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MIM-104ペイトリオット対空ミサイル・システム





「ペイトリオット」(PATRIOT:”Phased Array Tracking Radar to Intercept On Target”(目標迎撃用位相配列式追跡レーダー)の略語と、「愛国者」を意味する単語を掛けたもの)は、1991年の湾岸戦争でイラク軍のスカッド弾道ミサイルを迎撃する活躍で有名になった、アメリカ製の広域対空ミサイル・システムである。

本来、ペイトリオット対空ミサイル・システムは前線における敵航空機の脅威に対抗するために、1960〜70年代にかけてアメリカ陸軍が開発したもので、基本システムは1973年に完成している(主契約者はレイセオン・ミサイル・システム社)。
ところが、量産へ移行する段階で東側のスカッドなどの戦域弾道ミサイルに対抗するため、遠距離迎撃能力を犠牲にして到達高度を延長するように改良されたのがペイトリオットPAC-1である。

制式名称は「MIM-104」で、1983年からアメリカ陸軍での運用が開始されている。
ペイトリオットは数百億円もする超高価なシステムだが高性能なため、1980年の生産開始以来アメリカ軍の他6カ国に170射撃中隊分、9,000発が販売されているベストセラーである。

我が国においても航空自衛隊のナイキ対空ミサイル・システムの後継として、ペイトリオットPAC-1をライセンス生産により取得することが決定され、1985年度から整備に着手し、1994年度中に第5高射群(那覇)へ配備してナイキからの換装を完了した。
1995年度からは、改良型のペイトリオットPAC-2の配備を開始している。

ペイトリオットPAC-2は、PAC-1よりも弾頭に内蔵するレーダーの探知距離を延長、ミサイルを炸裂させる近接信管の検知波をダブルビームにして目標を確実に検知できるようにし、炸裂したミサイルの破片到達範囲を広げ破壊効果を高めたもので、湾岸戦争で使用されたのはこのタイプである。
ペイトリオットは、1個射撃中隊でシステムを組んでいる。

MPQ-53位相配列レーダー、電源車、迎撃管制ステイション、通信中継アンテナ、そして4連装発射機(8〜16基)である。
4連装発射機はトレイラー移動式で車体は「M860」と呼称されるが、ミサイル収納キャニスターを含めたシステム全体は「M901」と呼ばれる。

ペイトリオットの中枢部は目標の捜索、追跡、分析、ミサイルの最終誘導までを一貫して行うMPQ-53多機能レーダーで、一度に100個以上の目標を捕捉し9発のミサイルを誘導できる。
最大探知距離は170km、最大探知高度は80kmである。
PAC-1ミサイルは全長5.31m、直径0.41m、発射重量914kg、最大飛翔速度マッハ3、最大有効射程70km、最大有効射高20kmである。

ペイトリオットの最大の特長は「TVM」(Track Via Missile:ミサイル経由追跡)と呼ばれる独特の誘導方式で、これは目標から跳ね返ってくるレーダー波をミサイル経由で一旦地上のレーダーに送り、地上で複雑な誘導計算を行ってからミサイルに正確な誘導指令を発信する方式である。
ただしPAC-1ミサイルと改良型のPAC-2ミサイルは、近接信管による炸裂で破片をばら撒いて航空機を撃破するタイプのため、たとえ弾道ミサイルの一部に被害を与えることができても完全に弾頭を破壊する能力は無かった。

実際、湾岸戦争で使用されたペイトリオットPAC-2は、イラク軍の発射したスカッド弾道ミサイルを1/4程度しか撃墜できなかったのである。
そこで弾道ミサイルを木っ端微塵に破壊する目的で開発されたのが、「ERINT」(Extended Range Interceptor:射程拡張型迎撃機)とも呼ばれるペイトリオットPAC-3である。

PAC-3ミサイルの最大の特長は、弾頭に内蔵する高性能ミリ波レーダーによって弾道ミサイルを捕捉し、マッハ5の飛翔速度で真正面から直撃、運動エネルギーによってその弾頭を完全に破壊できることである(ただし73kgの炸薬と近接信管も内蔵する)。
また、姿勢の機敏な制御はスラスターの噴射により行う。

PAC-3ミサイルの大きさは全長5.20m、直径0.25m、発射重量312kgとPAC-1、PAC-2ミサイルよりかなり小さい。
システムは既存のペイトリオットのものが利用されるが、レーダーは対弾道ミサイル用の改良が施されている。
またトレイラー移動の発射機は、ミサイルが小型のため8連装となっている。
PAC-3ミサイルの性能は、全て直撃できる確率にかかっている。
最大有効射程は15kmとPAC-1、PAC-2ミサイルより短く、最大有効射高も15kmだという。


<ペイトリオットPAC-1対空ミサイル>

全長:       5.31m
直径:       0.41m
翼幅:       0.84m
発射重量:    914kg
誘導方式:    慣性、アクティブ・レーダー
最大飛翔速度: マッハ3
最大有効射程: 70km
最大有効射高: 20km


<ペイトリオットPAC-3対空ミサイル>

全長:       5.20m
直径:       0.25m
翼幅:
発射重量:    312kg
誘導方式:    慣性、アクティブ・レーダー
最大飛翔速度: マッハ5
最大有効射程: 15km
最大有効射高: 15km


<参考文献>

・「パンツァー2003年9月号 兵器イラストレポート(4) ペトリオット 草木もなびくPAC-3」 吉原幹也 著  アルゴ
 ノート社
・「パンツァー2003年7月号 ノドン対パトリオット」 藤井久 著  アルゴノート社
・「パンツァー2017年9月号 朝霞/北熊本 PAC-3展開訓練」  アルゴノート社
・「パンツァー2002年1月号 陸上自衛隊の現用車輌」  アルゴノート社
・「パンツァー2009年5月号 今月のトピックス」  アルゴノート社
・「パンツァー2023年7月号 軍事ニュース」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2024年8月号 軍事ニュース」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著  グリーンアロー出版社
・「自衛隊歴代最強兵器 BEST200」  成美堂出版
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」  学研
・「自衛隊図鑑 2002」  学研
・「新版 ミサイル事典」 小都元 著  新紀元社
・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」  三修社
・「自衛隊装備年鑑」  朝雲新聞社

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