Mle.61 105mm自走榴弾砲はフランス陸軍が戦後初めて実用化した自走砲であり、1940年代末にフランス陸軍の要求に従ってARE社(Atelier de Construction Roanne:ロアンヌ工廠)の手で開発が始められた。 車台はすでに開発が始まっていたAMX-13軽戦車のものを流用することとされ、様々な試作車が製作されて試験を行った後、ようやく1958年に「61式105mm自走砲」(Canon de 105 mm Modèle 61 Automoteur)としてフランス陸軍に制式採用された。 Mle.61自走榴弾砲の生産は当初ARE社で行われたが、後にMCL社(Mécanique Creusot-Loire:クルーゾ・ロワール工業)の手に委ねられている。 Mle.61自走榴弾砲のベース車台として用いられたAMX-13軽戦車は、それ自体が俯仰するユニークな揺動式砲塔を採用するなど非常に独創的な設計であったが、通常の戦車では車体後部に配置されている機関室が車体前部右側に配置されている点も大きな特徴の1つであった。 このため車体後部に広い戦闘室スペースを確保することが可能なので、自走砲のベース車台として非常に適していた。 Mle.61自走榴弾砲の車体後部には105mm榴弾砲を限定旋回式に搭載した密閉式戦闘室が設けられたが、装甲厚は前/側面20mm、後面15mm、上面10mmと、この種の自走砲としては意外に装甲が厚いのが特徴であった。 戦闘室内には主砲を挟んで右側に車長、左側に砲手が位置し、後方には装填手が配されていた。 車長席上面と戦闘室後面にはそれぞれハッチが設けられていたが、後期生産車では車長用ハッチに代えてキューポラが設けられた。 主砲の105mm榴弾砲はATS社(Atelier de Construction de Tarbes:タルブ工廠)が開発した「M50」(Modèle 50:50式)が用いられており、生産当初は砲身長比23口径のものを搭載していたが、後期生産車では砲口初速の向上を図って30口径に長砲身化された。 主砲の旋回角は左右各20度ずつ、俯仰角は-4~+66度となっており、国産の弾薬に加えてNATO標準の105mm弾薬も使用することが可能であった。 最大射程は榴弾を用いた場合15,000mで、戦闘室内に各種弾薬合わせて56発を収容した。 この内6発はHEAT(対戦車榴弾)とされ、装甲目標に対する直接照準射撃も考えられていたことが分かる。 FCS(射撃統制システム)は開発時期を考えれば分かるように単純なものが用いられており、4倍の倍率を持つL841.9測遠機による目視データに頼るだけで、直接照準射撃用としては6倍のL881照準機を備えるだけであった。 また副武装として、戦闘室の上面に7.62mm機関銃F1を1挺装備していた。 ベース車台となったAMX-13軽戦車と同じく、NBC機材や浮航能力は備えていなかった。 なおMle.61自走榴弾砲の発展型として、旋回式砲塔に105mm榴弾砲を装備するMle.62およびMle.63自走榴弾砲も試作されたが、結局制式化には至らずに終わった。 Mle.61自走榴弾砲はフランス本国以外にオランダ、イスラエル、モロッコでも採用されたが、フランスを含めてすでに全車が退役している。 |
<Mle.61 105mm自走榴弾砲> 全長: 5.70m 全幅: 2.65m 全高: 2.70m 全備重量: 16.5t 乗員: 5名 エンジン: SOFAM 8Gxb 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン 最大出力: 250hp/3,200rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 350km 武装: 23口径または30口径105mm榴弾砲M50×1 (56発) 7.62mm機関銃F1×1 (2,000発) 装甲厚: 10~20mm |
<参考文献> ・「パンツァー2016年6月号 フランス軍AFVシリーズとして広く使われたAMX-13軽戦車とそのファミリー」 城島健 二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年4月号 1960~80年代に活躍したフランス製自走砲」 鈴木多郎 著 アルゴノート社 ・「グランドパワー2019年11月号 フランス戦車発達史(戦後編)」 斎木伸生 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946~2000」 デルタ出版 ・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 斎木伸生 著 光人社 ・「戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版 |