PT-91トヴァルディ戦車 |
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1991年2月の湾岸戦争地上戦において、イラク軍が装備する旧ソ連製のT-72戦車はアメリカ軍のM1エイブラムズ戦車やイギリス軍のチャレンジャー戦車に一方的に惨敗する結果となったため、それまで安くて強力なMBTという評判で多くの国に輸出されてきたT-72戦車シリーズは評価がガタ落ちになり、これ以降輸出市場での販売実績が大きく落ち込んでしまった。 ワルシャワ条約機構の一員であったポーランドは、自軍での使用と輸出向けにT-72戦車シリーズをライセンス生産してきたが、T-72戦車の評価がガタ落ちになったことは同車を戦車戦力の柱としているポーランド軍に危機感を与え、またT-72戦車シリーズの輸出で外貨を獲得したいポーランドの経済にとっても深刻な問題であった。 ポーランドでは早速軍主導で同国で生産中のT-72M1戦車をベースに、湾岸戦争地上戦で問題となったFCS(射撃統制システム)や防御力の向上を図ることを中心に新型MBTの開発が企図された。 新型MBTは開発をグリヴィツェのOBRUM(Ośrodek Badawczo-Rozwojowy Urządzeń Mechanicznych:機械設備開発研究センター)、生産をポーランドにおけるT-72戦車シリーズのライセンス生産を手掛けてきた同地のZMBŁ社(Zakłady Mechaniczne Bumar-Łabędy:ブマル・ワベンディ機械製作所)が担当することになり、1991年7月から設計作業が開始され、最初の試作車は1992年終わりに完成した。 試作車は合計20両が生産され、1994年までにポーランド陸軍に納入された。 ポーランド陸軍による試験の結果、本車はPT-91「トヴァルディ」(Twardy:ポーランド語で「強固な」という意味)の呼称で制式採用され、ポーランド国防省は78両の生産型を発注し1995~97年にかけて陸軍に引き渡された。 さらにポーランド陸軍が保有するT-72M1戦車の内135両が、1998~2002年にかけてPT-91戦車にアップグレードされた。 PT-91戦車は旧式化したT-72M1戦車の攻撃力、防御力、機動力を基本構造そのものには手を付けずに、各種装備の交換、付加によって性能向上を行っている。 PT-91戦車の主砲はT-72M1戦車と同じ51口径125mm滑腔砲2A46(D-81TM)であるが、新型のコンピューター化されたFCSが搭載されている。 砲手用昼間サイトはTNP-165A、車長用昼間サイトはTNPO-160、車長用映像強化装置は新型のPOD-72となっている。 砲手用の夜間サイトもパッシブ映像強化装置だが、オプションで「ドラヴァ」赤外線映像装置に変更することができる。 レーザー測遠機は標準装備となり、主砲は水平・垂直の2軸が安定化されている。 防御力の向上については、追加装甲パッケージを装着することで対応している。 PT-91戦車は車体と砲塔の前、上面にびっしりとERA(爆発反応装甲)のボックスを装着している。 このERAはジェロンカのWITU(Wojskowy Instytut Techniczny Uzbrojenia:軍事技術研究所)が1992年に開発した「エラヴァ」(ERAWA)と呼ばれるもので、成形炸薬弾対策として金属製のボックスに爆薬層を封入しており、それが1層なのがエラヴァ1、2層になっているのがエラヴァ2である。 エラヴァERAはサイドスカートの前半分にも取り付けられていて、徹底したミサイル防御が行われている。 また車体前下面には、ロシアのT-80U戦車と同じようなラバー薄板の増加装甲も取り付けられている。 砲塔上面には、「オブラ」レーザー警報システムが装備されている。 システムは砲塔左右に片側12個ずつ装備された発煙弾発射機と連動しており、レーザー照射を検知すると自動または手動で発煙弾を発射し、瞬時に戦車車体を隠蔽する。 エンジンはT-72M1戦車のV-46-6 V型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジン(出力780hp)に代えて、冷却装置を改良して出力を850hpに向上させたフォルト・ヴォラのZMPW社(Zakłady Mechaniczne PZL-Wola:PZLヴォラ機械製作所)製のS-12U V型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジンが搭載されている。 これによってPT-91戦車は戦闘重量が45.3tに増加したにも関わらず、T-72M1戦車と同じく路上最大速度60km/hの機動力を発揮できる。 履帯にはラバーパッドが装着可能で、騒音と走行抵抗の低減に効果を発揮する。 またZMBŁ社はPT-91戦車の輸出にも力を入れており、PT-91戦車にフランスのSAGEM社製のサヴァン15FCSを搭載する等の改良を施したPT-91Z「ハーディ」(Hardy:英語で「強固な」という意味)戦車を開発している。 PT-91Z戦車は同じくZMBŁ社が開発したT-72M1Z戦車と共に、1990年代末に行われたマレーシア陸軍の次期MBT選定試験に参加した。 この選定試験にはロシアのT-90戦車、ウクライナのT-84戦車、韓国のK1M戦車なども参加したが試験の結果、PT-91Z戦車にマレーシア陸軍が求める改良を施したPT-91M「ペンデカー」(Pendekar:マレー語で「シラットの達人」の意味)戦車をマレーシア陸軍の次期MBTに採用することが決定し、48両のPT-91M戦車が発注された。 PT-91M戦車は防御力の強化に伴って戦闘重量が48.5tに増加しているが、ZMPW社が開発した出力1,000hpの新型ディーゼル・エンジンS-1000Rのおかげで路上最大速度65km/hと逆に機動力は向上している。 |
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<PT-91戦車> 全長: 9.67m 車体長: 6.95m 全幅: 3.59m 全高: 2.19m 全備重量: 45.9t 乗員: 3名 エンジン: S-12U 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 850hp/2,300rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 650km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46×1 (42発) 12.7mm重機関銃NSW×1 (300発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲: 複合装甲 |
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<PT-91M戦車> 全長: 10.03m 車体長: 6.86m 全幅: 3.70m 全高: 2.60m 全備重量: 48.5t 乗員: 3名 エンジン: S-1000R 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 1,000hp 最大速度: 65km/h 航続距離: 650km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46MS×1 (40発) 12.7mm重機関銃M2×1 (250発) 7.62mm機関銃FN-MAG×1 (2,000発) 装甲: 複合装甲 |
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<参考文献> ・「パンツァー2010年12月号 第三世代戦車の流出で活況を呈する世界の戦車マーケット」 竹内修 著 アルゴ ノート社 ・「パンツァー2002年10月号 東欧諸国でリメイクされたT-72戦車シリーズ」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年5月号 T-72戦車 開発・構造とそのバリエーション(2)」 白井和弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2017年2月号 NATO最前線 ポーランドの戦車事情」 家持晴夫 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2021年9月号 拡散し独自の発展を遂げるT-72」 藤村純佳 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2021年10月号 世界のT-72カタログ」 藤村純佳 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2019年8月号 ポーランド最新MBT事情」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021~2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2003年7月号 ソ連戦車 T-72 (1)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2019年8月号 ソ連軍主力戦車(3)」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006~2007」 ガリレオ出版 ・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後~現代編」 デルタ出版 ・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」 三修社 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 ・「戦車名鑑 1946~2002 現用編」 コーエー |
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