巡航戦車Mk.VIIキャヴァリエ (A24)
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+概要
1940年半ばから、イギリス陸軍の新戦力であるカヴェナンター巡航戦車とクルセイダー巡航戦車の量産が開始されたが、同年末の時点でこれらの戦車は、ドイツ陸軍のIII号戦車やIV号戦車に対抗するには火力と装甲が不足していることが認識され、イギリス戦争省は新型巡航戦車の開発を指示した。
この新型巡航戦車の要求仕様は装甲厚は最大3インチ(76.2mm)とし、主砲には6ポンド(57mm)戦車砲を搭載し、エンジン出力を増大し重量は24t以内というものであった。
この要求に対して、ルートンのヴォクソール自動車はチャーチル歩兵戦車を小型化したA23巡航戦車を、NMA社(Nuffield Mechanizations
and Aero:ナフィールド機械・航空産業)は当時生産中であったクルセイダー巡航戦車を改良したA24巡航戦車を、レイランド自動車はクルセイダー巡航戦車の車体に、ダービーのロールズ・ロイス社製の「マーリン」(Merlin:コチョウゲンボウ)航空機用ガソリン・エンジンを戦車用に手直しした、「ミーティア」(Meteor:流星)V型12気筒液冷ガソリン・エンジン(出力600hp)を搭載したA27巡航戦車をそれぞれ提案した。
この3つの設計案の中でレイランド自動車のA27巡航戦車が最も高く評価されたが、当時はイギリス本土上空でのドイツ空軍との戦いのために戦闘機の生産が全てに優先しており、マーリン・エンジンを戦車用に振り向ける余裕は無かった。
そこでA27巡航戦車の生産が開始されるまでの繋ぎとして、A24巡航戦車の車体をA27仕様に改造した暫定的な新型戦車が生産されることになった。
一般にはこのように解説されるが実際の事情はもう少し複雑で、結果的にA24巡航戦車はメーカー側の都合による妥協の産物として誕生した。
NMA社は、自社がライセンス生産権を持つアメリカ製の「リバティー」(Liberty:自由)航空機用V型12気筒液冷ガソリン・エンジン(出力340hp)を搭載することに固執していた。
リバティー・エンジンは、NMA社が開発した巡航戦車Mk.III/Mk.IVおよびクルセイダー巡航戦車に採用された実績のあるエンジンだったが、重量が増大したA27巡航戦車に搭載するにはややパワー不足であった。
しかしNMA社は性能不足を承知で、自社の利益のためにA27巡航戦車の車体に無理矢理リバティー・エンジンを搭載した。
一方A27巡航戦車を設計したレイランド自動車の方も、ロールズ・ロイス社の積極的(押し付けともいえる)勧めで当初はミーティア・エンジンの採用に乗り気であったが、いざ生産しようとすると航空機用エンジンのあまりの複雑さに音を上げ、ついには「ミーティア・エンジンは戦車には不向き」と判断していた。
こんな訳で当時はどの戦車メーカーも、ミーティア・エンジンを戦車用に使うことには半信半疑の状態であった。
ともあれ、A24巡航戦車の試作車は1942年1月に完成した。
搭載エンジンは従来のリバティーであったが、出力は410hpに増大されていた。
しかしA24巡航戦車は装甲強化のため重量も増加していたので、結局機動性は低下した。
特に最大速度は路上で24マイル(38.62km)/hと、一連の巡航戦車シリーズの中で最低となった。
また車重に対してエンジンがアンダーパワーであったため、エンジンの負荷が大きくなり寿命も短くなった。
重量の増加に対応してサスペンションも強化されていたが、信頼性の低さは依然変わらなかった。
A27巡航戦車が戦力化されるまでの繋ぎといいながら、実際には繋ぎの役目も充分に果たせない低性能の戦車であった。
にも関わらず試作車完成以前の1941年6月には、A24巡航戦車には早々と「巡航戦車Mk.VII」(Cruiser Mk.VII)の制式呼称と「キャヴァリエ」(Cavalier:騎士)の愛称が与えられ、500両の発注が行われていた。
しかしキャヴァリエ巡航戦車は戦力的価値が低かったため、完成した車両のほとんどはイギリス国内で訓練に使われた。
一部実戦に投入されたものもあるが、戦車としてではなく砲兵部隊の観測用車両としてであった。
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<キャヴァリエ巡航戦車>
全長: 6.35m
全幅: 2.883m
全高: 2.438m
全備重量: 26.926t
乗員: 5名
エンジン: ナフィールド・リバティー 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 410hp/1,500rpm
最高速度: 38.62km/h
航続距離: 266km
武装: 43口径6ポンド戦車砲Mk.IIIまたは50口径6ポンド戦車砲Mk.V×1 (64発)
7.92mmベサ機関銃×2 (4,950発)
装甲厚: 8〜76mm
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兵器諸元
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<参考文献>
・「パンツァー2014年5月号 独自の進化を模索したイギリス巡航戦車発達史(3)」 木田雅也 著 アルゴノート
社
・「パンツァー2014年11月号 歴代戦車砲ベストテン」 荒木雅也/久米幸雄/三鷹聡 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年7月号 クロムエル巡航戦車」 遠藤慧 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2016年10月号 クロムウェルの開発と構造」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2020年8月号 イギリス巡航戦車発達史」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
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