クルセイダー対空戦車
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クルセイダーIIIAA Mk.I対空戦車
クルセイダーIIIAA Mk.II対空戦車
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+概要
クルセイダー巡航戦車は、戦車としての運用は1943年5月のチュニジア戦終了を持って終わりを告げたが、その車体をベースとした派生型は数種類がその後も使用されている。
これら派生型の中で唯一、実戦場で敵と銃火を交わす可能性を持つ車両となったのが、一連のクルセイダーAA(Anti-Aircraft)すなわち対空戦車であった。
イギリス陸軍は開戦当初特に1940年5〜6月のフランス戦で、ドイツ空軍機に散々な目に合わされたことを忘れてはいなかった。
またそれに続く北アフリカ戦でも、制空権が局地的に彼我の間を行ったり来たりすることが多く、イギリス陸軍は常に「空からの脅威」に脅かされていた。
そんな記憶がヨーロッパ本土、すなわちナチスの牙城へと侵攻する地上部隊に対して何らかの「傘」を与えなければという判断へと繋がり、主力としては二線級の戦車車台を利用した対空戦車の開発へと結び付いたのである。
こうしてクルセイダー巡航戦車の車体をベースとした対空戦車の開発が始まったが、結果的に実用型2タイプに加えて試作型1タイプの計3タイプが誕生した。
その内容は次の通りである。
まず実用型の1つは、王立砲兵軍団対空部門からの要望で開発されたもので、スウェーデンのボフォース社製の56.3口径40mm対空機関砲L/60を搭載したクルセイダーIIIAA
Mk.I対空戦車である。
イギリス軍は戦前から40mm対空機関砲L/60の性能を高く評価していたため、ボフォース社製の純正品だけでなく、ハンガリーおよびポーランドで製造されたライセンス生産品も大量に取得した。
さらに、第2次世界大戦勃発後はイギリス国内でライセンス生産を開始し、続いてカナダやオーストラリアでもライセンス生産が行われ、イギリス連邦軍の主力対空火器の1つとして広く運用された。
クルセイダーIIIAA Mk.I対空戦車は、不要となったクルセイダーMk.III巡航戦車を改造する形で製作された。
その具体的な改造要領は、まず砲塔を撤去したクルセイダーMk.III巡航戦車の車体に、同直径の砲塔リングを装着した大型防盾付きプラットフォームを搭載し、そこに40mm対空機関砲L/60
1門を装備した。
なおプラットフォームの旋回動力源として、レディッチのエンフィールド・サイクル社製の250cc 直列2気筒補助エンジンを備えていた。
そのため走行中は射撃できず、どちらかといえば「自力で移動と陣地進入・変換ができる対空機関砲」といったニュアンスの定地防空型車両で、主に歩兵師団の軽対空連隊や軍団直轄の軽対空連隊に配備された。
もう1つの実用型が、王立戦車軍団からの要望で開発されたクルセイダーIIIAA Mk.II/Mk.III対空戦車である。
こちらは、比較的重装甲の密閉型砲塔を備えた走行間射撃が可能な車両で、低高度防空や小型舟艇の主砲として定評が高かった、スイスのエリコン社製の70口径20mm対空機関砲SSを連装で装備した機動防空型の車両である。
Mk.IIとMk.IIIの相違点はまずNo.19型無線機の搭載位置で、これを砲塔内に装備したのがMk.II、車体の操縦手席隣に装備したのがMk.IIIである。
もう1つはMk.IIIでは無線機の移動に伴って空いたスペースに、操砲手に加えて7.7mmヴィッカーズK型機関銃1挺を増備した点である。
最後は試作型である。
これは、アメリカのW・L・マクソン社製の動力旋回式銃塔のようなオープントップ式銃塔に、20mm対空機関砲SS 3門を縦に装着したタイプでごく少数が改造され、一部は1944年6月の「ノルマンディー上陸作戦」(Operation
Neptune:ネプチューン作戦)にも投入されているが、これといった戦果は挙げられなかったと伝えられている。
クルセイダー対空戦車は充分な対空迎撃能力を持っていたが、大陸反攻作戦ではドイツ空軍が弱体化した結果ほとんど経空脅威は無く、仕事を失ったため主として対地攻撃に威力を発揮した。
なお同様な対空戦車として、セントー巡航戦車の車体をベースとしたものも開発されているが、同車は実戦には参加していない。
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<クルセイダーIIIAA Mk.I対空戦車>
全長: 5.982m
全幅: 2.642m
全高:
全備重量:
乗員: 4〜5名
エンジン: ナフィールド・リバティー 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 340hp/1,500rpm
最大速度: 44.26km/h
航続距離: 161km
武装: 56.3口径40mm対空機関砲L/60×1
装甲厚: 7〜32mm
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<クルセイダーIIIAA Mk.II/Mk.III対空戦車>
全長: 5.982m
全幅: 2.642m
全高:
全備重量:
乗員: 4名
エンジン: ナフィールド・リバティー 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 340hp/1,500rpm
最大速度: 44.26km/h
航続距離: 161km
武装: 70口径20mm対空機関砲SS×2
装甲厚: 7〜32mm
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<参考文献>
・「パンツァー2014年4月号 独自の進化を模索したイギリス巡航戦車発達史(2)」 木田雅也 著 アルゴノート
社
・「パンツァー2003年7月号 巡航戦車改造のイギリス工兵車輌」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー1999年3月号 クルセイダー対空戦車小史」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2005年11月号 クルセイダー巡航戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年5月号 イギリスの対空戦車」 竹内修 著 アルゴノート社
・「グランドパワー1999年4月号 巡航戦車Mk.VI クルセイダー」 大村晴 著 デルタ出版
・「世界の軍用車輌(1) 装軌式自走砲:1917〜1945」 デルタ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 斎木伸生 著 光人社
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