●開発 OF-40戦車は、オート・メラーラ社とフィアット社が輸出向けにプライヴェート・ヴェンチャーで共同開発したMBTである。 オート・メラーラ社は1974〜83年にかけてイタリア陸軍向けに720両の西ドイツ製レオパルト1戦車をライセンス生産しており、この経験で得たノウハウを活かして1970年代前半に「ライオン」(Lion)と呼ばれる輸出用MBTを開発した。 しかしライオン戦車の実態はレオパルト1戦車をほとんどそのままコピーしたもので、主砲のイギリス製105mmライフル砲L7と合わせてパテントの関係で西ドイツ、イギリスの許可が無ければ売ることができないという問題を抱えていた。 このため、オート・メラーラ社は新たな輸出用MBTを開発することを決めた。 新型MBTの開発にあたって、オート・メラーラ社はフィアット社とチームを組むことにした。 フィアット社は戦前は戦車の開発経験があり戦後は自動車メーカーとして有名な会社であり、戦車とは違うものの車両に関するノウハウを持っていた。 自身が武器メーカーとして多大なノウハウを持つオート・メラーラ社は砲塔および車体全体の設計と生産を担当し、フィアット社はパワープラントの設計と生産を担当するということになった。 新型MBTの実際の設計作業は1977年に開始され、最初の試作車は1980年に完成した。 本車は「OF-40」と呼ばれることになったが、これはオート・メラーラ(OTO Melara)社の頭文字の”O”、フィアット(Fiat)社の頭文字の”F”に40t級の戦車を意味する”40”を足したものである。 なお後にOF-40戦車の改良型が作られたため最初の生産型をOF-40 Mk.I、改良型をMk.IIと呼ぶようになった。 |
●構造 OF-40戦車の外形デザインはドイツのレオパルト1戦車の後期生産型であるレオパルト1A4戦車に良く似ているが、これはオート・メラーラ社がレオパルト1戦車のライセンス生産を行っていたためその影響を受けたものと思われる。 実際、OF-40戦車には一部にレオパルト1戦車用のコンポーネントが流用されている。 車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、避弾経始を考慮した良好な傾斜が採り入れられたデザインとなっている。 特に車体前部は低平で、車体後部の機関室部分だけが一段高くなっている。 車体側面および後面は垂直であるが、側面袖部は暴露面積を極力小さくされている。 車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室という標準的なものである。 操縦手席は車体前部右側にあり、上部には左側に開くスライド式ハッチが設けられている。 ハッチ前方には前方視察用のペリスコープ3基が取り付けられているが、中央の1基は夜間視察用のアレニア社製映像強化型ペリスコープに交換可能である。 操縦手席左側には、NBC防護装置と42発の105mm砲弾が搭載されている。 操縦手席後方の車体下面には、緊急脱出用ハッチが設けられている。 操縦手席の前面左右には車体側にヘッドライト、フェンダー上に折り畳み式のバックミラーが取り付けられている。 車体前面上部中央には、補助装甲を兼ねた予備履帯が取り付けられている。 車体中央部の戦闘室には、主武装の105mmライフル砲を装備した全周旋回式砲塔が搭載されている。 砲塔もやはり圧延防弾鋼板の全溶接構造で、非常に避弾経始に優れた前後に長い低平な形状をしている。 特に防盾は、中央が尖った楔形をしていて避弾経始が良好である。 砲塔内には3名の乗員が搭乗し、主砲を挟んで右側に砲手と車長が前後に並び左側に装填手が位置する。 車長席上には、後方にスライドして開く車長用ハッチが設けられている。 車長用ハッチはキューポラ式にはなっていないが、これはコストの低減のためである。 ただし代わりに周囲には8基のペリスコープが取り付けられていて、充分良好な全周視界が確保されている。 これらのペリスコープは、やはりアレニア社製の映像強化型夜間視察用ペリスコープに交換可能である。 車長用ハッチの前方には、ガリレオ社がフランスのSFIM社と共同開発したVS580-Bパノラミック照準サイトが取り付けられている。 サイトは全周旋回可能で安定化されており倍率は8倍、距離測定はスタジア・メトリック式でAPDS(装弾筒付徹甲弾)、HEAT(対戦車榴弾)、HESH(粘着榴弾)用の距離スケールが刻まれている。 このサイトを使用して車長は砲塔と独立して全周索敵が可能で、発見した目標を砲手に引き継ぐか必要であれば砲手にオーバーライドして主砲を発射することも可能である。 砲手用には砲塔上面にガリレオ社製のOG14照準ペリスコープと、主砲と同軸で防盾右側にアレニア社製のC215直接照準望遠鏡が取り付けられている。 OG14照準ペリスコープは倍率8倍でAPDS、HEAT、HESH用および7.62mm同軸機関銃用の距離スケールが刻まれている。 C215直接照準望遠鏡の視野は7.5度、倍率は8倍でM114マウントを介して取り付けられている。 距離測定用にはアレニア社製のVAQ-33レーザー測遠機が装備されており測定範囲は400〜9,995m、距離3,000mで±10mの測定精度を持っている。 砲塔上面左側の装填手席上には、後ろ開き式の装填手用ハッチが設けられている。 ハッチには前方に2基、左側面に1基のペリスコープが取り付けられている。 OF-40戦車の主砲は105mmライフル砲であるが、西側の戦後第2世代MBTの標準武装となったイギリスの王立造兵廠製のL7ではなくオート・メラーラ社が独自に設計した52口径105mmライフル砲が採用されており、L7系の105mmライフル砲が51口径であるのに対し若干砲身長が長くなっている。 この砲は半自動/垂直鎖栓式閉鎖機を持ち、同心式駐退機とバネ式復座装置を備える。 撃発方式は電気式だが、非常時には手動操作での撃発も可能となっている。 砲身には熱による歪みを補正するためのサーマル・スリーブが取り付けられ、中央根元寄りに排煙機が取り付けられている。 主砲の俯仰角は−9〜+20度で旋回および俯仰は電動油圧モーターで行われ、旋回速度は全周に17秒、俯仰速度は7度/秒である。 砲安定装置は垂直・水平共に装備されていないが、オプションで追加することは可能である。 砲弾はNATO標準の全ての105mmライフル砲弾が発射可能で、弾種はAPDS、HEAT、HESHと発煙弾がある。 発射速度は、練度の高い乗員であれば9発/分が可能とされる。 命中精度は、射距離1,000mで30cm四方の標的に連続で6発命中させる精度があるとされる。 105mm砲弾の搭載数は57発でこの内15発が砲塔内の即用弾薬で、残りの42発は車体前部の操縦手席左隣に収容されている。 副武装として主砲同軸と対空用にドイツのラインメタル社製の7.62mm機関銃MG42/59を1挺ずつ装備しており、7.62mm機関銃弾の搭載数は5,700発である。 なお、対空用の7.62mm機関銃は12.7mm重機関銃に換装することも可能となっている。 また、砲塔の左右側面にはそれぞれ4基ずつの発煙弾発射機が装備されている。 動力装置はエンジン、変速機、冷却装置等がパワーパックとして一体化されており、車体後部の機関室に収められている。 このパワーパックは、クレーンと4名の人員で45分以内に交換することが可能である。 素早い交換のために、配線や配管も簡単に着脱できるコネクター式になっている。 なおパワーパックは必要な場合、車外で試験運転することが可能である。 エンジンは、ドイツのMTU社製のMB838CaM-500 4ストロークV型10気筒多燃料液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジンをフィアット社でライセンス生産したものが搭載されている。 このエンジンはレオパルト1戦車と同じもので出力は830hp/2,200rpm、排気量は37.4リッターである。 このエンジンには熱帯地用装備として、燃料供給の調節とオーバーヒートの予防装置が取り付けられている。 燃焼用の吸気は、エンジンの動力によって駆動される2基の強制吸気ファンによってエンジンに送られる。 吸気用エアクリーナーはドライタイプで機関室前寄りの左右サイドレセスに取り付けられており、その上面には吸気用インテイクが開口している。 インテイクには、落ち葉など大型の塵芥吸入を防ぐ金網が張られている。 各気筒からフレキシブル・チューブを通して集められたエンジン排気は、機関室後ろ寄り左右のサイドレセスに配置されたマフラーに導かれ、車体左右側面後部の排気スリットから排出される。 エンジン冷却水の冷却機は、変速機の左右に配置されている。 冷却機上部には冷却ファンが装備されており、上面には冷却気吸入用インテイクが開口している。 なお渡渉時にはエンジン吸気口にはスノーケルが装備されるが、冷却気用インテイクは開口したままで機関室内にはそこから侵入した水が満たされることになる。 燃料は、機関室内左右のグラスファイバー製燃料タンクに1,000リッターが収容される。 左右の燃料タンクは繋がれており、左右どちらから給油しても双方の燃料タンクに満たすことができる。 車載燃料による路上航続距離は、600kmとなっている。 なお機関室には自動消火装置が備えられており機関室内にはスプレーノズルとチューブが配され、温度が180度に達すると機関室内のセンサーにより自動的に作動して、戦闘室内に置かれたボンベに封入された消火剤を散布する。 変速機は、ドイツのZF社製の4HP-250トルク・コンヴァーター付き自動変速機(前進4段/後進2段)をやはりフィアット社でライセンス生産したものが搭載されている。 この変速機も、レオパルト1戦車と共通のものである。 走行段数の切り替えは、操縦手席脇のレバーにより電気油圧駆動で行われる。 エンジンと変速機を接続するメインクラッチは手動で切り離すことができ、低温時のエンジン始動等ではメインクラッチを切断してクランク等によるエンジン始動が容易にできる。 操向操作は操向レバーから機械的に制御バルブに伝えられ油圧によって行われるが、操向によってパワーロスが生じない機構を備えている。 最終減速機は遊星歯車式で、車体後部左右に配置されている。 ブレーキは通常用と緊急用ブレーキ、およびパーキング・ブレーキを備えている。 サスペンションはトーションバーによる独立懸架方式で、片側7軸である。 このうち前3軸と後ろ2軸には油圧式ショック・アブソーバーと、過度なホイール・トラベルを規制するためのバンブ・ストップが取り付けられている。 転輪はソリッドゴム付きのディスク型をした複列式転輪で、レオパルト1戦車と同様に片側7個となっている。 上部支持輪は片側5個で、レオパルト1戦車より1個多い。 前部の誘導輪もディスク型複列式で、ソリッドゴム付きである。 誘導輪は、履帯の張度調整機構を持つ。 後部の起動輪は、スケルトン型の複列星型である。 履帯はダブルピン/ダブルブロックの組み立て式鋼製履帯を採用しており、中央コレクター部分にはエンドコネクターが装備されている。 履帯表面には、V型ゴムパッドが取り付けられる。 履帯幅は584mm、接地長は4,250mmで接地圧は0.92kg/cm2になる。 走行装置の左右上部には、金属で補強されたゴム製のサイドスカートが取り付けられる。 これは土埃の巻き上げを防ぐサンドシールドの役割を果たすと共に、対HEAT弾防御を兼ねたものである。 渡渉水深は通常は1.2mだが、オプションの浅水用渡渉キットを取り付ければ2.25mの渡渉が可能である。 さらに、本格的なスノーケル・キットを取り付ければ4mまでの潜水渡渉が可能となる。 なお戦闘室、機関室双方には、浸入した水を車外に排出するための排水ポンプが備えられている。 ポンプの排水能力は、120リッター/分である。 前述したように、操縦手席左側にはNBC防護装置が装備されている。 システムは、換気ファンから取り込んだ空気を遠心型塵芥フィルターで分離する。 塵芥フィルターで分離された空気は、さらにNBC防護フィルターでNBC物質が除去される。 この間戦闘室内は加圧されており、室内圧力は圧力計により測定される。 |
●派生型と輸出 OF-40 Mk.II戦車はMk.Iをベースに近代化改良を施したもので、ディジタル弾道コンピューター、Nd-YAGレーザー測遠機、風向センサー、装薬温度センサー等から成るガリレオ社製のOG14L2A FCS(射撃統制装置)を装備しており、主砲は垂直・水平共に安定化されている。 さらに、砲手用サイトも7倍と14倍の切り替え式となっている。 また防盾上部にLLLTV(低光量テレビ)カメラが取り付けられており、その映像は車内のモニターで見ることができる。 OF-40戦車の派生型としてはOF-40戦車から砲塔を取り除き、クレーン等の回収装備を搭載したOF-40ARV(Armoured Recovery Vehicle:戦車回収車)がある。 OF-40戦車は元々輸出用のプライヴェート・ヴェンチャーであるためイタリア陸軍には採用されておらず、世界各国に対してセールスが行われた。 そして1981年にはアラブ首長国連邦(UAE)から18両のOF-40 Mk.I戦車の発注を受け、これらは同年中に引き渡された。 さらにUAEは18両のOF-40 Mk.II戦車と3両のOF-40ARV、および既存のOF-40 Mk.I戦車のMk.II仕様へのグレードアップを発注しており、OF-40 Mk.II戦車とOF-40ARVは1985年に納入されている。 この他OF-40戦車はタイで評価試験を受け、エジプトでデモンストレイションを行った。 さらにスペインとギリシャに対しては、現地でのライセンス生産の打診が行われた。 しかしこれらは1つも成約には結び付かず、UAEだけが唯一の採用国となってしまった。 このためオート・メラーラ社は、第2世代のOF-40/120戦車の開発に取り掛かった。 OF-40/120戦車は、OF-40戦車の車体と砲塔を一回りずつ拡大して120mm砲を搭載した輸出用MBTである。 主砲はオート・メラーラ社が独自に開発した44口径120mm滑腔砲で、イタリア陸軍のC1アリエテ戦車に搭載されているものと同じものである。 この砲はレオパルト2戦車やM1A1/A2エイブラムズ戦車、ルクレール戦車と共通の弾薬を使用できる。 パワープラントについては、V型10気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,000hp)に前進4段/後進2段の自動変速機とあるだけで詳細は明らかにはされていない。 OF-40/120戦車は1993年に発表されたが、今のところ発注は無い。 |
<OF-40 Mk.I/Mk.II戦車> 全長: 9.222m 車体長: 6.893m 全幅: 3.51m 全高: 2.45m 全備重量: 45.5t 乗員: 4名 エンジン: MTU MB838CaM-500 4ストロークV型10気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 830hp/2,200rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 600km 武装: 52口径105mmライフル砲×1 (57発) 7.62mm機関銃MG42/59×2 (5,700発) 装甲厚: |
<OF-40/120戦車> 全長: 9.341m 車体長: 7.006m 全幅: 3.51m 全高: 2.425m 全備重量: 49.0t 乗員: 4名 エンジン: V型10気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 1,000hp 最大速度: 65km/h 航続距離: 600km 武装: 44口径120mm滑腔砲×1 7.62mm機関銃MG42/59×2 装甲厚: |
<参考文献> ・「パンツァー2016年12月号 アリエテ開発に繋がったOF40戦車とそのファミリー」 団真吾 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2011年9月号 イタリアの第三世代MBT アリエテ戦車」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年9月号 イタリアMBT OF40とアリエテ」 斎木伸生 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年11月号 各国の第二世代MBT」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年1月号 近代化された第2世代MBT」 アルゴノート社 ・「パンツァー2016年3月号 輸出用戦車の系譜」 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート9 レオパルト1と第二世代MBT」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2018〜2019」 アルゴノート社 ・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 ・「世界の主力戦車カタログ」 三修社 |