巡航戦車Mk.VIIIクロムウェル (A27M)
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+概要
戦闘機用エンジンであるダービーのロールズ・ロイス社製の「マーリン」(Merlin:コチョウゲンボウ)V型12気筒液冷ガソリン・エンジンを、戦車用エンジンとして転用する研究は1941年から行われ良好な成績を示していた。
マーリン・エンジンからスーパーチャージャーを外し、ガヴァナーにより回転数を車載向きに直したものが「ミーティア」(Meteor:流星)エンジンである。
しかし生産能力の問題、エンジンメーカーの縄張り問題等で車載化は遅れていた。
ミーティア・エンジンを搭載する戦車としてレイランド自動車がA27巡航戦車を開発したものの、当時は戦闘機の生産が優先されていたためエンジンの都合が付かず、A24キャヴァリエ巡航戦車、A27Lセントー巡航戦車と、NMA社(Nuffield
Mechanizations and Aero:ナフィールド機械・航空産業)がライセンス生産を行っていたアメリカ製の「リバティー」(Liberty:自由)V型12気筒液冷ガソリン・エンジンを搭載する暫定戦車が生産されていた。
A27巡航戦車の車体にミーティア・エンジンを搭載した戦車の量産は、ようやく1943年1月になって開始された。
これが、A27Mクロムウェル巡航戦車である。
愛称の「クロムウェル」(Cromwell)は17世紀にイギリス共和制を擁護して戦った軍人で、後にイングランド共和国の初代護国卿となったオリヴァー・クロムウェルに因んでおり、A27Mの”M”は「ミーティア」(Meteor)エンジンを搭載していることを表している。
クロムウェル巡航戦車は基本的には、クルセイダー巡航戦車の拡大発展型であるキャヴァリエ巡航戦車にミーティア・エンジンを搭載したものであるが、溶接構造が大幅に採り入れられており大量生産が容易になった。
総生産数は約3,000両であるが、この中には950両作られたセントー巡航戦車からの改造車も含まれている。
1943年11月以降に生産されたクロムウェルMk.IV巡航戦車では、従来の6ポンド(57mm)戦車砲に代えて75mm戦車砲が搭載された。
北アフリカでのドイツ・イタリア軍との戦闘では、徹甲弾しか撃てない6ポンド戦車砲では敵の対戦車砲に対して有効な制圧射撃ができず、苦戦を強いられた。
そこでアメリカ製のM3/M4中戦車が装備していた37.5口径75mm戦車砲M3を基に、6ポンド戦車砲の砲架に載せた国産の36.5口径75mm戦車砲が開発された。
この75mm戦車砲はイギリスでは初の徹甲弾と榴弾を撃てる両用砲で、弾薬はアメリカがM3/M4中戦車の主砲と共通のものを大量に供与した。
ただし、この砲が順調に供給されるのは1944年5月以降である。
クロムウェル巡航戦車はサスペンションの改良、新型変速・操向機および新型エンジンの搭載により、原型のキャヴァリエ巡航戦車で問題となった機械的信頼性の低さが改善され、機動性が大幅に向上した。
特にエンジン出力がリバティーの400hpからミーティアでは600hpと1.5倍に向上したことにより、クロムウェル巡航戦車は路上最大速度40マイル(64.37km)/hを発揮することができ、当時としては世界最高速の戦車の1つとなった。
なおサスペンションの寿命延長のため、後にエンジンのガヴァナーを調節して最大回転数が落とされ、路上最大速度は32マイル(51.5km)/hに抑えられた。
また装甲防御力も強化されており、追加装甲を取り付けたタイプでは装甲の最大厚は102mmに達した。
クロムウェル巡航戦車の砲塔はまず溶接で箱を作り、その上に装甲板をボルト止めする製造方法が採られた。
この製造方法は生産性が高く高度な溶接技術を必要としないという利点があったが、1枚板の装甲板に比べると単位重量当たりの防御力は劣っていた。
砲塔形状は単純な箱型であったため内部スペースが広く乗員の作業効率が良かったが、その一方で避弾経始は犠牲にせざるを得なかった。
クロムウェル巡航戦車の火力を強化するために、一時58.3口径17ポンド(76.2mm)戦車砲の搭載も検討されたが、これは元々の車体幅が狭過ぎて断念された。
なおクロムウェルMk.VIとMk.VIIIはCS(Close Support:近接支援)タイプで、18.7口径95mm榴弾砲を装備していた。
大量に生産されたクロムウェル巡航戦車は、1944年6月6日に発動された「ノルマンディー上陸作戦」(Operation Neptune:ネプチューン作戦)から実戦に投入されたが、この頃には主力巡航戦車の地位はアメリカ製のM4中戦車シリーズによって占められており、クロムウェル巡航戦車は主に機甲部隊の機甲偵察連隊に配備された。
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<クロムウェルMk.I巡航戦車>
全長: 6.35m
全幅: 2.908m
全高: 2.489m
全備重量: 27.942t
乗員: 5名
エンジン: ロールズ・ロイス ミーティア 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 600hp/2,550rpm
最大速度: 64.37km/h
航続距離: 278km
武装: 43口径6ポンド戦車砲Mk.IIIまたは50口径6ポンド戦車砲Mk.V×1 (75発)
7.92mmベサ機関銃×2 (4,950発)
装甲厚: 6〜64mm
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<クロムウェルMk.IV巡航戦車>
全長: 6.35m
全幅: 2.908m
全高: 2.489m
全備重量: 27.942t
乗員: 5名
エンジン: ロールズ・ロイス ミーティア 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 600hp/2,550rpm
最大速度: 51.5km/h
航続距離: 278km
武装: 36.5口径75mm戦車砲×1 (64発)
7.92mmベサ機関銃×2 (4,950発)
装甲厚: 8〜76mm
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兵器諸元(クロムウェルMk.I巡航戦車)
兵器諸元(クロムウェルMk.IV巡航戦車)
兵器諸元(クロムウェルMk.VII巡航戦車)
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<参考文献>
・「パンツァー2005年9月号 対決シリーズ イタリア P40重戦車 vs イギリス クロムウェル巡航戦車」 白石光 著
アルゴノート社
・「パンツァー2014年5月号 独自の進化を模索したイギリス巡航戦車発達史(3)」 木田雅也 著 アルゴノート
社
・「パンツァー2014年11月号 歴代戦車砲ベストテン」 荒木雅也/久米幸雄/三鷹聡 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年2月号 イギリス巡航戦車 インアクション」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年11月号 ラム vs クロムウェル巡航戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2016年9月号 イギリス軍の巡航戦車シリーズ」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年7月号 クロムエル巡航戦車」 遠藤慧 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2016年10月号 クロムウェルの開発と構造」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2020年8月号 イギリス巡航戦車発達史」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」 洋泉社
・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエ
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