NASAMS対空ミサイル・システム
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+開発
「NASAMS」(National/Norwegian Advanced Surface to Air Missile System:国際/ノルウェイの先進的地対空ミサイル・システム)は、ノルウェイとアメリカが共同開発した中高度防空ミサイル・システムである。
ノルウェイ国防省は、ノルウェイ空軍が装備していたアメリカのウェスタン・エレクトリック社製のMIM-14ナイキ・ハーキュリーズ対空ミサイル・システムが旧式化したため、1989年から同システムの退役を進めると共に、その後継となる中高度防空ミサイル・システム「NASAMS」の開発に着手した。
開発にあたって、ノルウェイのコングスベルグ・ディフェンス&エアロスペース(KDA)社と、アメリカのレイセオン社による開発チームが編成され、ノルウェイ空軍と協力して開発が開始された。
NASAMSは、アメリカのヒューズ・ミサイル・システムズ社(現レイセオン社)が開発したAIM-120 AMRAAM空対空ミサイルを地上発射化したシステムであり、ミサイル本体はSL-AMRAAM(Surfaced Launched AMRAAM:地上発射型AMRAAM)と呼ばれる。
最先端のネットワーク中心対空防衛システムであるNASAMSは1998年に正式に実戦配備されたが、初期型は早ければ1995年には配備可能だったとされる。
「Norwegian Solution」(NORSOL)としても知られるノルウェイ軍の対空防衛策は、以下の3種類の兵器システムより構成されている。
近接防空は、スウェーデンのボフォース社製の40mm対空機関砲(スイスのエリコン社製のFCS2000ドップラー・レーダーでの管制)、低高度域の防空はボフォース社製のRBS-70対空ミサイル・システム(ビームライディング誘導式)、そして中高度域の防空を担うのがNASAMSである。
これらの防空システムは全て、有線・無線通信を経由して「ARCS」(Acquisition Radar and Control System:捕捉レーダーおよび制御システム)を用い統合されている。
ARCSは上層部との情報伝達機能を保ち、また友軍航空機への同士討ちを防ぐ役目も果たす。
その後ノルウェイ空軍とKDA社は、「NASAMS 2」と呼ばれる中期アップデートを施した。
このバージョンは、2006年にノルウェイ空軍への最初の引き渡しが行われた。
NASAMSとNASAMS 2の大きな違いは地上レーダーの強化だけではなく、NATO軍で用いられる戦術データリンクを用いることができるようになったことであり、2007年に実戦配備された。
2019年4月には、さらなる改良型であるNASAMS 3のノルウェイ空軍への導入が開始され、同年5月に最初の発射試験が実施された。
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+構造
NASAMS対空ミサイル・システムは、レイセオン社製のAN/MPQ-64パルスドップラー式3次元防空レーダー(索敵範囲40km)と、「FDC」(Fire
Distribution Center:火器分配センター)と呼ばれるKDA社製の戦闘管理C4Iシステムを備えたAMRAAM対空ミサイルを統制する。
FDCはヒューズ社製のAN/TPQ-36A探知レーダーと共に、ARCSを形成している。
NASAMSのミサイル発射機はAMRAAMを収納した箱型コンテナを6連装で装備しており、ミサイル発射時にはコンテナの前面カバーが下方向に90度開く。
発射機は全周旋回が可能で、4基のアウトリガーで地面に固定される。
NASAMSの性能は、分散性とネットワークにより強化されている。
NASAMSシステムで用いられる「AMRAAM」(Advanced Medium-Range Air-to-Air Missile:先進的中距離空対空ミサイル)は、元々はアメリカ空軍がAIM-7スパロー空対空ミサイルの後継として開発したアクティブ・レーダー誘導式の中距離空対空ミサイルで、全長3.65m、直径0.178m、翼幅0.485m、発射重量161.5kg、最大飛翔速度マッハ4.0、地上から発射した場合最大有効射程30km、最大有効射高21kmの迎撃範囲を有する。
2006年に登場した改良型のNASAMS 2では、防空レーダーが索敵範囲120kmのAN/MPQ-64F1に強化された他、NATO軍で用いられる「リンク16」、「リンク11」などの戦術データリンクを使用できるようになった。
2019年に登場した最新型のNASAMS 3では、FDCが改良されて「ADX」と呼ばれる人間工学的な操作コンソールと3つの30型ディスプレイが導入された。
またミサイル発射機が改良型のMk.2に変更され、従来の牽引型6連装発射機に代えて、トラックや汎用車両に4連装のレール型発射機を設けてミサイルを搭載するようになったため、プラットフォームの迅速な移動が可能となり使い勝手が大幅に向上している。
さらにNASAMS 3は従来のAMRAAM以外に、赤外線誘導式のAIM-9Xサイドワインダー短距離空対空ミサイルや、AMRAAMの射程延長型であるAMRAAM-ERも運用できるようになった。
ちなみにAMRAAM-ERを使用した場合、NASAMS 3の迎撃範囲は最大有効射程50km、最大有効射高35.7kmに拡大される。
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+運用履歴
前述のようにNASAMSは1998年から正式にノルウェイ空軍への実戦配備が開始され、2006年からは改良型のNASAMS 2へのアップデート作業が開始された。
さらに2019年には最新型のNASAMS 3が開発され、ノルウェイ空軍の装備するNASAMS 2の3へのアップデート作業が進められている。
一方、NASAMSは既存の空対空ミサイルを流用した比較的安価な対空ミサイル・システムであるため、海外へのセールスも好調である。
初期型のNASAMSは2003年にスペイン、2006年にオランダが購入しており、両国とも後に改良型のNASAMS 2にアップデートしている。
NASAMS 2は2009年4月にフィンランド、2011年にチリ、2014年1月にオマーンが採用を決めており、2020年にはインドネシアでも配備が開始されている。
最新型のNASAMS 3は2017年4月10日にオーストラリア、2019年7月にカタール、2020年11月にハンガリーが採用を決めており、リトアニアも2020年から配備を開始した模様である。
また2022年7月1日には、ロシアの侵攻を受けるウクライナにNASAMS 2基を提供することが発表された。
同年11月7日にウクライナの国防大臣は、NASAMSなどの兵器を受領したことを公表した。
一方、NASAMSの共同開発国であるアメリカ合衆国も、密かに本システムを導入していたことがマスコミのスクープによって判明している。
2006年3月にノルウェイの雑誌「Okonomisk Rapport」は、2005年1月20日に挙行されたアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領の就任式の期間中、数基のNASAMSがワシントンD.C.の防空任務に用いられていたと発表した。
このレポートによればNASAMSはホワイトハウスを防護していたとされ、アメリカ大統領防衛の特殊任務に就いていたと報じている。
この情報の真偽についてKDA社のTore Sannes氏はコメントしなかったが、一方でレイセオン社やアメリカ空軍とこの兵器に関して契約していたとは認めた。
Okonomisk Rapportの発表が行われてから1年後、ノルウェイ空軍の公式ホームページでこのことがより詳しく事実だと認める記事が掲載された。
3基のNASAMS発射機がアンドルーズ空軍基地、フォート・ベルボア、海軍対地戦センターのカーデロック師団に配備されているのがGoogle Earthではっきりと確認できる。
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<AIM-120C-5 AMRAAM対空ミサイル>
全長: 3.65m
直径: 0.178m
翼幅: 0.485m
発射重量: 161.5kg
弾頭重量: 20.5kg
最大飛翔速度: マッハ4.0
弾頭: 高性能炸薬
誘導方式: アクティブ・レーダー
最大有効射程: 30,000m
最大有効射高: 21,000m
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<参考文献>
・「パンツァー2023年4月号 中/近距離地対空ミサイル・システム NASAMS3」 アルゴノート社
・「パンツァー2022年7月号 COLD RESPONSE 22」 カール・シュルツ 著 アルゴノート社
・「世界の戦車パーフェクトBOOK 最新版」 コスミック出版
・「新版 ミサイル事典」 小都元 著 新紀元社
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