パンデュール装甲車は、シュタイアー・ダイムラー・プフ社が1979年にプライヴェート・ヴェンチャーとして開発を始めた6×6型の装輪式装甲車である。 車名の「パンデュール」(Pandur)とは17〜18世紀に活躍したオーストリア軍の軽歩兵のことで、ゲリラ戦や狙撃を主任務にしていたという。 パンデュール装甲車は1985年に最初の試作車2両が完成し、1986年には11両の先行生産型が作られた。 ちなみに1990年8月にイラク軍がクウェートに侵攻した際、当地でテスト中だったAPC(装甲兵員輸送車)ヴァージョンと、90mm砲搭載の火力支援ヴァージョンのパンデュール装甲車がイラク軍に捕獲されている(この2両のその後はどうなったか不明)。 1994年にはオーストリア陸軍がパンデュール装甲車68両の導入を決定し、国内用に51両、国連活動用に白色に塗装したものを17両配備した。 さらに1996年には、テスト車両をイラク軍に奪われたクウェート陸軍がパンデュール装甲車を70両導入することを決定し、1997年にはベルギー陸軍も54両の採用を決定した。 1998年にはアメリカ陸軍も歩兵部隊用に50両のパンデュール装甲車を発注しており、これには新しく開発されたアップリケ装甲が装着される予定である。 さらにガボン陸軍も20両のパンデュール装甲車を発注しており、2004年5月から引き渡しが開始されている。 また同じ中欧の工業国であるスロヴェニアでは、パワーパック等主要コンポーネントの供給をシュタイアー社より受けて、「ヴァルーク」(Valuk)の名称でパンデュール装甲車のライセンス生産が行われ、1999年までに36両がスロヴェニア陸軍に配備された。 さらにスロヴェニア陸軍は、2003年5月に36両のヴァルーク装甲車を追加発注している。 2000年には8×8型のパンデュール装甲車が開発され、さらに2001年には車体を大型化したパンデュールII装甲車が開発されている。 パンデュール装甲車の車体は圧延防弾鋼板の溶接構造で、避弾経始を考慮して随所に傾斜を採り入れている。 全周に渡って7.62mm機関銃弾の直撃に耐える防御力を有しており、これは必要に応じて12.7mm重機関銃弾対応に強化可能である。 またオプションとして、内側に破片防護用のスポール・ライナーを張ることもできる。 車内レイアウトは基本のAPCヴァージョンでは、車体前部左側に操縦手席と車長席がタンデムに配置され、前部右側が機関室となっている。 機関室のハッチは広く取られて整備性が考慮されており、20分でエンジンを交換することが可能だという。 車体後部は兵員室となっており、8名の完全武装歩兵を収容することができる。 兵員室の左右側面にはそれぞれ2カ所ずつ視察用ブロックとガンポートが設けられており、兵員が車外を射撃することが可能である。 兵員室の後面には観音開き式のドアが設けられており、兵員の乗降はここから行うようになっている。 このドアにも、やはり視察用ブロックとガンポートが備えられている。 車体下部の足周りはなるべく突起が無いようスッキリと仕上げられ、これが地雷に対する車体の防御力を向上させている。 駆動系も6×6と6×4を切り替えることができ、路上では効率的な高速走行ができる。 またタイア空気圧調整システムを持ち、路面状態に合わせて走行中でも空気圧の調整ができる。 パワーパックはシュタイアー社製のWD612.95 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力260hp)と、アメリカのアリソン社製のMT-653DR自動変速機(前進5段/後進1段)の組み合わせとなっている。 この足周りによってパンデュール装甲車は路上最大速度100km/h、路上航続距離650km(ただし大型タンクの場合1,000km)の機動力を発揮する。 オーストリア陸軍のパンデュール装甲車では、車内に消火設備と与圧空調システムが装備されている。 地雷対策にも気を使っており、破片防護策と床面の強化が図られている。 また面白いオプションには、ADM(Automatic Drivetrain Management System:自動動力配分調整システム)がある。 これはシュタイアー社が独自にパンデュール装甲車に装備しているもので1996年に完成し、自動的に路面状況、各車輪の回転数、負荷量、接地圧、走行抵抗、スリップ量等をセンサーで感知し、コンピューターで車輪のトラクション、回転数を調整して道路状況に応じて常時、最高の機動性を発揮させようというシステムである。 このシステムは単に機動性が高まるだけに留まらず、長時間の悪路走行での操縦手の疲労を軽減させ、乗員の居住性が向上して結果として、長時間の作戦行動でも兵員の戦闘力が低下し難いというメリットがある。 |
●派生型 パンデュール装甲車は広い後部兵員室を持つ汎用装輪式装甲車として開発されているため、各種の武器・砲塔を組み合わせることができる。 ☆APCヴァージョン APCヴァージョンはパンデュール装甲車の基本型で操縦手、車長の2名の乗員の他、後部兵員室に8名の完全武装歩兵を収容することができる。 武装は車長用キューポラに防盾付きの12.7mm重機関銃M2を装備している他、車体右側に3連装の80mm発煙弾発射機を2セット装備している。 ☆IFV(歩兵戦闘車)ヴァージョン IFVヴァージョンは、APCヴァージョンにアメリカのAVテクノロジー社製のマルチガン砲塔を搭載し、火力の強化を図ったものである。 装備できる火器には7.62mmから12.7mmの機関銃、40mm自動擲弾発射機、30mmチェイン・ガン等が選択できる。 ☆偵察/警戒ヴァージョン パンデュールARSV-25装甲偵察車は、スイスのエリコン社製の80口径25mm機関砲KBA-B02と、ドイツのラインメタル社製の7.62mm機関銃MG3を同軸に装備する2名用砲塔を搭載した乗員3名の偵察/警戒ヴァージョンで、戦闘重量は11.5tである。 パンデュールARSV-30装甲偵察車は、ドイツのマウザー製作所製の82口径30mm機関砲MK30と、ベルギーのFN社製の7.62mm機関銃MAGを同軸に装備する2名用砲塔を搭載した偵察/警戒ヴァージョンで、戦闘重量は12.5tである。 砲塔は電気油圧駆動で、左右側面に80mm発煙弾発射機を各3基ずつ装備している。 30mm機関砲弾の搭載数は200発、7.62mm機関銃弾の搭載数は600発となっている。 ☆火力支援ヴァージョン パンデュールARFSV-90戦闘偵察車は、90mm砲を装備する2名用砲塔を搭載した偵察/火力支援ヴァージョンで、ユーザーの希望によって48.5口径90mm低圧ライフル砲Mk.8を装備するベルギーのコッカリル社製のLCTS-90砲塔システムと、52口径90mm低圧滑腔砲CN-90-F4を装備するフランスのGIAT社製のTS-90砲塔システムのどちらかを選択することができる。 ☆戦車駆逐車ヴァージョン パンデュール装甲車の戦車駆逐車ヴァージョンには、ユーロミサイル社製のUTM800発射機に4発のHOT対戦車ミサイルを装備したタイプと、ノルウェイのクバエルナーユーレカ社製の装甲発射機にTOW対戦車ミサイルを装備したタイプがある。 またAVテクノロジー社も1997年に、クウェートでヘルファイア対戦車ミサイルを搭載したタイプの実用試験を行っている。 ☆自走迫撃砲ヴァージョン パンデュール装甲車の自走迫撃砲ヴァージョンには、後部兵員室に81mmまたは120mm迫撃砲を搭載したタイプがある。 発砲時の反動を吸収するため車体にアンカーを追加するなどの改造を施し、GPS(Global Position Satellite:衛星位置測定装置)や弾道コンピューター、レーザージャイロなどの最新計測機器を搭載している。 ☆対空車両ヴァージョン パンデュール装甲車をベースとした対空車両としては、20mm対空機関砲を連装装備する全周旋回式砲塔を搭載したタイプや、ミストラル対空ミサイルを装備するSANTAL砲塔を搭載したタイプが提案されている。 ☆支援車両ヴァージョン パンデュール装甲車をベースとした支援車両としては、後部兵員室の天井を嵩上げした装甲救急車タイプや、30kNまでのホイスト能力を持つクレーンを装備した装甲回収車タイプなどが用意されている。 |
<パンデュールAPC装甲兵員輸送車> 全長: 5.697m 全幅: 2.50m 全高: 1.82m 全備重量: 13.5t 乗員: 2名 兵員: 8名 エンジン: シュタイアーWD612.95 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 260hp/2,400rpm 最大速度: 100km/h 航続距離: 650km 武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (1,800発) 装甲厚: 最大8mm |
<パンデュールARSV-30装甲偵察車> 全長: 5.697m 全幅: 2.50m 全高: 2.78m 全備重量: 12.5t 乗員: 3名 エンジン: シュタイアーWD612.95 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 260hp/2,400rpm 最大速度: 100km/h 航続距離: 650km 武装: 82口径30mm機関砲MK30×1 (200発) 7.62mm機関銃FN-MAG×1 (600発) 装甲厚: 最大8mm |
<パンデュールARFSV-90戦闘偵察車> 全長: 6.527m 車体長: 5.697m 全幅: 2.50m 全高: 2.575m 全備重量: 12.75t 乗員: 4名 エンジン: シュタイアーWD612.95 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 260hp/2,400rpm 最大速度: 100km/h 航続距離: 650km 武装: 48.5口径90mm低圧ライフル砲コッカリルMk.8×1 7.62mm機関銃FN-MAG×2 装甲厚: 最大8mm |
<参考文献> ・「パンツァー2003年3月号 バラエティーを増す最近の兵員輸送車(2)」 小野山康弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2006年7月号 変化する世界情勢と最近のAFV」 林磐男 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年10月号 パンデュル装甲兵車」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2024年5月号 軍事ニュース」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年5月号 チェコ陸軍の現用AFV」 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年9月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「パンツァー2005年8月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」 学研 ・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「新・世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 ・「世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 |