HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)対空自走砲対空自走砲(イタリア)>オートマティック対空自走砲

オートマティック対空自走砲





オートマティック対空自走砲は、オート・メラーラ社が1980年代の後半から1990年代の前半期にかけて試作した戦場防空用の対空自走砲システムで、全天候レーダーと対空・対地両用の76.2mm速射砲を装備する大型の鋼製砲塔を、発電用APU(補助動力装置)を搭載するMBT車体と組み合わせたものである。

最初の試作車は1987年に完成し、同年のパリ航空ショーにおいて初めて一般に公開された。
この車両はオート・メラーラ社が開発したパルマリア155mm自走榴弾砲の車体に、オートマティックの砲塔システムを搭載したものであった。
その後1990年には、ドイツ製のレオパルト1戦車をベース車体にした試作第2号車が完成している。

この車体は、オートマティックの砲塔システムの搭載にあたって走行装置や車体の各部が改造されており、操縦手席の左隣に車内エレクトロニクスの電源を賄うためのAPUが搭載された他、トーションバーを始めとする足周りも重量の増加に対応して強化されている。
砲塔は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、全周旋回が可能であり重量は15tである。

砲塔内部に長砲身の76.2mm速射砲の砲架と弾薬ラック、その直後に2名分の操作用コンソールと射撃統制用電子装置、装填手を収容するために砲塔は必然的に大柄で背の高いものとなり、さらに砲塔上面には目標追跡用レーダー、車長用旋回式光学サイト、それらの後方には伸縮式の全天候捜索レーダーが装備されることから、車両の全高は異例の高さになっている。
砲塔および砲の駆動は電気油圧式で、主砲の俯仰角は−5〜+60度である。

砲塔内には車長、砲手、装填手の3名が搭乗する。
主砲は、艦載砲のベストセラーであるオート・メラーラ社製の76.2mmスーパー・ラピッド砲を車載化したもので、水平・垂直共に安定化されている。
砲身長は62口径で、垂直鎖栓式閉鎖機と自動装填装置を持つ。
最大発射速度は120発/分と非常に速いが、通常は3〜5発のバースト射撃が行われる。

最大射程は16kmにもなるが、動きの速い航空機を目標とした場合の有効射程は6kmまでとなる。
弾薬は対空用の近接信管付破片効果弾、近接信管付多目的弾、地上の装甲目標用のAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)が使用される。
このAPFSDSは射距離2,000mで150mm厚の均質圧延装甲板(傾斜角30度)を貫徹することが可能で、軽装甲目標に対しては充分な威力を持っている。

破片効果弾を使用した場合の砲口初速は、910m/秒となっている。
主砲弾薬の搭載数は90発で内64発を砲塔内に、残り26発を車体内に収容する。
砲塔内の64発の内29発は、即用弾として主砲の装填機構内に保持される。
砲塔内の64発の内9発、装填機構内の29発の内3発は、地上目標用のAPFSDSが搭載される。

副武装としては、7.62mm機関銃MG42/59を1挺装備している。
システムの中核となるFCS(射撃統制システム)は低光量TV、追跡用TV、レーザー測遠機、射撃統制用コンピューター、レーダーを中心とする対空用全天候捜索・追跡システムから成り、この内の捜索レーダーにはヘリコプターの識別能力がある。

捜索・追跡用いずれのレーダーも最大探知距離は14〜15kmになり、少なくとも8個の空中目標を同時に追跡することが可能だとされている。
高度にコンピューター化されたオートマティックのFCSにはこうした探知・識別能力以外にも、敵味方識別、脅威分析、命中点予測、主砲の自動制御といった数多くの機能があり、それらに関するデータ情報は全て車長・砲手に自動的に表示される。

さらにこのシステムでは目標情報の車両間授受も可能になっており、特定の車両のみがレーダーを使用して得た情報を他の車両にリアルタイムで伝送し、情報を得た車両がレーダーを一切使用せずに目標と交戦することもできる。
オートマティックの砲塔システムは、レオパルト1戦車からアメリカのM1エイブラムズ戦車の車体まで搭載が可能になっているが、大型でコスト的にも決して安くはないことからこれまでに採用を決めた国は出ていない。


<オートマティック対空自走砲 試作第1号車>

全長:    9.736m
全幅:    3.375m
全高:    3.20m
全備重量: 50.0t
乗員:    4名
エンジン:  MTU MB837Ea-500 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 750hp/2,200rpm
最大速度: 60km/h
航続距離: 500km
武装:    62口径76.2mm速射砲×1 (90発)
        7.62mm機関銃MG42/59×1
装甲厚:


<オートマティック対空自走砲 試作第2号車>

全長:    9.81m
全幅:    3.25m
全高:    3.07m
全備重量: 47.0t
乗員:    4名
エンジン:  MTU MB838CaM-500 4ストロークV型10気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 830hp/2,200rpm
最大速度: 60km/h
航続距離: 500km
武装:    62口径76.2mm速射砲×1 (90発)
        7.62mm機関銃MG42/59×1
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2002年9月号 戦車車体改造の対空自走砲」  アルゴノート社
・「パンツァー2015年11月号 姿を消した対空車輌たち」  アルゴノート社
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「本当にあった! 特殊兵器大図鑑」 横山雅司 著  彩図社
・「世界の最強陸上兵器 BEST100」  成美堂出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社


HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)対空自走砲対空自走砲(イタリア)>オートマティック対空自走砲