軽戦車Mk.VI
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軽戦車Mk.VI
軽戦車Mk.VIA
軽戦車Mk.VIB
軽戦車Mk.VIC
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+開発
カーデン・ロイド豆戦車シリーズを開発したチャーツィーのカーデン・ロイド・トラクターズ社を、1928年に吸収合併したウェストミンスターのヴィッカーズ・アームストロング社は、イギリス陸軍向けにカーデン・ロイド豆戦車の車体を流用した軽戦車を数種類開発したが、その内のカーデン・ロイドMk.VIII軽戦車が1929年に「軽戦車Mk.I」(Light
Mk.I)の呼称でイギリス陸軍に制式採用されることとなった。
軽戦車Mk.Iは、カーデン・ロイド豆戦車の車体に7.7mmヴィッカーズ液冷重機関銃を1挺装備する円形の全周旋回式砲塔を搭載したものであったが、この戦車はその後も改良が続けられ角型砲塔の軽戦車Mk.II、スローモーション式サスペンション採用の軽戦車Mk.III、誘導輪を除去した軽戦車Mk.IV、2名用砲塔となった軽戦車Mk.Vと少数ずつ生産され、1936年に大量生産型の軽戦車Mk.VIが登場した。
軽戦車Mk.VIは全長4mの小型の車体に、12.7mmと7.7mmのヴィッカーズ液冷重機関銃を同軸に装備した2名用砲塔を搭載しており、装甲厚が最大15mmに増強された点以外は軽戦車Mk.Vと大差無かったが、大量生産が行われた結果、第2次世界大戦が勃発した1939年9月の時点で1,000両が実戦配備されていた。
軽戦車Mk.VIは主に偵察車両として師団騎兵連隊に配備されたが、数が不足していた巡航戦車の代替車両として機甲師団にも配備されていた。
基本型以外には細部を改修した軽戦車Mk.VIAおよび軽戦車Mk.VIB、1940年には武装を15mmと7.92mmのベサ空冷機関銃に換装し、火力の強化を図った軽戦車Mk.VICが作られている。
軽戦車Mk.VIシリーズは1940年6月のダンケルク撤退までに各型合わせて1,400両生産され、1942年までヨーロッパや北アフリカ、シリア、ジャワなどで活躍した。
軽戦車Mk.VIの派生型としては7.92mmベサ機関銃4挺もしくは、15mmベサ重機関銃2挺を搭載した対空戦車が製作されているが、これらの車両では乗員が2名に減少している。
またその他の派生型として、軽戦車Mk.VIに50口径2ポンド(40mm)戦車砲を装備するオープントップ式の砲塔を搭載した火力強化型も試作されているが、制式採用には至らなかった。
前述のようにイギリス陸軍はカーデン・ロイド豆戦車の車体をベースとする軽戦車シリーズを多数開発したが、これらは同時期に開発された他国の軽戦車に比べて一回り小柄で、武装も装甲も貧弱であった。
当時のイギリス陸軍は軽戦車を開発するにあたって、戦車同士の戦闘という概念を持っていなかった。
敵戦車を破壊するのは基本的に対戦車兵器の役目であり、軽戦車はせいぜい敵の装甲車と戦う程度にしか考えられていなかったのである。
このためシリーズ最終型の軽戦車Mk.VICでさえ、その実力は1940年のフランス戦線においても甚だ心許ないものであった。
この時のドイツ軍戦車との戦いでこれら軽戦車シリーズの能力不足は明らかとなり、シェルブールまでの後退戦においてはイギリス陸軍第1機甲師団の軽戦車132両の内、実に108両が破壊された。
この他、ドイツ軍のフランス侵攻時にはイギリス陸軍の4個正規および3個地方独立騎兵連隊がフランスに駐留しており戦闘に参加したが、各連隊の軽戦車はダンケルクまたはサントバレリーへの後退戦において大きな損害を被っている。
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+構造
前述のように軽戦車Mk.VIは前作の軽戦車Mk.Vと基本構造はあまり変わらなかったが、最大装甲厚が軽戦車Mk.Vの12mmから15mmに強化され、また砲塔後部に無線機を搭載するようになったため、軽戦車Mk.Vでは傾斜面となっていた砲塔後部が垂直面となり、後方に大きく張り出した。
無線機は従来のイギリス軽戦車で使用されていたNo.1無線機から改良型のNo.7無線機に変更され、それに伴って交信範囲は従来の5kmから16kmに拡大した。
機構的には操向機が改良されて信頼性や整備性が向上したものの、その他のエンジンや変速機等は基本的に軽戦車Mk.Vと同様のものが用いられ、サスペンション方式も軽戦車Mk.Vのものを踏襲していた。
軽戦車Mk.VIは、装甲の強化や砲塔の大型化に伴って重量が軽戦車Mk.Vより増加したように思えるが、実際には戦闘重量はほとんど変化しておらず、逆に路上最大速度は軽戦車Mk.Vの32マイル(51.5km)/hから35マイル(56.33km)/hに向上している。
続く改良型の軽戦車Mk.VIAでは、砲塔上面右側に設けられている車長用キューポラが従来の円形から8角形になり、キューポラの前半分に防弾ガラスを収めたペリスコープが2基装着された。
また従来は第1ボギー上にあった上部支持輪がやや後方に移され、エンジンも軽戦車Mk.Vから受け継いだウルヴァーハンプトンのヘンリー・メドウズ社製のESTL 直列6気筒液冷ガソリン・エンジンから、改良型のESTBエンジンに換装されて信頼性が向上した。
2番目の改良型の軽戦車Mk.VIBでは、主として生産の簡易化を目的とした改良が行われた。
主要な変更点は軽戦車Mk.VIAで8角形になった車長用キューポラが元の円形に戻り、冷却ルーヴァーのカバーが2枚分割式から1枚に変わった点である。
なお、軽戦車Mk.VIBの車長用キューポラは形状こそ軽戦車Mk.VIと同じ円形に戻ったものの、軽戦車Mk.VIAの8角形キューポラで導入された防弾ガラスを収めた2基のペリスコープは引き継がれている。
軽戦車Mk.VIBは1939〜40年にかけてフランスのBEF(British Expeditionary Force:イギリス遠征軍)に配備され、BEFの戦車の大部分を占めた。
また軽戦車Mk.VIBの内の6両には、悪路での走破性を向上させるために試験的に誘導輪が追加された。
その内の何両かはフランスへ送られ、第1機甲師団によって試験が試みられた。
イギリス陸軍の軽戦車は、軽戦車Mk.IVから主に軽量化を目的として誘導輪を廃止した足周りを採用するようになったが、誘導輪の廃止は不整地における機動性能を低下させる結果になったと一部から指摘されていたため、これを軽戦車Mk.IIIまでの足周りに戻したのである。
軽戦車Mk.VIBに装着された誘導輪は軽戦車Mk.II/Mk.IIIで採用された誘導輪と同様のものであったが、この試験の結果は明らかにされておらず、次の改良型である軽戦車Mk.VICでも結局誘導輪は採用されなかった。
この他、軽戦車Mk.VIBはインド陸軍向けの熱帯地仕様車が製作されているが、このタイプは車長用キューポラを取り外し、簡単なハッチとペリスコープを取り付ける等の小改造が施されている。
続く軽戦車Mk.VICは軽戦車Mk.VIシリーズの最終型で、車長用キューポラに代えて軽戦車Mk.VIBのインド仕様車と同様、ペリスコープ付きの車長用ハッチが装備された。
また砲塔の左側面には、機関銃の発射ガスを排出するためのファンが設けられた。
軽戦車Mk.VICでは武装も変更され、従来のヴィッカーズ系列の液冷機関銃に代えて、その後のイギリス陸軍の標準となるBSA社(Birmingham
Small Arms:バーミンガム小火器製作所)製のベサ空冷機関銃が装備されるようになった。
軽戦車Mk.VICに装備されたのは口径15mmと7.92mmのベサ機関銃であるが、7.92mmベサ機関銃はチェコのブルノ工廠製の7.92mm重機関銃ZBvz.37(ZB-53)をBSA社でライセンス生産したものであり、15mmベサ重機関銃はやはりブルノ工廠製の15mm重機関銃ZB-60をBSA社でライセンス生産したものである。
また軽戦車Mk.VICは接地圧の低減を図って転輪の幅が拡げられており、履帯も幅広のものが装着された。
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<軽戦車Mk.VI>
全長: 4.013m
全幅: 2.083m
全高: 2.261m
全備重量: 4.8t
乗員: 3名
エンジン: メドウズESTL 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 88hp/2,800rpm
最大速度: 56.33km/h
航続距離: 209km
武装: 12.7mmヴィッカーズ重機関銃×1 (400発)
7.7mmヴィッカーズ重機関銃×1 (2,500発)
装甲厚: 4〜15mm
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<軽戦車Mk.VIB>
全長: 4.013m
全幅: 2.083m
全高: 2.261m
全備重量: 5.2t
乗員: 3名
エンジン: メドウズESTB/AまたはESTB/B 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 88hp/2,800rpm
最大速度: 56.33km/h
航続距離: 209km
武装: 12.7mmヴィッカーズ重機関銃×1 (400発)
7.7mmヴィッカーズ重機関銃×1 (2,500発)
装甲厚: 4〜15mm
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<軽戦車Mk.VIC>
全長: 4.013m
全幅: 2.083m
全高: 2.261m
全備重量: 5.2t
乗員: 3名
エンジン: メドウズESTB/AまたはESTB/B 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 88hp/2,800rpm
最大速度: 56.33km/h
航続距離: 209km
武装: 15mmベサ重機関銃×1 (400発)
7.92mmベサ機関銃×1 (2,500発)
装甲厚: 4〜15mm
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<参考文献>
・「パンツァー2012年8月号 戦間期の落とし子 イギリスの軽戦車Mk.6とそれに至るシリーズ」 三鷹聡 著 アル ゴノート社
・「パンツァー2003年4月号 1930年代のイギリス軽戦車Mk.I〜VI」 齋木伸生 著 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート40 イギリス戦車100年史」 アルゴノート社
・「エンサイクロペディア 世界の戦車 1916〜1945」 アルゴノート社
・「グランドパワー2000年7月号 イギリス軍軽装軌車輌 1920〜39」 嶋田魁 著 デルタ出版
・「グランドパワー2000年1月号 イギリス陸軍 Mk.VI軽戦車(1)」 遠藤慧 著 デルタ出版
・「グランドパワー2000年2月号 イギリス陸軍 Mk.VI軽戦車(2)」 大村晴 著 デルタ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「グランドパワー2020年5月号 戦間期のイギリス戦闘車輌」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「アメリカ・イギリス陸軍兵器集 Vol.1 戦車」 後藤仁/大村晴 共著 ガリレオ出版
・「第2次大戦 イギリス軍戦車」 大村晴/山県教介 共著 ガリレオ出版
・「第2次大戦 米英軍戦闘兵器カタログ Vol.3 戦車」 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー
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