巡航戦車Mk.VIクルセイダー (A15)
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+概要
イギリス陸軍は1938年から、当時NMA社(Nuffield Mechanizations and Aero:ナフィールド機械・航空産業)が開発を進めていたA13巡航戦車シリーズ(後の巡航戦車Mk.IIIおよび巡航戦車Mk.IV)を支援する任務に用いる、重巡航戦車(基本装甲厚30mm)の開発に着手した。
この重巡航戦車の開発は、ユーストンハウスのLMS社(London, Midland and Scottish Railway:ロンドン・ミッドランド・スコットランド鉄道)とNMA社の競作とされた。
しかし、LMS社が設計したA14重巡航戦車は性能的に不充分だったため1939年に開発中止となり、重巡航戦車構想自体もすでに廃棄されていたことから、代わりにA13巡航戦車のコンポーネントを流用した新型巡航戦車A13Mk.III(後の巡航戦車Mk.Vカヴェナンター)を開発することがLMS社に命じられた。
一方、NMA社の方はA13巡航戦車の拡大版であるA16重巡航戦車を1938年に提案したが、イギリス陸軍はより安価で軽量な新型巡航戦車を開発するよう要求した。
この新型巡航戦車A15は開発期間を短縮することが要請されたため、当時LMS社が開発を進めていたカヴェナンター巡航戦車の車体と砲塔の設計を流用し、エンジン等の機構部分は巡航戦車Mk.IVから採り入れた。
カヴェナンター巡航戦車の開発が進められている最中に同じような性能の車両の開発が決定されたのは、カヴェナンター巡航戦車が搭載するウルヴァーハンプトンのヘンリー・メドウズ社製のMAT
水平対向12気筒液冷ガソリン・エンジン(出力165hp)の性能に不安があったためで、いわばA15巡航戦車はカヴェナンター巡航戦車の「保険」であった。
結果的にはこの措置は正解で、カヴェナンター巡航戦車は続出するトラブルのために直接戦力にはなり得ず、A15巡航戦車に主役の座が回ってくることになる。
A15巡航戦車の開発は順調に進み2両製作された試作車の内、最初の1両であるA15E1が完成したのは1939年7月のことで試験はすぐに開始されている。
この時期には、先に開発がスタートしたはずのカヴェナンター巡航戦車は未だに試作車さえ完成しておらず、その前途を予兆させるような両車のスタートであった。
A15巡航戦車は、部品の多くがA13巡航戦車シリーズと共通である。
車体前面の装甲厚は40mmとなり、操縦手席隣の車体左側にはイギリス陸軍の強い要望で、7.92mmベサ機関銃を装備する小円筒形の銃塔が新設された。
エンジンにはメドウズ社製のMATガソリン・エンジンの代わりに、NMA社が当時ライセンス生産を行っていたアメリカ製の「リバティー」(Liberty:自由)
V型12気筒液冷ガソリン・エンジン(出力340hp)を採用した。
このため車体がカヴェナンター巡航戦車より約30cm伸びて、それに伴い転輪が片側4個から5個に増やされた。
武装は全周旋回式砲塔に50口径2ポンド(40mm)戦車砲1門と、同軸機関銃の7.92mmベサ機関銃を1挺、車体前部左側の銃塔にも7.92mmベサ機関銃を1挺装備していた。
さらに対空用として、7.7mmブレン軽機関銃1挺が砲塔に追加装備された。
なお車体前部左側の銃塔については部隊での評判が悪く、実戦では撤去される例が多かった。
2番目の生産型であるクルセイダーMk.II巡航戦車では、車体前面の装甲厚を40mmから49mmに増加する際に初めから銃塔が撤去されていた。
A15巡航戦車の試験は順調に進んでいたが一刻も早く戦力を強化したいイギリス陸軍は、試作車の完成以前である1939年6月27日にはNMA社に対してすでに200両の量産命令を出している。
さらに1940年3月7日には、系列会社であるマイルズプラッティングのWGI社(West's Gas Improvement:西部ガス改良会社)と、サンドバッチのフォーデン・トラック社に対してもそれぞれ100両ずつの量産命令が出されており、これは後に150両に引き上げられた。
本社であるNMA社の方は200両の量産命令の後に301両の追加発注を受けており、結局9つの系列会社の工場をフル操業させて、1943年の生産終了までに5,300両のA15巡航戦車シリーズが生産されている。
最初の生産車が工場のゲートから送り出されたのは、1940年5月のことであった。
A15巡航戦車は1940年末には「巡航戦車Mk.VI」(Cruiser Mk.VI)として制式化され、同時に「クルセイダー」(Crusader:十字軍戦士)の愛称が与えられている。
クルセイダー巡航戦車は高速性能と優れたサスペンションが売り物であったが、機械的信頼性は決して高くはなかった。
初めて実戦で使われたのは1941年6月の「戦斧作戦」(Operation Battleaxe)であったが、投入された内の約半数は機械的トラブルが原因で失われるという有様であった。
さらに火力、装甲共にドイツ軍戦車には見劣りがした。
こうした欠点はあったものの、それまでの旧式巡航戦車に比べればクルセイダー巡航戦車の機動性は群を抜いており、イギリス陸軍第7機甲師団の主力戦車として活躍している。
実戦経験に基づいて火力も増強され、1942年11月のエル・アラメイン戦では初めて6ポンド(57mm)戦車砲装備車が投入されている。
北アフリカ戦以降、アメリカ製のM4中戦車が大量に供給されるようになるとクルセイダー巡航戦車は第一線から退き、ヨーロッパ侵攻作戦では対空戦車または17ポンド砲装甲牽引車として使われた。
第2次世界大戦前半のイギリス軍の主力戦車であるだけに、クルセイダー巡航戦車にはヴァリエーションも多い。
最初の生産型であるクルセイダーMk.I巡航戦車に引き続いて、1940年半ばからは2番目の生産型であるクルセイダーMk.II巡航戦車が登場した。
このMk.IIはドイツ軍のIII号戦車の5cm戦車砲に対処するために、追加鋼板によって車体前面の装甲厚を49mmに増しており、Mk.Iで評判の悪かった車体前部左側の銃塔は最初から撤去されていた。
1942年5月に登場した3番目の生産型であるクルセイダーMk.III巡航戦車では車体前面の装甲厚が51mmとなり、主砲もより強力な6ポンド戦車砲に換装された。
6ポンド戦車砲の搭載にあたっては、元々がコンパクトに設計された砲塔であったために砲塔内の乗員は2名となり、操縦手と合わせて乗員3名の戦車になってしまった。
そのため、実質的な戦闘力はむしろ低下してしまっている。
なおこれ以外にも、25口径3インチ(76.2mm)榴弾砲を搭載したCS(Close Support:近接支援)タイプも生産されている。
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<クルセイダーMk.I巡航戦車>
全長: 5.982m
全幅: 2.642m
全高: 2.235m
全備重量: 19.255t
乗員: 5名
エンジン: ナフィールド・リバティー 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 340hp/1,500rpm
最大速度: 44.26km/h
航続距離: 161km
武装: 50口径2ポンド戦車砲×1 (110発)
7.92mmベサ機関銃×2 (5,000発)
7.7mmブレン軽機関銃×1 (600発)
装甲厚: 7〜40mm
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<クルセイダーMk.II巡航戦車>
全長: 5.982m
全幅: 2.642m
全高: 2.235m
全備重量: 19.255t
乗員: 4名
エンジン: ナフィールド・リバティー 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 340hp/1,500rpm
最大速度: 44.26km/h
航続距離: 161km
武装: 50口径2ポンド戦車砲×1 (130発)
7.92mmベサ機関銃×1 (5,000発)
7.7mmブレン軽機関銃×1 (600発)
装甲厚: 7〜49mm
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<クルセイダーMk.III巡航戦車>
全長: 5.982m
全幅: 2.642m
全高: 2.235m
全備重量: 20.067t
乗員: 3名
エンジン: ナフィールド・リバティー 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 340hp/1,500rpm
最大速度: 44.26km/h
航続距離: 161km
武装: 43口径6ポンド戦車砲Mk.IIIまたは50口径6ポンド戦車砲Mk.V×1 (65発)
7.92mmベサ機関銃×1 (5,000発)
装甲厚: 7〜51mm
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兵器諸元(クルセイダーMk.I巡航戦車)
兵器諸元(クルセイダーMk.II巡航戦車)
兵器諸元(クルセイダーMk.III巡航戦車)
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<参考文献>
・「パンツァー2015年7月号 誌上対決 一式中戦車57mm砲搭載型 vs クルセイダーMk.III」 久米幸雄 著
アルゴノート社
・「パンツァー2014年4月号 独自の進化を模索したイギリス巡航戦車発達史(2)」 木田雅也 著 アルゴノート
社
・「パンツァー2008年9月号 イギリス巡航戦車 クルセイダー」 柘植優介 著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年2月号 イギリス巡航戦車 インアクション」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2003年8月号 イギリス巡航戦車 インアクション」 水梨豊 著 アルゴノート社
・「パンツァー2016年9月号 イギリス軍の巡航戦車シリーズ」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2004年2月号 大戦間のイギリス巡航戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2005年11月号 クルセイダー巡航戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2020年8月号 イギリス巡航戦車発達史」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2012年11月号 イギリス巡航戦車(1)」 白石光 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「グランドパワー1999年4月号 巡航戦車Mk.VI クルセイダー」 大村晴 著 デルタ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー
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