位置を把握していなければならない。
そのためにGPS(Global Positioning System:衛星位置測定装置)を組み込んだGPA2000砲照準・航法システムが搭載され、MICMOSディジタル弾道コンピューターを中心とする射撃統制システムが速射に必要な射撃データ(目標、使用弾薬の情報)を自動管理している。
また砲塔には、複数の照準機が装備されている。
ヴェッツラーのエルンスト・ライツ光学製作所製のRTNL80射撃ペリスコープはMBT並みの高級システムで、熱線暗視装置とレーザー測遠機が組み込まれており、場合によってはMBTも直接照準射撃で撃破することが可能である。
Pz.H.2000自走榴弾砲の装甲防御力は、基本装甲のレベルでは旧ソ連製の14.5mm重機関銃弾の直撃や榴弾の破片に耐える程度とされている。
しかし実戦参加時には、一番脆弱な砲塔上面などを中心に追加装甲パッケージがびっしり貼り付けられる。
またPz.H.2000自走榴弾砲は、NBC防護システムも標準装備とされている。
車体には、レオパルト1/2戦車のコンポーネントが必要に応じて流用されている。
本車の戦闘重量は55.33tと自走砲としてはかなりの重量級であるが、フリードリヒスハーフェンのMTU社(Motoren und Turbinen
Union:発動機およびタービン連合企業)製のMT881 V型8気筒多燃料液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,000hp)と、アウクスブルクのレンク社製のHSWL284自動変速・操向機(前進4段/後進2段)を組み合わせたパワーパックの採用により、路上最大速度60km/hの機動性能を発揮する。
転輪や履帯、トーションバー式サスペンションといった走行装置にはレオパルト1戦車のものが流用されている。
Pz.H.2000自走榴弾砲の特筆すべき能力はやはり即応射撃能力で、M109自走榴弾砲の5倍以上と評価されている。
例えば陣地に進入してから砲撃までに必要な戦闘準備時間は、M109自走榴弾砲の2分30秒に対してPz.H.2000自走榴弾砲はわずか30秒に過ぎない。
8発砲撃するのに必要な時間は、M109自走榴弾砲の約2分に対して半分の1分である。
撤収に掛かる時間は、M109自走榴弾砲の約7分に対してPz.H.2000自走榴弾砲はわずか30秒である。
つまり、一連の砲撃ミッションに掛かる時間はM109自走榴弾砲の11分30秒に対して、Pz.H.2000自走榴弾砲はわずか2分で完了できるのである。
|
<Pz.H.2000 155mm自走榴弾砲>
全長: 11.669m
車体長: 7.91m
全幅: 3.58m
全高: 3.46m
全備重量: 55.33t
乗員: 5名
エンジン: MTU MT881 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,000hp/2,700rpm
最大速度: 60km/h
航続距離: 420km
武装: 52口径155mm榴弾砲ランゲスロール×1 (60発)
7.62mm機関銃MG3×1 (1,000発)
装甲厚:
|
<参考文献>
・「パンツァー2006年12月号 ヨーロッパ随一の戦車メーカー クラウス・マッファイ・ヴェクマン」 林磐男 著
アルゴノート社
・「パンツァー2005年3月号 NATO軍の標準自走砲を目指すPzH2000自走砲車」 三鷹聡 著 アルゴノート社
・「パンツァー2000年1月号 ドイツ陸軍への引き渡しが始まったPz.H2000自走砲」 アルゴノート社
・「パンツァー2008年9月号 PzH.2000 インアクション」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版
・「10式戦車と次世代大型戦闘車」 ジャパン・ミリタリー・レビュー
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社
・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」 三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
・「世界の最強陸上兵器 BEST100」 成美堂出版
・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」 学研
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー
|
関連商品 |