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88式155mm自走榴弾砲





88式(PLZ-45)155mm自走榴弾砲は、NORINCO(中国北方工業公司)が1988年末に初めて試作車を公開した自走砲である。
本車は従来の中国製自走砲に比べて近代的なスタイルにまとめられており、特にアメリカ軍のM109 155mm自走榴弾砲の影響を強く受けたものとなっている。

車体と砲塔はいずれも圧延防弾鋼板の溶接構造となっており、小火器弾の直撃や至近距離で炸裂した榴弾の破片に耐えられる程度の防御力を備えている。
車内レイアウトは車体前部右側が機関室、前部左側が操縦室、車体後部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室となっており、現代の自走砲の一般的なレイアウトを採用している。

エンジンは従来の中国製自走砲に使用されてきた国産のものではなく、ドイツのドゥーツ社製の空冷ディーゼル・エンジンが採用されている。
操縦室の上面には後ろ開き式の円形ハッチが設けられており、操縦手はここから出入りする。
操縦手用ハッチの前方には2基のペリスコープが装備されており、この内1基は夜間用のパッシブ式ペリスコープに交換することが可能である。

乗員は操縦手、車長、砲手、装填手2名の計5名となっており、操縦手以外は砲塔内に搭乗する。
砲塔の左右側面中央には、下部に視察ブロックを備えた前開き式の縦長大型ハッチが設けられており、砲塔内の乗員はここから出入りを行う。
砲塔にはこれ以外に左側面後部に下開き式の横長大型ハッチ、後面右下部に下開き式の小型ハッチが設けられている。

前述のように砲塔は全周旋回が可能であるが、射撃時には反動でひっくり返らないように旋回角が左右各30度ずつに制限されている。
主砲の俯仰角は、−3〜+72度とかなり大きい。
車体の後面には右開き式の大型ハッチが設けられており、ここから予備弾薬の補給を行うようになっている。

また射撃時の反動を吸収するために、車体後面左右には起倒式の駐鋤が装備されている。
主砲の45口径155mm榴弾砲は、イラク軍のスーパーガンなどの長距離砲の設計者として有名なカナダ人のジェラルド・ブル工学博士が設立したSRC社(Space Research Corporation:宇宙研究企業)の技術協力を受けて、NORINCOが1980年代に開発した牽引式の45口径155mm榴弾砲WA-021を車載用に改造したものある。

ブル博士は元々アメリカとカナダの支援を受けて、安価に人工衛星を打ち上げるマスドライバーを商業化する研究(HARP計画)を手掛けていたが、HARP計画が中止される直前の1967年にSRC社を設立し、1970年代に「GC-45」という最大射程30kmの45口径155mm榴弾砲を開発した。
ブル博士はヨーロッパ、中東、南アフリカなど世界各地で長距離砲の技術指導を行い、彼の協力によって南アフリカのG5、スペインのST-012、オーストリアのGNH-45などの155mm榴弾砲が開発された。

しかしブル博士は1990年に何者かに殺害されており、恐らく彼がイラク軍のスーパーガンの開発に協力したことに危機感を持ったイスラエル諜報機関の手で暗殺されたと見られている。
そして88式自走榴弾砲はブル博士の最後の作品ともいえるものであり、従来の中国製自走砲に比べて格段に性能が向上している。

本車の主砲である45口径155mm榴弾砲は、ブル博士が開発した「ERFB」(Extended Range Full Bore:大口径射程延長弾、重量45.54kg)と呼ばれる長射程榴弾を使用した場合で最大射程30km、ベースブリードERFB(重量47.6kg)を使用した場合の最大射程は39kmにも達し、従来の中国製自走砲に比べて大幅に射程が延伸されている。

また、中国がロシアから導入したレーザー誘導砲弾「クラスノポール」(重量50kg、最大射程20km)も発射可能である。
本車は半自動装填装置を備えており、発射速度については4〜5発/分という実用的な値となっている。
FCS(射撃統制システム)はレーザー測遠機や弾道コンピューター、GPSを備えた高度なものを搭載しており、従来の自走砲に比べて高い射撃精度を発揮することが可能である。

副武装としては、砲塔上面右側に設けられた車長用キューポラに12.7mm重機関銃を1挺装備している。
このように88式自走榴弾砲は非常に高性能な反面、価格も従来の中国製自走砲に比べてかなり高額になっている。
本車が中国軍にどの程度配備されているかは不明であるが、高額なため試験用に少数が配備されたのみといわれており、生産数は100両程度に留まった模様である。

なお1997年末にはクウェート軍が27両の88式自走榴弾砲をNORINCOに発注しており、すでに全車が引き渡されている。
今のところ、これが本車の唯一の輸出実績となっている。
88式自走榴弾砲の派生型としては同じ車体を流用した弾薬補給車、前進観測車が開発されており、YW534装甲兵員輸送車の車体を利用した大隊/中隊指揮車と共に砲兵システムを構成する。


<88式155mm自走榴弾砲>

全長:    10.15m
車体長:   6.10m
全幅:    3.23m
全高:    3.417m
全備重量: 33.0t
乗員:    5名
エンジン:  ドゥーツ 空冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 525hp/2,100rpm
最大速度: 56km/h
航続距離: 450km
武装:    45口径155mm榴弾砲×1 (30発)
        85式12.7mm重機関銃×1 (500発)
装甲厚:


<参考文献>

・「10式戦車と次世代大型戦闘車」  ジャパン・ミリタリー・レビュー
・「パンツァー2002年6月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「世界AFV年鑑 2005〜2006」  アルゴノート社
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著  学研
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社


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